全国でリモートワークの機会が増加し,デジタル機器を使う時間が増えた方も多いと思います。また,対面で簡単にすむようなコミュニケーションもデジタル機器に頼らざるをえなくなっています。このような状況ではどのようなストレスを抱えやすいのか,以下に海外の記事を翻訳してまとめています。常時デジタル機器を手放さない生活習慣や,ソーシャルメディアから受ける影響には注意が必要かもしれません。

デジタル時代のストレスと不安――テクノロジーのダークサイド――

テクノロジーはどこにでもあり、携帯電話は日常生活に欠かせないものとなっています。Ofcomの2017年の調査によると、英国の成人の94%が携帯電話を所有しており、そのうちの4分の3以上がスマートフォンです。また、携帯電話はもともと外出先での通話を容易にするために設計されていますが、デロイト社のモバイル消費者調査(2016年)によると、スマートフォンユーザーの3分の1は、実際には従来の音声通話を全くしていないことが示唆されています。その代わりに、私たちの携帯電話はモバイルコンピュータとして使用されており、メールのチェック、オンラインショッピング、ニュースへのアクセス、音楽やビデオのダウンロード、ソーシャルメディアへのアクセス、食べ物の注文、地図の閲覧など、用途は多岐にわたっています。私たちは文字通り、常にポケットの中にインターネットを入れており、ボタンを押すだけでほぼすべての質問の答えを見つけることができるかのようです。しかし、技術的な機能性とアクセスのこれらの進歩は驚くべきものですが、デメリットもあります。

私たちが携帯電話に頼りすぎつつある、あるいは依存しつつある可能性があるという証拠があります。あなたは携帯電話を忘れてしまったり、どこかに置いてきてしまったりしたのに気づいたらどのように感じるでしょうか。落ち着かない気持ちになりませんか?実際、最近の研究によると、携帯電話から離れたときに大きなストレスや不安を感じる人もいますし、依存症になったときに見られる症状に匹敵する禁断症状を示すこともあります。スマートフォンやマルチメディア技術の多用が、私たちの脳の構造や機能を物理的に変化させている可能性があることを示す研究もあります。

それでは、新たなテクノロジーの一体どんな側面が我々を不安にしたりストレスを感じさせたりしているのでしょうか?トップ5の問題として考えられるものを紹介します。

1.ひっきりなしの通知で気が散る

通知のしつこいビープ音、振動、点滅があると絶えず気が散り、携帯電話をチェックするために作業を中断することになります。実際に、イギリスの調査によると、スマートフォンのユーザーは1日平均85回もロックを解除しており、1日に約5時間使用していることがわかっています。そのため、注意を集中させることができず、物事を適切に記憶に定着させることができないので、ますます物覚えが悪く思えてしまい、それ自体が苦痛になることがあります。これは、スマートフォンやインターネットの多用と、注意力、記憶力、学習能力などの認知能力の低下との間に相関関係があることを示す研究によって裏付けられつつあります。

2.睡眠の乱れ

私たちの多くは就寝時に携帯電話を使っています。寝ようと思ってベッドに入っても、明日の天気など無害なことを調べるために携帯電話を「ちょっとだけ」チェックしたくなります。そして1時間後には、YouTubeでランダム再生された動画を見てしまっていたりします。眠るべき時に携帯電話を見ていると、脳を過剰に刺激して、くつろげず、スイッチを切るのが難しくなり、さらに画面からのブルーライトにさらされてしまうというダブルの悪影響があります。ブルーライトは、メラトニンの生産を抑制し、これによって概日リズム(すなわち睡眠覚醒サイクル)が妨害されてしまうことが研究によって示唆されています。そうなると入眠や睡眠の継続は困難になります。残念ながら、睡眠不足はストレス耐性を低下させ、不安やストレスを高める傾向があります。

3.ワーク・ライフバランス

昔は仕事の終わりと家庭生活の始まりの間に明確な境界線があることが多かったのですが、今ではこの境界線は非常にグレーなものになっています。ほとんどの人が仕事のメールを携帯電話に入れており、常に連絡が取れるようになっています。これでは、本当の意味で仕事から離れてリラックスすることができません。

4.Fear of Missing Out(FOMO;見逃したり、取り残されたりすることへの恐れ)

