コーエン症候群
(Cohen Syndrome)

[Synonyms: HIGM1, Hyper-IgM Syndrome 1, X-Linked Hyper-IgM Immunodeficiency, XHIM]

GeneReviews著者: Heng Wang, MD, PhD, Marni J Falk, MD, Christine Wensel, MS, and Elias I Traboulsi, MD, MEd.
日本語訳者:西村直人(防衛医科大学校病院 小児科)、 黒澤健司(神奈川県立こども医療センター 遺伝科)

GeneReviews最終更新日: 2016.7.21 日本語訳最終更新日: 2021.4.6

原文 Cohen Syndrome


要約

疾患の特徴 

コーエン症候群は、乳児期および小児期の発育不全、10歳代での体幹の肥満、早期発症の筋緊張低下および発達遅滞、生後1年内に発症する小頭症、中等症から最重度の精神運動発達遅滞、進行性の網脈絡膜ジストロフィーおよび高度の近視、反復感染を有する多くの患者では好中球減少症、一部の患者ではアフタ性潰瘍、陽気な性格、関節過動、および特徴的な顔貌が特徴である。

診断・検査 

コーエン症候群の診断は臨床所見に基づいて行われるが、コンセンサスのある診断基準は存在しない。臨床的特徴が決定的でない場合は、分子遺伝学的検査でVPS13B遺伝子(COH1遺伝子としても知られている)の両アレルの病原性変異を同定することで、確定診断となる。

臨床的マネジメント 

症状の治療
屈折異常の眼鏡矯正、視覚障害のロービジョントレーニング、心理社会的支援。早期介入および理学療法、作業療法、言語療法は、発達遅滞、筋緊張低下、関節の過伸展、および不器用さに対応するのに役立つ。反復感染の治療は標準的な治療法に準じる;好中球減少症の治療には、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の使用を考慮すべきである。

サーベイランス:
年に一度の眼科的および血液学的評価;成長および体重増加をモニターする。

回避すべき薬剤・環境:
好中球数を減少させる可能性のある薬剤については注意が必要である。

遺伝カウンセリング 

コーエン症候群は、常染色体劣性遺伝性疾患である。罹患者の同胞は、罹患する確率が25%、無症状の保因者である確率が50%、非罹患で保因者でもない確率が25%である。コーエン症候群患者の子供は、絶対的ヘテロ接合体(保因者)である。罹患した家族内に病原性変異が同定されている場合、リスクのある家族の保因者検査や、リスクのある妊娠に対する出生前検査を検討することがある。


診断

示唆的な所見

以下の所見を有する患者ではコーエン症候群を疑うべきである[Chandler et al 2003a, Falk et al 2004, Kolehmainen et al 2004, Seifert et al 2006, El Chehadeh-Djebbar et al 2013]:

診断の確定

コーエン症候群は、発端者で以下の8つの主要な特徴のうち少なくとも6つの特徴が認められたとき[Kolehmainen et al 2004]、および/または分子遺伝学的検査でVPS13B遺伝子(COH1遺伝子)の両アレルの病原性変異が同定された場合に、確定する(表1参照)。
主要な特徴

分子検査のアプローチには、以下のようなものがある。

マルチ遺伝子パネルの概要については、ここをクリックする。遺伝子検査を依頼する臨床医のためのより詳細な情報は、ここを参照のこと。

表 1. コーエン症候群に用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 検査方法 その方法により検出可能な病的変異を有する発端者の割合
VPS13BCOH1 病原性変異の標的解析

  • c.8459T>Cまた9258_9259insT
  • c.3348_3349delCT
オールドオーダー・アーミッシュで>99%2
フィンランドにおける変異アレルの75%3
シークエンス解析4 ~70%5
標的遺伝子の欠失/重複解析6 ~30%7
  1. 染色体座位とタンパク質については、表A.遺伝子とデータベースを参照。この遺伝子で検出されたアレル変異の情報については、分子遺伝学を参照。
  2. H Weng, personal observation
  3. Kolehmainen et al [2003]
  4. シークエンス解析は、良性変異、良性の可能性が高い変異、意義不明な変異、病原性の可能性がある変異、病原性変異を検出する。病原性変異には、小さな遺伝子内欠失/挿入とミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライス部位の変異が含まれる場合がある。典型的には、エクソンまたは全遺伝子の欠失/重複は検出されない。シークエンス解析結果の解釈で考慮すべき問題については、ここをクリック。
  5. ホモ接合体または複合ヘテロ接合体の病原性変異は、コーエン症候群患者の約70%で同定されている[Balikova et al 2009, Seifert et al 2009, El Chehadeh-Djebbar et al 2011]。
  6. ゲノムDNAのコード化領域および隣接するイントロン領域のシークエンス解析では検出できないエクソンまたは全遺伝子の欠失/重複を同定する検査;用いられる方法には、定量PCR、long range PCR、MLPA法、およびこの遺伝子/染色体セグメントを含むマイクロアレイ染色体検査(CMA)がある。
  7. El Chehadeh-Djebbar et al [2011]

