サスティナビリティの高い妊婦セルフケアプログラム
「冷え症改善パック」の有効性検証
JSPS 科研費22592525の助成を受けて行った研究です。
研究の概要:
研究代表者らは一貫して妊婦の冷え症の研究を続けてきました。先行研究では、妊婦2810名を対象に傾向スコアを用いて因果効果を推定しました(http://plaza.umin.ac.jp/hiesho/ )。その結果、妊婦の約6割が冷え症であり、冷え症でない場合と比較して早産の発生率が3.4倍、前期破水では1.7倍、微弱陣痛は2.0倍、遷延分娩は2.4倍であることが推定されました。つまり、冷え症は異常分娩の原因の一つであります。したがって、異常分娩のリスクファクターである冷え症の改善へのケアは喫緊の課題であると考えます。しかし、冷え症の改善は即効性のある治療をすることではなく、体質改善、つまり日常生活の改善にあります。したがって、日常生活に組み込んで継続して続けられるようなプログラムの開発が求められます。
本研究は、冷え症である妊婦を対象に、サスティナビリティの高いセルフケア支援プログラム「【自宅でできる】冷え症改善パック」を作成し、冷え症の改善への有効性を評価することを目的とします。
研究目的
①着想に至った経緯
わが国の女性一人当たりの出産数は減少しており、2012年度の合計特殊出生率は1.41でした(厚生労働省,2013)。このように、多くの女性にとって、出産は生涯一度きりの貴重なライフイベントであります。しかし、晩産化等の影響でハイリスク妊産婦は増加し、それに伴う異常分娩率が高まっています。異常分娩の1つである早産は、全分娩の5~10%を占め、周産期死亡の約3/4が早産児といわれており、漸増しています(朝倉,2006)。したがって、多大な影響をもたらす異常分娩の回避は喫緊の課題です。一方、冷え症は助産院等の施設において、異常分娩の誘因として重要視し、多くのケアを行っていますが、そのケア効果にエビデンスはなく、一貫性に乏しい状態です。
研究代表者らは先行研究にて、妊婦が冷え症であることで、早産等の異常分娩の発生率が高くなることが推定されました。この結果は冷え症に対する認識の薄い、周産期医療に対し警鐘を鳴らしました。
以上より、異常分娩の回避のため、冷え症の予防や改善を行うことが求められます。したがって、本研究の「異常分娩のリスクファクターである冷え症予防へのケア」はケアに対するエビデンスの構築であり、喫緊の課題であります。
②本研究の目的
本研究は、冷え症である正常経過の妊婦を対象に、妊婦の冷え症がもたらす異常分娩を予防するための、サスティナビリティの高いセルフケア支援プログラム「【自宅でできる】冷え症改善パック」を作成し、冷え症の改善への有効性を評価することであります。
研究プログラム
- 文献検討と臨床現場の調査により、冷え症のセルフケア支援の実態の明確化
- プログラム作成、パイロットスタディの施行、プログラムの洗練⇒プログラムの完成
- 本調査を行う。プログラムは1パックにし対象者に渡す。予定対象者は約200名である。追跡は、実施前・中・後と3回行う。
- 成果は、冷え症の改善の状態、マイナートラブルの改善の状態である。プログラム実施チェックリストより、5本柱のどの項目が冷え症改善により有効なのか等、プログラムを評価する。
具体的な研究計画
基盤となる先行研究
- 中村幸代.冷え症のある妊婦の皮膚温の特徴および日常生活との関連性.日本看護科学会誌2008;28(1):3-11.
- 中村幸代.冷え症の概念分析.日本看護科学会誌2010:30(1),62-71.
- 中村幸代,堀内成子,毛利多恵子他.妊婦の冷え症の特徴-ブラジル人妊婦の分析-.日本助産学会誌2010;24(2): 205-214.
- Pregnant women's awareness of sensitivity to cold (hiesho) and body temperature observational study: A comparison of Japanese and Brazilian women;Sachiyo Nakamura, Sueli MT Ichisato, Shigeko Horiuchi, Taeko Mori, Masako Momoi ;BMC Research Notes 2011, 4:278 (5 August 2011)
http://www.biomedcentral.com/content/pdf/1756-0500-4-278.pdf - 中村幸代,堀内成子,柳井晴夫.傾向スコアによる交絡調整を用いた妊婦の冷え症と早産の関連性,日本公衆衛生雑誌2012,59(6),381-389.
- 中村幸代,堀内成子,桃井雅子. 妊婦の冷え症と前期破水における因果効果の推定―傾向スコアによる交絡因子の調整,日本助産学会誌2012,2(2),190-200.
- 中村幸代,堀内成子.妊婦の冷え症と異常分娩との関係性,日本助産学会誌2013,27(1),94-99.
- 中村幸代,堀内成子,柳井晴夫.妊婦の冷え症と微弱陣痛・遷延分娩との因果効果の推定―傾向スコアによる交絡因子の調整―,日本看護科学会誌2013,33(4),1-10.