症例の経過
- 患者: 28歳、男性。喫煙歴(40本/日を8年間)および飲酒習慣(ビール1L/日程度)のあるヘビースモーカーかつ大酒家です。
- 5日前: 夕方に突然、左眼窩部の強い痛みが出現しました。この痛みは約1時間で消失しましたが、就寝中にも同様の症状が現れました。
- 4日前〜現在: 以降、連日のように夕方から早朝にかけて同様の痛みが繰り返し出現しています。
- 受診の経緯: 市販の鎮痛薬を内服しても効果が乏しいため、来院に至りました。
身体所見および検査結果
- 眼症状: 左眼球結膜の充血と、左瞳孔の縮瞳(右3.5 mmに対し左2.0 mm)が認められます。
- 除外された所見: 意識清明で、構音障害、眼球運動制限、眼振、顔面や四肢の筋力低下・感覚障害、項部硬直などは認められません。眼圧や眼底も正常です。
- 画像・血液検査: 頭部単純MRI(T2強調像)に異常はなく、赤沈やCRPなどの炎症反応も陰性です。
診断と疾患の特徴
この症例の診断は群発頭痛(Cluster headache)です。
- 痛みの特徴: 一側の眼窩部を中心とする非拍動性の激しい痛みで、「目をえぐられるような」と表現されることもあります。1回の持続時間は15分〜3時間程度です。
- 出現パターン: 一定の期間(群発期)に集中して毎日同じ時間帯(夕方から早朝、就寝中など)に起こる傾向があります。
- 自律神経症状: 痛みと同じ側に、結膜充血、流涙、縮瞳、鼻閉、鼻汁、眼瞼浮腫などの症状を伴うのが特徴です。
- 予後: 1〜数ヵ月続く群発期が、1年から数年ごとに繰り返されます。群発期以外(寛解期)には痛みは誘発されませんが、群発期に飲酒をすると痛みが誘発されることがあります。
治療方針
- 急性期(発作期)治療: 発作を鎮めるために、スマトリプタンの皮下注射や、フェイスマスクを用いた高濃度酸素吸入(7 L/分を15分間)が有効とされています。
- 予防療法: 群発期の発作を抑えるために、ベラパミル(第一選択薬の1つ)、炭酸リチウム、バルプロ酸、トピラマート、副腎皮質ステロイドなどが使用されます。
この症例は、若年男性・ヘビースモーカーという背景、夜間から早朝にかけての激しい一側性の眼痛、および縮瞳や充血といった自律神経症状を伴う経過から、典型的な群発頭痛の提示となっています。
SNNOOP10リストとは、生命にかかわるような二次性頭痛を疑うべきレッドフラッグ(およびオレンジフラッグ)をまとめた15項目のチェックリストのことです。以下にその内容を端的にまとめます。
SNNOOP10の内容
| S (Systemic symptoms):全身症状(発熱、項部硬直、意識レベル低下、神経脱落症状など)。 N (Neoplasm in history):新生物(腫瘍)の既往。 N (Neurologic deficit):神経脱落症状または機能不全。 O (Onset):突発または急激な発症。 O (Older age):50歳以降の発症。 P (Pattern change):頭痛パターンの変化、または最近発症した新しい頭痛。 P (Positional headache):姿勢によって変化する頭痛。 P (Precipitated by…):くしゃみ、咳、または運動により誘発される頭痛。 P (Papilledema):乳頭浮腫。 P (Progressive / Atypical):進行性の頭痛、または非典型的な頭痛。 P (Pregnancy):妊娠中または産褥期。 P (Painful eye):自律神経症状を伴う眼痛。 P (Posttraumatic):外傷後に発症した頭痛。 P (Pathology of immune system):HIVなどの免疫系病態を有する患者。 P (Painkiller overuse):鎮痛薬使用過多、もしくは薬剤新規使用に伴う頭痛。 |
頭痛の診断においては、まずこれらの項目に留意して致命的な二次性頭痛を除外することが、最初の重要なステップとなります。
国際頭痛分類第3版(ICHD-3)に基づき、一次性頭痛(明らかな器質的異常のない頭痛)の主要な4つのグループの特徴を下表にまとめました。
一次性頭痛の4グループの特徴
| グループ名 | 痛む場所 | 痛みの性質 | 持続時間 | 主な特徴・随伴症状 |
| 1. 片頭痛 | 片側性が多い(小児は両側性も多い) | 拍動性(ズキンズキンとする) | 4〜72時間(小児は2〜72時間) | 悪心・嘔吐、光・音過敏を伴う。日常動作で悪化する。 |
| 2. 緊張型頭痛 | 両側性 | 圧迫感・締め付け感(非拍動性) | 30分〜7日間 | 日常動作で悪化しない。悪心や嘔吐はなく、光・音過敏も片方のみか、ない。 |
| 3. 三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)* | 厳密に一側性(眼窩部など) | 激しい痛み(目をえぐられるような) | 15分〜180分(群発頭痛の場合) | 痛みと同じ側に結膜充血、流涙(涙)、鼻閉、縮瞳などの自律神経症状を伴う。 |
| 4. その他の一次性頭痛疾患 | 疾患により様々 | 穿刺様、雷鳴様など様々 | 数秒〜数日間など様々 | 特定の動作や状況(咳、運動、睡眠、性行為など)が引き金となって起こる。 |
*代表的な疾患として群発頭痛が含まれます。
各グループの補足事項
- 片頭痛: 階段の昇降などの日常的な動作で痛みが増悪するため、動かずにじっとしていることを好みます。
- 緊張型頭痛: 一次性頭痛の中で最も有病率が高く、肩こりなどを伴うことも一般的です。
- 群発頭痛(TACs): 「群発期」と呼ばれる一定期間に集中して、毎日ほぼ同じ時間帯に激しい発作が起こるのが特徴です。
- その他の一次性頭痛疾患: 咳をした時だけ痛む「一次性咳嗽性頭痛」や、睡眠中のみに起こる「睡眠時頭痛」など、10種類に細分類されています。
診断にあたっては、まず生命に危険のある二次性頭痛(脳腫瘍や髄膜炎、くも膜下出血などによる頭痛)を除外することが極めて重要です。
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