臨床的特徴

臨床像

これまでに報告された200人以上の患者のうち、コーエン症候群の表現型は様々であり、進行性の網脈絡膜ジストロフィーや近視、後天性の小頭症、発達遅滞、筋緊張低下、関節弛緩、特徴的な顔貌、体幹の肥満、陽気な性格、好中球減少症を含む。
注:ここに提示されている統計には、約50%の患者がオールドオーダー・アーミッシュであるナショナルコーエン症候群データベース(NCSD)からもあるが、コーエン症候群の診断は、大多数の患者が分子遺伝学的検査によって確定されている。

眼科

コーエン症候群の患者が、初めて眼科を受診し、最初の眼鏡を処方されるのは、平均して4.5歳である。暗順応の欠陥/夜盲症は、典型的には7歳以降に認められた。しかし、コーエン症候群の若年者を対象とした研究では、網膜異常所見およびERGの変化がかなり早い時期に存在することが示されている[Kivitie-Kallio et al 2000, Chandler et al 2002]。この研究はさらに、2つの顕著な眼科所見である近視および網膜ジストロフィーが、時間の経過とともに重症度が著しく進行し、多くの患者が標的黄斑症を発症することを示している。
一部の患者で発症する進行性の近視と晩期の水晶体亜脱臼は、進行性の毛様小体の弛緩と球状水晶体の結果である。高齢者では、水晶体亜脱臼および/または小球状水晶体のために、虹彩の震え(虹彩振盪)を発症することがある。
NCSDの70%以上の患者は、頻繁に転倒したり、容易につまずいたりするが、これは網膜変性に伴う周辺視野狭窄が原因である可能性が高い。コーエン症候群のイタリア系9家族10人のうち、90%が網膜ジストロフィーを有し、80%が高度近視であった[Katzaki et al 2007]。

ギリシャ人コホートでは、20%の患者が失明した[Douzgou & Petersen 2011, Douzgou et al 2011]が、著者の知る限りでは、他の民族集団では完全失明への進行は報告されていない。
他に報告されている眼科的特徴としては、乱視、斜視、小角膜、小眼球、緩慢な瞳孔反応、虹彩萎縮および楕円瞳孔、白内障、視神経萎縮、標的黄斑症、網膜または眼瞼のコロボーマ、先天性眼瞼下垂、および眼球突出がある[Taban et al 2007]。角膜の変化および早期発症の白内障は、ギリシャ系の患者では頻繁に認められるが、他の民族集団では認められない[Douzgou & Petersen 2011, Douzgou et al 2011]。少数の患者が網膜剥離を発症している[E Traboulsi, personal observation]。

小頭症

小頭症は、生後1年目に発症し、成人期まで続く。NCSDにデータを提供した母親の80%が、出生時の頭のサイズが小さいと報告していたが、実際には出生時の平均頭囲(35cm)は50%タイルであった。それ以前の研究でもまた、出生時の頭囲は正常と報告されている[Kivitie-Kallio & Norio 2001, Chandler et al 2003a, Hennies et al 2004]。

発達

コーエン症候群のすべての子ども達は、生後1年目に発達マイルストーンが遅れている。NCSDの患者分析は、コーエン症候群の他のコホートと比較して、特定の発達マイルストーンについて一貫性のある知見を示した(表2)[Kivitie-Kallio & Norio 2001, Chandler et al 2003a, Nye et al 2005]。全体的に、コーエン症候群の子どもたちは、平均よりもゆっくりと発達マイルストーンを獲得し(表2)、一度獲得された精神運動能力は後退しない。NCSDの患者のうち1人を除いて全員が介助なしで歩行が可能であるが、少なくとも20%は口頭でのコミュニケーションができない。発達遅滞の程度は、同胞間でも大きな差がある[Horn et al 2000]。

