痛みと鎮痛の基礎知識 - Pain Relief　ーホスピス

■鎮痛法	│ホスピス│　←→　トータルペイン/がん性疼痛←→WHO方式がん疼痛治療法

　Cecily Saunders↓（P 1917～2005/7/14）が1967年に、St. Christopher's Hospice（ロンドン郊外）を創設した。St. Christopher's Hospiceは、医学的に患者の疼痛を和らげる方法を付け加えた近代的なホスピスである。Saundersは、がん末期患者に対するモルヒネの鎮痛の重要性を提唱し、ホスピス運動を世界に広めた。

ホスピスとは？

「ホスピス hospis」という言葉は、ラテン語のHospitium：「客を厚遇すること」、「暖かいもてなし」に由来している。
ホスピスの原点は、中世の初めヨーロッパ西部キリスト教の教会や修道院が休息や介護を提供したり、巡礼や旅人に水や食物を与えた場所をさしている。そうした旅人が、病や健康上の不調で旅立つことが出来なければ、そのままそこにおいてケアや看病をしたことから、看護収容施設全般をホスピスと呼ぶようになった。（もちろん、ホスピスは建物、施設だけを示す用語ではない。）
教会で看護にあたる聖職者の無私の献身と歓待をhospitality（厚遇、歓待）と呼び、そこから今日の病院を指すhospitalの語ができた。歴史的には、hospitalもhosupisと同様に、病院だけでなく、孤児院、老人ホーム、行き倒れの収容施設なども指した。HotelもHospitiumからは制した用語である。
Saundersは、「不治の病と闘っている患者さんと、その家族に残されている人生の質を高めさせることに関心を持つチームのコミュニティ」と定義ている。
近代的ホスピスの源としては、治療の当てがなく、余命いくばくもない患者の最後の安息に満ちた時間をケア（ターミナルケア）する施設であった。1879年に、Irish Sisters of Charity （アイルランドの愛の修道女会）のMother Mary Aikenheadが、Our Lady's Hospiceを創設した。Sisters of Charity 修道女会は、それまでの修道女会が修道院の中だけで活動していたのに対して、町の中に出て行き、病気や貧困に苦しむ人々のために活動した。特にヨーロッパ全土に広がったコレラの大流行がアイルランドにも広がった時などには、街角や病院の中でも彼女らの姿が見られた。Sisters of Charity 修道女会は、1906年頃ロンドンに、St. Joseph's Hospice（アイルランド人の多い地域）、St. Lukes's Hospice やHospice of Godを設立した。
ホスピスとは、治癒の見込みのない病気に冒された人々がもつ、様々な悩み、死の恐れ、不安、孤独感などを和らげ、最後の瞬間まで人間として尊厳を保ちながら、価値ある人生を生き抜かせるためのケアをする場所である。そこでは、肉体的な苦痛の除去につためるとともに、不安や孤独と戦っている患者に精神的な励ましを与えようとする努力がなされる。それはまた家庭看護計画の中心としても活発に機能していて、看護のための設備や器具の準備が満足すべき状態にあり、しかも家庭外からの特別な看護が一日に数時間なされうるような環境では、この種の病人を家庭で世話するのがより実際的なことを教えている。

Cecily Saunders（P 1917～2005/7/14）

　Cecily Saundersは第2次世界大戦中にナイチンゲール学校とセントトーマス病院で看護教育を受け、ナースとして働いていたが、持病の脊椎障害が悪化して、ナースを続けることができなくなった。オックスフォード大学でメディカルソーシャルワーカーの資格を取得し、病院で患者のために献身的に働いた。セントトーマス病院で、末期がん患者の看護に従事したとき、これらの患者の諸問題を解決するには、医師になる必要があると痛感して、ロンドン医学校に入学し、医者になった（1957年）。St. Joseph's Hospiceでホスピスケアとその心を学び、シスター達の働きに大きく啓発され、終末期患者のケアへ精力を注ぐようになった。ソーシャルワーカーをしていた時（1947年）に、初めて受け持った末期がん患者David Tasma（ユダヤ系のポーランド人、Warsaw ghettoから逃れて、ロンドンに亡命してきた40歳の男性）との間に友情関係が生まれ、自分が思い描いているホスピスの構想を話した。「I’ll be a window in your home.　僕は、君の家の窓になるよ」という言葉と遺産の500ポンドが、ホスピス設立の動機と最初の寄付金となった。 St. Joseph's Hospiceで臨床と研究を重ね、がん末期患者に対するモルヒネ鎮痛方法を研究した。同僚のRobert Twycrossと一緒に、死を前にした最後の数週間、不安な修羅場で痛みに支配されるようになったがん患者に苦痛のない安楽をもたらすため、現代の薬物と昔からのやさしい愛のこもった介護を組み合わせて、1967年に、近代ホスピス第1号のセント・クリストファーズ・ホスピスを設立した。

