第4回日本集団災害医療研究会・抄録集
(一般演題B)


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  抄録集:一般演題A
   〃 :ワークショップシンポジウム

B-7 阪神淡路大震災での避難所医療における災害医療用語

○久保山一敏、吉永和正、切田 学、大家宗彦、松本英成、細原勝士、金澤優純、丸川征四郎
○兵庫医科大学


〈はじめに〉 1995年の阪神淡路大震災の亜急性期において、われわれは避難所の医療支援を通じて、医療資源の有効利用と地域の医療情勢回復に努力し、その後それに関して報告してきた。ところが、1998年第4回アジア大平洋災害医学会において英語で報告したところ、それまでの日本語の報告では問題とならなかった用語の不適切さが指摘された。しかも、その際複数の識者によって議論されたにも関わらず、いくつかの用語では最適な英単語が未決定のまま残った。これらの用語は″災害医学用語辞典″にも収載されておらず、 避難所医療を表現する用語は曖昧なままであったので新聞用語を検討した。

〈方法〉  亜急性期の医療を中心に避難所医療に関係すると思われる用語を、発災後2週間の朝日新聞及びAsahi Evening News紙上で調査した。(調査協力:朝日新聞東京本社科学部、中村通子)

〈結果〉  被災者・避難民は、evacuee, quake victims, quake refugees, displaced residentsな どと表現されていた。避難所を意味する英単語は、evacuation center, emergency shelter, refugee campなど15種類に上り、統一されていなかった。また海外との情報交換や相互協力が前提となるため、外国語、なかんずく英語との互換性が保たれていることが望ましい。

 阪神淡路大震災では避難所が多数開設された。そこでの医療は内科疾患・慢性期疾患が主体であり、急性期の外傷主体の医療とは異なっていた。またこの時期には、回復しつつある地域の施設への医療の移行へ配慮が欠かせない。このように、この時期の医療は華々しくはないが、復興の課程で一定の役割が課せられていると思われる。これらの時期の医療の正確な理解を広く得るためには英語の用語や概念の統一が今後の課題と考えられた。


B-8 災害時トリアージにおけるRevised trauma score(RTS)の意義

○大友康裕、辺見 弘、井上潤一、加藤 宏、松島俊介、塩崎隆博、原口義座、友保洋三、 荒井他嘉司
国立病院東京災害医療センター


(背景)災害時に有限な物的・人的資源を有効に活用するためにはトリアージが重要であることは言うまでもない. トリアージは外傷患者の診察に精通した経験豊富な医師が行うことが望ましいとされており、これを正しく行うことは必ずしも容易ではない.

 このためトリアージの客観的な判断手段の確立が望まれるところである。

 RTSは, 外傷患者の重症度を良好に反映し, その予後予測因子として有用であるとされている。このRTSが, 災害時のトリアージの指標として利用できるか否かを, 通常の救急診療で扱った鈍的外傷患者をもとに検討した.

(対象と方法)1998年1月1日から同11月15日までに我々の施設に入院した鈍的外傷292例を対象とし,以下のように分類した. 1.治療せず(DNR) 2.緊急(critical/urgent):1時間以内の緊急手術を要する 3.重症(severe):ICU管理を要する, 数時間以内の緊急手術を要する 4.入院(admission):入院治療を要する 5.帰宅(out patient):帰宅可能  この分類は実際に行ったものではなく, 災害時に多数外傷患者が搬入された状況を想定して, ICUへの入室や入院の基準を厳しくし、最終診断や治療中 の患者の状態をretrospectiveに検討して分類した。

(結果)各群の症例数, 平均RTSなどは図1参照. severe群でRTS7.5以上であった症例の内訳は急性硬膜外血腫, コンパートメント症候群, 四肢轢断, 鎖骨下動脈損傷などであった. 他方, admission群でRTS6以下であった症例は, 飲酒・薬物中毒などによる意識障害が合併していたものであった. 

(考察)GCS, 血圧, 呼吸数のみからなるRTSは,種々の検査を施行しない段階での指標として災害時に適したものであり, 重症外傷症例を判別する上である程度の有用性が示された. しかし問題点としては, 1.scoreの性格として意識障害偏重の傾向があり, 初診の段階で意識状態の良好な頭部外傷は軽く判断され, 一方脳震盪や薬物による意識障害が重く判断されること,2.バイタルサインに影響を与えない重症患者(コンパートメント症候群・クラッシュ症候群・四肢血管損傷など)は見逃される点が上げられる.


B-9 ドイツICE列車事故から何を学ぶか?

○二宮宣文、小井土雄一、勝実 敦、久野将宗、須崎伸一郎、山本保博、石原 哲1)
○日本医科大学、1)白鬚橋病院


 1998年6月3日、ドイツハノーバー近郊エシュテで起きたドイツ新幹線のICE列車事故は、同じように新幹線網を持つ日本にとって学ぶべきことは多い。午前10時59分に事故は起きた。列車には約300人の乗客が乗っており時速200kmで走行していた。脱線してから列車が停止するまで3.6秒であった。96人が現場で死亡し負傷者は87名が病院に搬送され治療を受けた。搬送された負傷者のうち5名が病院で死亡した。20名が現場で、10名が病院で気管内挿管された。死亡者はハノーバー医科大学法医学教室で94名が剖検 された。剖検結果は、断頭および頭部挫滅が18名、解放性頭部外傷と多発外傷が20名、非解放性頭部外傷が29名、多発外傷が18名、胸部外傷が3名、四肢断列が6人であった。死亡者の71%が頭部外傷であった。これらの剖検結果は時速200kmの事故の衝撃の大きさを推測させる。負傷者の救出救助・初期治療は事故後2時間で終了した。ヘリコプターは39機出動した。負傷者87名は22の病院に分散搬送された。救助において困難を極めたのは列車の窓ガラスが強固で割れにくかったため列車内に入るのが遅れたことであった。しかし、救助作業で最も評価されるのは2800人の関係者がお互いに信用し同志精神でもって作業を行ったことである。我が国においても何時新幹線事故が起こるかわからない。すぐにでも対策をこうじても遅くはないだろう。


