マインドフルネスストレス低減法 Mindfulness-based stress reduction:MBSR
- 仏教的な実践であるマインドフルネス(念)を中心とした、認知療法の枠組みに瞑想を統合した技法
- ジョン・カバット・ジン(Jon Kabat-Zinn、1944年6月5日〜)が1971年にマサチューセッツ工科大学の微生物学者でノーベル生理学・医学賞受賞者のサルバドール・エドワード・ルリアの下で、分子生物学の博士号を取得した後、1966年から禅・ヨーガを実践し、1979年にインサイト瞑想センターでのヴィパッサナー瞑想の実践経験をきっかけに、1995年にはマサチューセッツ大学に「医療・健康・社会におけるマインドフルネスセンター」(the Center for Mindfulness in Medicine, Health Care, and Society)を設立し、同大医学部教授となった。
- 瞑想とヨガを運動として組み合わせた彼の世俗的なマインドフル・ヨーガのテクニックは、それ以来世界中に広まった。このコースは、いわゆる「瞬間から瞬間への認識(moment-to-moment awareness)」を使用して、患者がストレス、痛み、および病気に対処するのを支援することを目的としている。
- カバット・ジンは鈴木大拙(1870年〜1966年、日本の仏教学者)の禅に影響を受け、仏教を宗教としてではなく人間の悩みを解決するための精神科学としてとらえ、医療に取り入れた。
- カバット・ジンは、「マインドフルネスとは意図的に、この今という一瞬に、判断を加えず注意を払うことで生まれる気づきを指す。さらに、自己理解と分別に基づいて、と付け加えることもある。(Mindfulness is awareness that arises through paying attention, on purpose, in the present moment, non-judgementally, and then I sometimes add, in the service of self-understanding and wisdom.)」と定義した。
- カバット・ジンは1991年にMBSRを紹介する著書として出版した「Full Catastrophe Living:Using the Wisdom of Your Body and Mind to Face Stress、Pain、and Illness」は、世界的ベストセラーとなった。
「Full Catastrophe Living:Using the Wisdom of Your Body and Mind to Face Stress, Pain and Illness」
完全な大惨事の生活(やっかいごとだらけの人生?):ストレス、痛み、病気に直面するためにあなたの体と心の知恵を使用する
- 日本語版の題名「マインドフルネスストレス低減法」(訳:春木豊, 2007年)
- 「Full Catastrophe Living」の題名はNikos Kazantzakis(1883年〜1957年,ギリシャの小説家)の小説を映画化した「その男ゾルバ(Zorba the Greek)」の中のセリフから引用された。「Alexis Zorba: Am I not a man? And is a man not stupid? I'm a man, so I married. Wife, children, house,everything. The full catastrophe.」
(全く関係ないけれど、「その女、ジルバ」もおもしろかった!)
- カバット・ジンによると:ゾルバの反応は、人生の豊かさと、そのすべてのジレンマ、悲しみ、トラウマ、悲劇、皮肉の必然性に対する最高の感謝を体現している。彼のやり方は、完全な大惨事の強風の中で「踊り」、人生を祝い、人生を祝い、個人的な失敗や敗北に直面しても、それと一緒にそして自分自身で笑うことです。そうすることで、彼は長い間重荷を負わされることはなく、世界または彼自身のかなりの愚かさによって最終的に敗北することは決してありません。
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- 心的過程を「脱中心化」し、とらわれずに、穏やかにただ観察する。起源は仏教にあるが、宗教的問題の解決ではなく、心身の健康に応用した。
脱中心化 decentering
- Jean Piaget(1896年〜1980年、スイスの心理学者)の認知発達段階における前操作期から具体的操作期への移行段階で生じる、自己中心的な思考から脱する過程を脱中心化という。
