GRJ top > 遺伝子疾患情報リスト

grjbar

アンジェルマン症候群
(Angelman Syndrome)

Gene Review著者: Aditi I Dagli, MD,Charles A Williams, MD
日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),石川亜貴(札幌医科大学医学部遺伝医学)    
Gene Review 最終更新日: 2011.6.16.日本語訳最終更新日: 2014.3.7.

原文 Angelman Syndrome


要約

疾患の特徴 

アンジェルマン症候群(AS)は,重度の運動発達遅滞 や精神遅滞 ,重度の言語 障害,失調性歩行や四肢の振戦 ,独特の行動(頻繁に声を立てて笑ったり,微笑んだり,興奮しやすいといった,場にそぐわない愉快なふるまい)を特徴とする.小頭症や痙攣発作も多い.発育遅滞 を初めて認めるのは生後6か月 頃であるが,アンジェルマン症候群に特有の臨床的徴候は1歳すぎるまで顕在化せず,正確な臨床診断に至るまでに数年を要することもある.

診断・検査 

アンジェルマン症候群の診断は,臨床的な特徴と分子遺伝学的検査や細胞遺伝学的検査を組み合わせて行われる.アンジェルマン症候群の臨床診断基準が作成されている.15番染色体の15q11.2-q13領域に対する片親特異的DNAメチル化試験により,アンジェルマン症候群患者の約78%に欠失,片親性ダイソミー(UPD),刷り込み変異が検出される.細胞遺伝学的検査 で染色体の再構成(すなわち転座や逆位)を認める患者は1%未満である.UBE3A遺伝子の配列解析によって,さらに約11%の患者に変異が見つかる.従って,分子遺伝学的検査(メチル化試験とUBE3A遺伝子の配列解析)によって,患者の約90%に異常を特定できる.典型的なアンジェルマン症候群の表現型を呈する残りの10%の患者については,現時点では遺伝学的機序が不明であるため,診断検査を行うことができない.

臨床的マネジメント 

症状の治療哺乳困難,便秘,胃食道逆流,斜視の定期的治療.発作に対する抗てんかん薬.理学療法,作業療法,言語療法.言語療法では,コミュニケーション能力を改善させる補助具 (イラストカードやコミュニケーションボードなど)や身ぶりなど,非言語的なコミュニケーション方法に重点が置かれる.学校では個人に合わせた 対応が必要である.夜間覚醒には鎮静薬を用いる.側弯症に対しては,胸郭-腰椎装具を用いたり,外科的処置を行う.

続発性合併症の予防:痙攣を起こす患児では,異常行動が発作と間違えられやすく,また発作がコントロールされていても脳波異常が存在するため,投薬過多の危険がある.フェノチアジンのような鎮静剤やその他の神経遮断薬により,有害な副作用が生じやすい.

経過観察:側弯症に対する年1回の臨床検査.年長児に対しては,食欲過剰による肥満が生じていないかを評価する.

回避すべき薬剤・環境:カルバマゼピン,ビガバトリン,チアガビンといった薬剤は,発作を悪化させる可能性がある.

遺伝カウンセリング 

アンジェルマン症候群は,15q11.2-q13(アンジェルマン症候群[AS]/プラダー・ウィリー症候群[PWS])領域にある母由来のインプリンティングに異常が生じることによって発症する.発端者の同胞のリスクは,UBE3A遺伝子に機能喪失を生じさせる遺伝学的機序によって異なる.一般に,発端者が欠失や片親性ダイソミーの場合,同胞のリスクは1%未満であるが,発端者が刷り込み変異やUBE3A遺伝子変異をもつ場合,同胞のリスクは50%に上る.刷り込み変異やUBE3A遺伝子変異が存在する場合,母親の血縁者にはごく近親者に限らず,広くリスクがある.細胞遺伝学的に認識できる染色体再構成は遺伝性であることが多いが,新生突然変異の場合もある.遺伝学的発症機序が欠失,片親性ダイソミー,刷り込み変異,UBE3A遺伝子変異,もしくは染色体再構成である場合には,出生前診断が可能である.

