自閉症マウスモデルの行動異常
-自閉症原因遺伝子Scn2aヘテロノックアウトマウスは不安・社会性・記憶の異常および過活動を示し、過活動は興奮性神経伝達亢進薬により改善する-
名古屋市立大学大学院医学研究科 脳神経科学研究所 山川和弘
Tatsukawa T, Raveau M, Ogiwara I, Hattori S, Miyamoto H, Mazaki E, Itohara S, Miyakawa T, Montal M, Yamakawa K.
Scn2a haploinsufficient mice display a spectrum of phenotypes affecting anxiety, sociability, memory flexibility and ampakine CX516 rescues their hyperactivity.
Mol Autism, 10:15 DOI: 10.1186/s13229-019-0265-5 (2019)
https://doi.org/10.1186/s13229-019-0265-5.
自閉症は、社会性の障害や他者とのコミュニケーション能力に障害・困難が生じたり、こだわりが強いといった特徴を持ち、しばしば精神遅滞を伴う疾患で、軽度のものから重度のものまで広い範囲の疾患が含まれることから、最近では自閉スペクトラム症とも呼ばれます。 一卵性双生児における高い発症一致率などからも、遺伝的背景の高い寄与が想定され、実際に多くの原因遺伝子が報告されてきています。中でも電位依存性ナトリウムチャネルNav1.2をコードするSCN2A遺伝子は、自閉症患者さんで最も高頻度に新生機能喪失突然変異(父母に見られず、患児のみにみられる本来の機能を失わせる変異)を示すものとして知られています。
今回、SCN2A遺伝子変異によって引き起こされる自閉症のモデルとしてScn2aヘテロノックアウトマウスの行動解析を行い、当該マウスが社会性・記憶の異常や立ち上がり行動の亢進などの過活動・不安行動亢進を示すこと、さらにこの過活動・不安行動亢進はAMPA受容体機能促進薬アンパカインの投与により興奮性神経伝達を亢進させることで改善することを明らかにしました(図1)。また、コンディッショナルノックアウトの手法により大脳皮質・海馬・嗅球の興奮性神経細胞のみでSCN2A遺伝子を半減させたマウスで過活動・不安行動亢進が一部再現し、全ての抑制性神経細胞のみでSCN2A遺伝子を半減させたマウスでは過活動・不安行動亢進が見られなかったことから、過活動・不安行動亢進には大脳皮質・海馬・嗅球など、なかでもおそらくは大脳皮質の興奮性神経細胞の機能低下・興奮性神経伝達の低下が寄与していることが想定されました。
過活動・不安行動亢進は自閉症における落ち着きのなさや不注意、不安などに通じる行動異常であり、今回の知見は、少なくともSCN2A遺伝子変異によって引き起こされる自閉症においてはこれらの行動異常の原因として興奮性神経伝達の低下が存在する可能性、興奮性神経伝達の適切な増強がこれら異常の改善につながる可能性があることを示すものであり、発症機構の解明や今後の有効な治療法の開発につながることが期待されます。