表 2. コーエン症候群の発達マイルストーン獲得時期

発達マイルストーン マイルストーンの獲得年齢
フィンランドのコホート1 英国のコホート2 NCSD(米国)のコホート3
寝返り 4~12か月 7か月
座位の保持 10~18か月 12か月 11か月
独歩 2~5年 2.5年 2.5年
発語の出現 1~5年 2.5年 3.2年
文章で話す 5~6年 5年 4.2年
  1. Kivitie-Kallio & Norio [2001]
  2. Chandler et al [2003a]
  3. Nye et al [2005]

特徴的な顔貌

異なった民族集団において、特徴的な顔貌が記述されている。特徴としては、筋緊張の低下した顔貌、太い毛髪、毛髪線低位、弓状で波状のまぶた、長くて太い睫毛、太い眉毛、突出した鼻根部、高くて狭い口蓋、浅いまたは短い人中、突出した上顎正中切歯が挙げられる;後者の2つを合わせると、開口した風貌となる。ギリシャのあるコホートでは、前頭鼻角の欠如と短い人中のために、鼻が「長すぎる」ように見えた[Bugiani et al 2008]。Hornら [2000]とFalkら [2004]もまた、特定の民族集団内では罹患者の間では非常に一貫しているが、顔面の形態は民族集団間では一貫性がないことを見出している。しかし、コーエン症候群の報告が異なる臨床医によって評価されていることを考慮すると、異なる民族的背景を持つ患者に共通する特徴的な顔貌は、非常に印象的である。実際、NCSDのかなりの数の親が子供の顔貌を指摘し、コーエン症候群の診断につながる最初の手がかりとして臨床医と検討している。
14人の患者の系統的な身体測定および頭蓋計測解析では、小頭症、短い人中、突出した上顎切歯、および突出した上顎が確認された[Hurmerinta et al 2002]。血縁関係の3家族から6人のコーエン症候群の長期評価では、臨床的特徴は経時的に一定となることが示された[Peeters et al 2008]。

内分泌と肥満

コーエン症候群の子どもは、乳幼児期や幼児期には発育不全を示す傾向があるが、その後は10歳代で明らかに太りすぎになる。NCSDでは80%以上の患者が、幼児期に低体重であることが報告されていたが、その後は過体重となった。自然に体幹肥満になる傾向がある。肥満発症の平均年齢は、11.3歳(アーミッシュ系では14.6歳、非アーミッシュ系では8.4歳)である。著者らは、この変化は通常、4〜6ヶ月の期間で10〜15kgの体重増加が見られ、非常に急速に進むことを指摘している。Prader-Willi症候群とは対照的に、この期間中は食欲と食事摂取量は増加せず、活動性は目立って低下しない。
NCSDの患者では、低身長の有病率は約65%、思春期遅延は74%である;臨床的内分泌学的評価では、これらの所見の説明は明らかにされなかった。3家族からの6人の成人罹患者の身長は、3%タイル以下であり、BMIは20.1~30.8であった[Peeters et al 2008]。5歳から52歳までの9家族10人の罹患者を対象とした研究では、7人に低身長、8人に体幹の肥満が認められた;BMIは21.8~32.2であった[Katzaki et al 2007]。フィンランド系のコホートにおける下垂体、副腎、および甲状腺機能の広範な内分泌学的評価では、有意な異常は認められなかった [Kivitie-Kallio et al 1999a]。
成長ホルモン欠乏症は、臨床的にコーエン症候群と診断された少女で報告されている[Masa et al 1991]が、遺伝学的に確認されたコーエン症候群の患者で見られる表現型とはおおきく異なっていた。成長ホルモン欠乏症を有するコーエン症候群の他の3人の患者は、成長ホルモン補充療法の開始後に成長のキャッチアップを示した[Author, personal observation]。コーエン症候群の成長ホルモン欠乏症の有病率は不明である。

心理学的行動

コーエン症候群は、"明るくて親しみやすい性格"とされている。
認知能力は様々であるが、大多数の患者は中等度から重度の知的障害の範囲にある[Kivitie-Kallio et al 1999b, Chandler et al 2003b, Karpf et al 2004]。自立度は一般的に低いが、社会的スキルは比較的障害が少ない;実際、社交性はコーエン症候群に特徴的である。対照的に、これまでの研究で行われた心理学的評価では、一部の患者において不適応行動や自閉症型の行動が確認されている[Kivitie-Kallio et al 1999b, Chandler et al 2003b, Karpf et al 2004]。詳細な心理学的・行動学的分析では、6人の成人罹患者において重度の行動問題は確認されなかったが、個々の知的・視覚障害の程度に関連した機能障害が確認された[Peeters et al 2008]。

