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神経細胞の膜電位オシレーションにKv11型電位依存性カリウムチャネルが関与することを解明

広島大学 大学院医系科学研究科 橋本浩一

Matsuoka, T., Yamasaki, M., Abe, M., Matsuda, Y., Morino, H., Kawakami, H., Sakimura, K., Watanabe, M., Hashimoto, K.
Kv11 (ether-a-go-go-related gene) voltage-dependent K+ channels promote resonance and oscillation of subthreshold membrane potentials. Journal of Physiology, 599, 547-569. doi: 10.1113/JP280342 (2021).
https://physoc.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1113/JP280342


神経細胞には、活動電位の閾値下の膜電位において、サイン波状の膜電位オシレーション(subthreshold membrane potential oscillation, STO)を示すものがあります。STOは神経細胞同士の同期的な活動などに重要な働きをすると考えられていますが、発生機序については不明な点が多く残されています。本研究では、STO発生に関わるメカニズムの一つとしてKv11型電位依存性K+チャネルに着目し、延髄の神経核の一つである下オリーブ核を主な研究対象として、膜電位振動の基盤となるresonance特性とSTOにおける役割の解析を行いました。

まずKv11チャネルをHEK293細胞に発現させ、ホールセル記録を行いました。通常のHEK293細胞では、周波数が0~40Hzの間で徐々に早くなるが振幅が一定の電流(chirp電流)を記録電極から与えると、電圧の振幅が徐々に小さくなる反応を示します(図A)。一方、下オリーブ核に発現が見られるKv11 channelのサブタイプの一つであるKv11.3を発現したところ、2〜6Hzの入力周波数周辺で電圧変化が大きくなり(図B左)、入力電流と出力電圧から算出されるインピーダンス(|ż| MΩ)の周波数依存性が山状の変化をするようになることが分かりました(図B右)。このことはKv11.3を発現させることにより、ある特定の周波数(resonant frequency)の入力を増幅して出力する、resonance特性が再現されていることを示しています。同様の結果は、下オリーブ核に発現が見られる別のサブタイプであるKv11.1の2つのsplice variant(Erg1a, Erg1b)でも確認されましたが、resonant frequencyはサブタイプにより異なる(Erg1a, 0.6〜0.8Hz、Erg1b, 2〜4Hz)ことが分かりました。

次にSTOを調べました。通常のHEK293細胞では膜電位は一定で周期的な膜電位振動はまったく観察されません(図C)。しかしKv11チャネルのサブタイプの一つを発現させるだけで、HEK293細胞に周期的な膜電位オシレーションが起こることがわかりました(図D(左)膜電位波形(右)power spectrum density (PSD)、 E, F(左)膜電位波形(中)左図黒線部の拡大(右)PSD)。膜電位オシレーションの周波数はresonance特性とほぼ同じであり、サブタイプにより異なる周期で振動しました。

最後にKv11チャネルが神経細胞内でも働いていることを確認するため、Kv11.3のノックアウトマウス(Kcnh7 KO)を「先端モデル動物作製支援プラットフォーム」のサポートをいただいて作成しました。Kcnh7 KOマウスの延髄の急性スライスを作成し、下オリーブ核ニューロンからホールセル記録を行いました。その結果、膜電位-30〜-60mVの比較的浅い膜電位において発生するresonance特性が消失し(図G)、STOが減弱する(図H)ことを見出しました。これらの結果は、神経細胞の比較的脱分極した膜電位で起こるresonance特性やSTOの発現にKv11チャネルが重要な働きをしていることを示唆します。

Kv11チャネルは脳の神経細胞のみならず心筋細胞などの体細胞にも発現しており、ある種の遺伝子疾患の原因遺伝子とも考えられています。本研究成果により、体の様々な部位でリズムの発生機序や病態の解明が進むことが期待されます。

図 (Matsuoka et al., J. Physiol., 599, 547-569. (2021)より改変)

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