平成8年の厚生省健康政策局長通知に基づき、災害拠点病院構想が進められている。日本集団災害医療研究会を中心に災害拠点病院連絡協議会の設置が検討されており、そのための準備を兼ねて、現在まで災害 拠点病院を中心にアンケート等による検討を行ってきた。その結果と今後の方針を提示す る。
[災害拠点病院連絡協議会準備会]前回の日本集団災害医療研究会以降、3回の打ち合わせ・準備会を行い、今後の方針・アンケート内容等を検討した。
[アンケートの方針]Preliminary studyとして本年2月に第1回アンケートを基幹災害医療センターを対象として行った。比較的簡単な内容とした。第2回アンケートは、現在集計中であるが、対象を基幹・災害医療センター500弱の施設に広げ、前回よりやや詳細なアンケート内容とした。今後、病院以外の公的 施設(国・都道府県、消防・警察・自衛隊、その他の公的企業等)も対象とする方針であ る。
[第1回アンケート結果概要]基幹災害医療センター49に対してのアンケートで回収率、88%(43施設)である。内容は、1)災害拠点病院連絡協議会(仮称)に賛成か、2)その正式名称・参加施設、3)協議内容、4)病院災害マニュアルの有無、等である。アンケート結果は、1)連絡協議会の設置には、無 条件賛成86%、条件付き賛成14%、2)名称は、約2/3で仮称の「災害拠点病院連絡協議会」に賛成であり、参加施設範囲は、基幹災害医療センターとするものが過半数を占めたが、地域災害医療センター・厚生省・都道府県等の参加の意見も多く見られた。3)重視すべきと考えている協議内容は、・災害時の病 院間の協力、・災害情報システムの共有、・災害研修とマニュアルの作成の協力、・備蓄物 質の相互補完、の順であった。4)災害対策マニュアルを既に作成済みの施設は、16施設と40%に満たなかった。
[まとめ]アンケート結果では幾つか問題点が指摘された。現在集計中のものも含め、災害拠点病院連絡協議会の在り方を報告する。
平成10年4月1日現在、全国で502施設が災害拠点病院として指定されている。その内訳は基幹施設53(平均病床数443床)、地域施設449(平均500床)と一部の例外を除き、中規模〜大規模施設が指定されている。それぞれ日常から中核医療
施設として機能しており、既に災害研修やマニュアル作成等も行われているが、
1)大規模災害発生時に患者搬送に重要な役割を担うべきヘリコプターの対応に関しては未だに問題のあるところである。これらの拠点病院の敷地内や隣接したヘリポートを有する施設は77(15.3%)で、255施設(50.8%)が施設外にヘリポートを設定しており、170(33.9%)が検討・調査中である。患者受入・搬出いずれの場合も、これらの施設から最寄りのヘリポートまで救急車等で搬送する必要があり、多数の被災患者が予想される大規模災害では、大量の患者搬送に問題が生じるものと考えられた。
2)一部の施設では高架道路に挟まれた場所にあり、地震では高架道路の倒壊が免れても通行不能となる事が予想され、周辺の交通渋滞が深刻な問題となる。
3)都心部の人口・住宅密集地域では火災の延焼や建物の倒壊等による道路閉鎖等で十分な機能を果たすことが困難となる。
4)各施設とも、病院経営上の観点から災害発生により生じる大量の患者収容を行なえる環境にない。
平成7年1月の阪神・淡路大震災の後、災害医療体制のあり方に関する研究会からの報告や各方面からの応急救護活動の検討結果などを受けて、国の政策として災害拠点病院構想が打ち出された。群馬県でも平成9年3月に私どもの前橋赤十字病院が基幹災害医療センターとして、二次医療圏には7病院が地域医療センターとして指定されたが現在検討中の3地域の病院が残されている。
昨年、国立病院災害医療センター、大阪府立病院、大阪千里救命センター、日本医大救命センターが全国48の基幹災害医療センターにアンケートした結果を第26回日本救急医学会に報告している。アンケートの回答率は43施設で90%であるが病院対応のマニュアルを作成している施設は37%のみで低調ぶりが明らかにされた。
既に本学会や救急医学会で討議されてきた全国的な災害拠点病院の連絡協議会はなるべく早くに設置して行動に移すべきである。またその延長として各県内での連絡会議や研修会の開催も当然必要なことと思われる。
今回、当院でのマニュアル(案)を作成するに当たって検討すべきと思われたこともあるのでそれらを含めて災害拠点病院での今後の役割やあり方を検討したい。