Saundersは末期患者の苦痛についてモルヒネの積極的使用によるコントロールをすすめた。
　肉体的苦痛の除去は、ホスピス活動の重要な部分を占めていて、痛みを和らげることが大切な仕事の一つとなっている。その当時、医師の間でも、「麻薬は危険であり、苦痛のない安楽は、致死量まで急速に用量を高めてしまう嗜癖の代価を払っても持たらされる」と考えられていたが、Saundersは低用量の麻薬で、患者の思考を清明にしたまま、痛みを我慢できるレベルに下げる用量を注意深く分析した。痛みが激しくなってから処方するよりも、早めに少量ずつ与えて、つらい痛みを予防するほうが効果的だという結果を得た。Royal Brompton Hospitalを含む多くのイギリスの病院で1920年代に使われていたブロンプトンカクテル（：Brompton cocktail モルヒネ、コカイン、クロロホルム水、アルコールとフレーバー付きシロップを含む）の定期的投与を推奨した。
Saundersは精神的痛みを重視するとともに、全人的苦痛として捉ええることの必要性を強調した。
　Saundersは、｢死に直面した人々のケアにおいて、患者の苦痛の全体像に対面したとき、身体的疼痛だけでなく、精神的痛疼痛（Mental pain）、社会的疼痛（Social pain）、スピリチュアルペイン（Spiritual pain）について検討が必要である」と述べた。がん末期患の痛みには、トータルペイン（全人的苦痛）という概念をを考え、それに対する全人的ケアが必要であると説いた。Saundersは、「人がいかに死ぬかということは、残される家族の記憶の中にとどまり続ける。私たちは最後の苦痛の性質とその対処について十分に知る必要がある。最後の数時間に起こったことが、残される家族に心の癒しにも、悲嘆の回復の妨げにもなる。」と述べている。
Saundersは医療のあり方をcure systemからcare systemへ変更する必要を説いた。
　ホスピスケアの方法として、以下の5点を強調した。　1.患者を一人の人間として扱うこと　2.患者の苦しみを和らげること　3.不適切な治療、必要のない検査はしないこと　4.家族のケアもすること　5.チームでケアに当たること。
Saundersは、「人がいかに死ぬかということは、残される家族の記憶の中にとどまり続ける。私たちは最後の苦痛の性質とその対処について十分に知る必要がある。最後の数時間に起こったことが、残される家族に心の癒しにも、悲嘆の回復の妨げにもなる。」と述べている。

終末期ケア Terminal care、ホスピス Hospice care・緩和ケア Palliative careとは

ホスピス・緩和ケアの基本的考え方（「日本ホスピス緩和ケア協会）
　ホスピス・緩和ケアは、治癒不可能な疾患の終末期にある患者及び家族のQOL（Quality of Life：人生の質）の向上のために、様々な専門家が協力して作ったチームにより行なわれるケアを意味する。そのケアは、患者と家族が可能な限り人間らしく快適な生活を送れるように提供される。ケアの要件は、以下の5項目である。

人が生きることを尊重し、誰にも例外なく訪れる「死への過程」に敬意を払う。
死を早めることも死を遅らせることもしない。
痛みやその他の不快な身体症状を緩和する。
精神的・社会的な援助を行い、患者に死が訪れるまで、生きていることに意味を見出せるようなケア（霊的ケア）を行なう。
家族が困難を抱えて、それに対処しようとするとき、患者の療養中から死別したあとまで家族をささえる。

終末期ケア：
　終末期医療を総称する一般的な言葉として使われている。死が間近な人に対する看護・終末期のケアを意味する。
ホスピスケア：
　死を見つめつつ、死に行く人に対して積極的に手を差し伸べ、社会面、心理面、精神面のケアを行なって、肉体的・精神的苦しみを取り除く。

緩和ケア Palliative Care

緩和ケアは死に向かう終末期医療ではなく、QOLの向上を図る医療である。
ホスピスケアとほぼ同義であるが、症状を緩和していくことを前面に押し出している点で、やホスピスとはニュアンスが異なる。
医科点数表では、ホスピスという表現は使用せず、すべて緩和ケアと表現されている。

