学術集会長挨拶
テーマ
サイエンスとアートで紡ぐがん看護 ―継承と発展―
日本がん看護学会は、1987年に設立され、2013年には法人化され現在の運営体制が構築され現在に至っています。学術集会は学会設立と同年に第1回が開催され、この度第40回を迎えました。この40年の間、がん医療の発展は目覚ましく、それに伴いがん看護においても多くの課題が生まれてきました。それらの課題に対応すべく、私達は、「がん看護に関する研究、教育、実践の発展と向上に努め、もって人々の健康と福祉に貢献すること」という目的のもと活動してきました。学術集会は、震災や COVID-19 禍等の災害時においても、開催地やハイブリッド開催など数々の工夫により、継続して開催されてきました。その当時の学術集会長のご苦労は計り知れませんが、逆境や困難を乗り越えて歴代の学術集会から第 40 回大会へとバトンを渡されていることを改めて認識しております。
今回のテーマは、「サイエンスとアートで紡ぐがん看護」としました。この40年の間に紡いできたがん看護のサイエンスとアートを今回の学術集会で振り返り、そして、未来への発展について語り合う機会になればと考えています。 がん看護の実践においては、サイエンスという科学的な側面とアートと言われるがんを患う個別的な対象を全人的にとらえたケアの双方が必要です。ガイドラインに基づく治療やケアはサイエンスに基づくものですが、それを患者さんに適応するときには、個別の患者さんの検討が不可欠です。アートは、患者の立場になり、医療者の心と技を投入して対応すること、高い感性と知恵を駆使して、サイエンスの方法を病む人に適用することと言われます。このプロセスには、看護行為の重要な概念である Caring に根ざした技が存在していますが、言語で言い表すことは難しい技でもありアートと言われる技は経験知、臨床知として、看護師の中に内在化しているものです。しかし、このアートの部分についても、40年の間にがん看護専門看護師の誕生やがん看護研究によって、徐々に言語化されて来ていると感じています。なかなか形にしにくいものを他者と共有できるものにすることで、看護も継承され発展をしていきます。
昨今は、業務の効率化、タスクシフト、DX の導入などが推進され、私達が看護を実践する環境が目覚ましく変化しています。こういった時代においてがん看護の実践を考えるとき、私達は何を大切にして、ここまでがん看護を紡いできたのかを振り返ることによって、今後どのようにしていけばよいのかのヒントを得ることができると考えました。 がん看護を提供する対象や場所が多様化しても、がん看護の発展にはサイエンスとアートを積み重ね、紡いでいくことが不可欠です。また、がん看護の実践はチーム医療であり、その中心にいる患者さん達との協働、多職種協働が欠かせません。がん医療の中で看護師が井の中の蛙にならないように、サイエンスとしての知識もブラッシュアップし、併せて患者を中心にしたがん看護実践のために大切なことを参加者の皆様が考える機会になればと思います。
第40回日本がん看護学会学術集会
学術集会長 荒尾 晴惠
大阪大学大学院 医学系研究科