日本ストレスマネジメント学会
News Letter Vol.24

新年、明けましておめでとうございます。年明けと共に、心なしか日中は晴れやかな青空を目にすることが増えました。本年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。
昨年は、記念すべき第20回学術大会・研修会や日本ストレスマネジメント学会認定ストレスマネジメント®実践士のスタートなど、節目とともに新たな一歩を踏み出した年でした。当日、学会に参加された方も、そうでない方も今一度、本号にて関連のトピックスをご覧いただければと思います。

本号は、以下の内容でお届けいたします。

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巻頭言:学会設立20周年に際して―ストレスマネジメント教育の制度化に向けて

顧問 冨永 良喜(兵庫県立大学)

2022年11月5日・6日、久留米大学にて第20回学術大会・研修会が久しぶりに対面で行われました。山田冨美雄座長のもと20回大会記念シンポジウム「ストレスマネジメント学会の果たすべき役割とは?-未来を切り開くための研究と実践-」が開催されました。島井哲志さんはストレス不安研究国際会議に参加した経験やポジティブ心理学におけるストレスマネジメントの国際的な研究動向について話題提供をされました。橋本頼仁さんは本学会事務局に関わった経験と教員経験からストレスマネジメントの役割について話題提供をされました。本会理事長の嶋田洋徳さんは本学会が研究者と実践者が相互協力しながら活動を行ってきた経験とストレスマネジメントの5つの実践領域部会(教育、災害支援、産業労働、医療、ライフスタイル)での制度の構築も含めた話題提供をされました。私は教育でのストレスマネジメント教育の制度化について話題提供をしました。ここでは、ストレスマネジメント教育の制度化による期待される効果と、制度化に向けて、いつまでに何をすべきかを述べます。

1 ストレスマネジメント教育の制度化による期待される効果

(1) 小学生の暴力の抑止

小学生の暴力が2015年くらいから徐々に増加して今日にいたっています。児童の暴力に苦しんでいる学校から「ストレスマネジメントによる心の健康授業」の依頼が増えてきました。私は必ず担任と協働で授業を行うようにしています。授業の指導案はパワポで構成し、担任が発問し、児童が挙手して、担任が指名し、発言を私が板書します。その授業を契機に、児童の暴力がとまったとの報告もあります。小3以下では、「ストレス」という言葉を使わずに、表情絵を使い、出来事、気もちとからだ、くふうと表記して内容はストレスマネジメントを実践していきます。怒りは悪いものではない、それをどう取り扱うかであることを、お湯を喩えにして、子どもたちに説明し、怒りを自分で和らげる体験と怒りを自他尊重の表現に変える体験を提案しています。小学低学年の授業の感想に「イライラを自分で小さくできるってしらなかった」との記載が多くみられます。

(2) 中高生の自傷や自殺の抑止

つらい気分や不快な記憶の想起への対処としての自傷によりβエンドルフィンが分泌し、つらい気分が和らぐことがわかっています。しかし、繰り返すことで効き目が弱くなり、傷が深くなり自殺につながるリスクが高まっていきます。自傷に代わる自分を傷つけない対処法を学ぶことは、自殺の抑止につながるでしょう。また、出来事(ストレッサー)が感情(うつ気分など)や行動を惹き起こすというより、思考(心のつぶやき)が感情や行動を惹き起こすことを小学高学年から学べば、他のつぶやきはないだろうかと考える習慣が身につき、結果として、うつの抑止につながるでしょう。

(3) スポーツや学業向上

ストレスマネジメント授業案には、試験や試合に活用できるメンタルトレーニングもあります。小学低学年から、「緊張したときどうする?」という授業を経験すれば、試合や発表で自分の実力を発揮でき自己肯定感も高くなっていくでしょう。また、中学生になれば認知的対処として一流選手が活用している目標達成シートを授業で経験すれば、より自分がなりたい自分に近づくことができるでしょう。担任教師が道徳の授業をするように、中学でも保健体育教師だけでなく、担任がストレスマネジメント授業をスクールカウンセラーや養護教諭と協働で行えば、科学的なトレーニングの方法と視点を教員自身が身につけることができます。