- マイインドフルネスの技法の練習では、心の中でどのような体験が生じたとしても、判断や評価をすることなく、ただ呼吸に注意を向け続け、呼吸に注意を戻すよう教示する。このような訓練を繰り返すことにより、自分の思考や感情を、心の中で浮かんでは消える一過性の出来事であると捉え、距離を置くことが出来るようになるとされる。これを「脱中心化」と呼んでいる。
- 「思考から距離を置くスキル」や、「思考や感情を、自分自身や現実を直接反映したものとして体験したり、解釈するのではなく、それらを心の中で生じた一時的な出来事としてとらえること
- マインドフルネスの脱中心化では、主観にとらわれず、自己とは離れた現実として客観的にとらえることになり、主体と客体との関係がはっきりと分かれる。その客体を言語化することで明確にとらえることが行われます。自己の知的思考よって主体と客体とを明確に分け、自己が独立して存在していることを強調しているとも言える。
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マインドフルネス瞑想法
- アジアの仏教にルーツをもつ瞑想の一つの形式であるが、宗教的要素を除いてメソッド化した瞑想をベースとするエクササイズ
- マインドフル瞑想は、目覚めているすべての瞬間を意識的に過ごすためのものであり、少し近所に出かけるときにも、お茶を淹れているときにも、食事をするときにも、意識すれば行うことができる。
ボディー・スキャン瞑想 Body scan meditation:BSM ←→ヴィパッサナー瞑想
- ビルマのウ・バ・キン(Sayagyi U Ba Khin, 1899年〜1971年)の伝統における“sweeping”という瞑想実践に由来し、ミャンマー出身サティア・ナラヤン・ゴエンカ(Satya Narayan Goenka, 1924年〜2013年)が1976年に始めたヴィパッサナー瞑想のリトリートで教授した。ボディスキャンはその後、宗教的文脈や文化的文脈から独立した非宗教的な道具立てで広く採用されるようになった。
- 自分が集中している体の一部が感じている本当の感覚を感じとり、その場所に、あるいはその中に自分の意識をとどめようとする方法
- マインドフルネス瞑想にはさまざまな瞑想があるが、ボディスキャン瞑想はその中でも特に体と対話し、体と心のつながりを回復させる効果の高い瞑想法である。普段は気づかずにいる体からのメッセージを受け止められる、体や心の不調に早めに気づけるようになる。
- 足の先から頭まで、体全体が1つになり、それを皮膚が包んでいるというイメージを作る。
- 仰向け状態で横になり、静かに目を閉じる。
- 床に触れている部分の感触を感じ取りながら、10秒ほど呼吸に意識を向ける。
息を吸う時には、肺が膨らみ、その空気がさらに全身隅々に広がって、体全体がすこし充満していくようなイメージを持ってみる。そして息を吐くと共に、全身が弛緩して、緊張感や不快感なども吐く息とともに流れ出ていくことをイメージする。
- 注意を左足の先に移動させ、鼻から吸った息が身体の中を通り、その部位に到達することをイメージしながら、5~10回程度呼吸する
- その後「下半身(足先⇒ふくらはぎ⇒お尻)」⇒「上半身(お腹⇒背中・腰⇒腕⇒首・肩⇒肘⇒手・指先⇒頭)」の順で注意を向けていき、身体の各部をスキャンして観察していく。
観察している部位の皮膚に生じている感覚を感じたら、内部の筋肉や臓器にも心の目を向けてみる。ボディ・スキャンの中で、筋肉の緊張なども観察していく。そして吐く息とともに、力を抜き、柔らかく解放していく。
- ボディスキャン瞑想は、経験していることにさえ気付かないかもしれない緊張を解放するための良い方法である。自分自身を精神的にスキャンすることで、体のあらゆる部分に気づきをもたらし、痛みや苦しみ、緊張、または一般的な不快感に気づく。目標は、痛みを完全に和らげることではなく、痛みを理解し、そこから学び、より適切に管理できるようにすることである。
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ヨーガ瞑想法 Yoga meditation ←→ヨーガ
- ヨーガは単なる運動ではなく、ヨガエクササイズとヨガアーサナでは、呼吸を伴うため、実際に瞑想に導く。意識的な呼吸、意識的な集中、意識的なリラクゼーション、そして安定したポーズは瞑想の状態へと導く。
- 「マインドフルヨーガ mindful yoga」とも言い、スタンダードなポーズのハタ・ヨーガ
- 「横になった姿勢のヨーガ」と「立った姿勢のヨーガ」の2種類がある。
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歩行瞑想 walking meditation、経行 kinhin
経行 きんひん、きょうぎょう
- 中国語の「経行」の原意は、一定の場所を徒歩で往復することである。
