神奈川県立がんセンター 大腸外科
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大腸がんと治療


1.大腸がんについて

大腸がんの疫学

日本での大腸がん罹患数および死亡数は著しく増加しています。2018年厚生労働省発表の「人口動態統計の概況」によると、平成30年の最新データでは、がんが死因の第一位であり、依然増加し続けています。

検診では40代から徐々に大腸がんが発見されています。

性別に経時的変化をみると、大腸がんによる死亡率は男性、女性ともに増加傾向を認め、男性では全がん種の第3位、女性では第1位となっています。

がんの死亡率年次推移(男性)

がんの死亡率年次推移(男性)
近年、男性では肺がんと大腸がん死亡率が増加しており、男性死因の第3位となっておりいずれ胃がんを抜く勢いである。
(平成29年我が国の人口動態より引用)

<参考:がん統計HPより>

部位別がん年齢調整死亡率の推移(主要部位・対数)男性1958~2015
2019年度大腸がん発生部位別頻度部位別がん年齢調整死亡率の推移(主要部位・対数)女性1958~2015年

大腸がんの発生部位

本邦における大腸がんの発生部位は、S状結腸32.5%、直腸21.0%、上行結腸15.6%、横行結腸9.9%、直腸S状部9.5%、盲腸6.5%、下行結腸4.6%、肛門管0.3%、虫垂0.1%の順であり、左側大腸に多く認められております。

神奈川県立がんセンターにおいては、2019年の統計で直腸S状部16.3%、直腸がん29.0%と全国集計に比べて多いことが特徴です。

2019年度大腸がん発生部位別頻度

大腸がんの症状

早期の大腸がんでは自覚症状がない事が多く、検診として施行する便潜血反応において陽性となり、大腸内視鏡を行う事により偶然に発見される(約2%)場合があります。逆に便潜血が陰性の場合は、大腸がんである可能性が低いだけであって大腸がんではないことを示すものではありません。下血や血便は早期の大腸がんにおいても出現する事があり、痔核などの良性疾患の症状と区別がつかない事があります。

大腸がんが進行すると、腸の通過障害を来たし、腹痛、便秘や下痢などの排便習慣の変化が生じる事があります。腫瘍の増大に伴い、出血や下血の頻度も増えてきます。大腸がんは肝臓、肺に転移をしやすく、肝転移に伴う黄疸や肺転移に伴う胸水貯留・呼吸困難などが出現する可能性があります。その他に、一般的な悪性腫瘍の症状として、体重減少を伴う事もあります。

症状が出現してきた場合には既に進行がんの可能性が高いため、早期がんの段階での発見・治療が重要と考えられます。

大腸がんの検査と診断

大腸がんの検査には、大腸がんの診断をつけるために必要な検査と、大腸がんのひろがりを調べ、進行度(ステージ)を決定し、治療方針を決定するための検査があります。

大腸がんの発見・診断のための検査としては、注腸検査、組織を採取し顕微鏡で観察して最終的ながんの診断をつける大腸内視鏡検査があります。早期の大腸がんの場合には大腸内視鏡で根治切除が可能な場合もあります。

大腸がんと診断され、大腸内視鏡で根治切除が困難な場合には外科手術が考慮されます。外科手術の適応を決めるための検査として、肝転移・肺転移・リンパ節転移・腹膜播種などを調べるためのCT検査や、肝転移を調べるための腹部超音波検査、MRI検査などが一般的に行われています。また、近年ではPETCTによるリンパ節診断、遠隔転移診断も行われています。当院ではPETCTも施設内にあるため、ほとんどすべての検査が可能となっています。

内視鏡検査
内視鏡検査:肛門から内視鏡を挿入し直接腫瘍の組織を採取して顕微鏡でがんであることの診断をします。
注腸
注腸:肛門から空気や造影剤を注入しレントゲン撮影します。がんが大腸のどこの部位にあるかを診断します。
CT検査
CT検査:大腸がんはリンパ節、肝、肺に最も転移しやすい腫瘍です。CT検査ではこれらの転移の有無を確認します。
PET
PET:主に大腸がんの病気の広がりを確認します。

大腸がんの病期診断(ステージ分類)

大腸がんの進行度(ステージ)は、大腸がん取り扱い規約で規定されていて、

  1. 深達度(がんが腸の壁にどのくらい深く入り込んでいるか)
  2. リンパ節転移(周囲のリンパ節にがん細胞がとんでいるか)
  3. 遠隔転移(肺、肝臓、腹膜などの遠くの部位にがんが広がっているかどうか)