(4) 教員のメンタルヘルスへの対応力の向上

ストレスマネジメントや心のケアの教員研修をいくらやっても効果は乏しいです。しかし、教員が「心の健康授業」を実践すると、心のケアの力量が高まります。岩手県教育委員会の心のサポート・スーパーバイザーを10年間務め、スクールカウンセラーのスーパービジョンと教員と協働の心のサポート授業を毎月実践してきました。被災県の教員を対象にした調査研究では、「ストレスマネジメント授業経験なし(154名)群」と「1-4回経験あり(306名)群」と「5回以上経験あり(186名)群」は心のケア効力感得点(「つらい体験をしたあとに、その出来事と関連のある安全な刺激(トリガー)を強く避け続けることは心の健康にとってよくないことを子どもに説明できる」など5項目)に有意差が認められ、経験回数が多いほど、心のケア効力感得点が高いのです。また、教員がストレスマネジメント授業を実践することで、教員自身のメンタルヘルスにも役立つかもしれません。

2 生徒指導提要(改訂版)と次期学習指導要領改訂

 2022年12月文部科学省は「生徒指導提要(改訂版)」を刊行しました。不登校、暴力、自殺の増加に対応すべく課題別未然防止教育を強く打ち出した画期的な内容です。しかし、未然防止教育を実践する授業の枠が極めて少ないです。道徳の授業の活用が明記されたのは「いじめ」のみで、暴力・自殺については実践する授業の枠がほとんどありません。義務教育9年間で、道徳は314時間、心の健康は小5と中1の計7時間です。被災地でのストレスチェックを活用した心のケア授業は道徳の教科化で原則道徳の時間にはできなくなりました。2017~2019年に改訂された学習指導要領は全面実施(小学校2021年・中学校2022年・高校2023年)されたばかりですが、すでに次期2030年の改訂作業が動いています。2024年に中教審へ諮問し2027年に改訂される予定であり、2023年までに「文部科学省内でPDCA各教科調査官と担当課で検証」 (注1) 、そのため文部科学省に提言するのは本年がタイムリミットのようです。そして、日本医師会はすでに文部科学大臣に「健康教育が極めて重要であり、次期学習指導要領改訂も見据え、医療界と教育界が連携して新たな健康教育を推進していく必要がある」と提言しています (注2) 。2020年学習指導要領改訂の骨子は「学習指導要領において示された資質・能力の育成を着実に進めることが重要であり、そのためには新たに学校における基盤的なツールとなるICTも最大限活用しながら、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく育成する『個別最適な学び』と、子供たちの多様な個性を最大限に生かす『協働的な学び』の一体的な充実が図られることが求められる。また、その際にはカリキュラム・マネジメントの取組を一層進めることが重要とされています」(注3) であり、次期の改訂でも「個別最適な学びと協働的な学び」の一体的な充実は変わらないでしょう。

3 本学会ができることは

(1) ICT活用のストレスマネジメントの個別最適な学び構築

本学会はコロナ禍でストレスを学ぶコンテンツを発信してきました。今後、子どもが自分の興味関心からICT活用して学べるツールの開発とAIカウンセリングにつながるシステム構築が求められます。

(2) 学会や職能団体からの提言

心理学や心理職の団体から、ストレスマネジメント教育を含む心の健康授業が小1から高3まで年間10時間~15時間確保でき、担任がスクールカウンセラーや養護教諭と協働で心の健康授業をすることで期待される効果を明示して提言することです。

(3) 議員への働きかけ

日本の子どもたちが、真に、心豊かに、幸せを実感できる日々を送ることができるように、子どもの声を日々聴いている教員やスクールカウンセラーや研究者が声をあげ、身近な議員に訴え、次の学習指導要領改訂では、小1から高3までの全学年でストレスマネジメント教育を取り入れた心の健康を学べる日本にしましょう。

(注1)https://www.jmari.med.or.jp/result/working/post-235/
健康リテラシー涵養のための試行 ~何を伝えるか、どのように伝えるか~ | 日本医師会総合政策研究機構 (med.or.jp)
(注2)https://www.med.or.jp/nichiionline/article/010938.html
永岡文科大臣に日本医師会の学校保健に関する取り組みを説明 | 日医on-line (med.or.jp)
(注3)https://www.mext.go.jp/content/210330-mxt_kyoiku01-000013731_09.pdf
個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料 (mext.go.jp)