FOMOとは、自分が何かを見逃したり、何かから取り残されたりすることへの恐れから生じる社会的な不安の一種です。それはイベントかもしれませんし、仕事や社会的な機会、コミュニケーション、つながりのきっかけ、あるいは格好いいもの、素敵なものを見たりそれに関わったりすることかもしれません。だから、私たちは「万が一」に備えて、つながりを持ちたいのです。あなたの友人や家族に、ソーシャルメディアから離れることを考えたことがあるかどうか聞いてみてください。私たちと同じように、周りの人もおそらくそうしようと考えたことがあります。しかし、大多数はおそらくFOMOのために、ソーシャルメディアから離れないという決断をしています。皮肉なことに、私たちはより多くのつながりがあればあるほど、FOMOを経験する可能性が高くなるかもしれません。

5.社会的比較

私たちは他の人と自分自身を比較せずにはいられません。社会的比較理論に基づくと、私たちが自分自身についてどのように考え、感じているかを評価するために、私たちはこのような比較を行うと考えられます。ソーシャルメディアは、その性質上、見かけ上の社会的成功の指標として容易に用いられる情報(例えば、フレンド数、「いいね」数、「シェア」数、フォロワー数など)にあふれており、社会的な比較を促します。これらの指標はそれ自体問題になりえます。なぜなら、私たちが投稿したコメントや写真に十分な「いいね」がつかなかったり、または誰かが私たちよりも多くの「いいね」をもらったり、フレンドが多かったりすると、私たちは劣等感を感じてしまうことがあるからです。さらに、私たちは現実の生活すべてをソーシャルメディアに投稿するわけではありません。これは、私たちは他の人々の生活のうち、編集を重ねた「名場面」だけを見てしまいがちであることを意味します。そうなると、実際には誰もが同じように浮き沈みを経験しているにもかかわらず、他の人は自分よりも刺激的で、完璧で、面白い人生を送っているという誤解をしてしまいかねません。そして、さらにネガティブな社会的比較をしてしまいやすくなり、私たちの健康に深刻な影響をもたらすかもしれません。

*以上の内容は英国オープン大学の教材を翻訳したものです。日本国内においてわかりにくい表現などは意訳されていることがあります。原文や紹介されている研究論文の出典を確認したい方は下記のURLからご覧ください。

“Stress and anxiety in the digital age: The dark side of technology” Written by Gini Harrison & Mathijs Lucassen. An OpenLearn chunk used/reworked by permission of The Open University copyright © (2019).

https://www.open.edu/openlearn/health-sports-psychology/mental-health/managing-stress-and-anxiety-the-digital-age-the-dark-side-technology

訳:前田 駿太  日本ストレスマネジメント学会事務局次長(東北大学)

 

デジタル機器の利用に伴うストレスとどのように付き合っていけばいいのか,以下に海外の記事を翻訳してまとめています。デジタル関連ストレスに悩まされている方は,記事を参考にデジタル機器から離れる時間を意識的に作ったり,ソーシャルメディアの利用方法を見直したりするのもいいかもしれません。

デジタル関連ストレスのマネジメント

デジタル関連のストレスを回避するためにはどうすればいいのでしょうか?ここでは、デジタル時代の健康を管理するための大事なヒントをいくつかご紹介します。

1.「デジタル・デトックス」をする

1時間でも、1日でも、1週間でも、それ以上でも……時間を見つけて、デバイスのスイッチを切り、ソーシャルメディアから離れるようにしましょう。少なくとも、通知をオフにして、スマートフォンを別の部屋に置いて寝るか、機内モードにして寝るだけでも、ポジティブな変化が見られるかもしれません。たとえば、最近の研究では、寝室でのスマートフォンの使用を制限すると、睡眠の質が向上し、幸福度と生活の質が向上することがわかっています。もっとチャレンジしたいという方は、ソーシャルメディアを大幅に休んでみてください。英国心理学会は、Facebookから5日間の休憩を取ることでコルチゾールレベル(ストレスの生理学的マーカー)を減らすことができるという記事を掲載していますし、他にも心理的健康を向上させるという研究があります。

