学会誌
論文抄録
『医学教育』45巻・第5号【抄録】2014年10月25日
INDEX | |
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特 集 | 医学教育研究はじめの一歩:論文執筆に向けた12 Tips 序文 …鈴木 康之,福島 統 |
特 集 | 医学教育研究はじめの一歩 1.医学教育研究論文の執筆体験 …菊川 誠 |
特 集 | 医学教育研究はじめの一歩 2.教育実践への情熱を基にした,冷静なリサーチクエスチョンの生成 …西城 卓也 |
特 集 | 医学教育研究はじめの一歩 3.先行研究に学び,活用する …石川 ひろの |
特 集 | 医学教育研究はじめの一歩 4.対話による言語化 …錦織 宏 |
原 著 | 医師の生涯教育のニーズ―臨床研究と研修に関して―
…井手野 由季,菊地 麻美,田村 遵一,坂本 浩之助,和泉 孝志 |
短 報 | 性的マイノリティについての講義を受けて医学科1年生が学んだこと: 感想カードを用いた質的研究 …青木 昭子,榊原 秀也,長嶋 洋治,星野 慎二,向原 圭,後藤 英司 |
教育実践 研究 |
女性医師の離職と復職に関する現状と課題: 岡山大学卒業生及び同大学臨床系講座入局者のアンケート調査より …片岡 仁美,野村 恭子,川畑 智子,勅使川原 早苗,岩瀬 敏秀 |
掲示板 | 一夜限りの「替え歌」に想いを込めて
…安井 浩樹 |
掲示板 | シミュレーションスペシャリスト育成の必要性とその活躍
…三好 智子,香西 佳美,上田 順子,万代 康 弘 吉田 登志子,須野 学,芝 直基,谷本 光音 |
序文
鈴木 康之*1 福島 統*2
*1 岐阜大学医学教育開発研究センター,Medical Education Development Center, Gifu University
[〒501-1194 岐阜県岐阜市柳戸1番1]
*2 東京慈恵会医科大学教育センター,Center for Medical Education, Jikei University School of Medicine
1.医学教育研究論文の執筆体験
菊川 誠*
日本において医学教育研究を実施し論文化する時には多くの困難を抱え,モチベーションを維持することが難しいことが予想される.しかしその分,実際に論文として成果が出た時の充実感は大きい.医学教育研究の初学者としての私がどのような課題に直面し,どう乗り越えたかを3つのTIPSと共に述べることで,今後医学教育研究を始め,論文として発表したいと考えている方の一助になることを期したい.
キーワード:医学教育研究,初学者
*九州大学大学院医学研究院医学教育学講座,Department of Medical Education, Kyushu University
[〒812-8285 福岡市東区馬出3-1-1]
2.教育実践への情熱を基にした,冷静なリサーチクエスチョンの生成
西城 卓也*
要旨:
医学教育におけるリサーチクエスチョンを生成するまでの手順を概説した.リサーチクエスチョンを決めることは医学研究,教育研究にかかわらず,研究の質に大きく影響する研究プロセスの第一歩である.しかし教育研究では,研究者の心情を完全に除外することはできないし,時代と共に変わりゆく教育の“主義”の潮流を無視することもできない.ゆえ,当初は感情の赴くまま自分自身の教育を振り返り,思い入れのある教育テーマを選定することが重要である.そしてクエスチョンを生成する過程には,同僚との建設的ブレインストーミングやエキスパートとの対話,文献検索を通じた理論的情報の入手が重要になってくる.さらに研究の質を高める重要な問を冷静に自問自答することが,リサーチクエスチョンの質が高まる.
キーワード:医学教育研究,リサーチクエスチョン
*岐阜大学医学教育開発研究センター,Gifu University Medical Education Center
[〒501-1194 岐阜県岐阜市柳戸1番1]
3.先行研究に学び,活用する
石川 ひろの*
要旨:
先行研究を読むことは,研究の着想から論文執筆に至るまで研究のあらゆる過程で重要であるが,その目的や活用の仕方は,研究のどの段階にあるかによっても変わってくる.研究開始前に先行研究に当たる主な目的の一つは,先行研究で明らかにされていることとまだ明らかにされていないことを明確にすることであるだろうし,論文執筆時には先行研究と自分の研究結果を比較して考察を深めるために先行研究を読むことになる.先行研究を読むことの意味やその使い方を知り,何のために読むのか意識して先行研究に向き合うことが,より効率よく先行研究を活用して,研究の質を高めることにつながると考える.
キーワード:文献レビュー,理論的枠組み,批判的省察
*東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野,Department of Health Communication, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo
[〒113-8655 文京区本郷7-3-1]
4.対話による言語化
錦織 宏*
要旨:
医学教育研究の課題の一つに,先行研究の知見の上に研究結果を積み上げるという姿勢が欠如していることが挙げられる.医学教育の実践者が医学教育学の語彙について学ぶ機会があまりないことがその原因だが,文献や専門家との丁寧な対話を通して自分自身の活動について適切な医学教育学の語彙で言語化し,リサーチクエスチョンを立てていくとよい.また理論的枠組み(レンズ)をどのように選択するかによって現象の見え方が大きく異なり,医学教育研究の方向性は変わる.実際にどのような理論的枠組みを選択するかを言葉にした上で現象を見つめることが重要である.質的研究の手法が用いられることも多い医学教育研究では言葉の重要性は大きい.論文や演題発表のDiscussionも実際の「対話による言語化」から生まれてくる.