 


診断

臨床診断

国のアンジェルマン症候群財団の科学勧告委員会との合同作業で,アンジェルマン症候群の臨床診断基準が策定された[Williams et al 2006;全文はこちらをクリック].最近発表された幾つかのレビューが入手可能である[Van Buggenhout & Fryns 2009, Chamberlain & Lalande 2010, Williams et al 2010a].

新生児の表現型は正常である場合がほとんどである.発育遅延を初めて認めるのは生後6か月 頃である.しかし,アンジェルマン症候群特有の臨床徴候は1歳すぎるまで顕在化せず,正確な臨床診断に至るまでに数年を要することもある.

患者に多くみられる典型所見

患者の80%以上にみられる所見.

80%未満の患者にみられる所見

顔貌 所見については,図1の写真を参照のこと.

fig1

検査

細胞遺伝学的検査

分子遺伝学的検査

GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.

遺伝子 アンジェルマン症候群の基本的な特徴は,母由来のUBE3A遺伝子アレルの発現や機能に生じた異常によるものである.

臨床検査

表1.アンジェルマン症候群に対するDNAメチル化試験後に実施される分子遺伝学的検査

親特異的DNAメチル化刷り込み       遺伝子座/遺伝子/染色体 検査方法 検出変異 検査方法ごとの変異検出率1 検査の利用
異常 AS/PWS領域 欠失・重複解析(FISH法や染色体マイクロアレイ解析など) 15q11.2-q13の5~7Mbの欠失 68%未満 臨床
15番染色体 片親性ダイソミー試験 片親性ダイソミー 7%未満
アンジェルマン症候群のインプリンティングセンター 欠失解析2,3 6~200kbの欠失 3%未満
正常 UBE3A遺伝子 配列解析 配列変異4 11%未満
欠失・重複解析2,5 部分的・全体的な遺伝子欠失
  1. 臨床的にアンジェルマン症候群の診断が予想される患者の11%では,表1に掲げられたすべての検査結果が正常となる.
  2. ゲノムDNAのコード領域や隣接イントロン領域の配列解析で容易に検出できない欠失・重複を同定する際には,定量PCR法,ロングレンジPCR法,MLPA法,当該遺伝子や染色体部位の染色体マイクロアレイ解析など,さまざまな方法が用いられる.変異検出の程度は,検査方法や検査機関によって異なる.
  3. アンジェルマン症候群のインプリンティングセンター(IC)の欠失解析により,刷り込み変異の10~20%を占める微小欠失が検出される.
  4. 配列解析で検出される変異には,遺伝子内の微小欠失/挿入,ミスセンス変異,ナンセンス変異,スプライス部位変異などがある.
  5. 通常,染色体マイクロアレイ解析により大きな15q11.2-13欠失が検出されるが,稀に染色体マイクロアレイ解析によってUBE3A遺伝子の複数エクソンに及ぶ欠失や,遺伝子全体の欠失が検出されることもある[Lawson-Yuen et al 2006, Sato et al 2007].

検査結果の解釈

配列解析の検査結果の解釈については,こちらを参照

アンジェルマン症候群と臨床診断された患者の11%でアンジェルマン症候群の原因となる遺伝子異常が検出できない理由として,以下が考えられる.

検査手順

発端者の確定診断を目的とする検査

遺伝カウンセリングのため,アンジェルマン症候群の分子学的機序を確認することを目的とする検査

出生前診断と着床前診断(PGD)リスクの高い妊娠の出生前診断と着床前診断(PGD)を行う際には,家系内の発病機序を事前に同定しておかなければならない.

注:初期胚や胎盤組織のメチル化の程度が比較的低いことから,出生前診断や着床前診断を目的とする絨毛生検でのDNAメチル化試験には問題が多い.

遺伝的に関連のある疾患

プラダー・ウィリー症候群(PWS)は,父由来の15q11.2-q13領域の欠失によって生じる.年長児ではプラダー・ウィリー症候群とアンジェルマン症候群の違いは臨床的に明らかであるが,2歳未満では幾つかの臨床的共通点がある(哺乳困難,筋緊張低下,発育遅延など).
母由来の染色体上の15q11.2-q13領域内の重複は,アンジェルマン症候群ともプラダー・ウィリー症候群とも異なる臨床像を呈する.15q11.2-q13重複では特徴的な顔貌の所見 は現れないが,軽度から中重度の学習障害が生じ,自閉症スペクトラムに該当する行動を呈することがある[Boyar et al 2001].


