日本神経消化器病学会理事長の挨拶
兵庫医科大学 内科学消化管科
三輪 洋人
この度日本神経消化器病学会の理事長を拝命いたしました兵庫医科大学内科学消化管科の三輪洋人です。これから伸びゆく重要な学会の理事長に選任されたことは非常に名誉なことと感じております。またこの学会のさらなる発展に貢献できる喜びと同時に、その責任の重さに身の引き締まる思いを感じております。 本学会は我が国における機能性消化管障害の基礎研究および臨床の発展を目指して設立されましたが、平成14年に設立された日本Neurogastroenterology(神経消化器病)学会と平成10年に設立された日本国際消化管運動研究会が統合する形で平成21年4月1日に発足しました。さらに平成29年にはこれまで別個に活動していた機能性ディスペプシア(FD)研究会、心身医学研究会、IBS研究会を吸収合併して1つになりました。機能性消化管疾患の診療に携わる臨床医と機能性消化管疾患の研究者のための学会です。 現在、機能性消化管障害は消化管領域において、癌や炎症性腸疾患と並んで極めて重要な疾患の一つであると私は考えております。消化管診療と言えばこれまで癌の診断、治療にスポットライトが当たってきました。レントゲンや内視鏡による診断学を駆使して早期癌を発見し治療する。あるいは不幸にして進行癌で発見された患者を手術や化学療法で治療することにより、患者の福祉に貢献する。これが消化管疾患を専門とするものの目標であり、喜びであったと思います。しかし、世の中は急速に変化しています。社会、経済、産業、文化やスポーツ、世の中のありとあらゆるものが変化しつつありますが、医学や医療も例外ではありません。医療安全への意識が高まり、臨床研究のあり方も変わりつつあります。また疾患の理解や治療でいくつものパラダイムシフトが起こっています。生活様式は欧米化し、衛生環境は改善しています。一方では社会は複雑化し、われわれをとりまくストレスは増加しています。これらの事象は我が国の消化器領域の疾患構造自体を急速に変化させています。例を挙げれば、ピロリ菌感染の減少により日本の医療の中心であった胃潰瘍や胃癌は急速に減少していることに異論を唱える方はいないでしょう。 このような時代において今後ますます重要となっていく疾患の一つに機能性消化管障害があると思われます。機能性消化管障害発症のメカニズムを解明しようとする研究は急速に進んでいますが、この疾患の治療は薬物療法のみでは困難で、良好な医師・患者関係の構築が不可欠であることはよく知られています。つまり、その診療には高いコミュニケーション能力が求められるのです。医学として非常に魅力のある疾患であると同時に、医療の対象としても極めて興味深い疾患なのです。機能性消化管障害の患者さんはQOLが低く、非常に悩みの深い方が多い。それらの患者を科学と心で治療し、悩める患者さん達の症状に左右されない充実した生活を送っていけるようとするのがこの学会なのです。 しかしながら、本学会の会員数はいまだ少なく、学会組織としても成熟しているとはいえないのは実情です。今後さらなる学会発展のために、組織をより強固なものに改革させていこうと思っています。そのためには何を置いても会員数が増えることが必要です。とにかく我が国の基幹病院、大学病院の消化器系の先生方に是非入会していただきたいと思っております。そのために、常に学会から有益な情報を提供し、そして参加してよかったと思える年次集会を開催したいと思っています。会員の先生方のお力添えのほど、よろしくお願いいたします。 |