1.第20回ストレスマネジメント学術大会を終えて

1-1 日本ストレスマネジメント学会第20回学術大会・研修会終了 

大会長 岡村 尚昌 (久留米大学) 

この度,日本ストレスマネジメント学会第20回学術大会・研修会を2022年11月5~6日に久留米大学御井キャンパスにおきまして「未来を切り拓くストレスマネジメント研究と実践」を大会テーマとして開催いたしました。節目となる記念大会を本学で開催する運びとなりましたことをたいへん光栄に存じます。
2020年の春以降,新型コロナウイルス感染症により多くの学会がオンライン開催になっていましたが,実に3年半ぶりの対面による現地開催となりました。今回,100名を超える方にご参加頂きました。改めて,参加してくださった方々,講演をしてくださった先生方,シンポジストの先生方,研修会講師の先生方,ポスター発表をしてくださった先生方,座長・司会を務めてくださった先生方,準備委員会および学生スタッフ等,学会運営を支えてくださった多くの方々に,この場をお借りして感謝申し上げます。
本大会のメインイベントである20回大会記念シンポジウムでは,山田冨美雄先生を座長に,本学立ち上げから今日まで多大なご貢献/ご尽力されてきた橋本頼仁先生,島井哲志先生,冨永良喜先生,嶋田洋徳先生にご登壇いただきました。橋本先生が間に合わないかも!というヒヤヒヤ・ドキドキの開始でしたが,様々な角度から興味深いお話しが伺えて,ストレスマネジメントのさらなる可能性を感じました。また,久しぶりに対面で開催でき,先生方とお会いできたのも嬉しく思いました。是非ともストマネ研究に特集を組みたいと考えております。お忙しい先生方には大変恐縮ではございますが,原稿依頼をさせていただきますので,何卒よろしくお願い申し上げます。これは編集委員長としてのお願いです。

基調講演では,本学の学長である内村直尚先生より心身の疲れを和らげる睡眠についてご講演いただきました。本講演は会場からではなく,同じ建物1Fのメディアスタジオからライブ配信し,参加された先生方はメイン会場のスクリーンで視聴していただくというチャレンジングな試みでしたが,トラブルもなく無事に終了できました。
午後のシンポジウムでは,睡眠,スポーツそして教育領域の最前線で活躍する先生方から,各領域における最近のストレスマネジメントの研究と実践について話題提供をいただきました。具体的には,睡眠障害におけるストレスマネジメント介入(岡島先生),教育現場でのストレスマネジメント実践(村上先生),そしてアスリートのポジティブ感情とストレス(栗木先生)について,現場で求められている知識やスキル,今後の課題も含めてご紹介いただきました。とても興味深い実践研究の話を伺うことができ,研究と社会実装というとても大きなテーマですが,そこのコネクションをしっかりしていくことが大切なのだと認識しました。記念シンポジウムと同様に,原稿依頼をさせていただきますので,何卒よろしくお願い申し上げます。本大会では27演題それぞれのポスター前で活発な議論が繰り広げられ,充実した学びの機会となりました。受賞された先生方,おめでとうございました。COVID-19 を意識しながらの開催でしたが,対面開催の素晴らしさを改めて認識いたしました。次年度は桜美林大学で池田先生が担当されます。次年度大会でもお会いできるのを楽しみにしております。
最後に,ご寄付,展示,広告としてご支援を頂きました多数の方々,また1年近くにわたり準備にご尽力下さった委員や嶋田理事長および学会事務局の方々に,改めて厚くお礼申しあげます。

1-2 第20回大会〈優秀発表賞〉の声 

「がん再発を告知され危機状態にある患者の看護~アギュララとメズィックの危機モデルからの考察~」
佐々木 香代(久留米大学大学院心理学研究科、独立行政法人労働者健康安全機構九州労災病院)