臨床像

自然経過

多くの場合,周産期歴,胎児発達,出生時体重,頭囲は正常である.アンジェルマン症候群の乳児には,(吸啜 がうまくできないため)哺乳困難が生じたり,筋緊張低下が現れやすい.胃食道逆流が起こることもある.
乳児の中には,過剰な高笑いや,笑いの発作という幸福な情動が現れる者もいる.患児の50%が生後12ヶ月までに小頭症となる.斜視も生じやすい.生後12ヶ月も経たないうちから振戦様運動が生じることもあり,深部腱反射亢進を伴う場合も多い.
初めにアンジェルマン症候群が疑われる時期は,全般的な運動発達遅延,筋緊張低下,言葉の遅れを契機とする幼児期であることが多い[Williams et al 2006].
発作が生じるのは1~3歳の間が多く,全般的にやや特徴的な脳波変化を伴う.アンジェルマン症候群に特徴的な脳波とは,一連の間欠的な棘徐波を伴う高振幅のデルタ波(時に楔形の⊿形として観察されることもある),広範に出現する周期的なシータ波,後頭部の1/3に出現する小さな棘波を伴う複合波を形成する周期的な5-6 Hz/秒の鋭いシータ波である.これらは通常,閉眼時や閉眼により誘発される[Boyd et al 1997, Rubin et al 1997,Korff et al 2005].
痙攣発作の形態は極めてさまざまで,大きな運動発作や小さな運動発作(小発作や脱力発作など)も含まれる[Galvan-Manso et al 2005, Pelc et al 2008a, Thibert et al 2009, Fiumara et al 2010].点頭てんかんはめったに生じない.非痙攣性てんかん重積状態が生じることもある[Pelc et al 2008a].脳MRIに軽度の萎縮や軽度の髄鞘形成異常を認めることもあるが,構造的な病変はみられない[Harting et al 2009, Castro-Gago et al 2010].
平均的なアンジェルマン症候群の患児は,2歳半から6歳までに歩行を開始するが[Lossie et al 2001],開始当時の歩行は痙攣様のロボットのようなぎこちない足取りで,前腕を挙上して屈曲し,回内する.また,過運動性の動作,過度の笑い,突出した舌,よだれ,会話喪失,社会関係模索行動(social-seeking behavior)も認める.患児の10%が歩行不能である.
アンジェルマン症候群患者の睡眠障害はよく知られているが,頻繁な夜間覚醒も一般的な症状である[Bruni et al 2004, Didden et al 2004].睡眠異常(入眠困難と睡眠維持困難),不規則な睡眠覚醒リズム,一定期間持続する笑いなどの夜間の破壊的行動,睡眠関連発作などが報告されている[Pelc et al 2008b].
基本的に,アンジェルマン症候群の小児には,ほぼ全員に多少の多動がみられ,性差はないようである.乳幼児は絶え間なく自分の手や玩具を絶えず口に入れたり,物から物へと動き回っているように見える.幾つかの行動から自閉症スペクトラム障害が疑われることもあるが,社会との関わりは概ね良好であり,おもちゃをずらりと並べたり,くるくる回る物やぴかぴか光る物にうっとりするなどの常同行動はめったに起こらない[Walz 2007].
言語障害は重度である.1,2単語ですら,つじつまの合うように用いることは稀である.大抵の場合,表出性言語能力よりも受容性言語能力が高い[Gentile et al 2010].アンジェルマン症候群の年長児や成人のほとんどは,指をさしたり身ぶりで,あるいはコミュニケーションボードを使って意思疎通する.身ぶり言語を効果的に流暢に使えるわけではない[Clayton-Smith 1993].
アンジェルマン症候群では,多くの場合,思春期の開始や二次性徴は正常である.生殖能は正常のようであり,男女双方にとって生殖は可能であると考えられる.Lossie & Driscoll [1999]は,アンジェルマン症候群患者である母親から胎児へのアンジェルマン症候群関連の欠失が遺伝した事例を報告した.
若年成人は,発作の可能性があることを除けば,身体的に健康である.便秘は一般的である.多くの患者が胃食道逆流症状の治療を受ける.脊柱側弯症は,年齢が進むにつれて増加する.
アンジェルマン症候群の成人が独立した生活を営むことは不可能であり,患者の多くは自宅か自宅に似た施設で生活している.

