学会誌
論文抄録
『医学教育』44巻・第4号【抄録】2013年08月25日
INDEX | |
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原 著 | 研修医教育に対する製薬企業からの支援: 初期臨床研修プログラム責任者を対象とした全国調査研究 …向原 圭,宮田 靖志,斉藤 さやか,郷間 厳,宮崎 仁 |
原 著 | 公衆衛生医師の熟達と経験学習に関する探索的研究
…北川 信一郎 |
原 著 | 復帰支援に求められること ―「医師の生涯教育・復帰支援に関するアンケート調査」より …井手野 由 季,菊地 麻美,田村 遵一,坂本 浩之助,和泉 孝志 |
総 説 | 医学教育における効果的な教授法と意義ある学習方法(2)
…菊川 誠,西城 卓也 |
掲示板 | 多学部教員協働による医薬看護学生教育用シナリオ開発のこころみ
…安井 浩樹,野呂瀬 崇彦,網岡 克雄,櫻井 しのぶ 青松 棟吉,阿部 恵子,平川 仁尚,植村 和正 |
掲示板 | 臨床研修医の主体的ニードから立ち上げられた morbidity and mortality カンファレンス
…清水 郁夫,田中 景子,降旗 兼行,金児 泰明,和田 秀一 |
掲示板 | 横浜市における小児救急をテーマとした新しい双方向性勉強会の試み
…佐藤 厚夫,磯崎 淳,大戸 秀恭,久保田 亘,小林 慈典,十河 剛,田中 文子 |
初期臨床研修プログラム責任者を対象とした全国調査研究
向原 圭*1 宮田 靖志*2 斉藤 さやか*3 郷間 厳*4 宮崎 仁*5
要旨:
研修医教育に対する製薬企業からの支援とそれを取り巻く状況の実際について明らかにするため,初期臨床研修プログラム責任者445名を対象とし,自記式調査票を用いた横断調査研究を実施した(回答率76%).
1) 回答者の51%が企業からの支援は教育に必要であると考えており,28%が企業からの支援が処方行動に良くない影響を与える可能性について否定的であった.
2) 企業との関係についてのカリキュラムを有しているプログラムは12%であり,医薬情報担当者(MR)との面会を禁止しているのは10%,贈答を禁止しているのは30%であった.
3) 51%が,研修医のための製薬企業が支援する院内教育イベントが存在するとし,73%が,研修医が参加可能な製薬企業が支援する院内教育イベントが存在するとした.
4) 企業からの支援は教育に必要であるとプログラム責任者が考えていることは,企業からの支援が存在することの予測因子であった.
キーワード:研修医教育,製薬企業・医師関係
*1 国立病院機構長崎医療センター, National Hospital Organization Nagasaki Medical Center
[〒856-8562 長崎県大村市久原2-1001-1]
*2 北海道大学病院卒後臨床研修センター, Postgraduate clinical training center, Hokkaido university hospital
*3 熊谷生協病院内科, Internal Medicine, Kumagaya cooperative hospital
*4 市立堺病院呼吸器内科, Respiratory tract medicine, Sakai city hospital
*5 宮崎医院, Miyazaki Clinic
受付:2013月2月21日,受理:2013年6月28日
北川 信一郎*1,2
要旨:
目的:公衆衛生医師の経験学習に焦点をあて,その熟達化の過程を明らかにする.
研究方法: 10人のExpertを対象に,仮説探索型研究をおこなった.インタビューの分析には,グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた.
結果:学生時代では,先輩医師から公衆衛生の重要性を,臨床医時代には,患者との関わりからプライマリ・ケアについて学んでいた.また,公衆衛生医師として,13の経験から11の教訓を学んでいた.一方,公衆衛生マインドは,自己関連,患者関連,社会関連,組織関連の4つの信念のカテゴリーからなり,特に,社会関連の信念がコアとなっていた.
結論:特有の経験学習が明らかとなった.熟達論および経験学習の観点から考察した.
キーワード:公衆衛生医師,公衆衛生マインド,経験学習,熟達,質的研究
*1 神戸大学大学院経営研究科,Kobe University Graduate school of Business Administration
*2 京都市上京保健センター, Kyoto City Mamigyou Public Health Center
[〒602‐0056京都市上京区北舟橋町866]
受理:2013年3月1日,受付:2013年6月28日
―「医師の生涯教育・復帰支援に関するアンケート調査」より
井手野 由 季*1 菊地 麻美*1 田村 遵一*2 坂本 浩之助*1 和泉 孝志*1
要旨:
【背景・方法】復帰支援のニーズを明らかにするため,臨床医を対象に,自記式調査票を用いた調査を実施した.
【結果】臨床を離れた経験を有する医師は女性の方が多く,その理由の大半が「出産・育児」であった.また,臨床への復帰に際して7割以上が不安を感じており,不安の程度に男女差はみられなかった.「薬剤」「技術・理論の変化・進歩」「技術・手技」は,復帰後に困った内容として多くあげられた.事前準備として「手技の確認・実践トレーニング」をしておきたかったという意見もあった.
【考察】臨床から離れた医師の復帰のためのニーズが明らかになった.実際に利用しやすいシステムを構築・運用していく必要がある.
キーワード:復帰支援,医師不足,女性医師
*1 群馬大学大学院医学系研究科医学教育センター,Center for Medical Education, Gunma University Graduate School of Medicine
[〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22]
*2 群馬大学医学部附属病院医療人能力開発センター,Medical Education Center, Gunma University Hospital
受付:2013年1月21日,受理:2013年7月18日
菊川 誠*1 西城 卓也*2
要旨:
●代表的な学習方略について事例を添えて概説する.
