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術後疼痛重症化の新たな予測マーカーとしてのレジスチンへの期待
レジスチンの遺伝子多型や術前血中濃度が開腹術後の術後疼痛と関連する

東京大学医学部附属病院 住谷昌彦

Hozumi, J., Sumitani, M., Nishizawa, D., Nagashima, M., Ikeda, K., Abe, H., Kato, R., Kusakabe, Y., Yamada, Y.; on behalf of the Japanese Translational Research-Cancer Pain Research Group.Resistin Is a Novel Marker for Postoperative Pain Intensity.
Anesthesia & Analgesia. 128(3):563-568. DOI: 10.1213/ANE.0000000000003363 (2019)

https://journals.lww.com/anesthesia-analgesia/Fulltext/2019/03000/Resistin_Is_a_Novel_Marker_for_Postoperative_Pain.23.aspx


肥満は、術後疼痛のよく知られた危険因子です。また、肥満は動脈硬化、心筋梗塞などの原因となる全身の炎症状態を惹起するメタボリックシンドロームを引き起こします。脂肪細胞から分泌される生理活性タンパク質をアディポカインと総称しますが、脂肪組織が肥大化したり過形成したりすることによって、アディポカインの一つであるレプチンの分泌が増え、アディポネクチンの分泌が減ります。炎症を起こした脂肪組織では、マクロファージが活性化し、アディポカインの一つであるレジスチンをより分泌するようになります。これらの肥満に関連したアディポカインは、非特異的炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6など)の増減と密接に関連しています。

ヒトが保有する約30億の塩基対の配列には人種や個人間で異なる部分があり、1つの塩基だけが別の塩基に置き換わっているものを一塩基多型 (single nucleotide polymorphisms, SNPs)といい、ヒトの様々な生理機能の個人差や多様性を生み出すことに寄与しています。肥満だけでなく、非特異的炎症性サイトカインのSNPsやその血中濃度が術後痛に影響を与えることがこれまで報告されてきました。

そこで、我々は肥満が術後痛の重症化を引き起こす機序を解明することを目的に、3つの主なアディポカイン(レプチン、アディポネクチン、レジスチン)と2つの非特異的炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6)に焦点をあてることしにました。まず3つのアディポカインの遺伝子多型と術後痛との関係について調査しました。次に、これらのアディポカインと非特異的炎症性サイトカインの血中濃度が、術後痛に関連しているのかを調査しました。

大腸がんの開腹手術を行った患者の術後痛の重症度とレプチン、アディポネクチン、レジスチンの遺伝子多型との関連性の解析を行ったところ、レジスチン遺伝子の中の一つのSNPであるrs3745367が術後痛と有意に関連していることが明らかとなりました。1か所のSNPにおける塩基は通常2種類で構成されますが、アレル(対立遺伝子)の頻度によって、集団内の頻度が高いメジャーアレル、低いマイナーアレルに分かれます。また、SNPはメジャーアレルのみ持つ群(major allele homo)、メジャーとマイナーなアレルを1 個ずつ持つ群(hetero)、メジャーアレルのみ持つ群(major allele homo)に分けられます。今回の術後痛の疼痛強度の解析において、マイナーアレルのみを持つ群(minor allele homo)の患者は、メジャーアレルのみを持つ群(major allele homo)やメジャーとマイナーのアレルを1 個ずつヘテロ接合体で持つ群(hetero)の患者よりも術後痛の疼痛強度が低いことが明らかとなりました。

続いて、子宮がんや卵巣がんの開腹手術を行った患者の術前血液中のTNF-α、IL-6、レプチン、アディポネクチン、レジスチンの濃度を測定し、術後痛の重症度との関連性を解析したところ、レジスチンのみが有意に関連していることが明らかとなりました。

 これらの結果より、レジスチンの遺伝子多型や血中濃度を術前に計測することにより、術後痛の重症化を予測でき、より適切な術後疼痛管理に繋がることが期待されます。また、レジスチンが術後痛の重症化機序と関連していることから、レジスチンを標的として新しい鎮痛薬を創薬できる可能性があります。これまで肥満が術後痛を重症化させることが知られておりましたが、その機序は十分に解明されていませんでした。レジスチンと術後疼痛の関係性の解明は世界初の発見です。

本研究において、特に一塩基多型解析を先端モデル動物支援プロットフォームの生理機能解析支援によって明らかにすることが出来ました。


(図1)肥満(メタボリック症候群)におけるアディポカインや非特異的炎症性サイトカインが開腹術後創部痛の重症化を来す機序仮説

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