寿命に関するデータは入手不能であるが,寿命はほぼ正常であるように思われる.

遺伝子型と臨床型の関連

アンジェルマン症候群のすべての遺伝学的発症機序により,重度から最重度の精神遅滞 ,運動障害 ,特徴的な行動,会話と言語の重度障害といった,ある程度均一な 臨床像が現れる.しかし,遺伝子型と関連した臨床症状の違いもある[Smith et al 1997, Fridman et al 2000, Lossie et al 2001, Varela et al 2004].こうした相関関係を,以下におおまかにまとめた.

浸透率 

UBE3A遺伝子やインプリンティングセンターの欠失は父由来の変異を受け継ぎ 無症状となる 刷り込みパターン(もしくは遺伝形式)に従う. (表3参照).

頻度 

アンジェルマン症候群の頻度は12,000~20,000人中1人である[Clayton-Smith & Pembrey 1992, Steffenburg et al 1996].


鑑別診断

本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.

アンジェルマン症候群の乳児には非特異的な精神運動遅滞や痙攣発作を認めることが多いため,鑑別診断は脳性麻痺,非進行性脳症,ミトコンドリア脳筋症なども含め,広範囲かつ非特異的に検討される.アンジェルマン症候群の乳児には,振戦や痙攣様の四肢の運動を認めることが多く,これが上述の疾患とアンジェルマン症候群との鑑別に役立つことがある.
鑑別診断では,アンジェルマン症候群に類似する以下の疾患を検討しなければならない.

臨床医への注:本疾患の個別の患者に対する「simultaneous consult」については,を参照.SimulConsult(R)は患者の所見を基に鑑別診断を提供する双方向型診断決定補助ソフトトである(登録または施設からのアクセスが必要).


臨床的マネジメント

初回診断後の評価

アンジェルマン症候群と診断された患者の疾患の程度を確定する際には,神経学的評価と予防的診療にに重点を置き 以下の評価 を行うとよい.

症状に対する治療

新生児の哺乳障害には,脱力や哺乳時の協調運動障害のため,特殊な乳首などの対策が必要となることがある.
胃食道逆流により体重増加が不良となったり,嘔吐が生じやすくなる.慣習的な治療方法(直立姿勢を保つことや,蠕動運動促進剤の使用など)が有効な場合がほとんどであるが,時に噴門形成術が必要となることもある.

アンジェルマン症候群患者の痙攣発作には,これまで多種類の抗てんかん薬が使用されてきたが,特に優れた薬剤はない.大運動発作に用いられる薬剤(ジフェニルヒダントイン,フェノバルビタールなど)よりも,小運動発作に用いられる薬剤(バルプロ酸,クロナゼパム,トピラマート,ラモトリギン,エトスクシミドなど)が処方されることが多い[Nolt et al 2003].カルバマゼピンは禁忌ではないが,他の一般的な抗痙攣剤 と比べると,使用頻度は低い.単剤投与が望ましいが,薬物治療を受けていても発作は起きることが多い.アンジェルマン症候群の患者のなかには,少数ではあるが,痙攣発作があまり生じない患者もおり,このような患者には抗痙攣剤 は投与されない.痙攣発作がコントロール困難な 患者に対して ,ケトン食が有効な場合がある .

