学会誌
論文抄録
『医学教育』51巻・第2号【抄録】2020年04月25日
伊藤 香恋*1 永松 浩*1 鬼塚 千絵*1 板家 朗*2 木尾 哲朗*1
要旨:
背景・目的:研修歯科医のレジリエンスに着目し,臨床研修中の困難を乗り越えるプロセスを明らかにすることを目的として質的研究を行った.
方法:9名の研修歯科医を対象に臨床研修中の困難について半構造化インタビューを行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析を行った.
結果:研修歯科医の感情が否定的な発想から肯定的な発想へと変化した過程には,「他者との関わり」「内面的な強み」「主体的実行」の3要素が関与していた.
考察:「他者との関わり」「内面的な強み」「主体的実行」の3要素は,研修歯科医の心理的負担を理解し,自信獲得に向けてサポートするための手掛かりとして有用である可能性が示唆された.
キーワード:臨床研修, 研修歯科医, レジリエンス, 質的研究
Karen ITO*1 Hiroshi NAGAMATSU*1 Chie ONIZUKA*1
Akira ITAYA*2 Tetsuro KONOO*1
Abstract:
Introduction・Purpose: We conducted qualitative research to explore the psychosocial processes by which dental trainees overcome difficulties during clinical training . Our focus was on their resilience.
Methods: Semi-structured interviews with nine trainee dentists were conducted. For the data analysis, we used Modified Grounded Theory Approach.
Results: The three factors, namely, “relationships with others”, “inner strengths”, and "acting autonomously", contributed to the processes by which negative effects of trainee dentists changed into positive ones.
Discussion: It was suggested that these factors could provide clues to understanding the psychological burdens of dental trainees and how to support them in gaining self-confidence.
Keywords: Clinical training, Dental trainees, Resilience, Qualitative research
*1 九州歯科大学口腔機能学講座総合診療学分野
Division of Comprehensive Dentistry, Department of Oral Function, Kyushu Dental University, Fukuoka, Japan
*2 吉田しげる歯科,Yoshida Shigeru Dental Office, Fukuoka, Japan
管理職クラスの専門職者への個別インタビューから
和田 剛宗*
要旨:
目的:精神科救急病棟を有する精神科病院での,職種共通の教育ニーズを明らかにする.
方法:10名の管理者クラスの職員へ半構造化面接を実施した.
結果:【組織の構成と機能】【精神科の仕事】【患者や家族との接し方】【精神的健康の保持】に関する教育が望まれていた.
考察:卒前に十分な教育を受けていない事項が教育ニーズとなりやすい.ただし,エビデンスの利用等に関しては認識されにくい.
キーワード:精神科,教育ニーズ,プログラム評価,質的研究
Yoshimune WADA*
Abstract:
Purpose: This article aims to show common educational needs in a psychiatric hospital with an emergency ward.
Methods: We conducted a semi-structured interview with 10 manager class staff.
Results: Categories that emerged from the results were “Organization structure and function”, “Psychiatric work”, “How to interact with patients and families” and “Maintenance of mental health”.
Conclusion: Educational needs have been identified as learning point on which many professionals did not receive sufficient education before graduation. However, it is difficult for many professionals to recognize the utilization of evidence.
Keywords: Psychiatry, Educational needs, Program evaluation, Qualitative research
*新潟リハビリテーション大学医療学部リハビリテーション学科リハビリテーション心理学専攻
Rehabilitation Psychology Course, Department of Rehabilitation, Faculty of Allied Health Science, Niigata University of Rehabilitation
“家庭健康管理テュートリアル”- その実際と課題
福島 哲仁* 各務 竹康* 日高 友郎* 増石 有佑* 春日 秀朗* 遠藤 翔太*
要旨:
福島県立医科大学医学部衛生学・予防医学講座は,社会医学実習の一環として,「家庭健康管理テュートリアル」を医学部学生に実施している.この実習では,学生が2人1組になって同一の一般家庭を3回訪問し,「家庭健康管理」を実践的に学ぶ.多くの発展的学習はテュートリアル形式で行われ,この実習は,問題解決を目指すProblem-Based Learningと位置付けられている.訪問家庭は学生を評価し,また教員を通じて学生にフィードバックを行う.この実習の実際,評価方法と課題を示し,医学教育におけるこの実習の意義と今後の方向性について考える.