B-10  災害時における地域民間航空会社の活動調査

○清水幸雄、村山良雄1)、 相木正幸2)、 木下久雄2)
○国立函館病院、1)国立明石病院、2)日本メディコ(株)


災害時において救助、情報収集、救援、復興等の活動に対し官民を問わず様々な機動力 が必要である。今回われわれは、地域民間航空会社が災害時にどのような形で関わりを持っているかを調査した。調査に対して北海道航空株式会社の全面的なご協力をお願いした。期間は1988年から1998年までの10年間である。活動内容は報道機関からの取材 飛行が主であった。1988年十勝岳噴火、1993年釧路沖地震、北海道南西沖地震、1994年釧路沖地震、1996年豊浜トンネル崩壊、駒ヶ岳噴火、雌阿寒岳噴火、1997年白糸トンネル崩壊、1998年駒ヶ岳噴火、が対象となった。北海道は面積が広く、また災害の性格上、航空機による上空からの取材が要求された。運輸省航空局は「災害時における救援航空機等の安全マニュアル」を通知している。これらの災害時の航空情報(ノータム)は1996年豊浜トンネル崩壊で2回発出された。1)2次災害防止のため現場真上の歩 行禁止、2)発破作業のため現場から半径1Km以内は飛行禁止である。1997年白糸トンネル崩壊では2次災害防止のため現場から半径500は飛行禁止が発出された。これら以外の災害には規制はなかった。今回の調査によって地域民間航空会社の重要性が把握できた。今後はさらに広域災害での役割分担の重要性が増すものと考える。


B-11 災害用ヘリポートは災害時の患者搬送に役立つか?

○滝口雅博(弘前大学)


我国の災害発生時には災害救助法が発動されて地域または都道府県さらには国の指揮の下に災害救助が行われる。最近では各都道府県では地域防災計画の中に所属の防災ヘリコプター運行が定められており、災害用臨時ヘリポートが設置されている。さらに、災害拠点病院の計画にも災害拠点病院はヘリポートの設置が義務つけられている。しかし、青森県の例をとって考察すると、青森県内災害用臨時ヘリポートすなわち場外離着陸場29カ所は、医療機関から250m以内に存在する場外離着陸場は4カ所に過ぎず、市街地に存在するヘリポートは1カ所も存在しない。このことから、もっと人口密度の高い地域でも災害用臨時ヘリポートが災害時の患者搬送を想定して医療機関の真近に設置されているとは考え難い。阪神・淡路大震災で患者搬送にヘリコプターが直ちに使用できなかった原因を考察しても、ヘリポート設置場所が問題であった。すなわち人口密集地内へのヘリポート設置は不可能に近い。現在、災害用に設定されている場外離着陸場の多くは、学校の校庭または運動場、陸上競技場、公園などに設定されていることが多く、これらのヘリポートが患者が多く収容される病院の真近にはないことが多い。今後、人口密集地に災害用ヘ リポートを設定する場合には、病院真近に患者搬送のためのヘリポートを設置することを真剣に考える必要があると思われる。


B-12 災害時におけるヘリコプター搬送
 …「ヘリコプターを使う」から「ヘリコプターをどのように使う」か?

○本間正人、大友康裕、井上潤一、松島俊介、塩崎隆博、原口義座、辺見 弘
○国立病院東京災害医療センター


【はじめに】阪神淡路大震災後、ヘリコプターによる患者搬送の重要性が認識され災害時に「ヘリコプターを使う」ことは明らかとなったが実際「ヘリコプターをどのように使う」かの議論はまだ熟していない。下記の通りいくつかの使い道があげられるがそれぞれ問題点を有している。今回大型ヘリコプターを利用した患者搬送訓練を経験したので報告する。

【訓練内容】本年9月1日に静岡県防災訓練の一環として後 方搬送訓練を経験した。模擬患者9名及び医療チームを乗せた大型ヘリコプター(CH-47)は静岡より陸上自衛隊立川基地に着陸した。われわれは立川基地内にStaging Unitを設営しそこで搬送医療団からの情報伝達、再トリアージ、重症度に応じた優先順位にて患者搬送を行った。

【考察】(1)災害拠点基地(ヘリポート)を核とした諸機関(自衛隊・消防・空港関係者等)・周辺医療機関との連携体制が必要である。(2)拠点となりうる災害拠点基地(ヘリポート)には患者輸送医療拠点(Staging Unit)の計画が必要である。その計画には人材、物資、連絡手段をはじめ命令系統も盛り込む必要がある。(3)患者情報の伝達が問題であり、統一のカルテ・家族の同乗など情報の散逸を防ぐ工夫が必要である。

【結語】ヘリコプターの使用方法は災害の規模,位置,状況等を考慮して柔軟に選択する必要がある。多様なヘリコプターの使い方を事前に訓練することによりそれぞれの問題点が浮き彫りとなり適切かつ迅速な搬送が可能となる。


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