マウス視床下部外側野に投射する嗅皮質領域の発見
福井大学学術研究院医学系部門 村田航志、鹿児島大学医歯学総合研究科 奥野浩行(被支援者)、同志社大学研究開発推進機構 眞部寛之
Murata, K., Kinoshita, T., Fukazawa, Y., Kobayashi, K., Kobayashi, K., Miyamichi, K., Okuno, H., Bito, H., Sakurai, Y., Yamaguchi, M., Mori, K., Manabe, H.
GABAergic neurons in the olfactory cortex projecting to the lateral hypothalamus in mice.
Sci Rep. 9(1):7132 DOI: 10.1038/s41598-019-43580-1 (2019).
匂いの感覚は食欲をそそるなどの様々な生理的、心理的作用をもたらします。しかし匂いの感覚から脳はどのような神経メカニズムで摂食などの反応へとつなげているのかはまだよくわかっていません。そこで本研究では、マウスの嗅覚中枢神経回路から摂食行動に至る神経回路を調べるために、重要な摂食中枢の1つである視床下部外側野(lateral hypothalamus, LH)から逆行性に神経経路を標識する実験を行いました。神経細胞の軸索から取り込まれる蛍光色素付きコレラ毒素Bサブユニットや蛍光タンパク質を発現するアデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus, AAV)をマウス脳内に局所注入することで、注入部位に投射する神経細胞群が可視化されます。LHからの逆行性標識では、嗅覚中枢領域olfactory peduncleの後腹側部で神経細胞群の標識が観察されました。組織化学的解析の結果、通常のolfactory peduncleの投射ニューロンがグルタミン酸作動性の錐体型細胞であるのに対して、逆行性標識された神経細胞群はグルタミン酸脱炭酸酵素(glutamic acid decarboxylase, GAD65/67)を発現するGABA作動性であることがわかりました。GABA作動性ニューロンを含む領域を私たちは腹嗅核(ventral olfactory nucleus, VON)と名付け、従来のolfactory peduncle領域と区別しました(図1)。またVONニューロンは線条体ニューロンが発現するDARPP-32の発現が低く、腹側線条体の一部である嗅結節とも異なる脳領域でした。また改変型狂犬病ウイルスを用いてVONニューロンから経シナプス逆行性標識を行ったところ、VONニューロンは嗅球、梨状皮質をはじめとする他の嗅皮質領域、対角帯核、そして前頭前野からシナプス入力を受けることが明らかになりました。これらの結果は、VONニューロンは嗅覚系の入力と前頭前野からのトップダウン性の入力を統合し、GABA性入力をLHに送ることを示唆します。今後、VONの機能と嗅覚による食行動制御の神経メカニズムのさらなる理解が期待されます。