序論)今回我々は、全身打撲からクラッシュシンドロームを来たす等により慎重な経過観察を要した外傷例を経験したので報告する。
症例)平成10年9月22日、台風の影響で強風と豪雨が続いてい た。山中で作業を終えた土木作業員4人がワゴン車に乗り合わせ下山する途中、道路が浸水しており車ごと2m下の谷川に転落した。作業員4人全員が自力で車から脱出、当院に救急搬送された。症例1は24歳、男性。右第6〜9肋骨骨折、右緊張性気胸認め、胸腔ドレナージ施行。第2病日よりCPK1380、クレアチニン1.3と異常値を認めたが持続点滴にて改善した。症例2(31歳、男性)も、網膜裂孔、変性で光凝固法を要した他、 全身打撲からCPK、クレアチニンの異常高値を認め持続点滴にて改善した。症例3(33歳、男性)では右下肢挫創、左第5指骨折を認め、全身打撲から同様に急性腎不全が進行したが、持続点滴、昇圧剤、利尿剤の使用により尿量確保し腎機能を改善し得た。症例4(73歳、男性)は来院時、軽度低体温を認めた以外は打撲範囲が狭く腎不全には至らなかった為、翌日退院の運びとなった。
結語)災害によ る外傷患者は、損傷程度が軽くても必ずしも経過良好とは限らず、全身管理を主軸とした慎重な経過観察が必要だと思われた。
日本赤十字社の中心事業は災害時の被災者救護活動であり、古くは1889年の磐梯山噴火災害に始まり、関東大震災、雲仙普賢岳大火砕流、阪神淡路大震災、そして今夏に全国各地で発生した豪雨災害などにおいて活動している。日本赤十字社は、突発的な災害発生に備え日頃から訓練を実施しているが、発生場所や規模等を同じくする災害は一つとしてなく、阪神淡路大震災救護活動に於いては連絡網の不備により医
療救護班の配備に時間を費やしてしまうなど、種々の問題が指摘された。こうした反省を踏まえ、日本赤十字社では系統的救護活動に向けた改善を進めている。その一例として、今夏発生した豪雨災害においては、各都道府県支部間の調整を図る「ブロック救護連絡本部」を設置したことにより、救護活動を円滑に遂行することができた。演者らは、各都道府県支部間の協力体制を重視した日本赤十字社の新たな救護体制について報告する。
札幌市内の丘珠空港での消火救難合同訓練において、関係各機関の
出動から現場到着なでの実際の時間を考慮した現場到着時間設定と、
迫真の演技とメイクアップを施した模擬患者を設定することにより、
より現実的な模擬環境のもとで多数傷病者対応訓練を行なったので報
告する。
発災後、協定に基づいて、実際に空港管制官より自衛隊、空港事務
所に、次いで空港事務所より消防、警察、札幌市医師会に事故発生の
通報が行なわれた。自衛隊による救護活動の開始は発災3分後、消防に
よる救助活動の開始は、同7分後であった。当科は、発災2分後に消防
より医師の現場は派遣要請を受け、同11分後に北海道防災ヘリにより
実際に出動、同17分後より現場にて応急救護活動を開始した。発災20
分後より最優先・緊急治療群傷病者の医療機関への搬送を開始し、当
初の訓練終了の目安とした待機・非緊急治療群傷病者の応急処置及び
搬送が完了したのは、同52分であった。これらは一切シナリオなしに
実施したが、軽症者への対応、情報伝達等自衛隊と消防の連携につい
て課題を残した。また、模擬患者は、救急救命士養成過程研修生及び
自衛隊員が担当したが、迫真の演技とメイクアップによる現実的な模
擬環境の演出だけではなく、訓練実施後に実施したアンケートではト
リアージのあり方に関する問題提起を行なうなど、訓練の評価担当者
としての役割を担った。
阪神淡路大震災を契機として、厚生省をはじめ各都道府県で防災計画が見直され、現実に即した対応が検討されてきた。東京都は災害時医療計画を全国に先駆け、新たな考え方を発表し、マニュアル化など細かな対策を行ってきたが、あくまで総論であり各論は各病院が防災対策を行い、訓練を繰り返すことである。当院では院防災対策として、東京都医師会、衛生局などと共同歩調のもと訓練を企画、実施してきた。また、全日本病院協会ではAMDAと協力し、日本医師会と共催で「地域防災民間緊急医療ネットワーク」
