学会概要
理事長挨拶
錦織宏
日本医学教育学会のHPへようこそ。
日本医学教育学会は、医学教育に関する研究の充実・発展ならびにその成果の普及を目的とし、全国医学部長病院長会議の賛同のもと、牛場大蔵初代会長を中心として1969年に設立されました。以来、我が国の医学教育の発展のための学術活動を展開しており、1997年に日本医学会の分科会となり、2019年には50周年を迎えています。
日本全国に約35万人いる医師のほとんどが、何らかの形で教育に関わっています。それは病院における研修医教育であったり、診療所における多職種連携教育であったり、大学における学生教育であったりと、形態は様々です。また歯科医師・看護師・薬剤師をはじめとする医療職も、そのほとんどが、何らかの形で教育に関わっていることでしょう。ただこれらの医療者が医学・医療を学ぶ課程において、「教える」ことについて学ぶ機会はあまり多くないのが現状です。
社会医学的視点で考えると、医療者の能力は医療の質に直結します。その医療者の能力の向上に大きな影響を与えるのが医学教育です。あまり学ぶ機会の多くなかった「教える」ことについて、医療の文脈で、新しいことを学んだり、研究成果を共有したり、仲間と出会ったりする場として、本学会があります。毎年一度、夏に開催される学術大会には、医療者のみならず、人文社会科学や情報学などの分野の研究者も集います。また本学会の学会誌「医学教育」では、日本語で、最新の知見に触れたり、自身の独創的な教育実践の内容をまとめた論文を投稿したりすることができます。
2014年からは医学教育専門家制度を運用しており、本学会がこの分野の専門家を認定しています。また学会内に約30の委員会を設置し、医学教育にまつわる活動を展開しています。医学教育について、これまで、何かを参考にしたり、誰かに聞いたりすることのあまりなかった方は、ぜひ本学会の委員会活動の内容や成果に接してみてください。何かしら皆様のお役に立てることと思います。
私が本学会の活動において大事にしたいと考えていることは3つあります。一つはリフレクティブであること。学会の構成員がショーンの提唱したこの概念の実践者であることで、教育熱心なだけでなく、自身の教育に対して俯瞰する目を持った集団であることができると考えます。次に史記にある鶏鳴狗盗の姿勢です。孟嘗君のように、一見よくわからないような才能をうまく引き出すことができ、かつ異なることに対して寛容な姿勢を示すことのできる集団でありたいと考えています。そして最後は、アドラーの述べる他者貢献感です。対人援助の基本である利他を基盤にしつつ、自利とのバランスをうまくとれるコミュニティを目指したいと考えています。
23期の本学会のビジョンとして、以下を掲げました。いずれもチャレンジングな内容ですが、実現に向けて進んでいこうと考えています。
- 参加者全員がそれぞれの医学教育について視野が広がったと感じられる学術大会を実現する。
- 医学教育を科学することについて、学会誌を基盤に、日本における最先端であり続ける。
- 医学教育の政策決定にあたって、医学教育研究によるエビデンスに基づいた提言を行い、また基盤となる研究を実施していく。
- 世界と交流し、海外の医学教育を輸入するだけでなく、日本の強みを世界に積極的に発信していく。
- 情報科学技術を積極的に活用する。
- 医学教育の専門家として、日本医学教育学会外のコミュニティから必要とされる。
- 医学・医療者教育に関わるあらゆる研究者・教育者が所属感を感じられるような学会であり続ける。
- それぞれの人のマイノリティの属性が強みになるような集団であり続ける。
- 利己的でないと生き残れない疲労社会において、利他の精神を大事にした集団であり続ける。
他者にあたたかく、論理にするどく、言葉を丁寧に使い、省察を重んじ、自由と独立を大事にし、時に権力と戦い、寛容であり、よい教育のために積極的に行動するコミュニティを、皆さんと一緒に作っていきたいと考えています。
どうぞよろしくお願いいたします。
令和6年8月8日
日本医学教育学会 第23期理事長 錦織宏
(名古屋大学)