研究内容
研究室の特色
公衆衛生学は非常に広範な内容を含む学問領域ですが、名古屋大学の国際保健医療学・公衆衛生学研究室では、その中でも糖尿病や循環器疾患などの生活習慣病の予防に関連した研究を中心に実施しています。また国際保健領域の研究として、低中所得国の健康課題に着目した調査や研究も行っています。なお、国際保健医療学は公衆衛生学の一分野であり、特に国や地域間にみられる健康水準や保健医療サービスの格差に着目し、その原因の解明と格差是正に向けた取り組みを開発するための学問です。
(参考:国際保健医療学で何を教えるのか)
これらの研究、特に生活習慣病の発症要因を探索するための疫学研究を、博士課程の大学院生、修士課程公衆衛生コースの大学院生、研究生、基礎医学セミナーで配属の学生らが、教員、研究補助員らとともに行っています。大学院生のバックグラウンドは様々です。博士課程には、医師、看護師、栄養士の資格さらに公衆衛生修士などの修士号を有する者が、修士課程には医師、歯科医師、保健師、看護師、薬剤師、臨床検査技師の資格を有する者などが在籍しています。また、留学生も在籍しています。
修了者(学位取得者)は様々な分野で活躍しています。主たる進路としては、大学教員、研究機関(国公立研究所等)の研究者、行政医師・保健所長、厚生労働省医系技官、製薬企業、医療機関などです。
研究の過程で身につく基盤的な知識・技術には疫学・生物統計学の基礎、統計ソフトを用いての運用能力、疫学研究・臨床研究を批判的に読み解く力、文献検索の力、そしてコホート研究の運営の経験などです。世界最高水準の教育研究を行う指定国立大学法人の大学としての研究基盤を活かした研究活動、修了者の豊富なネットワークを活かした活動を将来にわたって実施できることも貴重な財産となります。
医学部卒業生の多くは臨床医としてキャリアを進みますが、本研究室で身につける基盤的な知識や技術は医師が臨床研究を行ったり、日常臨床において論文を科学的に吟味するのに大変有用です。動物や試験管を使った研究は大学や研究所でないと実施することが難しいと思いますが、臨床研究は場所を選ばず、その実践のために必要な力(正しい方法論)を本研究室では身につけることができるはずです。
生活習慣病の疫学研究
生活習慣病とは栄養、身体活動、喫煙、飲酒、休養などの生活習慣が関連して発症や進展する疾患の総称です。生活習慣病の予防のための知見、つまり原因を突き止めるのが疫学研究です。原因の候補を見つけて、その結果(未来の発症)を追跡調査によって調べるという、気の長い研究を行っています。
しかし、生活習慣病に関する研究は既に数多く実施され、原因となる要因の多くが明らかになっています。そして、薬剤を用いるなど予防方法に関する進歩も著しいです。ただ、生活習慣はどんどん変化していますし、治療法も同じように変化するので、新しい状況のなかで、どういう要因が関係しているか、という研究は常に必要になります。生活習慣の変化の例としては加熱式タバコやコロナ禍後の新しい生活様式などがありますが、これらと病気の関連性は調べてみないとはっきりしたことは言えません。
生活習慣病は以前成人病と言われていましたが、中年期だけが対象ではなく、小児から高齢者まですべての世代を対象にしています。さらに、妊娠中の胎内の影響や、それよりもさらに前の妊娠前の母親の状態が生活習慣病に関連があることもわかってきています。また、人口が高齢化しており、より長寿になっていますので、高齢社会における生活習慣病の予防や管理方法も現代的な課題として重要です。また、低中所得国も生活習慣病が中心の疾病構造に変化しています。一方で、慢性に経過する生活習慣病を医療によって管理するには十分でない状況の国が多いのが実情です。SDGsの達成に向け、国際社会における生活習慣病予防の研究や活動も益々求められるようになっています。
具体的な研究内容
国際保健医療学・公衆衛生学分野のミッションとして「国内外のパブリックヘルスの課題について科学的に調査・分析し、人々の健康を守る仕組み作りに貢献すること」を掲げています。教室員は、このミッションの具体化をすべく研究成果の迅速な公表と広報を常に心がけています。
①コホート研究による循環器疾患や肥満などの発生要因の疫学的解析
国内多施設共同研究
- - JPHC研究
- - JPHC-NEXT研究
- - 厚労省科学研究費によるエビデンス班
- - JACC研究
- - JALS研究
国際多施設共同研究
- - CKD-PC
- - エジプトミニア大学・大阪大学とのWork-family conflictに関する国際共同研究
- - 肥満・糖尿病・循環器疾患に関する国際共同研究
②地域における生活習慣病に関する研究
③海外: 低中所得国におけるNCDリスク因子の疫学と予防対策
④日本:地域包括ケアの仕組みとそれを支える人材の育成
実施中の研究に関する情報公開
- - 人を対象とする医学系研究に関する情報公開について(倫理委員会)
- - ヒトゲノム・遺伝子解析研究 1914, 2081
- - 疫学研究 886、1270、1274、1289、1291、1980
- - 臨床観察研究 2026、2063、2092
活動実績
フィールド調査
公衆衛生活動
厚生労働省や地方自治体、JICA等の国際機関と連携し様々な活動をしています。
また一般を対象とした啓発活動等にも取り組んでいます。
- - 日本学術会議生活習慣病対策分科会
- - 岩倉市健幸づくり推進委員会
- - 愛知県国民健康保険団体連合会 保健事業支援・評価委員会
- - 国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会
- - 愛知県地域健康課題分析評価事業検討会