この度は、第20回日本ストレスマネジメント学会ポスター発表におきまして,優秀発表賞を賜りましたことを厚くお礼申し上げます。私は,「がん化学療法看護認定看護師」として北九州市内の病院に勤務しており、久留米大学大学院で仕事と学業を両立しながら学んでいます。今回、「がん再発を告知され危機状態にある患者の看護~アギュララとメズィックの危機モデルからの考察~」について発表させていただきました。研究内容は、私の専門領域であるがんを患った患者様が、告知を受ける心理的危機状態をアギュララのモデルから考察し、看護介入した一例です。がんの告知前後の時期は、危機的な局面の一つとなり得ることが示唆されており、特に「病名告知」よりも、「再発の告知」が最も辛い出来事であることが報告されています。
発表事例をまとめるにあたり、危機的状態にあるがん患者が危機を乗り越えて安寧に至る問題解決過程を促進する看護援助について,患者の弱みを補いマネジメントする、強みを伸ばし、乗り越えるための力を促していく看護援助の必要性が明らかになりました。入院している、あるいは通院などで外来を訪れる患者さんの多くはストレスを感じています。 そんな患者さんのストレスをうまくコントロールすることで、治療をスムーズに行えるようにするのも看護の一環です。 患者・ご家族が抱く病気というストレスの心理状態について探求していき、看護実践につなげられるように今後も研鑽を重ね、がん医療をはじめとした「がん看護分野」を起点にストレスマネジメントの普及にいっそう精進してまいりたいと存じます。
末筆ではございますが,今回の研究に際して丁寧なご指導を頂いた岡村尚昌先生,様々な建設的な意見をご助言くださった田中明子看護部長、当会に関わる全ての皆様に深く感謝申し上げます。今後ともご指導ご鞭撻の程,何卒よろしくお願い申し上げます。


「初産婦のパートナーを対象とした父親教室におけるストレスマネジメントの効果の検討―ソーシャルサポート希求に着目して―」
市居 哲 (仙台市北部発達相談支援センター)

この度は名誉ある賞を賜り,大変光栄に存じます。第20回大会準備委員会の先生方,ご投票くださいました先生方,大会当日にご関心を持ってくださいました先生方に心より御礼申し上げます。
今回受賞した「初産婦のパートナーを対象とした父親教室におけるストレスマネジメントの効果の検討―ソーシャルサポート希求に着目して―」では,初産婦のパートナーである男性の皆様を対象に,出産育児に関する保健指導を含めたストレスマネジメントプログラム(父親教室)を実施することが出産育児に関する意識およびソーシャルサポート希求へ与える効果について検討を行いました。その結果,父親教室の実施には,出産育児に対するイメージを膨らませる効果や,子育てにおけるソーシャルサポート希求の意識を向上させる効果があることが示唆されました。
私は,保健所における精神保健分野や母子保健分野の実践を通じて,夫婦だけで出産育児を乗り越えようとすることの危うさやソーシャルサポート希求の重要性に直面してきました。周産期のうちから男性のソーシャルサポート希求の意識を高めておくことは,男性自身の孤立の防止ならびに,家庭内で悩みを抱え込まず健やかに子育て生活を送っていただくことの一助になるものと考えております。
父親支援をめぐっては,令和3年2月9日に「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」が閣議決定され「父親の孤立」対策の必要性が明記されるなど,行政においてもその重要性が認識され始めております。今回の受賞は,そのような社会的意義も踏まえご評価いただいたものと考えております。本研究が子育てにおけるストレスマネジメントを推進する一助になりましたら幸いです。
私自身は地方公共団体に勤務する心理職という立場であり,現在は人事異動により保健所を離れ,発達相談支援センター(児童相談所・知的障害者更生相談所・発達障害者支援センター・診療所の4機能からなる行政機関)にて,知的・発達障害児者の支援に取り組んでおります。支援対象は変わりましたが「ストレスとうまく付き合っていくこと」はいかなる人,いかなる場面においても重要なテーマであると日々感じております。今後もストレスマネジメントの知見を活かして地域住民の心の健康の保持増進に寄与できるよう,今回の受賞を励みに邁進する所存です。
最後になりますが,本研究にあたりご指導賜りました菅原恵理子先生,伊藤加奈子先生をはじめとする共著者の先生方,発表にあたりご理解賜りました蔦森武夫先生,原田美奈先生,そして研究協力者の皆様に心より感謝申し上げます。

1-3 学会参加印象記

COVID-19状況下での学会に参加して
岸野 莉奈 (桜美林大学大学院)

