第4回日本集団災害医療研究会・抄録集
(一般演題E)


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会告プログラム
  抄録集:一般演題A
   〃 :ワークショップシンポジウム

E-26 神奈川県の災害時医療の研修について

○加賀雅恵(神奈川県衛生部医療整備課災害時医療対策室)


 神奈川県では、災害時の医療救護体制の整備を図るため、災害医療拠点病院の整備、関係機関との連携協力や情報連絡体制の確立、医療救護訓練の実施など様々な対策に取り組んでいます。

 この対策の一つとして、平成9年度から医療従事者を対象にトリアージや災害時に特有な症例等の対応について、知識や医療技術の取得及び向上を目的として「災害時医療救護活動研修会」を開催しています。

 研修は、災害医療の概要やトリアージの概念について講議形式で実施していますが、このような研修会が他では実施されていないことや災害医療への関心の高さなどから、受講希望者も大変多く期待した成果があがっています。平成10年度は、こうした基礎研修に加え、新たに実技形式で模擬患者を使ったトリアージの専門研修を、災害拠点病院の医師・看護職員を対象に実施しています。

 これまで基礎研修には約1200名が、また専門研修には県内28箇所、全ての災害拠点病院から67名参加しております。

 今回は、この研修会の内容と成果について、御報告させていただきます。


E-27 災害拠点病院における事務職院の役割

○古橋幹也、別府 勇(横須賀共済病院)


【目的】災害時において不明確になりがちな事務職員の役割を検証し、その重要性再認識と必要最低限の人員把握を行う。

【方法】災害救護訓練において事務職員に物品調達要員・負傷者受入時の受付要員・トリアージチーム要員等の役割を与え、各役割について問題点の洗い出しを行った。

【結果】災害医療が日常の救急医療の延長線上にあると捉えていたため、日常ではあり得ない状況下で受付において患者の流れが滞ってしまうという問題が生じ、受付後もトリアージタッグの使用方法・記入方法に関する混乱が見られた。また物品調達については、外傷治療用物品の調達が十分ではなく、治療に支 障を来たすような場面も見受けられた。さらに動線管理能力の不足から非常参集した職員が災害対策本部前に殺到し、業務の再配分および参集者の把握が不十分であった。

【考察】病院事務職員の役割は、災害時医療の支援にあると考える。まや役割分担については日常業務を基本として分担し、臨機応変な対応をとることが望まれる。さらに大局的視点から状況を分析し、状況に 応じた適切な方向決定をするというコーディネーターとしての役割を担うことも要求され る。つまり事務職員の役割とは病院の状況に応じた方向付けと収容負傷者の円滑な管理であり、その役割を果たすためには災害時医療および人間工学を十分に理解することが重要であると考えられた。


災害時の病院内情報管理体制の一考察

○沼田恭一、山口孝治、松岡幹雄、小橋幹也(横須賀共済病院)


[目的]
 当院で行われた災害救護訓練における情報伝達手段について検証し、より良いシステムの確立を目指すことを目的とした。

[方法]
 情報伝達手段(文書伝達、有線系、無線系)について、訓練時の評価や反省会などから、 迅速性、正確性、保存性、共有性などの評価項目について比較検討した。

[結果]
 文書伝達は、事前に作成した伝令用紙に記入することにより正確であったが、災害初動期では迅速性に欠け、より多くの人的資源を必要とした。
 有線系では、日常から使い慣れているため便利であるが、集中することによる混乱が起きた。また停電時や建物の倒壊があった場合は使用不可能になると予想された。
 無線系では、迅速性と共有性に優れるが、保存性に劣る。特定小電力無線機は、近距離の連絡には便利であるが、建物内や離れた病棟などでは交信不能であった。アマチュア無線は、交信範囲が広く各部署間の交信が傍受でき、全体像を把握するのに有効であったが、実災害での初動期からの運用が可能か疑問視された。

[考察]
 各情報伝達手段には、各々一長一短があり、単独では万能な方法は見出せなかった。しかし、いくつかの手段を準備しておき、時期や状況によって組み合わせや使い分けることが最善である。特に、停電・建物の倒壊を考えた場合、無線系を中心とした通信手段を取り入れることが必要であると考えられた。


E-29 防災マニュアルの検証を目的とした防災訓練について

○高元信二郎、甲斐達朗 長谷川富美雄 野田光男
(大坂府立千里救命救急センター)


 災害拠点病院である当センターの防災マニュアルを整備するなかで設定した、集団災害 発生時における多数傷病者受入のための計画が実際に機能するかどうかを検証するため 防災訓練を行ったので報告する。

 訓練は、センター所在地区内で列車脱線衝突事故があり、多数の傷病者が発生し、その うち重症者10名を当センターで受け入れることと設定した。模擬患者には、予め設定した、主訴、バイタルサイン、治療、検査、転帰を記載した用紙をいれたゼッケンを装着 させた。また計画に基づき、診療の指揮を執るコマンダー(医師)と転院調整の任務をもつコーディネイター(医師)を配置した。

医療スタッフは、患者ゼッケンの用紙に基づき資器材を準備し、指示された場所で治療 を行うとともに、検査伝票の発行を行い、患者をX線室、CT室、手術室などの指定場所 へ移動させた。これらの行動を客観的に観察することで、マンパワー、資器財の充足状況 や、計画された多数患者治療場所の有効性、転院作業等について評価を試み、以下の 結果を得た。

  1. 現有の資器材、医薬品は充足していた。
  2. 多数患者を治療するためのゾーン設定、院内情報伝達手段、転院作業について更に 工夫が必要である。
  3. 限られたマンパワーを最大限に引き出すため、非常時における日常業務の見直しや 意識革命が重要である。


E-30 野外で使用できる足踏み式人工呼吸器の工夫

○福家伸夫、世良田和幸1)、前田 岳1)
○帝京大学医学部付属市原病院、1)昭和大学医学部付属藤が丘病院


 原因が何であれ、危機的な急性呼吸不全に対する気管内挿管、人工呼吸は治療法として確立している。しかし集団災害のように急激に大量の医療需要が発生する現場では、乏しい医療資源をどう活用するかが大きな問題である。

 高圧ガスで駆動する人工呼吸器にはガス(酸素)ボンベが必要である。バッテリ駆動式ではバッテリ容量が機器の限界となる。かといって用手的人工呼吸では片手あるいは両手が換気に忙殺され、他の業務に障害となる。そこで我々はアンビュバッグを改変して、足踏みで人工呼吸ができる換気バッグを試作した。これを供覧する。

 本バッグは空気だけでも換気できるアンビュバッグの特性がそのまま生きているため、酸素が無ければ空気で、あれば酸素濃度を高めながら換気することが可能である。特別な部品は何もなく、ただスポーツ用品店でアウトドア用の足踏み式空気ポンプを購入し、院内にもある蛇管、コネクタで接続した。費用はおよそ2000円である。

 もともとのアイデアは亜酸化窒素(笑気)のない発展途上国での麻酔時に、純酸素換気を避けるために考案されたものなので、コネクタを変えれば麻酔器にも接続でき、麻酔時の人工呼吸にも使用できる。大気中の酸素は20%なので、酸素を付加する時は、換気量がAl/分なら、希望する酸素濃度をF(%)として、(F―20)/100×Al/分が計算上の酸素流量である。