多動は行動療法に抵抗性である場合がほとんどであり,家族が適応することと,安全な環境を整える ことが重要である.
アンジェルマン症候群の患児の大多数は,多動に対して薬物療法を受けていないが,メチルフェニデート(リタリン®)などの精神刺激剤の服用が奏効する場合もある. 社会破壊的行動や自傷行為といった望ましくない行動に対しては,行動修正が有効である.
あらゆる教育的訓練や修養プログラムを提供すべきである.
不安定歩行を呈する小児や,歩行不能の小児には理学療法が奏功する.作業療法は,巧緻運動の改善や口に物をもってゆく動作の制御に有効である.とりわけ, 失調の強い 小児に対しては,補正椅子や固定装置が必要になる.
言語療法はきわめて重要であり,非言語的なコミュニケーション手段に重点を置くこと.なるべく早い段階で,イラストカードやコミュニケーションボードなど,コミュニケーション能力を高める補助具を用いること.小児が十分に注意を向けられるようになったら,すぐに身ぶりによるコミュニケーションの訓練を開始するとよい.

学校での教育に際しては,個人に応じた柔軟な対応が重要である.

教室での調和がとれるように,補助教員や助手など特別な身の回りの配慮が必要な場合もある.過度に多動傾向の強いアンジェルマン症候群の患児には,教室の一角に専用のスペースが必要である.

多くの家族は,夜間覚醒に対応するために,安全だが隔離された寝室を用意している.抱水クロラールやジフェニルヒダントイン(ベナドリル®)のような鎮静剤が有効な場合もある.睡眠の1時間前に0.3 mgのメラトニンを服用させると有効な場合もあるが,深夜に小児が起きた 場合には, 服用させてはならない.

斜視には,外科的修正が必要な場合もある.

便秘には,高食物繊維や潤滑薬などの定期的な緩下薬の使用が必要となることが多い.

整形外科的な問題,特に足首の亜脱臼や回内,アキレス腱の延長は,装具や手術によって治療する.
側弯症に胸郭 ‐腰椎装具が必要な場合もある.重症例では,ロッドにより脊柱を 安定化させる 外科的矯正 が有効である こともある.

二次的合併症の予防

アンジェルマン症候群の患児では,運動異常が発作と間違われやすく,痙攣発作がコントロール されている場合でも,脳波異常が持続しやすいため,薬剤の過量投与のリスクがある.

有害な副作用が生じるため,フェノチアジンなどの鎮静薬やその他の神経遮断薬は勧められない.
高齢になると,運動量が少なくなり不活発になる.側弯症や肥満を進行させないために,活動的なスケジュールを組むよう努めるとよい.

経過観察

以下が推奨される.

回避すべき薬物や環境

カルバマゼピンは禁忌ではないが,他の一般的な抗痙攣薬と比べると使用頻度は低い.

アンジェルマン症候群では,ビガバトリンやチアガビン(脳内 GABA値を上昇させる抗痙攣薬)は禁忌である.しかし,理由は不明であるが,カルバマゼピン,ビガバトリン,チアガビンには他のタイプの発作や非痙攣性てんかん重積状態を誘発する可能性がある.このような逆説的な発作の発症は,アンジェルマン症候群の患者に限ったものではない[Pelc et al 2008a].

リスクのある親族への検査

遺伝カウンセリング目的で行われるリスクの高い血縁者の検査に関した問題は,「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと.

研究中の治療法

DNAメチル化経路を促進し,中枢神経系での父由来のUBE3A遺伝子アレル発現を増加させることを目的とした葉酸,ビタミンB12,クレアチン,ベタインの経口投与に関する臨床研究が行われたが,初回試験では,有意な臨床的効果が実証でされなかった[Peters et al 2010].このほかの情報については,こちらをクリック.

さまざまな疾患に対する臨床試験の情報にアクセスするためには,ClinicalTrials.govを検索のこと.

その他

舌を過剰に突き出すことで,よだれが増加する.外科的治療や薬剤治療(唾液管の再移植やスコポラミン貼付薬の局所投与など)は,あまり効果がないことが多い.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

アンジェルマン症候群は,以下の1つが原因で発症する.

血縁者のリスク

発端者の両親

発端者の同胞

アンジェルマン症候群患者の同胞のリスクは,発端者のアンジェルマン症候群の遺伝学的発症機序によって異なる(表2を参照).