の3つの要素で決定されます。

ステージ 0   がんが粘膜内にとどまっている
ステージⅠ   がんが筋肉の層にとどまっている
ステージⅡ   がんが筋肉の層を越えている
ステージⅢ   リンパ節転移がある
ステージⅣ   肝臓、肺、腹膜などの遠くの臓器にがんが広がっている

検査の結果、決定された進行度に応じて治療方針が決定します。

大腸がんの進行度

2.手術について

手術

近年、医療の発展とともに大腸がんに対する手術療法は変化してきました。その代表的なものが主に結腸がんを対象とした腹腔鏡手術と肛門に近い直腸がんに対する肛門温存手術です。腹腔鏡手術により患者さんの手術負担は軽減し、肛門温存手術により永久人工肛門造設の頻度が減少してきています。ただし、両者の手術は全ての患者さんが受けられるものではなく、適応が限られていますので主治医と相談してください。

手術の方法 内容
開腹手術 病変の存在部位と切除範囲により開腹創の位置が決まります。がんから流出していくリンパ節を一緒に切除(郭清)し、その後に腸を吻合します。吻合は病変の場所により、器械吻合と手縫吻合を使い分けています。手術中に触診による腹腔内検索ができる、微妙な腹膜播種を見つけることができるなどの利点があります。
腹腔鏡手術 カメラや鉗子を挿入するために腹部に4~5ヵ所、ポート(筒)を配置して、カメラ(腹腔鏡)によるテレビ画像を見て手術操作を行います。当院では切除範囲や吻合方法は開腹手術と同様です。手術後の傷が小さいため、術後に傷の痛みが少ない、患者さんの体へのストレスが少ないという利点があります。
経肛門的手術 肛門に近い病変で、内科での内視鏡による治療が難しい病変の場合に行います。肛門から腫瘍を切除しますので、腹部に傷がありません。
ロボット手術 手術の創は腹腔鏡同様に小さいキズで行えます。従来の腹腔鏡手術では操作が困難であった、骨盤の深い部位の直腸癌に適しています。今までの腹腔鏡手術に比べて、拡大視効果があり排尿や性機能に大切な神経の1本1本が視認でき損傷しないで神経温存することが可能、3D画面での手術が可能となり手術自体の質が向上、術者の手ブレ回避による適切な腫瘍切除が可能などたくさんのメリットがあり将来はこの手術が主流になると思われます。

腹腔鏡下手術(低侵襲手術)

1992年に本邦において腹腔鏡下手術が最初に行われて、30年弱が経ようとしています。この期間に手術器具の発達、外科医の技術向上などとともに、従来の開腹手術と同等の治療成績にせまる結果が出るようになってきました。

腹腔鏡手術は開腹手術とは違う技術が必要であり、様々な施設から腹腔鏡によるトラブルも報告されています。当科では、患者さんへ開腹手術および腹腔鏡手術のそれぞれの利点、欠点および国内外の第3相試験結果(科学的な根拠)を直接患者さんへ提示しながらどちらの手術方法も選べるようにしています。

大腸がんの手術は、従来は開腹手術が多く行われ、日本における開腹手術の治療成績は世界でトップクラスでした。この治療成績を出すためにはがんの進展を考慮したしっかりしたリンパ節郭清を伴うがんの根治切除が必要であったと思われます。腹腔鏡手術におけるがんの切除範囲やリンパ節郭清の手術の質は、開腹手術よりも腹腔鏡手術の方が施設間差がうかがえます。そこで医師の手術の質に関して一つの基準となるのが日本内視鏡外科学会の技術認定医の取得の有無です。認定が無い医師でも手術技術が高度な方々もおりますが技術認定医が手術にはいるほうが確率として高度な手術技術を提供されうると思われます。

腹腔鏡下手術

内肛門括約筋切除(ISR:intersphincteric rsection:肛門温存手術)

これまで、下部直腸がん(肛門からの距離が4~5cm以内に腫瘍が位置するような、肛門から近い直腸がん)に対しては、永久的な人工肛門の造設が必要な直腸切断術が行われてきました。