キーワード:家庭健康管理,テュートリアル,模擬家庭,社会医学実習,市民参加
“Family Health Practice Tutorial” - Present State and Tasks
Tetsuhito FUKUSHIMA* Takeyasu KAKAMU* Tomoo HIDAKA*
Yusuke MASUISHI* Hiderou KASUGA* Shota ENDO*
Abstract:
The Department of Hygiene and Preventive Medicine in Fukushima Medical University has carried out "Family Health Practice Tutorial" as part of social medicine training for undergraduate medical students. In this training, pairs of students, visited the same ordinary homes three times, and studied the Family Health Practices. Further learning was mainly offered in the tutorial, which is regarded as Problem-Based Learning. The visited family evaluates the students and gave feedback to them via their teachers. We herein present the report on the present state, evaluation method and tasks of the training, We also discuss the meaning of this training in medical education as well as future direction.
Keywords: Family health practice, Tutorial, Simulated family, Social medicine training, Citizen participation
*福島県立医科大学医学部衛生学・予防医学講座
Department of Hygiene and Preventive Medicine, Fukushima Medical University School of Medicine
身体診察能力向上のためのInterest groupの取り組み
鋪野 紀好*1,2 伊藤 彰一*2,3 生坂 政臣*1
要旨:
身体診察は, 医師の診療実践に不可欠な重要なスキルであるが, 臨床実習では症例経験が場当たり的になる傾向にあり, 系統立ててトレーニングする機会は十分ではない現状がある. そこで, 疾患仮説に基づく身体診察の実践を目的に, 臨床実習に参加している医学部4・5・6年生を主体とするサークル「General Medicine Interest Group (GMIG)」の取り組みを行なった. 活動では近接性が高い反転授業と学習者相互学習による教育理論を取り入れ, 発達の最近接発達領域, スキャフォールディングによる学習者の自律性を促し, 効果的な身体診察スキル向上に有用な取り組みとなるため報告をする.
キーワード:アクティブ・ラーニング, 学生サークル活動, 学習者相互学習, 反転授業, ピア・ラーニング
for Improving Students’ Physical Examination Skills
Kiyoshi SHIKINO*1,2 Shoichi ITO*2,3 Masatomi IKUSAKA*1
Abstract:
Physical examination is an important skill that is indispensable for physicians' practice, but clinical practice tends to be case dependent experience. In addition, there is not enough opportunity to systematically train the physical examination skills. Hypothesis is driven according to the clinical context. Our objective is to improve hypothesis-driven physical examination skills, Fifth and sixth grade medical students launched an interest group “General Medicine Interest Group” at Chiba University. Flipped classroom and peer teaching were adopted to the General Medicine Interest Group. The educational approach of incorporating flipped classroom and peer-assisted learning was considered useful for improving students’ motivation and physical examination skills. We will report on the activities and their effectiveness.
Keywords: Active learning, Flipped classroom, Interest group, Peer assisted learning, Peer learning
*1 千葉大学医学部附属病院 総合診療科
Department of General Medicine, Chiba University Hospital, Japan
*2 千葉大学医学部附属病院 総合医療教育研修センター
Health Professional Development Center, Chiba University Hospital, Japan
*3 千葉大学 大学院医学研究院 医学教育学
Office of Medical Education, Chiba University Graduate School of Medicine, Japan
中学高校における教員の授業評価
田中 越郎*
*東京農業大学第一高等学校・中等部.
The First High School, Tokyo University of Agriculture(元東海大学医学部教育計画部)
7.1 治療的自己の涵養 -他者へ共鳴できる医療者としての自己を育てる-
網谷 真理恵* 水間 喜美子*
要旨:
「治療的自己」は,医療者・患者関係や治療成績にも影響を与える治療者の治療促進的な人間性のことである.治療的自己は,医療者としてのあり方を学ぶ態度教育であるプロフェッショナリズム教育とも関連している.治療的自己で重視されている医療者としてのあるべき姿勢,「共鳴(主観的理解)」と「客観的理解」という患者理解に必要な要素をいかに学習者がバランスよく会得するかは,プロフェッショナリズム教育においても重要な課題である.
そこで,本稿では,治療的自己の概念について説明し,さらにプロフェッショナリズム教育における治療的自己の涵養を目標とする教育の方略を紹介する.地域でのフィールドワーク実習と,会話分析を用いた治療的自己の客観的評価の試みを通し,治療的自己の学びにより治療者-患者信頼関係の重要性や医療者としての在り方について見つめなおす自己の気づき,およびその客観的評価について概説する.
