第4回日本集団災害医療研究会・抄録集
(シンポジウム)


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会告プログラム
  抄録集:一般演題A
   〃 :ワークショップシンポジウム


S-2. わが国の災害精神保健における現状と展望

広常秀人(大阪市立総合医療センター)


 災害が襲ったときやその後の被災者の行動や心理に関する研究の歴史は古いが、災害の与える心理社会的影響が甚大であり、被災者への精神保健的支援が必要であることが強調されるようになった歴史は意外に新しい。まして災害時の精神保健対応が組織的に取り組まれるようになったのは、この20数年来のことである。日本の災害対応の中で、この精神保険対応は残念ながら後発の領域と言わざるを得ない。災害精神保健対応が適切なものとなっていくためには、次のようなことを踏まえていかねばならないだろう。

 災害精神医学の名著「災害の襲うとき」の著者であるRaphael.B.は、災害における精神医学・心理学的研究の方法論に関する論文(1989年)の中で、以下の6項目をあげ、研究が周到に準備された計画のもとに行われるための方法論を述べるとともに、研究と同時に被災者への支援システムも併存して確立されていかねばならないという倫理的課題をも強調した。・災害そのものが与えた影響を知るための、災害前の 精神的健康状態についての基礎データがあるか。・災害による罹患率などの比較検討のためにも、被災者の厳密な定義が必要である。・対照群の問題。・測定する時期、期間、評価尺度の問題。・研究は被災者のサポートケア、救援システムが実践的におこなわれているもとで行われる必要がある。・倫理上のルールとして、研究が被災者に害をもたらさないこと、科学的に正当な目的と仮説をもった意味ある研究であ ること、重複しないこと、非侵襲的かつ少なくとも非治療的でないことが最低限求められる。これらの倫理的要綱を提言し、研究を統括するような研究審査・統括センターをつくり、倫理的に被災者がまもられるようにするべきである。

 当日は以上についてさらに解説し、この領域の今後の展望について議論を進めたい。


S-3. 国内の災害救援のあり方と問題点

○和藤幸弘、小川恵子1)、浅井康文3)、青野 允

○金沢医科大学、1)東北大学、3)札幌医科大学


 1995年の阪神大震災では様々なかたちで被災地の救援が行われた。当時、大災害に備えて被災地救援 の医療ーム(以下DMAT)を整備していた施設は少ないと思われるが、その後、独自の準備や厚生省によ る災害拠点病院の指定要件に自己完結型の救援が盛り込まれるなど整備が進められている。そこで、現時 点での整備状況を調査し、個別の施設のかかえる問題点、現状での救援が実際に行われ場合の問題点、望 まれる方向性などについて検討した。

【対象および方法】全国の災害拠点病院492施設にDMATの準備状況や準備に際しての問題点などに関す る23項目の調査を行った。回答期間は約1週間で郵送によるアンケート調査とした。

【結果および考察】回収率:61%。全国的に派遣可能:34%、近隣の搬送または人員の派遣のみ:34%、不可 能:23%。装備などのガイドライン必要:83%、統括部署必要:86%。… 。整備や派遣の意志決定に は施設開設者の意向が強く影響し、赤十字病院とその他の医療機関には整備状況に大きく差がある。整備 上の問題点としてスタッフの保証などが問題となっている。救援の形態、指揮系統など種々雑多であり、 現状では混乱が予想される。DMATの編成、装備、派遣などに関するガイドラインや役割の分担、連携、 情報提供などを行う機関が必要である。

 DMAT:Disaster Medical Assistance Team


S-5. 災害医療と情報伝達―現状と課題―

越智元郎(愛媛大学医学部救急医学)