修学的アプローチで行われる。

1990年

WHOが1990年に発行した「Cancer Pain Relief and Palliative Care」では、がん医療における終末期医療を含む新しいケアの考え方を「緩和ケア」と呼ぶように提言した。この中で「緩和ケアとは、治癒を目指した治療が有効でなくなった患者に対する全人的ケアである。痛みやその他の症状のコントロール、精神的、社会的、そして霊的問題の解決が最も重要な課題となる。緩和ケアの目標は、患者とその家族にとって出来る限り可能な最高のQOLを実現することである。

2002年

WHOが、緩和ケアを次のように定義し直した。

Palliative care is an approach that improves the quality of life of patients and their families facing the problem associated with life-threatening illness, through the prevention and relief of suffering by means of early identification and impeccable assessment and treatment of pain and other problems, physical, psychosocial and spiritual.

「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的疼痛、精神的痛疼痛、社会的疼痛、スピリチュアルペイン（霊的な・魂の）問題に関してきちんとした評価をおこない、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、クオリティー・オブ・ライフ：QOLを改善するためのアプローチである。」

新しい定義では、「疾患の早期から」ホスピス緩和ケアが提供されるべきであると変更されている。

2007年
4月1日

「がん対策基本法」が施工された。

2007年
6月5日

具体的な指針を示した「がん対策推進基本形計画」でも、早期から緩和ケアを導入することの重要性が強調されており、痛みの治療を含めた緩和ケアはがん治療と同時に行うべきであるという考え方が示された。

■集学的治療ペインケア

　←→コンサルテーション・リエゾン精神医療

Multidiscipinary pain care
　学際＝いくつかの異なる学問分野が加わること。「学際的協力」

いくつかの異なる分野の臨床家が痛みの治療を行う。
各専門の間につながりがある必要はない。
その専門分野の中だけで患者を診断し、それに基づいた治療を行う。

Interdiscipinary pain care

いろいろな分野の専門家（医師、看護婦、臨床心理士、理学療養士、職業訓練士、薬剤師）がチームとして患者を診断し、各分野の意見を統合した上でチーム医療の方針を立てて、患者の痛みの治療を行う。

集学的ペインケアの治療目的

痛みの緩和。
機能障害の改善
職業復帰
高度傷害保険や保証金の集結・解決
薬剤使用の正常化
過剰医療利用の削減

「集学的痛みセンター　Multidisciplinary Pain Center：MPC」の定義　＠北原先生のfacebookより
　在籍する臨床スタッフ、提供する患者ケアサービス、治療対象となる痛み疾患、および幅広い教育・研究活動よって他の痛み治療機関と一線を画す。MPCは高等教育機関に属しているか、その関連機関であるべきである。

「Multidisciplinary Pain Centers」＠IASPの定義

University of Washington Multidisciplinary Pain Center: UWMPC

UWMPCはJohn Bonica (1917～1994) によって1960年に基礎付けられ、1963年に独立組織となった世界最初のペインセンターである。
UMWPCの臨床部門は関連5病院8部門に及んでいるが、その中でもっとも特徴的なのは、UW Medical CenterのStructured Programである。
Wilbert Bill Evans Fordyce（P 1923～2009/10/15, アメリカの臨床心理学者）らが、新行動主義と認知心理学を基礎にした「オペラント条件づけ・認知行動療法」を治療の基本方針として、慢性疼痛患者の学際的なチーム医療による治療を始めた。
治療チームのメンバーは、患者自身、患者の近親者（日常生活をともにしているもの）、ペイン専門医、臨床心理士、ナース、理学療養士、理学療法士、作業療法士、職業カウンセラーなど。
治療に当たって最も重要なことは、適切な治療のゴール設定を行うことである。そのために、治療開始前の患者の評価は実に詳細である。ペイン専門医・臨床心理士・ナースが、患者・患者近親者と面接し、おのおのの専門の立場から患者の状態を評価する。評価が一通り終わった段階で、評価を行った各医療専門職が集まってカンファレンスを行い、どのような現実的なゴール設定が可能かを話し合う。

疼痛教室

疼痛教室はいわゆる集団療法の一つである。
慢性疼痛患者における受動的な絶望感の大きい状態から、積極的に痛みを自分で治すという責任をとる立場に患者を転換させるための最初の段階である。
心理学療法の前などに行う。

Pain Relief