キーワード:治療的自己,プロフェッショナリズム,共鳴,客観的推定,フィールドワーク,会話分析
-How Learners Gain Resonance with Others as Medical Professionals
Marie AMETANI* Kimiko MIZUMA*
Abstract:
"Therapeutic self" is the foundation that every healthcare professional should acquire. It is an important theme in professionalism education, which aim to educate learners about the attitudes needed to be a good doctor. It is assumed as how learners gain "resonance (subjective estimation)" and "objective estimation", they will be able to improve patient-doctor interactions and achieve a good balance with therapeutic self.
In this article, firstly we explain the concepts associate with therapeutic self, then we introduce the strategy aimed at cultivating the therapeutic self in professionalism education: through fieldwork training in a community, we aim to make the students more aware of the importance of the trust relationship between doctors and patients. We also aim to raise awareness about how healthcare professionals should be. An objective assessment of the therapeutic self was done using conversation analysis.
Keywords: Therapeutic self, Professionalism, Resonance, Objective estimation, Field work, Conversation analysis
*鹿児島大学大学院医歯学総合研究科地域医療学分野
Department of Community-Based Medicine, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Kogoshima University
7.2 治療的自己の客観的評価方法
阿部 哲也*
*関西医科大学心療内科学講座, Psychosomatic and General Internal Medicine, Kansai Medical University
第51回 日本医学教育学会大会 実行委員長
京都府立医科大学 山脇 正永
(富士研ワークショップ)の記録(第2報)
はじめに
令和元年12月1日から5日の4泊5日,日本医学教育学会主催,厚生労働省,文部科学省共催で「第46回医学教育者のためのワークショップ」を開催した.参加者は全国の医学部教員と臨床研修病院等の教育担当者で,第35回ワークショップから継続して今回も日本歯科医学教育学会と日本薬学教育学会に各1名の参加者推薦を依頼し,全員で活発な討議が行われた.
今回のワークショップは,昨年度の運営方針である参加者の自由討議で進行するワークショップの原点に少しでも近づけるため,プロダクトのひな形等をあらかじめ提示せず,参加者による自由な討論でプロダクトを作成するように心掛けた.また,現在の医育環境から,医師養成の期間を卒前6年+卒後臨床研修2年の計8年と考え,その期間のアウトカムを立案し,自由な発想でプロダクトを作成した.なお,各ワークの間には医学教育に関連する講演を企画し,その抄録は本誌前号に掲載した.本号では参加者によるワークショップ全体の概要と感想を紹介する
(テーマ:シームレスな多職種連携教育のためのシミュレーション
~Society5.0における医療者教育の探求~)のご案内
駒澤 伸泰*
キーワード: シミュレーション医療教育学会,シームレス,多職種連携教育
日本シミュレーション医療教育学会は,旧日本M&S医学教育研究会と旧医療教育スキルスラボ研究会が発展的対等合併を行い,2013年に発足した学会である.医学シミュレーションを通して,医学教育,臨床医学,医学研究に貢献することを目的とした本学会は,毎年,学術集会を開催している.本学会は,2013年に第1回大会が新潟大学で開催され後,2018年6月には岐阜大学医学部(大会長:鈴木康之教授),2019年9月には日本医科大学(大会長:藤倉輝道教授)で開催された1).
第8回日本シミュレーション医療教育学会学術集会を2020年10月24日に開催させていただくことになったので,ご案内させていただく(HP:http://jasehp8.jp/).
医学教育は卒前卒後のシームレス化が近年の課題である.そして,各医育機関から注目されている多職種連携教育も,臨床現場における多職種協働に対してシームレスであることが期待される2).ゆえに,学会のテーマを「シームレスな多職種連携教育のためのシミュレーション~Society5.0における医療者教育の探求~」とさせていただいた.医師だけでなく,多職種で構成されるこのシミュレーション医療教育学会こそは,多職種連携教育におけるシミュレーション教育の応用を実現するのに最適な場所と考えている.