この度、日本ストレスマネジメント学会第20回学術大会・研修会に参加いたしました。大会事務局の皆様、関係者の皆様におかれましては、このような難しい状況の中、対面にて大会を開催していただき、誠にありがとうございました。前回大会は、オンライン開催であったため、本大会で皆様に直接お目にかかれること、交流できることを楽しみにしておりました。感染対策も工夫していただき、有意義な2日間を過ごすことができました。本大会は、「未来を切り拓くストレスマネジメント研究と実践」をテーマに開催していただきました。COVID-19の感染状況の予断が許されないなかにもかかわらず、諸先生方のご講演やご意見等を拝聴し、ストレスマネジメントの知識と実践が重要であることを痛感いたしました。そして、改めてストレスマネジメントについて学び、考える機会をいただけたこと、大変ありがたく存じます。今大会で得た知識や感じたこと、考えたことを、日々の臨床に生かしていきたいです。
また、私自身は一般演題として「随伴性認知に着目したペアレントプログラムの効果の検討」(〇岸野莉奈・杉山智風・高橋めぐみ・守屋久・小関俊祐)をご報告いたしました。私の研究では、従来のペアレントプログラムとは一線を画し、保護者自身の行動が、子どもの先行刺激や結果として随伴するという随伴性認知を保護者自身が理解することを目的に介入を実施しました。COVID-19の感染拡大の中、自分でプログラムを作成し、介入を実施した大変思い入れのある研究成果を報告できて嬉しく思いました。介入に参加していただいた皆様からは、「子育てに参考にしたい」「家でも実際に試したい」などの声をいただき、新たな知見を得ることの必要性を感じることもできました。そして、今回の発表を通して、先生方からの貴重なご意見をいただきました。修士論文の核となる研究であるため、執筆していく励みにもなりました。また、今後の臨床実践へとつないでいくことの重要性も実感することができました。加えて、他大学の先生方や同世代の院生のみなさまとも交流をさせていただく機会もございましたので、皆様のお話をお聞きする中で、私の興味の幅も広がったように思います。対面での学会の、楽しさを覚えました。
最後になりますが、大変な状況の中、対面で大会を開催し、勉強の機会をつくっていただいた大会関係者の皆様に、改めて心より感謝申し上げます。

「現場に根差したストレスマネジメントの実践を目指して」~日本ストレスマネジメント学会第20回学術大会・研修会に参加して~
田原 祐己子(早稲田大学人間科学学術院・東松山市立高坂小学校)

この度,日本ストレスマネジメント学会第20回学術大会・研修会に初めて参加させていただきました。事務局の皆様ならびに関係者の皆様におかれましては,厳しい状況が続く中で3年振りとなる現地開催を実現していただき,誠にありがとうございました。私の現職は小学校教諭ですが,現在は長期派遣研修生として,早稲田大学人間科学学術院 嶋田洋徳先生のもとで学ばせていただいており,本学会へは研修の一環として参加いたしました。本学会では,全てのシンポジウムと基調講演,分科会を聴講しましたが,現場における実際の取組やその効用と課題,「エビデンス・ベイスト」の考えをもとにした研究,社会的実装に向けての議論など,数多くの実績を積まれた先生方のお話を聞くことが出来,大変有意義な2日間となりました。また,私が目標としている“学校現場に根差したストレスマネジメントの実践”を実現するためのたくさんのヒントやコツを,先生方のご発表から学び得ることが出来ました。そして一般演題(ポスター)発表では,研究者と実践者が協力することで,より有益なストレスマネジメントの実践ができるという本学会の強みや魅力を感じました。いつか私も,教育現場での実践者として研究に貢献したいという思いを強くしました。さらに,本学会で必要な条件を満たすと「日本ストレスマネジメント学会認定ストレスマネジメント®実践士」の資格が得られると知り,私も取得に向けて挑戦させていただきました。無事に取得できた際は,現場に根差したストレスマネジメント実践士を目指して,名実ともに力をつけていきたいと思います。
最後になりますが,厳しい情勢の中で現地での学会を開催し,研鑽の機会を作ってくださった事務局の皆様ならびに関係者の皆様に,改めて心より感謝申し上げます。次回の学会でも,たくさんの先生方にお目にかかれること,会員の皆様と共に学びを深めていけることを楽しみにしております。

2.学会誌Vol.18 No2発刊

編集委員会 岡村 尚昌(久留米大学)