- 日本曹洞宗の「経行法」は、道元禅師が如浄禅師より聞いた方法を示した、『宝慶記』の方法が基本となる。
- 「行禅」ともいう。四威儀の内、曹洞宗の修行の中心は「坐禅」であるが、他の所作でも当然に禅定に入るのであり、行きながら(歩きながら)の禅が行禅としての経行である。ただし、最近では坐禅に特化された修行体系によって、本意が転ぜられ、坐禅の時、睡眠や坐屈を防ぐために、一定時間に行われる緩歩を指すのみである。
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- 歩くことに徹底的に集中することで心を「現在」に置こうとする。「今、この瞬間」に集中することで妄想から遠ざかり、煩悩から解放されることを目指す。
- 普段より歩く速度を少し緩めるだけで、指先に力が入る感覚や、片足に体重がかかる感覚、それとともに反対の足が浮き上がる感覚など、今まで気づくことがなかった細かな動きや感覚を捉えることができるようになる。
- 歩行瞑想は、禅語の「歩歩是道場(ほほこれどうじょう)」に由来していると言われる。この言葉には「歩くという、私たちが日常的に当たり前のように行っている行為も立派な修行なので、一瞬一瞬にしっかりと集中しよう」といった意味が含まれている。
- googleの社員研修プログラム「SIY」(Search Inside Yourself)にもその概念が用いられていて、歩く動作への意識付けへの重要性が指摘されている。
[歩行瞑想の方法]*
- 立った状態で背筋を軽く伸ばし、手を前か後ろで組んで、目線は数メートル先の地面にぼんやりと向ける。いちど深呼吸をして、頭の中をリセット。
右足・左足いずれか片方の足のかかとをゆっくりと上げる。この時、かかとが床との圧力から解放されるのを感じる。ふわっと足が地面から離れた感覚。
- つま先も床から離れるので、同様に足のつま先の指が体重から解放される感覚に注意を向ける。これで片方の足は完全に空中に浮いた状態に。
- ゆっくりとその足を前へ少し振り出す。空中をスーッと移動するのを感じながら、無理のないところで着地させる。
足の裏に再び床の感触が戻ってくるので、それを感じるようにする。
- こうして、片足の一歩を「かかとが上がる」「つま先が上がる」「移動する」「着地する」の四つのキーワードを黙想しながら、足の感覚に注意を向けて歩く。
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マインドフルネス療法
レーズンエクササイズ Raisin Exercise
- 「いま、ここ」を体験するための一つのやり方
- 五感をフルに働かせることで、瞑想するのと同じように、「ただ、そのまま」生かされている自分に気付かされていく。
- 「1粒のレーズンを食べる」という行動を、レーズンを手に取り、観察し、匂いや重みを感じ、口の中に入れ、舌で転がし、噛み切り、飲み込む……といったように細分化してそれぞれの工程を意識的に行い、身体感覚を丁寧に味わっていくエクササイズです
- レーズンでなくても良いが、レーズンなどを用意する。
- 椅子などにゆったりと座り、レーズンを指で挟み、押したり、見る角度を変えたりして、初めて見るものだと思って、よく観察してみる。色や、かたちについても観察する。
- 手のひらにのせて、転がしてみたりして、光の反射や、表面の凹凸具合、弾力も確かめてみる。
- ゆっくりと口に含み、まずは噛まずに、舌の上で転がして、舌ざわりや風味などを観察する。そしてゆっくりと噛み、味や風味はどのように広がるのかを観察する。
- 最後にゆっくりと飲み込む。喉をどのように通っていくのか、喉のから食道、そして胃に移動していくことなどを感じてみる。
- 途中、色々雑念が浮かぶことにも気づくが、雑念が浮かんだら、また意識を「レーズン」に戻して、続けてみる。
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- 慢性的な痛みやストレス関係の病気を持った人々のために用いられたマインドフルネスストレス低減法は成果を上げた。
- 2010年代に入るとGoogleを筆頭にGAFA(Google,Apple, Facebook, Amazon)と称される世界のビジネス経済界を牽引するトップ企業がいち早くリーダー育成や社員の能力開発にマインドフルネスを導入してきたことで注目を集めた。Googleはマインドフルネスを、「Search Inside Yourself(真の自分を知る)」という独自のプログラムに構築して、脳科学に基づいたリーダーシップ育成、エンジニア向けのパフォーマンス向上などとして活用している。
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