学会誌
論文抄録
『医学教育』44巻・第2号【抄録】2013年04月25日
INDEX | |
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特 集 | 医学教育の国際認証について 英国卒前医学教育改革の動向 —General Medical Councilにおける教育質保証の取り組み— …柴原 真知子,錦織 宏,中村 真理子,鈴木 俊哉 武田 裕子,小西 靖彦,福島 統,奈良 信 雄 |
教育 実践研究 |
生理学筆記試験の成績よりみた医学部学生の学力低下
…前田 正信,羽野 卓三 |
短 報 | 大阪大学における卒業試験の廃止と臨床実習の総括的評価を目的とした試験の導入
…渡部 健二,和佐 勝史,濱崎 俊光,河盛 段,樂木 宏実,奥村 明之進 |
掲示板 | 学生が携帯電話・スマートフォン内蔵デジタルカメラで顕微鏡画像を 撮影することは病理組織実習に対する積極性を誘導するか? …木村 雅友,榎木 英介,前西 修,伊藤 彰彦,筑後 孝章 |
連載企画 | 「シリーズ:医学教育学ベーシック」 連載にあたって:医学教育専門家の認定に向けて …平出 敦 |
総 説 | 「シリーズ:医学教育学ベーシック」(第1回) 医学教育に携わる人が備えるべき教育能力 …西城 卓也,田川 まさみ |
—General Medical Councilにおける教育質保証の取り組み—
柴原 真知子*1 錦織 宏*1 中村 真理子*2 鈴木 俊哉*3 武田 裕子*4 小西 靖彦*1
福島 統*2 奈良 信 雄*5
要旨:
背景:医学部の国際認証の議論が進む中,日本における教育認証評価機関のあり方を具体的に検討することが求められている.
方法:GMC(英国医事委員会)で教育質保証が導入された経緯と具体的なプロセスについて,英国調査をもとに明らかにする.
結果:2003年を境にGMCにおける教育質保証は,「点検型」から「対話型」へ移行した.現在では,各医学部がGMCと関わりながら,自らの教育改善・向上に継続的に取り組むことの促進が中軸となっている.
考察:(1)医学部が自らの教育の現状を理解し,改善・向上への強いインセンティブとなっている点,(2)「何のための教育質保証なのか」への共通認識を構築することが質保証事業の基盤となっている点は,日本への積極的示唆となる.一方で,膨大なコーディネート業務を行う体制整備が課題となる.
キーワード:教育質保証,英国卒前医学教育,国際的医学教育認証評価制度
*1 京都大学大学院医学研究科医学教育推進センター,Center for Medical Education, Graduate School of Medicine, Kyoto University
[〒606-8510 京都市左京区吉田近衛町]
*2 東京慈恵会医科大学教育センター,Center for Medical Education, Jikei University School of Medicine
*3 新潟大学医学部総合医学教育センター,Center for Medical Education, Faculty of Medicine, Niigata University
*4 Department of Primary Care and Public Health Sciences, King's College London School of Medicine
*5 東京医科歯科大学医歯学教育システム研究センター,Center for Education Research in Medicine and Dentistry, Tokyo Medical and Dental University
前田 正信*1 羽野 卓三*2
要旨:
背景:本研究の目的は,医学部学生の生理学筆記試験の成績がどのように変化しているかを調べ,試験の成績が入学定員増とどのような関係であるか明らかにし,入学定員増後の医学部学生の試験の成績よりみた学力低下が実際に生じている根拠を与えることである.
方法:医学部の入学定員増以前の学年,定員増以後の学年の生理学筆記試験の成績の平均値,標準偏差,平均値+標準偏差,平均値-標準偏差,学生数,不合格者数,学生数に対する不合格者の割合を調べた.
結果:医学部学生の試験の成績は入学定員増以後に有意に低下していることが明らかとなった.
考察:医学部学生の試験の成績よりみた学力低下は入学定員増が関与していると考えられる.
キーワード:医学部,学力低下,試験,入学定員,ゆとり教育
*1 和歌山県立医科大学医学部生理学第2講座,Department of Physiology, Wakayama Medical University School of Medicine
[〒641−8509 和歌山市紀三井寺811−1]
*2 和歌山県立医科大学教育研究開発センター,Center for Medical Education and Development, Wakayama Medical University
受付:2012年7月7日,受理:2013年3月12日
渡部 健二*1,2 和佐 勝史*1,3 濱崎 俊光*4 河盛 段*1,5 樂木 宏実*6 奥村 明之進*1,7
要旨:
背景:大阪大学は平成23年度より卒業試験を廃止し,臨床能力を総括的に評価する新しい試験を導入した.