表2.遺伝学的発症機序ごとのアンジェルマン症候群の発端者の同胞のリスク

分子クラス1 家系 遺伝学的発症機序 同胞のリスク
Ia 65~75% 5~7Mbの欠失 1%未満
Ib 1%未満 不均衡型染色体転座あるいは遺伝性の遺伝子内小欠失 50%程度と推定
IIa 3~7% 父由来の片親性ダイソミー 1%未満
IIb 1%未満 発病原因となる転座を父親から受け継いだ父性片親性ダイソミー 父親に15;15のロバートソン型転座を認める場合は100%
IIIa 0.5% インプリンティングセンターの欠失を伴う刷り込み変異 母親にもインプリンティングセンターの欠失がある場合は50%程度
IIIb 2.5% インプリンティングセンターの欠失がない刷り込み変異 1%未満
IV 11% UBE3A遺伝子変異 母親にも変異がある場合には50%程度
V 10~15% 「その他」-分子学的な異常が確認されていない場合 リスクは未確認
  1. .Jiang et al [1999]の用語に基づく
Ia.欠失を有する患者の母親は,染色体再構成の有無を確かめる染色体検査やFISH法による検査を受けること.発端者に新生突然変異として大きな 欠失が生じている場合,同胞 のリスクは1%未満である.これらの大きな 欠失の生殖細胞系列モザイクが1件報告されている[Kokkonen & Leisti 2000].

Ib.発端者に染色体再構成や遺伝子の小さな 欠失が確認された場合には,同胞やその他の血縁者のリスクは,この再構成が遺伝性であるか新生突然変異であるかによって異なる[Horsthemke et al 1996, Stalker & Williams 1998].

IIa.アンジェルマン症候群の発症原因が父性片親性ダイソミーである家系と,発端者にロバートソン型の染色体転座が確認されていない家系では,同胞がアンジェルマン症候群を発症するリスクは1%未満である.この発症リスクは,染色体が正常な片親性ダイソミーによるアンジェルマン症候群患者ではこれまで再発例がないこと,他の疾患の片親性ダイソミーに関する知見,片親性ダイソミーの機序に基づく理論的考察から算出されている.しかし,再発率はゼロではなく,母由来の15番染色体で減数分裂の不分離が観察されている[Harpey et al 1998].

アンジェルマン症候群の発症原因が父性片親性ダイソミーで,核型が正常な場合,発症原因がロバートソン型転座もしくはマーカー 染色体であるという稀な可能性(例えば,15番染色体が一対失われている 母由来の配偶子が形成され ,接合後に 父性片親性ダイソミーへ「修正」された場合など)を除外するため,母親の染色体分析を行うこと.

IIb.片親性ダイソミーの患者に対しては,家系内の再発率を増大させる可能性のある父由来のロバートソン型転座がないことを確認するため,染色体分析を行うこと.

IIIa.インプリンティングセンターに欠失をもつ患者の母親の表現型は正常であるが,母親自身にもインプリンティングセンターの欠失を認める場合がある.こうしたことが起きるのは, 刷り込みメカニズムを制御する15q11.2-q13領域に一致するインプリンティングセンターの欠失が,母親自身の父由来の15番染色体上に偶発的に変異が生じた場合, ,もしくは母親自身の父親からインプリンティングセンターの欠失を受け継いだ場合である[Buiting et al 2001].さらに,こうした母親のなかにはインプリンティングセンターの欠失に生殖細胞系列モザイクを有する者もいる.このため,インプリンティングセンターの欠失を持つ発端者の母親の末梢血の検査結果が正常な場合,遺伝カウンセリングは難しくなる.発端者の母親に既知のインプリンティングセンターの欠失があるとき,同胞のリスクは50%である.

IIIb.インプリンティングセンターの欠失を伴わない刷り込み変異(インプリンティングセンターの再構成が原因の1症例を除く;Buiting et al [2001]を参照)では,全症例でアンジェルマン症候群の家族歴が報告されていないため,発症原因は母親の卵形成中に起きた15q11.2-q13の刷り込み過程での新生突然変異であると考えられる[Buiting et al 1998].したがって,このような家系での発端者の同胞のリスクは1%未満である.