2.スマートフォンを使う場面を明確に決める

友人や家族と一緒にいるとき、テレビを見ているとき、食事をしているときなどでさえ、多くの人は携帯電話を使用しており、携帯電話と実生活の経験それぞれに注意を向けています。しかし、研究によると、ありのままに今この瞬間に起きていることに気づきを向けることが、私たちの健康に良いことがわかっています。ですから、今をよりよく生きるために、いくつかの基本的なルールを決めてみましょう。たとえば、夕食の席ではスマートフォンをもたない、友人と会うときには機内モードにする、決められた時間帯(22時~8時など)にはメールをしない、などのルールは、スイッチを切って今この瞬間を過ごすのに役立ちます。

3.仕事と家庭生活のバランスを再調整する

いつでもメールをポケットで受信できるからには、一日の仕事の開始時間と終了時間に境界線を設けることが重要になります。メールの通知をオフにして、一日のうち特定の時間帯だけメールをチェックするようにしてみましょう。最後にメールをチェックする時間を決めて、直前に返信をする時間を決めて、それ以外の時間は朝まで待つようにしましょう。人にどう思われるか心配な場合は、メールをチェックする時間帯を説明する自動返信を設定してみてはいかがでしょうか。これは、人々が自分の健康管理のために利用している、ますます一般的な習慣になりつつあります。

4.ソーシャルメディアのフィードを整理する

今度ソーシャルメディアを使う時は、自分のフィードにある様々な投稿を見て、あなたがどう感じているか、自分に正直になってみましょう。誰かの写真、コメント、またはツイートがあなたを嫌な気分にさせている場合は、非表示にするか、フォローを解除してもいいかもしれません(たとえ彼らがあなたの親友であっても、実生活で素晴らしいからといって、オンラインでも同じとは限りません)。逆に、積極的にいい気分になれるものを探してフォローしてみましょう。それは健康増進のためのニュースかもしれませんし、教育的な記事や、インスピレーションを与えてくれる名言、お気に入りのコメディアン、あるいは愉快な猫の動画かもしれません。最近の研究では、ソーシャルメディア上でのネガティブな交流や経験は抑うつや不安の高さと関連している一方で、ソーシャルメディア上でのポジティブな交流や経験は一貫して抑うつや不安のレベルの低さと関連していることがわかっています。悪影響を最小限に抑えるとともにポジティブな影響を最大限に高めることも重要です。

5.健康のためにテクノロジーを活用する  訳注)

身体的、精神的健康を促進するために開発された、文字通り何百ものアプリがあります。不安やストレスへの対処においては、マインドフルネス(今この瞬間に気づきを向け、価値判断をせずに思考や感情を観察するための瞑想療法)、または認知行動療法(CBT;不適応的な思考や行動、信念に気づいてそれに立ち向かうのに役立つ)、または2つの組み合わせに基づくものを探すのがいいでしょう。

しかし、何百ものアプリがあるならどれを選べばいいのでしょうか?英国では現在、健康アプリを認定する公式のシステムはありませんが、最近、NHS推奨のテストライブラリが立ち上げられました。そしてORCHA UKは、正しい方向性を示すことができるかもしれないメンタルヘルスアプリの検索可能なレビューをまとめました。しかし、あなたが見つけたアプリが有効かどうかを知りたい場合、最良の方法の1つは、自分で少し調べてみることです。Google Scholarでアプリの名前を検索して、その有効性についての研究が行われているかどうかを確認してみてください。メンタルヘルスと健康のアプリは(質の差はあれど)たくさんあります。なので、その質と効果を裏付けるデータがあるアプリを探してみてください。

訳注)主に英国における状況について説明した内容であるため,必ずしも日本国内の状況にあてはまるわけではないことにご留意ください。

*以上の内容は英国オープン大学の教材を翻訳したものです。日本国内においてわかりにくい表現などは意訳されていることがあります。原文や紹介されている研究論文の出典を確認したい方は下記のURLからご覧ください。

“How to manage the digital-related stress of technology” Written by Gini Harrison & Mathijs Lucassen. An OpenLearn chunk used/reworked by permission of The Open University copyright © (2018).

https://www.open.edu/openlearn/health-sports-psychology/mental-health/how-manage-the-digital-related-stress-technology

訳:前田 駿太 日本ストレスマネジメント学会事務局次長(東北大学)