大会長挨拶


 

 このたび,第33回日本産業ストレス学会を2025年11月28日(金)~29日(土)の2日間,北九州市の北九州国際会議場にて開催する運びとなりました。本学会が福岡県で開催されるのは,2009年の第17回大会以来16年ぶりです。明治日本の産業革命で重要な役割を果たした北九州において,伝統ある本学会の大会長を務めさせていただくことを光栄に感じるとともに,参加される皆さまにとって実り多い学会となるよう尽力してまいります。多くの方々のご参加を心よりお待ち申し上げます。
 本大会のテーマは,「Psychology,Biology,Technology:産業ストレスの研究と実践の交差点」としました。人類は有史以来,常に社会の変化に「適応」することを求められてきました。特に18世紀後半の産業革命以降,技術革新に伴う社会の変化が適応のスピードを上回る状況が続き,人類はしばしば「不適応」の状態に直面してきました。ストレス研究は,不適応状態を評価するための心理的手法の開発(Psychology)と,そのメカニズムを解明する医学的研究(Biology)の両輪によって発展してきました。一方で,Technologyは社会変化を引き起こす原動力であると同時に,不適応を測定し,適応を支援するツールとしての役割も果たしています。本大会では,産業ストレスに関わる研究者や実務家が一堂に会し,活発な意見交換を通じて「何ができるのか」を共に考える場としたいと考えています。
 我が国では,精神障害に関する労災申請件数やパワーハラスメントをめぐる労働紛争件数が増加を続けており,有効な対策が求められています。また,メンタルヘルス不調による休職者も後を絶たない状況です。一方で,令和6年度の厚生労働白書では,「心の健康」が「人生のストレスに対処しながら,自らの能力を発揮し,よく学び,よく働き,コミュニティに貢献できる精神的に満たされた状態」と定義されました。さらに,人的資本投資やウェルビーイング経営への関心が高まる中で,労働者のメンタルヘルスをアウトカムとする取り組みも進展しています。少子高齢化が進む我が国において,一人ひとりの労働者がその能力を十分に発揮できる社会を築くことの重要性はますます高まっています。
 本学会では,多彩な教育講演,シンポジウム,演題発表を通じて,Psychology,Biology,Technologyの枠を超え,それらの「交差点」で参加者それぞれが持つ専門性や経験を北九州に集結させ,「できること」を考える機会としたいと願っています。
 また,一般演題の発表は,学会員の皆さまにとって自身の研究に対する建設的な批評を得る機会であると同時に,学会の発展と未来を創出する重要なイベントです。多くの皆さまからのご発表を心よりお待ち申し上げます。ぜひ演題登録をご検討ください。
 

第33回日本産業ストレス学会
 大会長  江口 尚
産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学