この度、18巻2号が無事に発刊されました。改めて、編集委員の先生方ならびに論文審査にご協力いただきました諸先生方、投稿していただいた先生方に感謝申し上げます。
本号には3編の論文が掲載されています。ひとつは,ワーク・ファミリー・エンリッチメント尺度の改訂版を作成するために3つの研究を通して信頼性と妥当性を検証したものです(原ら)。ワーク・ファミリー・エンリッチメントの心理メカニズムを適切に捉えることができる尺度が作成され,今後の進展が期待される研究として興味深く拝読しました。次は,COVID-19感染拡大下におけるASD傾向と精神的健康の関連について,感染への予防行動や感染への危機意識に焦点を当てて検討した論文です(菅井ら)。COVID-19流行下においてASDを有する個人の感覚特性と,感染予防行動の取りにくさについて焦点を当てたという点で臨床的に大変示唆に富む内容でした。最後は,外来化学療法を受けているがん患者のポジティブ心理学的要因とQOLの関連について検討した論文です(新牧ら)。がん患者を対象としたQOLの研究は貴重なデータであり、今後の心理的な支援方法にもつながる基礎データになり得ると思います。
今後も多くの先生方から積極的に論文を発表していただける雑誌として発展することを切に願っております。
引き続き,本雑誌へのご協力をよろしくお願いします

ストレスマネジメント研究 バックナンバー
J-Stage ストレスマネジメント研究

3.学会奨励賞(山中賞・冨永賞)受賞者発表

第6回 最優秀論文賞(山中寛賞)

田野邉 果穂(早稲田大学大学院)
受賞論文:田野邉果穂 ・大草美咲・内田太朗・小野はるか・畑琴音・町田規憲・本谷亮・熊野宏昭・田山淳「セルフ・コンパッションとマインドフルネスに着目した,頭痛による生活への支障のための短期介入プログラムの効果の検討」18巻1号,2022 
論文はこちら

この度は,2022年のストレスマネジメント研究の18巻1号に掲載していただいた「セルフ・コンパッションとマインドフルネスに着目した,頭痛による生活への支障のための短期介入プログラムの効果の検討」というタイトルの論文にて,このような名誉ある賞を
いただき,誠にありがとうございました。審査に関わられた関係者の先生方に厚く御礼申し上げます。また,大会実行委員会の先生方,そして本論文を読んでくださった皆様に感謝申し上げます。
本研究では,片頭痛有症状者と緊張型頭痛有症状者を対象として,頭痛による生活への支障の低減を目的として,セルフ・コンパッションとマインドフルネスに基づく介入を実施しました。結果として,本介入プログラムが頭痛による生活への支障に影響を及ぼすことは認められませんでしたが,本研究の実施によって,介入標的や介入要素の選定などさまざまな課題が見つかりました。今後はこの研究で見つかった課題を1つ1つ解決し,ブラッシュアップした研究を実施していこうと思います。本研究は,私が修士課程の2年間で計画,実施した研究であり,勉強不足である自分を痛感しながらも,精一杯向き合った研究でした。研究について右も左もわからない中で,共著者の先生方を初めとして多くの皆様にご助言,ご示唆をいただき,大変お世話になりました。また,このように多くの先輩方,先生方に教えていただく中で,研究を行うとはどういうことなのかといったことや,研究をどうやって臨床に活かしていくかといった考え方も学び,研究の大切さや研究と臨床現場の繋がりを実感することができました。この研究の完成までに過ごした時間は,私の大切な宝物です。今回の受賞は驚きとともに,この上なく嬉しい経験となりました。今回の受賞をさらなる励みとして,慢性頭痛の研究に取り組んでいきたいと思います。
最後になりますが,指導教員の田山淳先生を初めとして,共著者として多大なお力添えをいただいた熊野宏昭先生,本谷亮先生,大草美咲先生,内田太朗先生,小野はるか先生,畑琴音先生,町田規憲先生,また,先輩,後輩,同期の皆様,研究参加者としてご協力くださった方々の支えのもと,この研究を一つの形にすることができました。この場をお借りして心より御礼申し上げます。この度は誠にありがとうございました。

第6回 奨励研究賞(冨永良喜賞)