血液学的所見

絶対的好中球数(ANC)が1,500/mm3未満と定義される好中球減少症は、軽度から中等度で、非周期性で、通常は致命的ではない [Kivitie-Kallio et al 1997; Author, unpublished data]。しかしながら、反復感染およびアフタ性潰瘍が罹患者において報告されている[Falk et al 2004](後述の免疫学およびリウマチ学的所見を参照のこと)。ANCは通常、すべての年齢層で500~1,200/mm3の範囲にある[Author, unpublished data]。さらに、正常下限の好中球数は、明らかな好中球減少症ではない患者において一般的である。しかし、好中球減少症は必ずしも全体的な白血球数の低下をもたらすとは限らないため、患者によっては長年にわたって見過ごされることがある。
罹患者の65%以上が口腔粘膜潰瘍や歯肉感染を繰り返し経験しており、これらの患者にはG-CSF療法が一般的に用いられている。好中球減少症の病因は不明のままである。フィンランドのグループで行われた骨髄の研究では、正常細胞性または多細胞性の骨髄が認められ、約半数の患者で顆粒球形成に左方偏位していた。血液学的悪性腫瘍は報告されていない。

免疫学およびリウマチ学的所見

好中球減少症はコーエン症候群の一部の患者における免疫機能の低下に寄与する可能性があるが、それが機能障害の唯一の原因であるかどうかは明らかではない。NCSDの小児の80%以上が中耳炎を1年に5回以上経験しており、そのほとんどが幼児期に鼓膜切開チューブを挿入していた。また、大多数の子どもたちは、生涯平均2.5回の肺炎を経験していた。
コーエン症候群患者における感染の頻度および重症度は、ANCとの相関性は低いようである;頻繁に感染がある患者のANCは、感染が増加していない患者と同じ範囲(500-1,200/mm3)である。好中球接着能の増加がコーエン症候群の患者で報告されている[Olivieri et al 1998]。

その他の免疫障害が観察されている:De Ravelら[2002]は、コーエン症候群の患者で関節リウマチを発見し、罹患者では頻繁なぶどう膜炎と再発性心膜炎が認められている[H Wang、personal observation]。

筋骨格系

コーエン症候群の患者は、特徴的な小さい手足、および先細りした指を有し、これはしばしば長いと誤って報告されてきた。中手指節パターンの手のX線検査で示されるように、指は実際には短い[Kivitie-Kallio et al 1999a]。
神経学的所見

てんかん発作はコーエン症候群の少数の患者で報告されている[Coppola et al 2003, Atabek et al 2004]。事例として、抗けいれん薬を必要とするてんかんを有するNCSDコホートの2人の患者は、コーエン症候群スペクトラムのより重度な表現型を有しており、口頭でのコミュニケーションができないことが特徴である。しかし、ほとんどの患者、特にフィンランドのコホートにおける5歳以上では、興奮性の棘波やてんかん病巣を伴わない低振幅な脳波が報告されている[Kivitie-Kallio et al 1999b]。

コーエン症候群患者18人のMRIでは、26人の対照群と比較して、正常な灰白質および白質の信号強度が認められる。比較的肥大した脳梁が認められるが[Kivitie-Kallio et al 1998]、この所見は微妙であり非特異的である。
筋電図は正常と報告されている[Kivitie-Kallio et al 1999b]。

循環器系

心血管系は、コーエン症候群の患者では一般的には影響を受けない。アシュケナージ系ユダヤ人の祖先を持つコーエン症候群に似た患者における僧帽弁逸脱の報告[Sack & Friedman 1980](鑑別診断を参照)は、別の症候群を言及している可能性がある。フィンランド系の22人の患者の心臓評価では、加齢に伴う左室機能の低下が認められたが、臨床的に有意な僧帽弁逸脱の証拠は認められなかった[Kivitie-Kallio et al 1999a]。心エコーを受けたNCSDの約20人のうち、僧帽弁逸脱を呈した者はいなかった。

