脳外科医 澤村豊のホームページ

様々な脳腫瘍や脳神経の病気について説明しています。

頭蓋骨腫瘍 skull tumor

頭蓋骨から出る腫瘍について

下線が引いてあるものは,クリックすると詳細なページにジャンプします。

大まかなこと
  • 頭蓋骨にできる腫瘍です
  • 良性から悪性のものまで様々なものがあります
  • 骨腫は最も良性で,脊索腫が最も悪性です
  • 小児にも成人にもできます
  • 診断にはCTのほうがMRIより役に立つことが多いです
  • 骨を壊すタイプと,骨が大きくなる(増殖する)タイプがあります
  • CTを見るとたいていの診断名はつきます
  • 骨腫や線維性異形成など治療をしなくてもいいものも多いです
  • 治療は基本的には手術摘出です

線維性異形成 fibrous dysplasia

  • 良性の骨の病気です
  • 多くは思春期の子供にできるものです
  • 成長とともに大きくなりますが,思春期後半になるとそのままで変化しません
  • ですからどんなに大きなものでも成人に近くなった患者さんは何もしないでいいです
  • 症状を出すことはめったにないです
  • 視神経管の周囲の骨が厚くなるのですが,視神経管狭窄がおきないので,視力低下はでません
  • まれに,視神経の入っている骨が厚くなって視力障害を出すことがあります
  • 大きくなって突出が気になってしょうがないときには形成的な手術をすることがあります
  • 前頭骨と頭頂骨に多いです
  • CTで表面が滑らかなことが特徴です

左は17歳の患者さんの頭頂骨にできた線維性異形成です。大きくなっていましたし,突出が強いので手術で削って人工骨に置き換えました。右は20歳の患者さんの右前頭骨から蝶形骨にできた線維性異形成です。何も症状がなかったので何もしないでほっておきました。

悪性化(ほとんどない)
  • ものすごくまれですが,多数の骨(広い範囲)を侵す polyostotic type で,40歳くらいになって悪性化することがあります
  • 悪性化すると,局所的に骨溶解性病変,辺縁不整,皮質破壊と軟部組織浸潤が生じますからCT画像でかなり高率に判断できます,MRIでは不整な増強像がみられます
  • 病理では線維肉腫あるいは骨肉腫の診断がつきます
マッキューン・オルブライト症候群 McCune-ALbright syndrome
  • 線維性異形成 fibrous dysplasia
  • 茶色い皮膚の色素斑(カフェオレ班) café-au-lait pigmentation
  • 内分泌異常 endocrine disturbances
  • これらを伴うものですが,珍しい病気です
  • たとえば前頭骨線維性異形成と下垂体腺腫とかです
  • 思春期早発症が多いのですが,成長ホルモン GH 産生下垂体腺腫では巨人症や先端巨大症になります
  • この病気に合併する線維性異形成は増殖して視神経障害を出すことがあります
  • 小児の頭蓋骨(特に前頭蓋底)が厚くなって脳や神経を圧迫するので頭蓋骨を削る手術をするのですが,ものすごく難しいです
  • 小児慢性特定疾患に指定されていますので,医療費の補助が受けられます

血管腫,骨内血管腫,海綿状血管腫 angioma, hemangioma

  • 頭蓋骨で一番多い良性腫瘍です
  • 見つけてもはっきりした理由がない限り手術しないものです
  • 手術は簡単です
おでこの出っ張りで発症した血管腫

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左から3D-CT,骨条件のCT,MRI T2強調画像です。骨の内部からでた腫瘍であることがわかります。表面がゴツゴツしていることが多いです。周囲の境界は明瞭です。

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額にあり目立つのでとって欲しいとの希望があり,また少し大きくなっているかもしれなかったので摘出しました。
頭蓋骨内版が残るときもあり残らない時もあります。多くの場合はくり抜いて全摘出して,バイオペックスなどで骨形成をします。

