良性肺疾患

間質性肺炎・肺線維症
 当科で診療している間質性肺疾患は、原因不明の間質性肺疾患である”特発性間質性肺炎”や、膠原病や血管炎を基礎疾患として発症する”自己免疫性間質性肺疾患”、じん肺や過敏性肺炎のような”職業環境性間質性肺疾患”、薬剤や放射線による”医原性間質性肺疾患”など、様々な間質性肺疾患の診療を行っており、その範囲は多岐にわたります。

 そのほかにも”好酸球性肺炎”のようなアレルギー性肺疾患や”サルコイドーシス”のような肉芽腫性疾患、そして ”肺胞蛋白症”、”肺リンパ脈管筋腫症”、”肺骨化症”といった稀少疾患の診療も行っています。

 間質性肺疾患の診断には、発熱や咳嗽といった身体所見や、血清学的所見(血液検査)に加えて、胸部X線単純写真や胸部CTといった放射線学的所見が重要です。それらの所見のみで診断に至らない場合は、気管支鏡を用いて経気管支的肺生検や気管支肺胞洗浄、あるいは胸腔鏡を用いた外科的肺生検といった検査を検討します。しかしこのような検査は、患者さんに一定の負担のかかる検査であり、医学的には「侵襲的な検査」と表現されます。

 そこで当科では、呼吸器内科・呼吸器外科・放射線科の医師が合議を行う集学的検討(MDD: multi-disciplinary discussion)を毎週行うことで、より診断の精度を高めると同時に、侵襲的な検査の必要性について検討するようにしています。

 また、外科的肺生検で得られた病理検体は、当院の病理部で診断を行うのみならず、日本医科大学病理部にも検体を送付して診断を依頼することで、より多角的な視点から正診に近づけるよう努めています。
【その他の取り組み】
 特発性間質性肺炎は、厚生労働省の定める難治性疾患のひとつです。なかでも最も頻度の高い”特発性肺線維症”は治療が難しく、予後不良とされています。そこで当科では、将来的な特発性肺線維症に対する新規治療法の開発と発展を目指した新しい取り組みを数多く行っています。

 その取り組みは一つの施設で行うのではなく、全国規模、あるいは国際的な規模で行うことが望ましいと考えています。私達は厚生労働省が主催する研究事業の「びまん性肺疾患調査研究班」に分担研究者として参加し、全国あるいは国際共同臨床試験に参画することで、積極的に新しい薬剤や診断法の開発に協力しています。

@新しい治療薬の開発を目指す臨床試験
 当科はこれまで日本で実施されたピルフェニドンの第III相臨床試験や、ニンテダニブの第V相臨床試験(国際共同治験)に参加してきました。これらの臨床試験を経て、ピルフェニドンとニンテダニブは現在、特発性肺線維症に対する抗線維化薬として厚生労働省からの適応承認を得ており、当科でも治療に用いています。
 最近でも、Nアセチルシステイン(NAC)吸入療法の有効性を検討する臨床試験や、特発性肺線維症の新規治療薬候補であるTAS-115の第Ua相臨床試験、同じく特発性肺線維症の新規治療薬候補であるGLPG1690の第V相臨床試験に参加しています。

A既存の薬剤の新しい使い方を目指す臨床試験
 間質性肺炎に合併した非小細胞肺癌に対する手術前ピルフェニドン投与の有効性を検討する第V相臨床試験(NEJ034)に参加しています。また、特発性pleuroparenchymal fibroelastosisという稀な間質性肺炎に対するニンテダニブの有効性と安全性を検討する第U相試験も開始しています。

