第4回日本集団災害医療研究会・抄録集
(一般演題A)


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会告プログラム
  抄録集:一般演題A
   〃 :ワークショップシンポジウム

A-1 災害医療従事者研修における机上訓練の有用性

○大橋教良、原口義座1)
○筑波メディカルセンター、1)国立病院東京災害医療センター


 平成10年度静岡県災害医療従事者研修会での災害シミュレーション(机上訓練)の参加者のアンケートをもとに机上訓練の有用性について検討する。この研修会は医師、看護婦、薬剤師、事務員の4名を1チームとして県内の医療機関から一般公募するものである。早朝に震度7の地震が発生したという想定の机上訓練がカリキュラムに加えられている。参加施設は各自の病院の見取り図をOHPで示し ながら与え られた条件下で自分の病院ならどうするかの意見を述べ会場から質問する形式で会を進め た。大型地震の 発生が予想されている静岡県という地域がら研修会に対するモチベーションは非常に高く活発な討論が行われた。事後5段階評価でアンケート調査したところ参加者の88%が『良い』『特に良い』と回答した。他のカリキュラムは『良い』『特に良い』の合計は60%前後であった。このように好評を得た理由は、1)机上訓練のカリキュラム自体が珍しく参加者の興味をかき立てた。2)架空に設定した病院ではなく参加者自身の病院についての意見を求めたので現実的な討論となった。3)他の医療機関の意見を今後の参考にすることができる。などの理由が考えられた。机上訓練での討論は絶対的な正解を求めるものではないので、場合によってはまとまりのない内容になる危険性があるが、司会者がある程度の方向性を示しながら全員参加型の自由討論を行うことで通常の講議以上の研修効果が期待できると思われた。


A-2 医療施設における災害医療教育

○山口孝治、松岡幹雄、杉本勝彦1)
○横須賀共済病院、1)昭和大学


 「背景及び目的」横須賀共済病院で行われた災害救護訓練において災害医療教育と訓練のあり方について検討したので報告する。

 「方法」過去2年間に、当院で行なった5回の訓練を教育と災害対策計画・マニュアルの再考という観点から評価した。教育については、災害医療の特徴と問題点、トリアージの概念と実際などについて評価した。また、計画・マニュアルの再考については、病院の災害時体制の理解、権限の分散化などについて評価した。

 「結果」人的・物的資源の不足により病院が大混乱になったことで、需要と資源の不均衡が災害であるとの認識をすることが可能となった。トリアージにおいては、実施者により選別の基準が一定でなく日常の救急医療を考慮した選別であった。計画・マニュアルの再考においては非常時の体制は理解できていたが、権限の分散化が行われず、各職員が自律的に機能できなかった。現在まで行なってきた訓練は、災害対策の流れをシュミレーションすることは可能であるが、トリアージの教育については不充分であると判断できた。

 「結論」訓練は計画・マニュアルの再考だけではなく、教育の機会になるように改める必要がある。訓練においてより有効な教育を行なうためには、充分な基礎知識の習得が要求される。職員を一般看護婦、一般医師、救急専門医などに分け、各レベルに合った教育プログラムを作成し、訓練の前に基礎研修を行なうことが必要であると考えられた。


A-3災害医療研修の現状と問題点ーアンケート結果を含めてー

○友保洋三、原口義座、荒井他嘉司
国立病院東京災害医療センター


当院臨床研究部を中心に過去3年間にわたり定期的に災害医療従事者研修を行ってきてい る。基本概要を述べ、またアンケートを含めて、その意義と問題点を報告する。

今回対象とした、災害医療従事者研修は、1回5日あるいは4日間で延べ研修時間は、1回当たり23時間〜30時間であった。全国から派遣された各回100名前後の受講生を対象としており、各医療チームは1組5名、医師、薬剤師、事務系各1名、看護婦(士)2名からなっている。現在まで合計8回施行してきた。研修内容は、講議が約1/2強、残りはシンポジウム・パネルディスカッション、机上シミュレーション、訓練・実技実習、病院見学等とした。

なお2日間以下の短期の研修・訓練は、この報告に含めていない。

検討結果:アンケートを含め、新しい技術・知識を得たとの報告が、ほとんど全てのチームからなされた。逆に災害派遣等に実績のある病院からの医療チームの回答としては、知識の再認識・整理に有用であったとの意見がみられた。訓練として、特にヘリコプター患者搬送に関しては、阪神大震災で問題となったにも関わらず、現在でも実際に搬送経験に携わった経験のあるチームは少なく、ヘリコプター患者搬送訓練は、重要と考えられた。その他、アンケート結果からは、各職種別の研修の必要性を訴える意見も目立った。

まとめ:全体をみると、各医療施設によって、災害医療の認識・経験のレベルには、大きな差があると思われた。当院で行っている災害医療研修は、特にこれらのまだ経験・知識の少ない医療従事者のレベルアップ、啓蒙に有用性が高いと言えよう。


A-4 災害医療支援隊(DMAT)合同災害訓練に学ぶ

○丹野克俊、伊藤 靖、金子正光、Lucy Gans1), Richard V. Aghababian1)
○札幌医科大学、1)University of Massachusetts Medical Center