を発足させ、民間病院防災訓練を全国に展開するべく、訓練のあり方、その方向性を検討している。今回、地区医師会と連携し、特にトリアージ・治療・後方搬送訓練、地元町会との応援協定を行い、ライフライン途絶時の対応訓練として、平成9年8月、応急給水訓練、平成10年1月、夜間停電時対応訓練を行った。応急給水訓練は、東京都水道局との訓練で、当院の位置する墨田区の全病院20施設に給水する訓練を行っ
た。また医療機関側では、水の受け入れに対する訓練が行われた。夜間停電の訓練は、東京電力と協力し、当院において実際に商用電源を切り、自家発電による訓練、さらに自家発電を停止させた訓練を行った。実践に即した訓練を行ったが、問題点も山積した。以上、民間病院の防災訓練、特にライフライン途絶時
の対応につき訓練を行ったので報告する。
目的:震災後の緊急医療に対応した診療機器の日常点検業務チェックリストを作成する。
方法:阪神・淡路大震災の際に被災地内で緊急医療を坦当、または設備・機器の回復に携わった松山文治・内藤秀宗(甲南病院)他からなる研究会で、震災時の病院機能の条件設定、診療機能確保に必要な機器の選別、それらの機器の被害状況のメーカーへの調査、機器の特性による震災対策、日常点検業務リスト作
成、災害拠点病院での試行、と進めた。
結果の概要:条件/緊急医療の期間は直後から2日と患者搬送期の3〜5日とした。傷病は初期が傷害、尿閉クラッシュ症候群、呼吸器・循環器疾患、分娩・新生児など、患者搬送期は慢性患者の急性増悪、在宅患者の緊急対応、術後患者、新生児などとした。診療水準は通常より大幅に低下する。対象機器/分析検査機器、救命機器、放射線機器、分娩・保育器、血液浄化器、治療機器、薬剤機器、手術・中材機器、情
報処理機器。情報伝達機器の10種とした。対策/緊急用診療機器を、地震時に予想される事態、地震を考慮した設置法、耐震性の高い機器、日常点検のポイント、代替え手段・方法、患者・職員への安全性などの点から検討し、リストにした。災害拠点病院での試行/8施設で行った。
結論:チェックリストとして有用であり、今後運用に関する研究が必要であるといえる。この研究は厚生省平成9年度災害時支援対策総合研究事業の研究費補助を受けて行った。
阪神淡路大震災は危機管理の重要性を再認識させる大きな契機とな
り、神戸大学においても震災の教訓を生かすために、医学部と付属病
院における災害対策マニュアルの大幅な改訂が行われた。神戸大学の
都市安全医学では、平成10年度より、災害救急医学講座と日立製作所
との共同で、その改訂文書化された災害対策マニュアルの電子化を試
みている。この災害対策マニュアル電子化プロジェクトは、単に文書
を電子化するのが目的ではない。すなわち、従来ともすれば受動的で
しかなかった災害医療における危機管理を、より能動的な危機管理方
式へと変革させる大きな意義があると考えられる。電子化の最大の利
点は、パソコンのネットワークによる大量かつ高速な情報処置能力を
利用することにかる。電子化により、災害対策電子マニュアルが行動
指向的な能動型意思決定システムとして機能できれば、その使用者の
危機管理能力はより実践的となり、飛躍的に向上されることが期待さ
れる。それは平時より使いこなすことによって達成されなければなら
ないため、21世紀では情報技術を援用した医学・医療における危機管
理教育として重要な位置を占めるであろう。従って、神戸大学医学部
の災害対策マニュアル電子化プロジェクトは、医学生、医療従事者教
育への拠点病院での将来的な危機管理方式に対して大きなインパクト
をもつ。
D-21 日本赤十字社の被災者救護活動への取り組み
○鈴木伸行、大脇睦彦、槙島敏治1)、田中 豊2)
―豪雨災害('98)救護活動を振り返って―
○名古屋第二赤十字病院、1)赤十字医療センター、2)日本赤十字社D-22 現実に即した設定を行なった平成10年丘珠空港消火救難
合同訓練の経験から
○早川達也、鈴木研一、石田美由紀、松原 泉、國安信吉1)、越川
善裕1)
○市立札幌病院、1)札幌市消防局D-23民間病院病災対策
○石原 哲(白鬚橋病院)
―ライフライン途絶時の対応訓練 ―D-24 震災時に医療機能を早期回復するための診療機器等日常点検に関する研究
○河口 豊、岡西 靖1)
○広島国際大学、1)横浜国立大学D-25. 災害対策マニュアルの電子化がもたらす災害医療危機管
理へのインパクト
○鎌江伊三夫、石井 昇(神戸大学)