ダウン症マウスモデルのモノアミン代謝・行動異常
-ダウン症マウスモデルTs1Cjeはセロトニン・ドーパミン代謝異常と過活動・社会性亢進を示す-
名古屋市立大学大学院医学研究科 脳神経科学研究所 山川和弘
Shimohata A, Ishihara K, Hattori S, Miyamoto H, Morishita H, Ornthanalai G, Raveau M, Ebrahim AS, Amano K, Yamada K, Sago H, Akiba S, Mataga N, Murphy NP, Miyakawa T, Yamakawa K.
Ts1Cje Down syndrome model mice exhibit environmental stimuli-triggered locomotor hyperactivity and sociability concurrent with increased flux through central dopamine and serotonin metabolism.
Exp. Neurol. 293:1-12 DOI: 10.1016/j.expneurol.2017.03.009. (2017)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0014488617300699
ダウン症は、精神遅滞の最も頻度の高い原因として知られる疾患で、特有の顔貌や、先天性心疾患、消化器疾患、免疫系・内分泌系の不全、白血病、アルツハイマー病など、多くの症状を様々な頻度で伴い、精神遅滞はほぼ全ての患者で発症します。また、不安行動の亢進や落ち着きの無いなども報告され、モノアミンの異常などの背景も推定されています。ただ、一方で人懐っこいなどの社会性に優れた面もしばしば見られます。染色体の不分離や転座などにより21番染色体が1本余分で計3本(トリソミー)になることが原因であり、当該染色体上の遺伝子が過剰発現する事が症状を引き起こすとされています。
ヒト第21染色体に対応するのがマウス第16染色体の一部であり、現在までに、この第16染色体の部分トリソミーを持ついくつかのマウスがダウン症のモデルとして報告されています。Ts65DnおよびTs2CjeはApp遺伝子からMx1遺伝子までの15.6Mbの部分をトリソミーで持ち、Ts1CjeはSod1遺伝子からMx1遺伝子までの9.8Mbの大きさをトリソミーで持つマウスで、これらはモリス水迷路テストなどの行動学的試験で精神遅滞様の行動異常が確認されています。
今回、Ts1Cjeマウスにおいてモノアミンおよびそれらの代謝産物を調べ、セロトニンやドーパミンなど、およびそれらの代謝産物の量的異常を見出しました。さらに、当該マウスにおいて新規環境下における過活動や、他のマウスに対する接触回数の上昇(図1)などが観察され、ダウン症で見られる落ち着きのなさや人懐っこさを想起させる行動変化も見られました。これらの知見は、ダウン症における行動異常の背景にモノアミン代謝異常が存在することを示唆し、今後、本疾患の発症メカニズムの解明、治療法開発に寄与することが期待されます。