32歳女性、コロナ罹患後の不眠症治療

1. 症例背景

  • 患者: 32歳、女性。
  • 主訴: 睡眠障害(入眠障害、中途覚醒、浅眠)。
  • 既往歴: 特記すべき事項なし。

2. 臨床経過

  1. 新型コロナウイルス感染症の発症(2か月前): かかりつけ医を受診し、アセトアミノフェンとカルボシステインによる治療を受け、急性期の上気道症状は軽快しました。
  2. 罹患後症状の持続: 急性期が過ぎた後も、2か月にわたって睡眠障害(入眠障害、中途覚醒、浅眠)が持続し、体重も減少しました。
  3. 他医での治療と中断(直近1か月): 別の医療機関でベンゾジアゼピン系睡眠薬、オレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体作動薬などが処方されましたが、服用翌日の倦怠感(持ち越し効果)が強いため、自己判断で中断しています。

3. 検査所見・身体所見

  • 体格・バイタル: 身長155 cm、体重47 kg、BMI 19.6(やや痩せ型)、血圧 90/68 mmHg(低血圧)、脈拍 104/分(頻脈)。
  • 血液検査: Hb 11.9 g/dL(軽度の低値)、WBC 6,300/μL、CRP 0.02 mg/dL(炎症反応なし)。
  • 生化学・ホルモン検査: 総コレステロール 80 mg/dL。TSH、FT3、FT4(甲状腺機能)、ACTH、コルチゾール(副腎皮質機能)はいずれも基準値内であり、内分泌疾患の明らかな異常は認められませんでした。
  • 画像診断: 頭部単純MRIで器質的な変化(脳の異常)は認められませんでした。

4. 診断と漢方医学的評価

  • 臨床診断: 新型コロナウイルス感染症の罹患後症状に伴う睡眠障害。
  • 漢方医学的評価: 体力が低下し、心身が疲れて眠れない「虚証(きょしょう)」の状態と判断されます。
  • ポイント: 本症例のように「虚証」の患者では、西洋医学的な睡眠薬が効きすぎて倦怠感などの副作用が出やすい傾向があるそうです。そのため、体力を補いつつ睡眠を促す漢方治療(本症例では加味帰脾湯)を検討する場合もあります。

厚生労働省のガイドライン(『新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第3.1版』)および関連資料に基づき、症状別の漢方薬の情報をまとめました。

ガイドラインでは、罹患後症状に対する標準的な治療法は確立されていないとしつつ、対症療法として漢方薬が使用されるケースが紹介されています。

コロナ罹患後症状と使用される漢方薬の一覧

症状の分類該当する主な漢方薬ガイドライン等の記載内容
抑うつ・倦怠感補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
人参養栄湯(にんじんようえいとう)
精神症状へのアプローチにおいて、抑うつや倦怠感への対症療法として処方されることがあります。日本国内の症例報告も存在します。
不安感加味帰脾湯(かみきひとう)不安の強い例に対して処方されることがあります。
冷え・神経過敏柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)冷えがあり、神経過敏な傾向の人に用いられることがあります。
痛み・しびれ十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
抑肝散(よくかんさん)
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
長引く痛みやしびれに対し、症例に応じてこれらが検討・処方された例が報告されています。
不眠加味帰脾湯(かみきひとう)体力が低下し、心身が疲れて眠れない「虚証」の患者に適応となります。
食欲低下・だるさ六君子湯(りっくんしとう)食欲不振や心窩部のつかえ、易疲労感などに用いられます。
回復期の微熱・咳竹茹温胆湯(ちくじょうんたんとう)風邪などの回復期に微熱、咳、痰が続き、不眠を伴う場合に用いられます。

重要な留意点

  • 有効性の確立: ガイドライン(第3.1版)の時点では、罹患後症状に対して有効性が証明された特定の薬物(漢方薬を含む)は定まっていません
  • 対症療法の原則: 漢方薬の使用はあくまで対症療法であり、漫然と継続するのではなく、症状の緩和が見られない場合は投薬の終了を検討すべきとされています。
  • 個別性: 漢方薬は患者の体格や自覚症状(証)に合わせて選択されるため、専門医や薬剤師との相談が重要です。

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