●講義は,大人数を対象にする場合,多くの情報を系統だって提供できる利点がある.
●問題基盤型学習とは,能動的小グループ学習による現象の提示(シナリオ)を学習のきっかけとする学習方略である.
●早期臨床体験実習は,医学部入学後,比較的早期に現場を体験させる実習である.プロフェッショナリズム教育等への効果が報告されている.
●医療安全の観点からシミュレーション教育の重要性が増してきている.
●参加型臨床実習と卒後臨床実習は,認知的徒弟制と正統的周辺参加論を理論的背景にしている.
●生涯学習を考える上で,省察的実践家という概念が有用である.
キーワード:医学教育学,医学教育専門家,教授方法,学習理論
*1 九州大学大学院医学研究院医学教育学部門,Department of Medical Education, Kyusyu University
[〒812-8582 福岡市東区馬出3-1-1]
*2 岐阜大学医学教育開発研究センター,Medical Education Development Center, Gifu University
受付:2013年7月28日,受理:2013年7月30日
安井 浩樹*1 野呂瀬 崇彦*2 網岡 克雄*3 櫻井 しのぶ*4 青松 棟吉*1 阿部 恵子*1
平川 仁尚*5 植村 和正*6
要旨:
医薬看護教員協働による多職種連携教育用のシナリオ開発を行った.医療現場の課題として,患者・家族にとっての「医療事故」「医療人・施設不足」,医療人にとっての「医療情報共有」「評価・フィードバック」「達成感の不足」を抽出し,さらに,多職種連携による課題解決のためのキーワードとして,「多職種間の協力関係」「相互プロフェッショナリズムの理解」「各職種文化の具現」を挙げ,病院医療,在宅医療,介護,地域包括ケアの場面での,「看取り」,「認知症」のテーマにしたシナリオに盛り込んだ.シナリオは,医療職種によるケーススタディを行い,実用性と,限定的ではあったが多職種連携教育の効果が示された.
キーワード:多職種連携教育,多職種協働,シナリオ開発
*1 名古屋大学医学系研究科地域医療教育学講座, Department of Education for Community-Oriented Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine.
[〒466-8550名古屋市昭和区鶴舞町65番地]
*2 北海道薬科大学薬学部, Hokkaido Pharmaceutical University School of Pharmacy
*3 金城学院大学薬学部, Department of Pharmacy, Kinjo Gakuin University
*4 順天堂大学医療看護学部, Juntendo University Faculty of Health Care and Nursing
*5 名古屋大学医学部附属病院卒後臨床研修・キャリア支援センター, Center for Postgraduate Clinical Training and Career Development, Nagoya University Hospital
*6 名古屋大学医学部総合医学教育センター,Center for Medical Education, Nagoya University School of Medicine
受付:2013年4月8日,受理:2013年6月10日
清水 郁夫*1,2 田中 景子*1 降旗 兼行*1 金児 泰明*1 和田 秀一*1
要旨:
我々は長野赤十字病院において,学習者である臨床研修医自身からの自主的ニードに基づきmorbidity and mortality (M&M)カンファレンスを立ち上げ実施している.開催にあたっては教育的意義のほかに当事者の心的葛藤を緩和することも勘案している.後期研修医が司会を担いファシリテータとしての経験蓄積に役立てている.学習者自らのニードにより開始継続されているM&Mカンファレンスは貴重と考え報告する.今後教育的効果の評価を目指していく.
キーワード: morbidity and mortality (M&M) カンファレンス,臨床研修,患者安全
*1 長野赤十字病院総合診療科,Department of General Internal Medicine, Nagano Red Cross Hospital.
*2 信州大学医学部医学教育センター,Center for Medical Education, Shinshu University School of Medicine.
[〒390-8621 長野県松本市旭3-1-1]
受付:2013年5月1日,受理:2013年5月19日
佐藤 厚夫*1 磯崎 淳*2 大戸 秀恭*3 久保田 亘*4 小林 慈典*5 十河 剛*6 田中 文子*7
要旨:
横浜市の7つの小児救急拠点病院に勤務する若手医師の救急診療能力向上を目的として,PBL(problem-based learning)テュートリアルを参考とした新しいタイプの勉強会を立ち上げた.これまでのアンケート調査では参加者の個人学習という点ではおおむね好評であった.今後,拠点病院における救急診療内容の標準化や病院間ネットワークの構築につながっていくことを期待している.
キーワード:小児救急,勉強会,PBLテュートリアル,小児救急拠点病院
*1 労働者健康福祉機構横浜労災病院小児科,Department of Pediatrics, Japan Labour Health and Welfare Organization Yokohama Rosai Hospital
[〒222-0036 横浜市港北区小机町3211]
*2 横浜市立みなと赤十字病院小児科,Department of Pediatrics, Yokohama City Minato Red Cross Hospital
*3 昭和大学横浜市北部病院こどもセンター,Children’s Medical Center, Showa University Northern Yokohama Hospital
*4 横浜市立市民病院小児科,Department of Pediatrics, Yokohama Municipal Citizen’s Hospital
*5 国立病院機構横浜医療センター小児科,Department of Pediatrics, National Hospital Organization Yokohama Medical Center
*6 済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科,Department of Pediatric Hepatology and Gastroenterology, Saiseikai Yokohama City Tobu Hospital
*7 済生会横浜市南部病院小児科,Department of Pediatrics, Saiseikai Yokohamashi Nanbu Hospital
受付:2013年5月30日,受理:2013年6月4日