上地 広昭 (山口大学)
受賞論文:上地広昭,島崎崇史,竹中晃二「心身の健康増進を狙ったeHealth介入の効果」18巻1号,2022

論文はこちら

路傍の論文
学問は山に例えられることがある。山は遠くから見るととてつもなく大きな岩のようにも見えるが、実際は無数の岩石と砂利でできている。どんなに大きな岩でもそれ一つで山と呼ばれることはない。研究作業はこれまでに先人たちが積み上げてきた無数の研究業績からなる学問という山の頂上にそっと新しい石を積み重ねていく作業である。実際、アリストテレスだろうがオイラーだろうが、どんな大天才であっても彼らの時代に月まで辿り着く方法を発見することはできなかったといわれる。月への到達も長い研究の歴史の中で無数の発明や発見が積み重なって初めて可能になっているということである。この度、奨励研究賞をいただいた論文は、私が長年取り組んでいる遠隔型の健康教育システムに関わる研究であり、通信デバイスにスマートフォンを利用したものである。健康教育分野における介入研究の歴史は、まず対面型の介入からはじまる。直接面と向かい合って健康教育を行ういわゆる健康教室である。そこから、健康情報を掲載した冊子やリーフレットを送付する非対面型の介入が登場し、その後、電話、パソコン(e-mail)などその時々の最新デバイスを利用した遠隔型の介入へと変化していく。いまはスマートフォンを用いた介入が全盛であり、それらは「mHealth(mobile-Health)」と呼ばれている。ただ新しいデバイスは今後も登場し続ける。mHealth研究もあと20年もすればきっと化石のような研究テーマとなり消滅しているだろう(いま電話による遠隔型介入がほとんど行われていないように)。そうなれば今回の私の研究もJ-Stageのデータベースの奥底に埋もれ10年間アクセス0(ゼロ)といった寂しい論文となる。しかし、それでよいのかもしれない。どんな小さな石ころでもその山を形成する一部である。新たに山の頂上を目指す人達の足場として役立つこともあるはずだ。将来的にこの分野がどんな高い山になっているのかは想像できない。ただ、自分の研究がこの分野の未来(山の頂)につながる路傍の石になっていれば本望である。
最後になりましたが、この度はたいへん光栄な賞をいただきありがとうございました。また、いつもご指導・ご支援くださる共同研究者の竹中晃二先生(早稲田大学)、島崎崇史先生(東京慈恵会医科大学)に感謝申し上げます。(格好つけて斜に構えたことを書きましたが、実は素直にうれしいです!万歳!)。

4.日本ストレスマネジメント学会認定®ストレスマネジメント実践士認定事業開始

学会関連資格対応委員会 矢島 潤平(別府大学)

4-1 日本ストレスマネジメント学会認定ストレスマネジメント®実践士とは

2022年12月1日より、日本ストレスマネジメント学会認定ストレスマネジメント®実践士認定事業がスタートしました。日本ストレスマネジメント学会認定ストレスマネジメント®実践士(商標登録第6590238号)は、「ストレスマネジメントの理論と実践技法を用いて、心身の健康の維持増進及び疾病の予防と回復を目的に基礎研究と実践研究を通して、地域社会へ貢献できる人材」であることを日本ストレスマネジメント学会が認証するものです。

4-2 日本ストレスマネジメント学会認定ストレスマネジメント®実践士になるために

日本ストレスマネジメント学会認定ストレスマネジメント®実践士になるためには、当該資格の取得要件として、日本ストレスマネジメント学会の会員であることを必須とします。資格取得には、以下の2通りのルートがあります。
【Aルート(資格認定細則第2条)】本学会が主催の研修会のうち、必修領域から1研修以上、選択必修Aから1研修以上及び選択必修Bから1研修以上受講し、研修で出題する試験に合格する。
【Bルート(資格認定細則第8条)】以下の①か②のいずれかを満たす。①ストレスマネジメント研究に掲載された審査付き論文が1編以上ある(筆頭,共著は問わない)、②ストレスマネジメント研究以外の学術誌に掲載されたストレスマネジメントに関する審査付き論文と、ストレスマネジメントに関する著書、総説、紀要、があわせて2篇以上ある。
資格審査スケジュールは毎年度12月~1月:申請受付、1月以降:審査、2月以降:認定証交付(予定)となっています。以下のような手続きによって、今年度の申請もまだ間に合います!