その他

コーエン症候群の乳児の大多数(アーミッシュ系の祖先の95%、非アーミッシュ系の65%)は、異常に甲高くて弱い鳴き声を発する。NCSDでは、親の80%は、子猫の鳴き声に似ていると記憶している。しかし、この特異な鳴き声は臨床医に見落とされることが多く、医学的な文献には報告されていない。cri-du-chat症候群で見られる「鳴き声」の原因とされる喉頭異常は、コーエン症候群の一部の患者にも認められているが、コーエン症候群におけるこの特異的な鳴き声の原因は未だ不明である[Chandler et al 2003a]。

遺伝子型-表現型の相関

遺伝子型と表現型の相関は確認されていない。

命名法

Cohenら[1973]は、1組の同胞と、無関係な1人の患者で観察された異常(知的障害、筋緊張低下、肥満、高い鼻梁、および突出した中切歯)を記述した。

Norioら[1984]は、同じ疾患を持つフィンランド系の6人の患者を観察したが、彼らは姓から「ペッパー症候群」として知られていた。彼らは、2組の両親の間に血縁関係があり(この疾患は、常染色体劣性遺伝であることを確認)、間欠的な顆粒球減少症、および視力低下、夜盲症、視野の狭窄、標的黄斑症と色素沈着を伴う網膜脈絡ジストロフィー、視神経萎縮、および等電位な網膜電位図を含む顕著な眼科的変化を同定した。

有病率

Cohenら[1973]による最初の記述以来、約200人の患者が文献で報告されている。この疾患は、ほとんどすべての大陸で確認されており、さまざまな民族集団で確認されている [Falk et al 2004, Hennies et al 2004, Kolehmainen et al 2004, Mochida et al 2004, Kondo et al 2005, Katzaki et al 2007, Taban et al 2007, Bugiani et al 2008, Peeters et al 2008, Balikova et al 2009]。
コーエン症候群が、他の疾患より過小診断されがちな疾患の1つであることは疑いの余地がない。Rauchら[2006]による研究では、原因不明の発達遅滞または知的障害を有する1070人のうち、コーエン症候群は約0.7%を占め、脆弱X症候群(1.2%)に次いで5番目に多い診断であることが示された。臨床エクソームシークエンスを受けた2000人の未診断者を対象とした最近の研究では、研究期間中に分子診断を受けた504人のうち、2人のコーエン症候群の患者が同定された[Yang et al 2014]。
コーエン症候群はフィンランドの人口に多く存在しており[Kolehmainenetal2003]、フィンランドでは現在までに35人以上の患者が診断されている。フィンランドの表現型はフィンランド系以外の患者に見られる表現型に類似する[Chandler et al2003a]。
コーエン症候群は、アーミッシュの集団で多く存在している。2004年にオハイオ州ジアーガ・オールドオーダー・アーミッシュの入植地でコーエン症候群が最初に報告されて以来[Falk et al 2004]、約15,000人の血縁関係が深く、孤立したこの集団で、30人以上の罹患者が確認されている。これは500人に1人の有病率を示し、創始者効果の証拠を示している。

遺伝的に関連する(アレル)疾患

GeneReviewに記載されている以外の表現型で、VPS13B遺伝子の病原性変異と関連していることは知られていない。


鑑別診断

特に生後1年目に、表現型がコーエン症候群と重複する疾患がいくつかある。コーエン症候群の患者は、しばしば、以下のような疾患が疑われる。


臨床的マネジメント

初期診断後の評価

コーエン症候群と診断された患者の疾患の程度とニーズを確立するために、以下の評価が推奨される。

症状に対する治療

眼科的な問題は、NCSDに登録されているコーエン症候群患者の家族にとって、最も懸念される問題の1つである。管理には以下のものがある。

早期介入、理学療法、作業療法、言語療法は、全般的な発達の遅れ、筋緊張低下、関節過可動、不器用さに対処するのに適している。

好中球減少症が記録されている場合は、G-CSFの使用を検討してもよい。Kivitie-Kallioら[1997]が報告した研究では、アドレナリン刺激に対する反応は14人中12人、ヒドロコルチゾンに対する反応は16人中8人でそれぞれ正常以下であった。しかし、この研究で3人の患者に投与された組換えG-CSFは、3人全員に顆粒球増多症を引き起こした。
反復感染症は標準治療に準じて治療する必要がある。

サーベイランス

年1回の眼科的評価では、視力、屈折異常、高齢患者の白内障、および/または網膜ジストロフィーを実施すべきである。
年1回の血液学的評価には、好中球減少症を評価するための全血球数および鑑別検査を含めるべきである。ANCが低い患者や感染症の頻度が高い患者では、より頻繁な監視が必要となる場合がある。
成長と体重増加を監視する必要がある。