Bより進歩した診断方法の開発を目指す臨床試験
 特発性間質性肺炎に対する多施設共同前向き観察研究(JIPS Registry -NEJ030-)という、間質性肺炎の診断と治療、病気の経過のデータを全国から集めて再検討する臨床試験に参加しています。この臨床試験では、血清を患者さんから集めて解析することで、病気を見つけるのに有用な新しい血液検査項目を見つけようとする研究も行っています。
 これによく似た研究で、特発性肺線維症のバイオマーカーの国際的探索研究(INMARK試験)という国際的な研究にも当科は参加してきました。
 その他、多分野合議による間質性肺炎診断 に対する多施設共同前向き観察研究(Providing Multidisciplinary ILD diagnoses (PROMISE) study)に参加しています。これは、上述した呼吸器内科・呼吸器外科・放射線科の医師が合議を行う集学的検討(MDD)を全国的な規模に発展させようとする研究です。日本全体が一つになって、集学的検討を行えるような環境を構築し、さらにはそこで集められたデータをもとに、診断に有用なAIの開発をも目指す臨床試験です。
 
COPD(慢性閉塞性肺疾患)
 徳島県はCOPDによる死亡率が高く、COPDの認知率の向上とともに、早期診断、早期治療への取り組みが求められています。当科では徳島県や徳島市医師会と協力して、COPDの啓発活動、早期診断と病診連携への取り組みを行っています。特に平成25年度より徳島市医師会のCOPD対策・禁煙推進委員会に協力し、市民公開講座の開催、COPD認知度アンケートの実施、スパイロメトリー普及実施セミナー、COPD啓発推進事業(検診)に継続的に取り組んでいます。その結果、全国的にCOPD認知度の向上が停滞する中、徳島市においては5年間の取り組みで29.8%から56.4%へ上昇しています。
   徳島市医師会主催のCOPD市民公開講座          徳島県ホームページより

 COPDの最大の危険因子は喫煙であり、喫煙しないことでほとんどのCOPDは予防可能とされています。また、COPD患者における禁煙は、呼吸機能の低下を抑制し、病態の増悪を減少させ、死亡率を減少させることがわかっています。そこで当科では、COPDに対する最新の薬物療法を実践するのみならず、禁煙外来にも注力しています。詳しくは禁煙外来のページをご覧ください。徳島新聞と協力し世界禁煙デー(5月31日)には啓発活動も行っています。
世界禁煙デー(5月31日)における啓発活動(徳島新聞)

呼吸器感染症
 肺炎、慢性気道感染症、肺真菌症、抗酸菌 (結核・非結核性抗酸菌) 感染症に対するガイドラインに沿った診療を行うとともに、喀痰グラム染色や気管支肺胞洗浄等を駆使して難治性呼吸器感染症の診断・治療に取り組んでいます。呼吸器・膠原病内科病棟に併設されている陰圧個室への入院患者にも対応しており、昨今の新型コロナウイルス感染症に対しても積極的に取り組んでいます。

 また、感染制御部と協力し、ワクチンによって予防可能な疾患を常に注意深く監視し続けることと、新しいワクチンの開発を目指すAMED(日本医療研究開発機構研究費)研究に参加しています。その一環として私達の施設では、「成人肺炎球菌ワクチンPCV13ーPPSV23連続接種の免疫原性と安全性の検討」と「高齢者における肺炎球菌ワクチン連続接種後の血中抗体の推移に関する検討」という研究を行っています。

 このように感染症の分野においても、私たちは新しいワクチンや治療法開発を目指して努力しています。

睡眠時無呼吸症候群
 ポリソムノグラフィーを用いた診断を行っており、nasal CPAP(持続陽圧呼吸)療法による在宅持続陽圧呼吸療法についても、データのカード管理を行うことで、患者さんが積極的に治療方針の決定に参加できるように努めています。
   
徳島大学大学院医歯薬学研究部呼吸器・膠原病内科学分野
〒770-8503徳島県徳島市蔵本町3丁目18番地の15
TEL:088-633-7127 FAX:088-633-2134
Copyright Department of Respiratory Medicine and Rheumatology
Graduate School of Biomedical Sciences
Tokushima University