ゆっくり増大して気になるから摘出したもの

画像としては上記のものより典型的です。内板も外板も残っていて,まばらに骨構造も残っています。皮膚の方向へ血管腫が盛り上がってきています。

骨形成をしたもの

20代女性の頭蓋骨血管腫です。MRIのガドリニウム増強ではまだらに増強を受けるのが特徴的です。頭蓋骨内板は薄く保たれています。

血管腫のみをドリルで削除して,内板を薄く温存し,表面をペースト状人工骨で補填しました。左側の術直後では内板との間にギャップがありますが,右側の術後2年後のCTでは骨再生が生じて人工骨との間が埋まってきているのがわかります。内板はremodelingされています。

骨腫 osteoma

  • 頭蓋骨にできるもっとも頻度の高い良性腫瘍で,とても多いです
  • オデコがぷっくり硬くふくれたりします
  • 骨ですから触るととても硬いので,触診でわかります
  • ものすごくゆっくり大きくなるので気づかれない事が多いです
  • 気にならなければほっておいていいです,治療の必用はありません
  • 確定診断は,CTをみれば十分です

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10年以上観察して増大してきた左後頭骨の骨腫です。仰向けに寝ると邪魔になりますので摘出しました。頭蓋骨を開頭する必要はなく,頭蓋骨外板の一部を含めてドリルで骨腫を削り取るだけで十分です。下の画像は術後です。

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小さな線状切開で,骨腫を露出してドリルで削りました。それだけで,骨形成も何もしていません。


ランゲルハンス細胞組織球症 LCH Langerhans cell histiocytosis はここをクリック


脊索腫 chordoma はここをクリック


軟骨腫 chondroma, 骨軟骨腫 osteochondroma, 軟骨肉腫 chondrosarcoma はここをクリック

骨軟骨腫 osteochondroma

  • 骨腫と似たような良性の性質を有しています
  • CTでは,骨腫と区別つかないことがあります
  • 頭蓋冠より頭蓋底骨に多いです
  • 思春期から若年青年期に増大する傾向があります
  • 自然に増大傾向が止まることがあります
  • ですから無治療で経過をみることもあります

若い男性に発生した眼窩内側壁の骨軟骨腫です。骨腫と区別がつかないタイプで,眼球突出になってきたので,両側前頭開頭で摘出して,前頭骨内板で眼窩内側壁の形成をしました。


頭蓋骨膜洞 sinus pericranii はここをクリック


骨内髄膜腫 osseous meningioma

触診では骨腫と区別がつきません。CTで腫瘍表面が毛羽立って見えることが特徴です。頭蓋冠にも腫瘍が浸潤しているのがわかります。骨腫や骨軟骨腫にはこのような浸潤像は見られません。

MRIでは肥厚した頭蓋骨の内側の髄膜が肥厚してガドリニウム増強され髄膜腫があることが確認できます。

巨細胞腫 giant cell tumor

 

頭蓋骨パジェット病 Paget disease(ページェット病,変形性頭蓋骨炎)

  • 頭蓋骨に,異常に亢進した骨吸収とそれに引き続く過剰な骨形成(骨リモデリングの異常)が生じます
  • 骨の形態的な腫大・変形とそれに伴う局所骨強度の低下を来します
  • 日本人には比較的稀な疾患で,60歳以上の高齢者に多く発症し,男女差はありません
  • 時に骨病変が悪性化し骨肉腫を形成することがあります
  • 神経症候を呈することは稀です
  • 頭痛・緩徐進行性痴呆・脳幹小脳症状・脳神経麻痺・脊髄圧迫症状・脊髄神経根症状などの文献報告があります
  • 頭蓋底骨の軟化変形により,頭蓋陥入症が二次的に生じたとき,脳幹・小脳症状と下位脳神経麻痺がでて,水頭症を合併することがあります
  • 椎骨の肥厚性病変では,脊髄と神経根症状がでます
  • 外科的な肥厚病変切除による除圧術はあまり行なわれません
  • 治療薬として,リセドロネート、エチドロネート、カルシトニンなどがあります