IV.UBE3A遺伝子変異は,両親から受け継ぐ場合もあれば,新生突然変異の場合もある.また,UBE3A遺伝子変異のモザイク症例も数件報告されている[Malzac et al 1998].発端者の母親がUBE3遺伝子変異をもつ場合,同胞のリスクは50%である.

V.この分子クラスでは,アンジェルマン症候群の臨床症状はみられるが,遺伝学的発症機序は確定していない.

発端者の子.

アンジェルマン症候群患者の生殖の報告は,現時点では1例のみである[Lossie & Driscoll 1999].子の再発率 は,正式な遺伝カウンセリングで判断すべきである.

他の発端者の血縁者.

発端者の母親にUBE3A遺伝子変異,インプリンティングセンターの欠失,あるいは染色体の再構成を(片親性ダイソミーやロバートソン型転座症例では発端者の父親に)認める場合,保因者である片親の同胞にも遺伝カウンセリングを勧め,選択できる遺伝子検査について説明すべきである.

遺伝カウンセリングに関連した問題

家族計画 

DNAバンキングDNAバンキングは,将来の使用のために,通常は白血球から調製 したDNAを保存 しておくことである.検査手法や,遺伝子,変異,疾患への理解は将来改善する可能性があり,患者のDNAを保存 しておくことは考慮されるべきである.このサービスを行っている機関についてはDNA bankingの項を参照のこと.

出生前診断

高リスク

アンジェルマン症候群を発症させる15q11.2-q13領域の既知の分子遺伝学的変化(すなわち,分子クラスIa,Ib,IIa,IIb,IIIa,IIIb,IV;表2を参照)はすべて,(通常,妊娠10~12週頃に行われる)絨毛生検や,(通常,妊娠15~18週頃に行われる)羊水穿刺で採取した胎児細胞へのDNA解析や染色体/FISH解析で検出することができる[Kubota et al 1996, Glenn et al 2000].
絨毛生検で採取した細胞に対して(5~7Mb欠失,片親性ダイソミー,インプリンティングセンターの欠失の有無を確認する)DNAメチル化試験を行うことは,理論的には可能であるが,DNAメチル化試験を用いて出生前診断を行っている少数の臨床検査機関では,胎盤由来の細胞のメチル化の程度が比較的低いことから,羊水 細胞を用いて検査を行っている.絨毛生検にFISH法,インプリンティングセンターの欠失解析,UBE3A遺伝子の配列解析を用いることは,技術的には可能と考えられる.
リスクと分子遺伝学的検査の種類は,発端者の分子学的異常が何であるかによって大きく異なることから,発端者の遺伝学的発症機序が判明し,親となる男女がまだ生まれていない子どもへのリスクに対してカウンセリングを行ってから,出生前診断を行うべきである(「分子遺伝学的検査」の項を参照).

着床前診断(PGD)発端者の遺伝学的発病機序がUBE3A遺伝子変異,もしくはインプリンティングセンタ-の欠失であることが確認されている家系では,着床前診断が可能である.(初期胚ではメチル化の程度が比較的低いことから,着床前診断でのDNAメチル化試験には困難な点が多い.)


更新履歴

  1. 日本語訳者: 飯田崇博(信州大学医学部医学科),和田敬仁(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)
    Gene Review 最終更新日: 2005.11.8. 日本語訳最終更新日: 2006.2.20.
  2. Gene Review著者: Charles A Williams, MD, Aditi I Dagli, MD, Daniel J Driscoll, PhD, MD
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),鳴海洋子(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)    
    Gene Review 最終更新日: 2008.9.8. 日本語訳最終更新日: 2009.5.5.
  3. Gene Review著者: Aditi I Dagli, MD,Charles A Williams, MD
    日本語訳者: 窪田美穂(ボランティア翻訳者),石川亜貴(札幌医科大学医学部遺伝医学)    
    Gene Review 最終更新日: 2011.6.16.日本語訳最終更新日: 2014.3.7.(in present)

原文 Angelman Syndrome

刷用

grjbar

GRJ top > 遺伝子疾患情報リスト