災害から3年を過ぎて社会全体があのころの雰囲気から冷めてきていることも事実であるが、災害拠点病院のハード面での整備計画は一部開始されているのに、指定を受けた病院側でソフト面での動きが鈍い。当院でもそうであるように県からの指示を待っているような消極的態度は誤りである。
群馬県には群馬県防災会議の編集になる詳細な群馬県地域防災計画があり、前橋市でもそれに準じたような前橋市防災計画がある。しかしその中で医療・助産計画の項目には医療救護活動では医師等の協力のもとに知事や市町村長の要請で医療班を編成して迅速な医療活動を行うとされ、災害拠点病院を指定してその医療機関の協力を得て施設・設備の整備に努めると定められているだけである。また、資料編には群馬県知事と日赤群馬県支部との間で災害救助法による委託契約や知事と群馬県医師会長との間で決められ
た災害時の医療救護活動についての協定書が掲載されている。
災害時には基幹災害医療センターや地域災害医療センターはその責任に於いて病院自体の決断での行動、あるいは県・市町村からの出動要請を受けて行動する立場にはあるが、地元医師会との協調を保ちながら活動もできるような、日頃からの役割分担や指揮命令系等の確立も必要になる。
他府県で災害が発生した場合には、地域防災計画を既に各県知事間での相互応援協力計画が決められているので状況に応じてこれらを参考にして迅速に対応することになる。
我々は兵庫県の委託をうけ基幹災害医療センターとして研修会を企画開催してきた。その活動を報告し災害拠点病院の役割について考察を加える。
(研修会の概要) '97年より年4回、計6回の研修会を企画、地域災害
医療センターノ救急や外科部長などの災害コーディネーターや保健所
長を対象に3回、救護班を構成する医療従事者を対象に3回、交互に開
催しのべ94名と222名の参加をそれぞれ得た。講師や指導員は我々以外
に災害医療の専門家を依頼した。
取上げたテーマは、兵庫県災害救急医療システム、災害医療コーデ
ィネーター、災害医療救護活動、ヘリコプター搬送、災害時の情報伝
達、FEMA、災害サイクルと医療ニーズなどで、机上シミュレーション
としての列車事故を想定してトリアージの演習を行った。
(考察)研修会の意義として、様々の組織や医療機関の人々が知己と
なり、災害医療へ取組む自覚を促すことがまず挙げられる。その意味
から兵庫県、神戸市の行政職や保健所長などの参加は貴重で、消防関
係の出席も奨励したい。反響が大きかったのは机上シミュレーション
で、ワークショップ形式など出席者参加型のプログラムが望ましく、
意義深い研修会の運営と準備には創意工夫と継続性が重要である。
(結語)災害拠点病院が機能するにはハード面の整備だけでなく、基
幹災害医療センターにおける災害医療研修機能の充実、研修機会提供
などソフト面での整備と補助が必要不可欠である。
石原 哲(白鬚橋病院)
災害時、緊急医療援助の鍵となるのは、各医療チームの相互の医療における共同作業性
(Cooperatively)と相互運用性(Interoperability)であり、そのためには、多数傷病者
管理システム(Mass Casualty Management System)が必要であろう。システムの目的は災害により発生した大量の傷病者に対し、その生命及び損傷を最小限にするための標準化であり、救助に携わるすべてのグループが限られた要員と資材を有効に使うための、共同作業と相互運用の標準化と考えている。そのため医療に限らず他職種の組織との連携が重要であり、救難連鎖(Rescue Chain)を形成しておくことが重要であろう。
傷病者を被災地域から捜索・救助、トリアージ、応急処置、後方搬送、病院トリアージ、収容と連携し、1つの救護所からピラミッド型に各組織が梯形編成(Echeron)され、すそのが広がっていかなければならない。災害拠点病院といえども被災者すべてを収容できるはずもなく、公私すべての医療機関で連携が必要なのである。このためにも中小病院が災害対策を行っておかなければならず、病院防災マニュアルの標準化が必要である。我々は、全日本病院協会を通じ、被災地外からの医療班の受け入れ訓練、ボランティ
アの受け入れ訓練、後方搬送訓練等を広域に企画実施し、その標準化を考えてきた。行政、
特に都道府県が行う災害対策があくまで基盤であり、我々はこのシステムに追随する事が原則である。しかし各医療機関が独自の対応策を持つこともきわめて重要であり、今後さらにきめ細かなネットワークづくりを怠らず、
実践的な災害対策に向け活動する必要があると考えている。
1995年の阪神大震災より、大災害時のトリアージの必要性が広く認識され、消防庁からも標準トリアージタグが通達された。