避けるべき薬剤・状況

好中球数を減少させる可能性のある薬剤については注意が必要である。

リスクのある血縁者の評価

遺伝カウンセリングの目的でリスクのある血縁者を検査することに関する問題については、遺伝カウンセリングを参照。

研究中の治療法

広い範囲の疾患と健康状態に対する臨床研究情報にアクセスするためには、米国のClinicalTrials.govおよび欧州のEU Clinical Trials Registerを検索のこと。注釈:この疾患における臨床試験はないかもしれない。

その他

事例的な報告だが、コーエン症候群の網膜ジストロフィーに網膜の血管漏出状態における視力の改善として、標準的なフランス海岸樹皮抽出物であるピクノジェノールが有効な治療法とは証明されていない[Schönlau & Rohdewald 2001, Spadea & Balestrazzi 2001]。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

コーエン症候群は常染色体劣性遺伝形式である。

家族構成員のリスク

発端者の両親

発端者の同胞 

発端者の子

他の家族

発端者の両親の各同胞が、VPS13B遺伝子の病原性変異を有する保因者であるリスクは50%である。

保因者の検出

リスクのある親族に対する保因者の検査では、家族内のVPS13B遺伝子の病原性変異を事前に同定する必要がある。

遺伝カウンセリングに関連した問題

家族計画

DNAバンキングは、(通常は白血球から抽出された)DNAを将来の使用のために保存しておくものである。検査の手法や遺伝子、アレル変異および疾患に対する我々の理解が将来進歩するかも知れないので、罹患者のDNAの保存は考慮すべきである。

出生前検査および着床前診断

罹患した家族の中にVPS13B遺伝子の病原性変異が同定されると、リスクのある妊娠のための出生前検査と着床前診断を検討することがある。


資源

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここクリック。

コーエン症候群協会は、早期診断と医療介入を確実にするため、親や専門家を教育する目的に、この疾患への意識を高めるように親達で設立された。
Email: info@cohen-syndrome.org
www.cohensyndrome.org

PO Box 1693
Brighton MI 48116
Phone: 877-326-7117
Email: kate@neutropenianet.org
www.neutropenianet.org

971 Corydon Avenue
P.O. Box 243
Winnipeg Manitoba R3M 3SR
Canada
Phone: 204-489-8454; 800-663-8876 (within Canada and U.S.)
Email: stevensl@neutropenia.ca
www.neutropenia.ca

黄斑変性症や類似の網膜疾患に対処する人々のための無料の情報と個人的な支援
3600 Blue Ridge Boulevard
Grandview MO 64030
Phone: 816-761-7080
Email: director@mdsupport.org
www.mdsupport.org

Phone: 800-232-4636 (toll-free)
Email: cdcinfo@cdc.gov
Facts About Intellectual Disability

Dr. Gerhard Kindle
University Medical Center Freiburg Centre of Chronic Immunodeficiency
Engesserstr. 4
79106 Freiburg
Germany
Phone: 49-761-270-34450
Email: esid-registry@uniklinik-freiburg.de
ESID Registry

St. Vincent’s Hospital, Department of Medicine
Fitzroy Victoria 3065
Australia
Phone: 61-3-9231-2574
Email: ffirkin@bigpond.net.au

Carl-Neuberg-Str., 30625
Hannover
Germany
Phone: 49-511-546-0918
Fax: 49-511-557-106
Email: zeidler.cornelia@mh-hannover.de
Severe Chronic Neutropenia International Registry Hannover

1107 Northeast 45th Street
Suite 345
Seattle WA 98105
Phone: 206-543-9749; 800-726-4463 (within U.S.)
Fax: 206-543-3668
Email: bolyard@uw.edu
Severe Chronic Neutropenia International Registry Seattle


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A. コーエン症候群の遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体座位 タンパク質 HGMD ClinVar
VPS13B 8q22.2 Vacuolar protein sorting-associated protein 13B VPS13B VPS13B

データは、以下の標準的な参考文献を編集したものである:HGNCの遺伝子;OMIMの染色体座位、UniProtによるタンパク質。リンク先のデータベース (Locus Specific, HGMD, ClinVar) の説明は、 ここをクリック。

表B. OMIMに登録されているコーエン症候群(OMIMで全てを参照のこと)