 97年、災害医療支援隊(DMATs)による合同災害訓練に準備段階より参加する機会を得た。今回の訓練 は6月20日より3日間マサチューセッツ州西部の空軍基地において行なわれ、マサチューセッツ州より二 隊、ロードアイランド州より一隊のDMATsが参加した。第一日目はテント設営と軍関係者によるオリエ ンテーション、DMAts間の調整、2日目は搬送訓練や災害講議、軍のMobile Aeromedical Staging Facility の見学、3日目はDMATsが集合したClearing Staging Unit (CSU)を構成し空港災害に対するシミュレーショ ンが行なわれた。また、National Disaster Medical System (NDMS)よりスタッフが参加しManagement Support Unit (MSU)を構成しCSUの活動を補助した。さらに地元および近隣の救急隊が参加し実際にヘリコプターおよび輸送機(Cー130)による患者搬送も行った。 今回の訓練は準備に半年以上を要し、実際に備蓄されている医療物資の搬送、各関係機関との調整、DMATsチーム内の交流とup-to-date、シミュレーションにおけるトリアージ訓練、軍隊における災害救助のノウハウの習得等を目的として開催された。 今回、準備段階より参加することによりみえたこの訓練の利点欠点について考察し報告する。


A- 5.米国における対地震災害医療訓練(Quakex '97)に参加して

○新地浩一(陸上自衛隊衛生学校)


[1]はじめに

 演者は、平成9年1月ー7月の6ヵ月間、米国ワシントン州およびハワ イ州の陸軍病院等で、災害医療システムについて研修する機会を与え られた。その際に大地震に対する災害医療訓練に参加し、多くのこと を学ぶ機会を得た。今回、その訓練の概要と訓練から得た教訓の中で、 今後の我が国における災害医療に役立つであろうと思われることを中 心に発表する。

[2]訓練の概要

 『オレゴン州ポートランドにおいて1997年5月14日早朝、大地震発生、 5月15日に大統領による災害地域の指定が行われた』という想定の下に、 国家災害医療システム(NDMS:米陸海空軍および赤十字、民間病院を 含む)を主体とした災害対処訓練が行われた。

 訓練の目的は、大量傷病者への対処、患者空輸訓練(Cー141輸送機 による実患者空輸;マッコード空軍基地・ポートランド空港間)、空 輸間の患者治療訓練、陸海空軍病院と民間病院との相互調整による患 者収容訓練、災害対策本部機能の評価にいたるまで多くの要素が含ま れており、大変参考になった。

 特に事前の調整会議では、各機関の代表が出席して、綿密なスケジ ュールの打ち合わせを行い、曖昧な点は、とことん討議するというス タイルであった。

 今回の訓練ではNDMSの長は、陸軍軍医大佐が務め、シビリアンや民 間病院は、その指揮下で協力するという形で行われた。

 訓練の詳細な内容は、スライドにて呈示する。

[3]訓練に参加した印象

  1. 陸海空軍の連携が良く、民間病院のスタッフや、関係諸機関と協力して、効率的な災害対処を実施している。

  2. 退役軍人や予備役軍人が多数参加しており、彼等もそのことを誇りにしている。

  3. 訓練内容が、現実的かつ実務的であり、訓練規模も日本のそれに比べて大きい。

  4. 複数の組織の調整役である連絡幹部が良く機能しており、現場での意見の相違を速やかに調整し、指揮官の意思の決定を容易にしている。

  5. 従軍牧師も参加しており、死者への弔意のみならず、救援スタッフのストレス・マネージメントにも関与している。一部では、精神科医への協力も行い、スタッフの『燃えつき症候群』を予防している。

  6. ボランティア約200名も参加しており、患者役などを引き受けて、軍の輸送機への搭乗も含めて訓練に参加している。

[4]おわりに

 このような訓練は、年1回、定期的に行われており、回を重ねるごとに 関係各機関の協力体制が良くなり、また、市民の防災に対する意識の 向上にも大きく寄与しているとのことである。多くのボランティアが、 このような形で訓練に参加していることも、大変うらやましく感じら れた。わが国においても、なるべく早い時期に、このような訓練を行 いたいものであると考えられた。


A-6 米国式の災害医療訓練・研修の参加経験ーその特徴と意義ー

○原口義座、友保洋三、木村弘江、那須和子、荒井他嘉司
○国立病院東京災害医療センター


 災害訓練・研修は、まだ我が国においての歴史は浅い。欧米式、特に米国式の災害医療訓練に参加する機会を得た。特徴を検討したので報告する。

[災害訓練の概要]対象とした災害訓練(及び研修)は3回。概要は、第1回は、Chemical and biological casualties course(18-21, Aug 97:4 日間,米軍横田基地)で、講議と災害訓練が約半々。参加者は、東南アジア駐留の米国軍人、自衛隊員が中心であった。

第2回は、3rd Annual International Emergency Medical Preparedness Educational Symposium (22-24, Sep 98: 3日間、Albany, NY)。2-3会場同時進行で、講議約2/3、訓練・実技約1/3であった。参加者の職種は、医療従事者、救急・消防隊員、レスキュー隊員、警察官と多彩。第3回は、CMRT(continuing medical readiness training: Oct-Nov 98:3日間を4回,米軍横田基地病院の職員(医療従事者)と我々。

[検討結果と考察]内容は、第1-3回は、想定されるごとく、講議・実技とも化学物質・毒物への医療対応が主で、その他、テント設営・トリアージ訓練等も行った。これらの実技・訓練は、実際の状況を理解する上で有効と考えられた。第2回は、軍事的要素は、ない訓練であったが、項目数からみると人為災害10項目、自然災害4項目と前者が重視されていた。なお、分類困難および両者に関連するものは10項目で あった。

[まとめ]米国における災害医療対応の中心は、人為災害であり、今後我が国においても大きな問題となると予想される。しかし現状においては、自然災害への体制整備がより急務であろう。災害教育からみると両者を上手に組み合わせ、我が国の国状にあったものとする必要がある。


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