1988年鳥取県美保空港にて東亜国内航空YS11型機が離陸中に滑走路をオーバーランする事故が発生した。この事故は幸いにも負傷者5名にとどまったが、これを契機に当消防局では集団災害への対応策が真剣に検討された。訓練の重要性と救急隊員のトリアージが認識され、傷病者の医療機関への搬送、トリアージのマニュアルを作成し、隔年で訓練を実施するとともに集団災害時における消防機関の指揮権を確立し
た。当初、荷札を利用したタグから始まり、独自の4カテゴリー式のトリアージタグも作成した。
1990年、管内において中等症10名、軽症18名の集団食中毒が発生し、初めての救護所設定とトリアージタグを使用したトリアージが行われたが、傷病者数の判断と全傷病者の症状が嘔吐と下痢で重症度の判定に難渋した。この事例により、訓練の重要性が再認識された。1993年、管内に救急救命士同乗隊が発
足し、以来救急救命士をトリアージ実施者としている。
日常、住民は全ての傷病者が直ちに救急医療サービスを受けるのが当然と考えているなかで、災害の厳しい状況下でのトリアージを行った際にそのギャップから、搬送が優先されなかった傷病者や家族において救急隊への不信感が発生することが懸念される。それに対して、平素から住民が災害の状況やトリアージの考え方を理解して協力することが必要である。当消防局ではCPRの普及啓発を積極的に行っており、
平成5年10月から平成10年10月の5年間に管内人口の1/5に相当する約5万人に講習を行った。このような救急講習会は全国で行われており、その機会にも災害時のトリアージについても説明を行い、搬送業務
への理解と協力を得ると共に、緊急性のない傷病者にあってはバイソタンダーによる相互救護ができる社会を形成する構えが必要である。
災害の現場でトリアージが行われることは、医療従事者のなかでは常識となりつつある。
しかしながら、
一般市民に対する啓蒙は遅れている。トリアージの市民への普及啓発の一助となることを目的として、高校生を対象として、アンケート調査を行ったので報告する。
【対象および方法】石川県内の商業高校で高校生161名に、救急蘇生法の講習を行った際に、災害時のトリアージに関しても簡単な説明を行い、理解、協力、印象などに関してアンケート調査を行った。
【結果】簡単な説明で、トリアージの概念/本質は理解できないが、84%が必要性は理解できると答えた。また、医師、看護婦、救急隊それぞれがトリアージを行った場合の受けとりかたに差はなかった。さ
らに、79%が災害の状況には負傷者の救助や手当に協力したい意志を表明した。一方で、トリアージによって自分や家族の治療が他のひとよりあとになった場合には素直に従うが35%、いやだがしかたがないが31%、絶対に許さないが12%であった。
【考察】災害の混乱した状況のなかで、円滑な搬送、応急処置、診療を行うためには市民の協力が不可欠である。災害時の医療やそのなかでの一つの方法であるトリアージについての啓蒙は極めて重要である。また、災害の現場で説明し、説得することも不可能と思われる。救急講習の普及が軌道に乗りつつあるよ
うに、災害時の医療やトリアージに関して、平常時から、啓発の機会をつくり市民の理解と協力を求める必要がある。
戦場における傷病者の治療は後送と不可分とされています。すなわち一つの治療施設もしくは一人の治療者によって治療が完結される場合もありますが、多くの傷病者は前線から後方に後送されながら段階的に治療を受けることを前提に考えられています。それは「最前線に傷病者が多発するが優れた治療施設は後方にある」という理由によります。ヘリコプターによる傷病者空輸はその前にクリアしなくてはならない戦術的要素があり、いつでも100%可能ではありません、よって戦場においては段階的治療後送が基
本となり、トリアージのための判断事項はより複雑になります。
軍隊におけるトリアージタグは災害時医療のそれの原型になったかもしれませんが内容は重傷度を判定し治療の優先順位を示すことだけが目的ではなく傷病者が何人のも軍医やその他治療者の手を経なければならないことから、個人の記録そしてカルテとしての意味が重要となります。
標準トリアージタグの使用について
災害時には大量の傷病者の医療を効率よく行う為にTriageは必須の過程であるとされている。しかし実際にTriageを行うには種々の現実的な問題(Triageによって出現する可能性のあるー結果的に治療を受けられない傷病者の問題ー、Triageの判断の問題、Triageを行う人員の資格など)がある。災害によって、医療の質・量が限定され限られた被災者の診療しか行えない場合には、Triageによって適切な