216550 COHEN SYNDROME; COH1
607817 VACUOLAR PROTEIN SORTING 13 HOMOLOG B; VPS13B

遺伝子の構造

最も長いVPS13B遺伝子の転写物(NM_017890.4; 14,100 bp)は広く発現しており、約864 kbのゲノム領域にまたがる62のエクソンから転写されている[Kolehmainen et al 2003]。VPS13B遺伝子は、4つの選択的エクソンを含む66のエクソンを有する;翻訳開始のコドンは、エクソン2に位置する[Velayos- Baeza et al 2004]。VPS13B遺伝子は、4つの異なる終止コドンの使用、3つの付随するインフレーム、選択的スプライシング形態につながる可能性のある選択的スプライシングの複雑なパターンを有する[Kolehmainen et al 2003](正常な遺伝子産物および表Aの遺伝子を参照のこと)。

良性変異

臨床的に罹患者ではいくつかのミスセンス変異が報告されているが、機能的アッセイが存在しないことから、これらはまれな良性変異である可能性が残されている。実際、VPS13B遺伝子のコーディング領域で検出された多数のサイレントおよびミスセンスなアミノ酸変化(報告された114のVPS13B遺伝子のシークエンス変異のうち18)は、コーエン症候群の表現型を引き起こさない[Kolehmainen et al 2004, Seifert et al 2009]。

病原性変異

フィンランドとオールドオーダー・アーミッシュの集団では、高頻度な創始者の病原性変異が同定されている。

フィンランド系ではない、アーミッシュ系ではない祖先を持つコーエン症候群患者においては、主要な変異のホットスポットを示す証拠はない[Hennies et al 2004]。

アレル異質性が高いことは現在、広範な民族および地理的に分散した集団において記述されており、VPS13B遺伝子全体で100以上の新規病原性変異(主に、早期終止コドン、または遺伝子内欠失または重複をもたらすナンセンスまたはフレームシフト変異によって引き起こされるヌルアレル遺伝子)がその後同定されている[Hennies et al 2004, Kolehmainen et al 2004, Mochida et al 2004, Seifert et al 2006]。

VPS13遺伝子のエクソンのスプライシングまたは欠失/重複の変化もまた、病原性アレルを引き起こす[Kolehmainen et al 2004, Balikova et al 2009, Parri et al 2010]。複数の異なる研究から蓄積されたデータを分析したEl Chehadeh-Djebbarら[2011]は、欠失および重複を含むコピー数変異がコーエン症候群の家族の33%で検出される可能性があると結論づけた。

VPS13B遺伝子における欠失は、短い相同配列、接合部での小さな欠失や挿入、および欠失のサイズや影響を受ける領域の罹患者間での多様性による非相同性末端接合(NHEJ)に起因するものと推定されている[Balikova et al 2009]。VPS13B遺伝子では、平均的な常染色体配列と比較して、LINE、SINE、およびDNAリピート要素の頻度が高く、欠失のブレークポイントは、主にイントロン16と21の間の配列を中心とした散在反復配列で発見されている[Balikova et al 2009<]。
完全なC末端VPS13ドメインを有する完全長スプライスフォーム(NM_017890.4、エクソン1-62)は、正常な発生に不可欠であり、欠失すると典型的なコーエン症候群を発症させる[Kolehmainen et al 2004]。

表3. VPS13BCOH1)遺伝子の病原性変異

DNA塩基の変化(別名)1/th> 予測されるタンパク質の変化 参照配列
c.3348_3349delCT p.Cys1117PhefsTer8 NM_017890.4
NP_060360.3
c.8459T>C p.Ile2820Thr
c.9259dupT
(9258_9259insT)
p.Leu3087PhefsTer20

表に記載されている変異は、著者によって提供されたものである。GeneReviewsのスタッフは、変異の分類を独自には検証していない。
GeneReviewsは、Human Genome Variation Society (varnomen​.hgvs.org) の標準的な命名規則に従っている。命名法についての説明は Quick Reference を参照のこと。

  1. 最新の命名規則に適合しないバリアントの呼称

正常な遺伝子産物

VPS13B遺伝子は、複雑なドメイン構造を有する4,022個のアミノ酸の膜貫通型タンパク質であるVacuolar protein sorting-associated protein 13B(VPS13B)をコードしている[Kolehmainen et al 2003]。出芽酵母のVPS13タンパク質との相同性は、細胞内小胞を媒介とした選別やタンパク質輸送におけるVPS13Bの役割を示唆している[Kolehmainen et al 2003]。VPS13Bの複合ドメイン構造は、10個の予測される膜貫通ドメイン、液胞型標的モチーフ、C末端の小胞体保持シグナル、および1つはN末端付近、もう1つはC末端付近である、2つのペルオキシソームマトリックスタンパク質標的シグナル-2(PTS2)コンセンサス配列を含む[Kolehmainen et al 2003]。