キーワード:対話,言語化
*京都大学大学院医学研究科医学教育推進センター,Center for Medical Education, Graduate School of Medicine, Kyoto University
[〒606-8500 京都市左京区吉田近衛町]
井手野 由季*1 菊地 麻美*1 田村 遵一*2 坂本 浩之助*1 和泉 孝志*1
要旨:
背景・方法:臨床医の生涯教育におけるニーズを把握するため,群馬県内の医師を対象に調査を実施した.
結果:群馬大学で提供可能な研修内容としては,「EBMに基づいた診療」「臨床研究や疫学データの解釈等」「画像診断」に関するレクチャーは年代を問わずニーズが高く,個々の臨床手技では若いほどニーズが高かった.また,これらの研修を開催する時間帯としては,勤務場所によって参加しやすい曜日や時間帯に差がみられた.
考察:病院勤務医から開業医まで,幅広い年齢層の臨床医の生涯教育に関する期待あるいはニーズが明らかになった.またセミナー等の開催に際しては,対象者が参加しやすい曜日・時間帯に配慮していく必要がある.
キーワード:生涯教育,医師不足
*1 群馬大学大学院医学系研究科医学教育センター,Center for Medical Education, Gunma University Graduate School of Medicine
[〒371-8511群馬県前橋市昭和町3-39-22]
*2 群馬大学医学部附属病院医療人能力開発センター,Medical Education Center, Gunma University Hospital
受付:2014年1月6日,受理:2014年9月26日
感想カードを用いた質的研究
青木 昭子*1 榊原 秀也*2 長嶋 洋治*3 星野 慎二*4 向原 圭*5 後藤 英司*6
要旨:
目的:医学科1年生が性的マイノリティ(SM)についての90分の講義から何を学んだか検討した.
対象と方法:2012年7月医学部1年生を対象に,内科医が性差について,産婦人科医が生殖医学,性感染症について,SM支援団体代表者が同性愛をカミングアウトした高校生の語り(DVD動画)を流し,SMに対する偏見やカミングアウトについて講義した.授業後に学生が提出した感想カードの自由記載を質的に分析した.
結果:多くの学生がSMは稀ではないことに驚き,自分自身や社会における偏見や差別をなくすための知識の重要性に言及していた.
結語:今後はSMの人たちが必要としている医療を学べる授業を考えていきたい.
キーワード:性的マイノリティ,医学部学生,講義
*1 東京医科大学八王子医療センター総合診療科,Tokyo Medical University Hachioji Medical Center, General Medicine
[〒193-0998 東京都八王子市館町1163]
*2 横浜市立大学医学部産婦人科,School of Medicine Obstetrics and Gynecology, Yokohama City University
*3 横浜市立大学医学部分子病理,School of Medicine Pathology, Yokohama City University
*4 特定非営利活動法人SHIP代表,SHIP authorized NPO
*5 国立病院機構長崎医療センター,National Hospital Organization Nagasaki Medical Center, General Internal Medicine
*6 横浜市立大学医学部医学教育学,School of Medicine education, Yokohama City University
受付:2013年12月2日,受理:2014年9月26日
岡山大学卒業生及び同大学臨床系講座入局者のアンケート調査より
片岡 仁美*1 野村 恭子*2 川畑 智子*1 勅使川原 早苗*1 岩瀬 敏秀*3
要旨:
目的:女性医師の離職と復職及び育児休業の取得について現状を明らかにし,離職に影響を及ぼす要因について解析する.
方法:岡山大学卒業生および同大学臨床系講座に入局した女性医師1403名に質問票を送付した.
結果:回答者(n=420,回収率29.9%)のうち離職経験者は46.6% (n=191),離職時期は卒後10年以内が92.4%(n=171)であった.離職理由は「出産・育児」が51.5%(n=98),「夫の転勤」が21.1% (n=40)であった.初回離職時82%(n=151)が復職を希望していた.
考察:柔軟な勤務体制の確立や育児休業の取得できる安定した勤務環境の整備がキャリア構築に重要である.
キーワード:女性医師,離職,復職,キャリア支援
*1 岡山大学大学院医歯薬総合研究科地域医療人材育成講座,Department of Primary Care and Medical Education, Okayama University Medical School, Okayama, Japan
[〒700-8558 岡山市北区鹿田町2-5-1]
*2 帝京大学医学部衛生学公衆衛生学講座,Department of hygiene and public health, Teikyo University School of Medicine
*3 岡山県地域医療支援センター岡山大学支部,Center for Medical Cooperation, Human Resources Placement and Career Promotion of Okayama Prefecture, Okayama, Japan
受付:2014年5月6日,受理:2014年10月7日
安井 浩樹*
*名古屋大学医学系研究科地域医療教育学講座, Department of Education for Community-Oriented Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine
[〒466-8550 名古屋市昭和区鶴舞町65番地]
受付:2014年8月16日,受理:2014年8月16日
三好 智子* 香西 佳美* 上田 順子* 万代 康 弘*
吉田 登志子* 須野 学* 芝 直基* 谷本 光音*
要旨:
シミュレーションセンター運営に当たり,シミュレータに精通した人材は不可欠であり,海外ではシミュレーションスペシャリストという専門職で雇用されている.岡山大学ではシミュレーションスペシャリストの育成を行い,円滑なシミュレーショントレーニングに貢献している.
キーワード:シミュレーションスペシャリスト
*岡山大学医療教育統合開発センター, Center for the development of Medical and Health Care Education, Okayama University
[〒700-8558 岡山県岡山市鹿田町2-5-1]
受付:2014年9月23日,受理:2014年9月24日