医療を必要な傷病者に行えるように取り計らう必要がある。しかし、状況によっては治療の適応があってもTriageによって治療を受けられない傷病者が出、またその結果生命予後や機能予後に重篤な問題を発生する可能性もあ
る。このような結果に対して、TriageやTriageを行った者などは問題とされないであろう
か?理想的なTriageには、1)災害による被災状況の判断、2)Triage自体の判断(量、質と時間的要素)、更にはTriageを行う人員の資格/適性などが考えられる。このような条件を満たして、結果的に適切なTriageの
判断が行われている限り、結果的に治療の適応はあって治療が受けられない傷病者が出たとしてもそのTriage自体やTriage施行者が問題とされることはないと判断される。しかし、一方で上述したような各条
件を十分に満たして居ない場合には問題となる可能性があり、実際のTriage施行に際しては慎重な判断が望まれる。
(要旨)ホンジュラスへの国際緊急医療援助隊(自衛隊、JICA, 外務省、
青年海外協力隊)へ参加し、このOperationにおけるTriage Officerを
命ぜられました。現地で約14日、合計4,031名の患者さんの治療
にあたりました。
この派遣中に以下のようなことを学びました。
1,国際医療協力においては、現地のドクターにPre-Triageを実施して
もらい、日本の医療隊に診てもらいたい患者を選別してもらうことで、
Triageの効率化が図れる。(300人/日以上が、可能になる。)
2,軽症患者のTriageに関しては、積極的に、経験のある救命救急士に
任せて、重症患者などの判断が難しい患者のTriageに医師が専念する事
により、スタッフの疲労も軽減でき、効率化も図れる。
3, JICA(外務省)、青年海外協力隊、自衛隊などの複数の組織が、協力
することにより、海外での災害救援活動が、よりスムーズにいく。
4,インターネットを介したTelemedicineによる日本国内の専門医への
症例のConsultationにより、現地での診断、治療の助言を得て、適切な
医療活動が実施できる。
(74歳、女性。14年前より少しずつ下肢に小潰瘍
を伴う皮膚病変が出来はじめ、被災後に悪化。自衛隊中央病院の皮膚科専門医へ、病歴と共に画像を送信。静脈瘤症候群と診断され、治療方針について助言をいただいた。)
1−4の事項は、実際に現地でやってみて、可能なことが、判明しまし
た。皆さんの中にも、今後同様の活動をされる方がいらっしゃるかと思
い、ご参考までに報告いたします。
W-1-2. 災害拠点病院の問題点
村山良雄、清水幸雄1)、柳下芳寛2)、西 法生3)
国立明石病院、1)国立函館病院、2)国立国際医療センター、3)国立病院東 京災害医療センター
等の検討課題も指摘される。W-1-3. 災害拠点病院の今後の役割とあり方
饗場庄一、塩崎秀郎、池谷俊郎、中村正治、宮崎瑞穂、加藤清司、中野 実、提箸延幸
(前橋赤十字病院)W-1-4. 災害拠点病院の役割
中山伸一、松田 均、伊藤嘉智、石井 昇(神戸大学)
―基幹地域災害拠点センターとしてのー大学付属病院の取組み―W-1-5. 災害拠点病院の今後をどう考えるか
(災害拠点病院連絡協議会の意義とその問題を中心に)私的病院の立場からW-1-6. 厚生省の災害医療対策
土居弘幸(厚生省健康政策局)W-2-1. 救急隊が行うトリアージとその問題点
橋本健治、和藤幸弘1)
鳥取県西部広域行政管理組合、1)金沢医科大学W-2-2. トリアージに関する意識調査 ―第一報―
○上野伸一、南 貞光、塩谷 茂、松村昭広、多田 進、酒井一行、多田久司、川端 要、
岡村昌英、吉田秀人、和藤幸弘1)
石川県河北広域消防事務組合 1)金沢医科大学W-2-3. 自衛隊(軍隊)におけるトリアージタグの使用
森田 裕(陸上自衛隊)
災害時には様々な組織が医療支援をすることから統一された基準が重要な意味を持つと思います。標準トリアージタグが統一されたものであるとすれば、その善し悪しはともかく、自衛隊が独自の基準でトリアージし独自のタグを使用すべきではないと考えます。W-2-4. Triageに関する諸問題
杉本勝彦、山口孝治、金田正樹、新藤正揮、山本保博、鵜飼 卓(国際災害医療研究
会)緊急報告: ホンジュラス国際緊急医療援助隊に参加して
新地浩一(陸上自衛隊衛生学校)
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