 情報伝達は初動期における災害管理の成否の鍵を握っている。災害医療で必要とされる情報は、被災規 模および負傷者数、必要な治療内容、医療チームの能力、搬送能力、後方支援施設の収容能力、医療救援 の指揮系統に関する情報などである。また災害時の医療活動の場となるのは、災害現場、第一救護所、基 幹医療施設および後方支援施設などであり、これらと指揮調節部門(自治体、保健所など)の間で密接な 連絡網を築く必要がある。しかもこれらの連絡通信体制は、停電、電話の途絶、基幹施設の倒壊といった、 不足の事態においても機能しうる必要がある。阪神・淡路大震災から4年、われわれは国民の生命を守る ことのできる災害医療体制を作り得たかどうか、主に情報伝達の面から検証したい。

<スライド>


S-6. わが国における「Disaster Medicine」―災害医学教育の面から―

石井 昇、中山伸一、松田 均、伊藤嘉智

神戸大学医学部災害・救急医学


【目的】従来より災害医療、災害医学に関する研究、教育は行なわれていたが、我が国における 「Disaster Medicine」は平成7年の阪神・淡路大震災を契機として、日本災害医療研究会が発足し新しい 災害医学の幕開けを迎えることとなった。震災後の医育機関における災害医学教育アンケート調査では災 害医学教育の必要性は高く評価されていたが、教育時間や方法等に多くの課題があった。そこで、米国に おける災害医療研修の経験に基づいて、わが国の災害医学教育の課題と展望について報告する。

【方法】米国への災害医療研修の実体験とメリーランド大学医学部の災害医学教育プログラムから、効率 的かつ実践的な災害医学教のあり方について検討した。

【結果】

(1)米国カリフォルニア州のCSTI(California Specialized Training Center)主催のDisaster Management Operating Course(4日間):本研修コースは、いわゆるEmergency Managerを対象とした 災害医療対応の教育コースであった。その教育内容は、災害概論から始まり、災害時の病院対応のシステ ム構築方法、公衆衛生面での管理、災害医療救援チーム、精神衛生、災害現場でのトリアージ方法、搬送 や連邦政府と州政府との災害計画との連係など、ほぼ災害医療の基本的な項目が含まれ、また小グループ ディスカッションとして机上訓練的な教育により、教育効果を高める方法を採用していた。

(2)メリーランド大学医学部における災害医学教育プログラムで、その内容は、災害概論から始まり、 自然災害から人為災害、複合災害などの各種災害の健康に及ぼす影響、災害発生初期における緊急医療対 応および災害現場などでのトリアージと応急処置、国際的な災害救援などほぼ災害医療、医学全般に亘り 系統的に進行するカリキュラムで、1講議3時間で15回、各週1回の15時間、講議担当者は13名で各々そ の専門家が各セッションを担当し、内容も講師陣も充実した理想的なカリキュラムを実施しているのは、 米国の約200の医学部中の8大学のみということであった。

【結語】

 わが国の医学教育の中で、災害医学教育に向けられる時間数に制約はあるが、わが国においても

(1)災害医療の重要性を認識させ、災害医学への関心をもたせること、

(2)講議のみではその教育成 果を上げることは難しく、小グループ制による学生自身に考えさせる教育法を採用すべきであること、

(3)災害に関連する基礎医学系および臨床医学系講座と協調した体系的な教育プログラムの構築が必要 である。


S-7.地震による建物倒壊・救助活動・人的被害発生の関わり
−Disaster Medicine との連携を考える−

村上ひとみ(山口大学理工学研究科環境共生工学専攻)


 地震による人的被害、特に死者の発生には建物の倒壊、閉じ込め、 捜索救助活動、搬送と災害医療などの経過が密接に係わっている。 将来の地震による人的被害を的確に予測し、その低減対策の効果を 論じるためには、これらの経過と連関についての調査・分析・モデ ル化が重要である。筆者は日本を始めとしてトルコ・アルメニア等 の地震災害について現地調査に基づき人的被害を分析してきた。

 ここでは阪神・淡路大震災を主な分析対象として、倒壊する建物 種別と人的被害危険度の関わり、消防署の捜索救助活動と生存率・ 所要時間等の関係について報告する。さらに、これらの地震工学的 アプローチの立場からDisaster Medicineとの連携に望むことを考 えてみたい。


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