神奈川県立がんセンターは、神奈川県のがん診療連携拠点病院として、神奈川県内のがん診療の中核を担って参りました。その中において、大腸外科は大腸がんの根治性を最重視するとともに、術後の生活の質も考慮し、個々の患者さんのニーズに答えるべくバランスのよい治療(テーラーメイド治療)を心がけております。
当科では、手術から術後の補助化学療法、再発後の手術療法、化学療法、放射線療法までを含めた大腸がんに対する総合的な診療(集学的治療)を行っており、より患者さんに寄り添ったあきらめない医療を提供しております。
また、がんセンターというがん診療に対する高い専門性を生かし、一般総合病院では提供できないような最先端医療の提供も可能です。直腸がんに対する究極の肛門温存手術(永久人工肛門の回避)、ロボット手術、免疫抗体治療、遺伝子パネル検査、がん家系の精査など他では行えない治療も可能です。
当科ではセカンドオピニオンも随時受け付けております。当科でのセカンドオピニオン受診対象は、大腸がんの手術療法の内容(肛門温存手術、腹腔鏡手術、ロボット手術、術前化学放射線療法)、大腸がん術後再発に対する手術療法、放射線療法、化学療法、他、現在当科で行っている臨床試験および治験の状況などの相談を受け付けております。
大腸がんと突然診断されたら、皆さんはどのように考えるでしょうか。最初はパニックになって医師の言葉も理解できないこともあろうかと思います。そして自身ががんであることを受け入れた後は、とにかく早く治療したい、手術してすっきりしたいと考えるのではないでしょうか。大腸外科では、初診から2週間以内に検査を終了し手術を行っています。緊急性の高い患者さんに対しては初診から3日以内に手術を行っています。がん専門病院の中でも比較的迅速な治療を受けることができます。
大腸がんに対する手術の質は、各施設によって様々です。また当院のような多くの大腸がん患者さんを治療しているハイボリュームセンターでは手術後の生存できる確率が高い、手術後の合併症(トラブル)が少ない、在院日数が短いという報告が世界的になされています。また外科医も十分な経験があることが、患者さんを治すことにつながります。当科には医師になりたての研修医はいません。様々な総合病院で外科医として鍛錬してきたスタッフが集まっていますので安心して治療を受けることができます。
直腸がんに対する患者さんにやさしい低侵襲手術として腹腔鏡手術が全国で行われています。腹腔鏡手術はお腹のキズが小さく術後の痛みも少なくすぐれた治療ですが、近年はさらに進化したロボット手術が行われるようになり神奈川県立がんセンター大腸外科でも行っています。ロボット手術のメリットは、キズが小さいだけではなく、細かい操作が可能でより正確な手術が行えるので骨盤の神経を傷つけることが少ないといわれています。骨盤の神経は、排尿機能(尿を出す、尿を溜める、尿意)、性機能(男性の勃起、射精機能)、排便機能(便のもれなど)を司ります。これらをキズつけないことで手術後の患者さんの生活の質がさらに上がることが期待されます。
大腸がんの治療の中心は手術です。しかし肉眼的にがんをすべて患者さんから取り除いても再発する方もいますし、治療前にすでに肝臓、肺などに転移を来している患者さんもいます。このようなケースの場合は、薬物療法として抗がん剤などを使用します。抗がん剤には特別な副作用があり患者さんの治療中の生活の質を下げることがあります。この副作用を抗がん剤の利点と天秤にかけながら患者さんとともに治療を行うことが大切であり、そのためにはがん薬物に関して精通している医師であることが必要です。大腸外科の医師は進行大腸がんに対する薬物療法に精通しており安心して抗がん剤治療を受けることができます。
大腸がんの治療の中心は手術ですが、全身的に手術に耐えることができない患者さんや手術を拒否される患者さんには放射線治療が適応となることがあります。特に直腸がんに対しては放射線治療が世界的に標準治療に入っていますので、これらの治療を希望される場合は大腸外科医師に相談することができます。またほかの病院にはない重粒子線治療も当院にはあります。適応となる直腸がん術後の患者さんがいましたら大腸外科で治療を進めていくことができます。
大腸外科は様々な研究施設や研究グループとの強いパイプを持っています。よって大腸外科で治療をうけている患者さんは、最も早く最先端の治療に結び付く研究や治験などに参加することができます。医療に関する研究は急速に進歩しています。参加した研究によって判明した新たな知見や治療がありましたら患者さんへお伝えすることができます。 ただし、他の病院で手術、抗がん剤などの治療を受けておられる患者さんが途中で当科に受診された場合は、研究に参加できない場合もあります。最先端治療をお望みの患者さんは、できれば大腸がんと診断されたら大腸外科での治療を受けることをお勧めします。
神奈川がんセンター大腸外科は大腸がん治療のスペシャリストの集まりです。今まで他の病院で余命宣告されて当科に来られた患者さんは何人もおられます。しかし高度な手術と精通した抗がん剤のマネージメントを行うことで、余命宣告されてしまった患者さんを根本的に治して体にがんのない状態で元気に暮らしていただいています。これを奇跡や偶然といわれる方もおられましたが奇跡は何回も起こるものではありません。我々は余命宣告からの生還は必然と考えています。
がんセンターなど専門病院では手術などを行った後の外来通院を他の病院で行うようにされてしまうことが多くあります。神奈川県立がんセンターの大腸外科では患者さんを見放さずに当科に通院していただいています。治療を受けた病院でフォローを受けられることは患者さんにとって精神的にも不安を払拭するものと考えています。
術式 | 2021年 | 2022年 |
結腸切除術 (開腹/腹腔鏡) |
119 (40 / 79) |
105 (31 / 74) |
直腸切除術・切断術 (開腹/腹腔鏡) |
120 (18 / 102) |
124 (15 / 109) |
肛門温存手術(ISR) (開腹/腹腔鏡) |
3 | 3 |
ロボット支援下直腸切除術 | 15 | 20 |
骨盤内臓全摘術 | 3 | 3 |
肝転移切除術* | 25 | 19 |
結腸がん | 直腸がん | |||
当科 | 日本全国* | 当科 | 日本全国* | |
StageⅠ | 91.5% | 92.3% | 96.6% | 90.6% |
StageⅡ | 87.2% | 85.4% | 85.6% | 83.1% |
StageⅢa** | 86.0% | 80.4% | 86.0% | 73.0% |
StageⅢb** | 68.0% | 63.8% | 56.3% | 53.5% |
StageⅣ | 29.1% | 19.9% | 30.0% | 14.8% |