しかし近年、手術手技の進歩により、排便機能を残せる(人工肛門を回避できる)肛門温存術が行われるようになってきました。

この手術を内肛門括約筋切除(ISR: intersphincteric resection)と言いますが、当院でも積極的に取り組んでいます。排便機能をつかさどる筋肉は、内肛門括約筋と外肛門括約筋の2つありますが、ISRでは、内肛門括約筋のみ切除し、外肛門括約筋を残します。腫瘍の位置やがんの大きさ等により、直腸を切離する肛門からの距離や内肛門括約筋の切除範囲が変わります。内肛門括約筋が残る量が多いほど、術後の肛門機能は良好となります。ISRの際には一時的な回腸人工肛門を造設しますが、術後3~6ヶ月程度を目安として、人工肛門の閉鎖を行っております。

また、外肛門括約筋まで病変が広がっている場合にはISRの適応はありません。ISRの適応かどうか、慎重に術式を決定する必要があります。患者さんには十分に説明し、相談したうえで手術を行っております。

内肛門括約筋切除

ロボット手術

2018年に直腸がんに対するロボット手術が日本において保険適応となりました。

ロボット手術のメリットは繊細で精密な手術が可能ということです。多関節機能付きの鉗子が使用できるため直腸がんを切除する際の手術の質が上がります。3Dシステムと拡大視効果あり、とくに排尿機能や性機能を司る自律神経の同定が非常に容易になるため神経をキズつけることなく手術が遂行され、最終的に術後の患者さんの生活の質が向上します。

ロボット手術がどのような患者さんに特に適しているのかはいまだ不明ですが、海外の化学的な検討を行ったROLLAR試験などによると男性(性機能温存希望するかた)、肥満、下部直腸がん手術ということになりそうです。

日本においてはロボット手術が保険適応となりましたので、患者さんの医療費の増加はありません。腹腔鏡や開腹手術と同じ費用で受けることができます。


3.化学療法(抗がん剤治療)について

大腸がんの化学療法には、①進行再発大腸がんに対する化学療法と、②大腸がん切除術後の補助化学療法に大きく分けられます。また、投与方法としては、経口内服薬と点滴(注射薬)によるものがあり、化学療法の種類によっては、内服と点滴を組み合わせたものもあります。

内服の場合も点滴が必用な場合も、基本的に外来で行います。点滴を受ける場所は、外来化学療法室となります。外来化学療法室は50床あり、プライバシーの確保はもちろんのこと、患者さんに少しでも快適に治療時間を過ごしていただけるよう配慮しております。

化学療法の治療内容や治療期間などについては、患者さんにより異なりますので、詳細は担当医にお尋ねください。

外来化学療法室1
外来化学療法室1
外来化学療法室2
外来化学療法室2

進行再発大腸がんに対する化学療法

手術の適応のない(切除不能な)進行大腸がんや大腸がん術後の再発の方に対して行う化学療法は、がんを小さくして症状コントロールしたり、切除可能な状態にして根治手術を行う目的と、がんの増大を遅延させて生存期間の延長を図る目的で行う場合があります。

進行大腸がんについては、抗がん剤のほかに分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤などの組み合わせで治療しますが、それぞれの患者さんの病期や遺伝子のタイプなどによって使用できる薬剤が変わります。当科においては、ほとんどの患者さんに遺伝子検索を行い、遺伝子のタイプにあったより良い治療を選択します。

大腸がん術後の化学療法(術後補助化学療法)

術後補助化学療法は、大腸がんに対して根治切除が行われた患者さんに対して、再発を抑制し予後を改善する目的で術後3~6ヶ月間行われます。

病理組織検査結果がわかり、最終的な進行度(ステージ)が決定した段階で、担当医から適応のある方に対して説明をさせて頂きます。基本的には、ステージ3の方を対象としていますが、再発リスクの高いと考えられるステージ2の方も含まれます。


4.放射線療法について

大腸がんに対する放射線療法は、①直腸がんの局所再発に対するもの、②手術前に照射し病変を縮小させ切除率を向上させるものに分けられます。

放射線療法は、当科と連携をとりながら放射線科医師が行っております。治療目的により、照射領域、照射量、治療期間を含めた治療計画を立て、それをもとに外来通院にて照射します。

また、神奈川県立がんセンターでは、平成27年度に重粒子線治療施設「i-ROCK(アイロック)(「ion-beam Radiation Oncology Center in Kanagawa」神奈川県の放射線腫瘍センターの重粒子線治療)を開設しました。重粒子線治療の特徴としては、からだ深部のがんに集中して照射することができ、従来の放射線療法では治りにくい腫瘍に対しても効果があるとされています。大腸がんの領域では、直腸がんの局所再発などが対象となっていくと思われます。

注意)現在は、まだ直腸がんに対する重粒子線治療は行っておりません。



 

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