70代の女性が,1年ほどの経過で眩暈・ふらつきが強くなり,転倒しやすくなり歩行困難となりました。軽度の小脳失調症状と両側方注視時に水平方向眼振が認められたのみです。頭部単純写真とCTでは,典型的な cotton-wool 様変化が見られ,円蓋部はびまん性に肥厚し,外板と板間層は判然としません。病変は頭蓋底部にもおよび,頭蓋底陥入症を呈し,さらに斜台の肥厚性病変のため脳幹の圧排があり,頭蓋内容積の縮小が明らかです。

形質細胞種 plasmacytoma

中高年の骨腫瘍で若年者にはほとんどありません。画像では転移性頭蓋骨腫瘍と区別はつきません。

症候性多発性骨髄腫(symptomatic multiple myeloma:SMM)

もともと全身性の多発性骨髄腫があって,頭蓋骨に腫瘤を形成するものです


多発性骨髄腫の病歴がある患者さんに,頭蓋骨増殖性腫瘍が発生しました。硬膜を破り硬膜下に伸展しています。治療は化学療法と局所放射線治療です。

孤発性形質細胞腫(solitary plasmacytoma of bone:SPB)

初発時は頭蓋骨に孤発します,数年で多発性骨髄腫に進行することが多いです

脳ドックで偶然発見された頭頂骨の形質細胞腫瘍です。

T2強調画像では弱い高信号,ガドリニウムで強く増強されます。


形質細胞が索状に増殖しています。CD138とCD45陽性,Igκ-ISH陽性で明らかな軽鎖制限をみました。plasmacytoma/multiple myelomaの診断です。


全身の骨を検査する必要があります。
骨シンチで頚椎に病巣が疑われ。PET-CTでは大腿骨大転子にも骨病変がありました。造血幹細胞を用いる化学療法をを行って落ち着いています。

デスモイド腫瘍 desmoid tumor

外転神経麻痺で発症した50代の男性です。手術摘出時には,腱のように硬い腫瘍 desmoid でした。

  • WHOは線維芽細胞のクローン性増殖であるとします
  • 良性腫瘍ですが深部の骨軟部組織に浸潤性の腫瘍で容易には完全摘出できません
  • 増大速度は数カ月単位のものも数年単位のものもあります
  • 頭蓋骨には極めて稀です
  • 2024年,ニロガセスタット (oral γ-secretase inhibitor) という薬剤がデスモイド腫瘍にかなり有効であると報告されました

Gounder M: Nirogacestat, a γ-Secretase Inhibitor for Desmoid Tumors. N Eng J Med 2024
76%の患者さんで2年間何事もなく投与が可能であり,41%の患者さんではっきりしたデスモイド腫瘍の縮小が認められたとのことです。しかし,CRは7%です。

頭蓋底骨 異形成性病変

50代男性のCTです。
斜台全体が膨大化しています。内部には不正な骨構造が見られます。頭蓋底骨を後半に侵す病変ですが,10年以上い観察しても全く変化がありません。
繊維性異形成症に近い性質を有する,軟骨性の異形成だと考えられます。多くは思春期に増大しますが,自然に停止する頭蓋底骨病変です。


おまけです

非典型的な画像所見の線維性異形成 fibrous dysplasia


16歳の男の子が額が盛り上がってきているのに気付きました。外版が保たれているしガドリニウム増強が限局的に強いし,血管腫かなと思いました。


順に,HE, elastica van-Gieson, alcian blueです。コラーゲン線維成分を背景に断片的な骨梁が分布しています。骨梁が細かい断片だったからこのような画像所見になったのでしょう。

かなり伸展した線維性異形成 fibrous dysplasia

このように伸展したfibrous dysplasiaでは,前頭蓋底の視神経間管狭窄のために視神経が絞扼されて視力が落ちることがあります。開頭手術して視神経管の除圧術をする必要が生じるのですが,fibrous dysplasiaは出血性ですし,視神経鞘を見つけることは容易ではありません。高難易度の手術となります。

 

 

 

 

 

 

 


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