筆者は,2021年4月の大阪医科大学と大阪薬科大学の統合へ向けて,両大学教員合同でシミュレーション教育法を活用した多職種連携教育開発を行っている.多職種教員による学会準備と運営を行い,本邦の医療教育文化に適合した多職種連携教育を模索したい.さらに,診療参加型実習や臨床実習前後の共用試験OSCEなどでシミュレーション教育の役割はさらなる期待がされており,本邦に現状に合わせた活用が期待される3).
シンポジウムは学会メインテーマである「シームレスな多職種連携教育の課題解決のために何が必要か」をディスカッションしたい.単なる合同授業・実習だけでなく,多職種協働へつながる深い多職種連携教育のために,カリキュラム調整者,ICT教育者を交えてシミュレーション教育の可能性についてディスカッションしたい.2年前から継続されているシミュレーション教育者のワークショップも「指導者育成と認定」をテーマに開催する.さらに,文部科学省が全学部に人工知能(AI)教育の導入を計画していることから「AIのシミュレーション教育への応用」に関するパネルディスカッションを開催し,参加者の皆様と多角的な視点からSociety5.0におけるシミュレーション教育法の活用を探求したい.
一般演題は,いわゆる研究発表,活動報告だけでなく示説も受け入れ,医学生,初期臨床研修医からベテランまで抵抗なく発表していただけるような環境整備に全力を尽くしたい.演題登録期間は7月30日までと設定しており,全て口演で行っていただく予定である.時間割も参加者ファーストを心がけ,午前を一般演題発表,昼食時を総会と情報交換会を合体させたアクティブな多職種,多学部,世代間交流の時間としたい.
また,学生による自発的かつアクティブなシミュレーション学習を促進するための「学生セッション」を設ける予定である.これにより,医療系学生のシミュレーション教育を介した交流が推進することを期待している.
大阪府高槻市は京都,大阪からもそれぞれ15-20分程度,大阪伊丹空港からも40分と地の利の良さが魅力である.また,大阪医科大学は阪急高槻市駅隣接でありJR高槻からも徒歩7分である.ぜひ,皆さまも記念すべきオリンピックイヤーの第8回シミュレーション医療教育学会学術集会にお越しいただくことを,心よりお待ちしている.
1) 鈴木康之. 日本シミュレーション医療教育学会学術大会報告. 日シ医会誌2019; 7: 100-3.
2) Komasawa N, Berg BW. Interprofessional simulation training for perioperative management team development and patient safety. J Perioper Pract 2016; 26: 250-3.
3) 駒澤伸泰,寺﨑文生,中野隆史,河田了. 本邦の教育文化・学修特性に適合した「シミュレーション教育法」の必要性. 医学教育2019; 50: 383-4.
for Simulation-based Education in Healthcare Professionals
*大阪医科大学医学教育センター, Medical Education Center, Osaka Medical College
近藤 猛*1 錦織 宏*1,2
キーワード:反転授業, 臨床研修指導医講習会
*1 名古屋大学医学部附属病院 卒後臨床研修・キャリア形成支援センター,Center for Postgraduate Clinical Training and Career Development, Nagoya University Hospital
*2 名古屋大学大学院医学系研究科総合医学教育センター,Center for Medical Education, Graduate School of Medicine, Nagoya University
澤田 いずみ*
*札幌医科大学保健医療学部看護学科,Department of Nursing, School of Health Sciences, Sapporo Medical University
木村 武司*1 種村 文孝*1 錦織 宏*1*2
*1 京都大学大学院医学研究科医学教育・国際化推進センター,Medical Education Center, Graduate School of Medicine, Kyoto University
*2 名古屋大学大学院医学研究科総合医学教育センター,Center for Medical Education, Graduate School of Medicine, Nagoya University
綿貫 聡,高尾 義明,錦織 宏(監訳)
定価:4,500円+税,2019年7月刊,丸善出版
Saitama City Hospital
山藤 和夫(院長補佐)
Showa University Northern Yokohama Hospital
成島 道昭(副院長,臨床研修基本プログラム責任者,内科専門研修プログラム責任者)
Chiaki Hospital
佐藤 裕子(研修管理委員長・プログラム責任者)
Asahi General Hospital
塩尻 俊明(副院長 臨床教育センター長)
Kariya Toyota General Hospital
小山 勝志(臨床研修センター長)
Mito Saiseikai General Hospital
千葉 義郎(臨床研修センター長)
Chiba Rosai Hospital
小沢 義典(副院長)
The Nippon Dental University Hospital
内川 喜盛(副院長)