最近はCAR-T技術を用いた医薬品(再生医療製品等を含む)の開発は内資を含め多くの製薬企業で進められていて、私がアドバイザーを務める製薬企業でも精力的に動いているのを感じます。(私は開発にはかかわっていませんが)かこに関連の学術集会等でも提示されています、Eilyの話は、何回か聞いたことがあります。でも、それとは別の登場人物の話は、この論文で初めて知りました。
ペンシルバニア大学のCarl Juneは、通常なら研究開発をあきらめるような場面で、粘り強さを見せます。妻を卵巣がんで亡くしたことからくる、新しい技術による治療を開発することにかける執念のようなものがそれを支えていたようです。
義理の娘を乳がんで亡くしたバーバラとエドワード・ネッターが新規の治療法を開発するためのアライアンス(AGCT -制限酵素Alu1でキレそうな名称) を立ち上げ、この研究に$1,000,000もの資金提供しました。なかなか、うまくいくかどうかわからないような事業に出資できるような金額ではありません。受け取って研究開発する側もそれなりに肩の荷の重い話だっただろうと思います。
ペンシルバニア大学でこの治療を受けた症例の臨床経過を見ますと、普通なら亡くなってもおかしくないような危険な状態になっているのにもかかわらず、奇跡的なと言っていいほどの復活を見せる症例が多くいます。かかわっている人たちが執念を持ってケアしていたのかもしれません。サイトカインストームに見舞われ、IL-6レベルの上昇を見た際に、IL-6 pathwayを標的とするモノクローナル抗体であるトシリズマブが他の疾患に対する適応ではありますが承認され、医薬品グレードの市場で調達できる状態にあったのは時代のよいめぐりあわせだっただろうと思います。
ちなみに、途中でGelsinger君の話が引用されています。「彼が亡くなったことで遺伝子治療の開発が10年は遅れた」というような趣旨で引用されいますが、その当時私は、こうした治療法の監督官庁のFDAに勤めていて、ある日出勤するとメディアがFDAの入り口付近に集まっていたのを思い出します。この論文に書かれていることに、私は直接かかわってはいませんが、比較的私がいる空間の比較的近いところで起きた事なんだなと感じます。
最後に、いい言葉が書かれているので引用します。「Chance favors the prepared mind」【チャンスは準備された心を好む】 チャンスに備えて準備しておきましょう。