方法:新しい試験では,診療における問題解決の過程を再現するシーケンシャルシナリオを作成した.評価者はシナリオに沿って病棟回診と同じような口頭試問を受験生に対して行ない,態度,知識,思考に基づいて臨床能力を評価した.試験終了後にアンケートを行なった.
結果:試験は円滑に実施された.試験後のアンケートにおいて評価者の約9割,受験生の約6割は本試験の意義を肯定的に回答した.
考察:今回の試みは主に評価者に好意的に受け入れられた.今後の課題は,パフォーマンスに基づく試験の導入である.
キーワード:卒業試験,臨床実習,総括評価
*1 大阪大学医学部医学科教育センター,Medical Education Center, Osaka University Medical School, Osaka, Japan
[〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-2]
*2 大阪大学大学院消化器内科学,Department of Gastroenterology and Hepatology, Osaka University Graduate School of Medicine, Osaka, Japan
*3 小児外科学,Department of Pediatric Surgery, Osaka University Graduate School of Medicine, Osaka, Japan
*4 医学統計学,Department of Biomedical Statics, Osaka University Graduate School of Medicine, Osaka, Japan
*5 内分泌・代謝内科学,Department of Metabolic Medicine, Osaka University Graduate School of Medicine, Osaka, Japan
*6 老年・腎臓内科学,Department of Geriatric Medicine and Nephrology, Osaka University Graduate School of Medicine, Osaka, Japan
*7 呼吸器外科学,Department of General Thoracic Surgery, Osaka University Graduate School of Medicine, Osaka, Japan
受付:2012年9月3日,受理:2013年3月12日
撮影することは病理組織実習に対する積極性を誘導するか?
木村 雅友*1 榎木 英介*1 前西 修*1 伊藤 彰彦*1 筑後 孝章*1,2
要旨:
背景:病理組織実習における学生の積極性を引き出す方法が模索されていた.携帯電話やスマートフォン内蔵デジタルカメラを用いた顕微鏡画像撮影を勧奨することは学生の積極性を引き出すのに役立つかどうか観察した.
方法:学生に自由に内臓デジタルカメラで顕微鏡画像を接眼部から撮影させた.病理組織実習に対する学生の態度の変化を観察記録した.
結果:学生は顕微鏡画像撮影に積極的であった.撮影された画像を画面上で見ながら質問・説明が可能であった.学生は自ら撮影した画像を整理して復習に利用した.
結論:学生一人一人が自ら顕微鏡画像を撮影することで病理組織実習への積極的な参加を誘導できた.
キーワード:病理組織実習,携帯電話,スマートフォン,内蔵デジタルカメラ,顕微鏡画像
*1 近畿大学医学部病理学教室,Department of Pathology, Kinki University Faculty of Medicine
[〒589-8511 大阪狭山市大野東377-2]
*2 近畿大学医学部総合医学教育研修センター,Center for General Medical Education and Clinical Training, Kinki University Faculty of Medicine
受付:2013年3月6日,受理:2013年3月11日
連載にあたって:医学教育専門家の認定に向けて
医学教育専門家制度委員会
委員長 平出 敦
医学教育に携わる人が備えるべき教育能力
西城 卓也*1 田川 まさみ*2
要旨:
1) 医学教育に携わる人が備えるべき能力について先行文献を要約した.また日本の医学教育に関わる人にとって必要な能力と質の向上について俯瞰的に提示した.
2) 医学教育能力は自然と身についている素質ではなく,学び,獲得される能力である.教育能力を明確にすることで,それをアウトカム基盤型教育の教育到達目標とした教育プログラムを構築することができる.また学習成果としてその能力を評価することにより医学教育の質的保証が可能となる.
3) 求められる教育能力の領域は,教育の実践能力・評価能力・設計能力・推進能力の4つに分類される.その教育能力の向上には,日々努力する継続的専門能力開発と学究的活動が要求される.
キーワード:医学教育学,医学教育専門家,専門的教育能力,スカラーシップ
*1 岐阜大学医学教育開発研究センター,Medical Education Development Center, Gifu University, Denter for Innovation in Medical and Dental Education
[〒501-1194 岐阜県岐阜市柳戸1番1]
*2 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科医歯学教育開発センター,Kagoshima University Graduate School of Medical and Dental Sciences
受付:2013年3月18日,受理:2013年3月19日