1. 日本ストレスマネジメント学会に入会申請
https://plaza.umin.ac.jp/jssm-since2002/society-organization/guidance/
2. オンライン研修を3つ(必修領域、選択必修A、選択必修Bを各1つずつ)受講
https://plaza.umin.ac.jp/jssm-since2002/online2021/
3. 資格審査申請
https://plaza.umin.ac.jp/jssm-since2002/qualification/

以上を、2023年1月末までに終えることができますと、第1期の日本ストレスマネジメント学会認定ストレスマネジメント®実践士の資格認定を受けられる要件が整います。ぜひ、資格取得にチャレンジしていただければと思います。
また、これまでに日本ストレスマネジメント学会のオンライン研修を受講された方、2022年度の第20回日本ストレスマネジメント学会(久留米大会)の研修会を受講された方は、それらの研修も資格要件として申請することが可能です。もし、資格申請に必要な研修数が足りない場合には、これからオンライン研修を受講いただくことで補うことも可能です。必要な研修の詳細は以下にてご確認ください。
https://plaza.umin.ac.jp/jssm-since2002/wp-content/uploads/2022/11/d492ba6155ba9dbbb4f872e2ee02100b.pdf

4-3 日本ストレスマネジメント学会認定ストレスマネジメント®実践士に必要な審査料・登録料、更新について

認定にかかる費用として、審査料15,000円、認定料5,000円をお支払いいただきます。資格申請フォームからの申請および審査料の振込の確認をもって審査をさせていただきます。審査料と認定料は一括で振り込んでいただいても問題ございません(審査の結果認定されなかった場合には振込手数料を差し引いた認定料を返金させていただきます)。振込先はご申請が完了した方にメールにて通知させていただきます。

5.2022年度総会報告

2022年11月5日(土)17:20~18:00、久留米大学御井キャンパスにて2022年度会員総会が開催され、嶋田理事長、一瀬副理事長はじめ45名の会員が参加しました。
会員総会においては、2021年度総会議事録、2021年度決算報告、2022年度事業計画(案)および予算案が承認されました。また、矢島学会資格対応委員長から日本ストレスマネジメント学会認定ストレスマネジメント®実践士の概要,取得方法について説明があり,承認されました。そして、2023年度学術大会については,池田美樹先生を大会長として桜美林大学にて開催する案が承認されました。開催日時は今後決定予定です。その後、第20回大会のポスター賞として、市居哲先生(仙台市/北部発達相談支援センター),佐々木香代先生(久留米大学大学院心理学研究科)への表彰式が行われました。最後に、各委員会委員長からの報告が行われました。
2022年度会員総会の内容の詳細につきましては次年度会員総会時にお示しする議事録をご参照ください。

6.2023年 第21回学術大会・研修会のお知らせ

大会準備委員長 池田美樹(桜美林大学)、事務局長 小関俊祐(桜美林大学)にて、開催の準備を進めております。会期は、2023年7月末~8月初旬、8月末の土曜日・日曜日の2日間、会場は、桜美林大学(東京都)町田キャンパス、もしくは新宿キャンパスのいずれかを予定しておりますが、日程場所の確定は2023年4月以降となります。決まり次第、順次大会Webページでもお伝えさせていただきます。

7.編集後記

広報委員 野村 和孝(北里大学)

2022年度は,久留米大学の岡村尚昌大会委員長にご尽力いただき,2年ぶりの対面での年次大会の開催となりました。本号では,大会に関する記事が多く掲載されております。私も現地にて参加させていただきましたが,あらためて対面の交流の良さを感じる機会となりました。もちろん,オンラインでの交流の良さもありますが,シンポジウムのピリッとした空気感,そのような中で時折生じる笑いに包まれる一体感などの臨場感もさることながら,ポスター発表会場で繰り広げられるコミュニケーションの熱量は他に変え難い対面ならではの貴重な経験であるということを痛感いたしました。感染症対応等を要する難しい状況の中で,岡村尚昌大会委員長はじめ多くのスタッフの方には感謝してもしきれません。次年度は,桜美林大学の池田美樹先生が大会委員長を務め,桜美林大学(東京都)にて開催が予定されております。私も微力ながらお手伝いする予定です。次年度は,より多くの会員のみなさまとお会いできることを楽しみにしております。本年も、どうぞよろしくお願いします。