様々なVPS13Bアイソフォームは、細胞内で異なる機能を持っている可能性がある。Velayos-Baezaら[2004]は、いくつかの選択的スプライシング変異を記述しており、そのうちの少なくとも2つの転写物は主要な形態である。エクソン28bを含む完全長VPS13B転写物は、現在、ヒトおよびマウスの両方において、主要な一様に発現する転写物であるようだが、ヒトの脳および網膜はエクソン28の異なるスプライシングを示す(NM_017890.3)[Seifert et al 2009]。診断的検査にはエクソン28bを含めるべきである。

VPS13Bの広範な発現は、ヒト組織のノザンブロット分析で認められ、異なる転写物の発現に差がある。約2.0kbと5.0kbの転写物は、胎児の脳、肺、肝臓、腎臓、および解析されたすべての成人組織で発現している。約12〜14kbの転写物が、成人の前立腺、精巣、卵巣および結腸で発現している。成人の脳組織での発現は非常に低い[Kolehmainen et al 2003]。一方、脳でのマウスのオルソログ(Coh1)の発現解析では、出生後の脳神経細胞で広範な発現を示したが、胚性脳では低いレベルでしか発現しなかったことから、VPS13Bは神経細胞の増殖よりも神経細胞の分化に重要な役割を果たしている可能性が示唆されている[Mochida et al2004]。発現パターンは、Velayos-Baezaら[2004]によって、いくつかの転写変異間で組織特異的な違いを持つ広範なものであることが発見された。

Seifertら[2011]は、VPS13Bが末梢性のゴルジ体膜タンパク質であり、シスゴルジのタンパク質であるGM130と強く共存し、ゴルジ体の完全性に不可欠な役割を果たしていることを明らかにした。さらに、VPS13Bタンパク質はゴルジ体複合体のスモールGTPase RAB6と物理的・機能的に相互作用することが示され、早期ニューロンでVPS13Bを破壊させると、ニューロンの成長がネガティブに阻害されることが示された[Seifert et al2015]。

ゴルジ体複合体は、新しく合成されたタンパク質のグリコシル化が生じる場所であるため、VPS13B欠損はグリコシル化欠損を引き起こす可能性がある。実際、Duplombら[2014]は、コーエン症候群の患者における血清タンパク質のグリコシル化に異常なパターンを示した。これは、トランスフェリンおよびα1-ATプロファイル(2つの肝由来タンパク質)は正常であったが、アガラクトシル化フコシル化構造およびアシル化フコシル化構造の有意な蓄積を特徴としていた。細胞間接着分子1およびLAMP-2(2つの高度に糖化された細胞タンパク質)もまた、コーエン症候群からの末梢血単核細胞でSDS-PAGEにおいて遊走プロファイルに変化が見られた。これらの新たな知見は、コーエン症候群の発症メカニズムを解明する上で重要な要素となる可能性がある。

異常な遺伝子産物

これまでに検出されたVPS13B遺伝子の病原性変異の大部分は、変異のホットスポットは同定されていないが、ナンセンス変異または欠失変異で早期終止シグナルをもたらすことになる[Seifert et al 2009]。コーエン症候群患者における変異アレルの大部分はヌル(ナンセンスまたはフレームシフト)であるため、タンパク質の早期切断またはmRNA不安定性の影響をもたらすと予測される。変異したVPS13B転写物によってコードされるタンパク質が発現されるか、または分解されるかは不明である。早期タンパク質切断またはmRNA不安定性がコーエン症候群の臨床症状にもたらすメカニズムは、現在のところ解明されていない。


更新履歴:

  1. GeneReviews著者: Heng Wang, MD, PhD, Marni J Falk, MD, Christine Wensel, MS, and Elias I Traboulsi, MD, MEd.
    日本語訳者:西村直人(防衛医科大学校病院 小児科)、 黒澤健司(神奈川県立こども医療センター 遺伝科)GeneReviews最終更新日: 2016.7.21 日本語訳最終更新日: 2021.4.6[ in present]

原文 Cohen Syndrome

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