ヒト幹細胞メモリー様CAR-T細胞の創出における、NOTCH-FOXM1経路の役割
慶應義塾大学医学部微生物学免疫学教室 竹馬俊介
Kondo T, Ando M, Nagai N, Tomisato W, Srirat T, Liu B, Mise-Omata S, Ikeda M, Chikuma S, Yoshimura A.
The NOTCH-FOXM1 Axis Plays a Key Role in Mitochondrial Biogenesis in the Induction of Human Stem Cell Memory-like CAR-T Cells.
Cancer Res, 80: 471-483 Doi: 10.1158/0008-5472.CAN-19-1196. (2020)
個体の機能低下や腫瘍免疫の減弱にはT細胞性免疫の機能不全が関与する。腫瘍浸潤リンパ球にキメラ抗原受容体(CAR)を導入して身体に戻すCAR-T細胞療法ががん治療に応用されているが、T細胞の長期培養による「疲弊」化は避けられない。最近、新規メモリーT細胞サブセットである幹細胞メモリーT(Tscm)細胞が発見され、新たなT細胞移入療法の素材として注目されている。Tscm細胞は一旦活性化されたメモリーT細胞でありながら、ナイーブT細胞様の表面マーカー表現型を示し、長命で抗原刺激に応答して急速に増殖し、多数のエフェクターT細胞を産生する。我々はヒト末梢血より腫瘍抗原特異的T細胞あるいはCAR導入T細胞を増幅させたのち、Notch-ligand, hDLL1(OP9-hDLL1)を発現するOP9細胞と共培養することにより、エフェクターT細胞をTscm様細胞(iTscm) に転換できることを示した(Nature Commun, 2017; 8: 15338.)。本論文では遺伝子発現解析の結果、iTscm細胞は酸化的リン酸化に関連する遺伝子の発現が亢進していた。ヒトiTscm細胞は細胞内に中性脂肪滴を含み、脂肪酸代謝によって高いミトコンドリアによる酸化的リン酸化(OXPHOS)を維持していることがわかった(Cancer Res, 2020; 80, 471-483)。またOXPHOSの亢進にはNotchシグナルとその下流のFoxM1遺伝子が重要な役割を果たすことを明らかにした。T細胞の「若返り」には代謝リプログラミングが極めて重要であることが明らかとなった。