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地域がん診療連携拠点病院「高齢者がん診療ガイドライン」研修会 2023
【第3部 ディスカッション】指定発言(1)
CQ2-4:高齢がん患者におけるリハビリテーション治療

辻 哲也さん(慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)

よろしくお願いいたします。慶應大学の辻です。私からは、がんリハビリテーションの専門家としての立場からお話しさせていただきます。COI(Conflict of Interest:利益相反)はございません。

講演の画面1

がんのリハビリテーションでは、病期別に目的を分類するということが用いられます。予防的、回復的、維持的から終末期の緩和ケア主体の時期まで、あらゆる病期に目的を変えながら、リハビリテーションの必要性がございます。

質の高いがんリハビリテーションを行う上では、ガイドラインも非常に重要です。「がんのリハビリテーション診療ガイドライン」は、2019年に第2版が刊行されました。患者さん向けのガイダンス本として、国立がん研究センターがん情報サービスの「がんと療養シリーズ」の冊子や、がんサポーティブケア学会からは、診療ガイドライン準拠の解説本が、まもなく刊行されます。医療者向けのマニュアル本としては、「がんのリハビリテーション診療ベストプラクティス」、これが刊行されています。しかし、高齢がん患者さんのリハビリに特化したものというのはございませんでした。

講演の画面2

今回、公開された「高齢者がん診療ガイドライン」では、第3章に「高齢がん患者におけるリハビリテーション治療」として、3つのクリニカルクエスチョン(CQ:臨床疑問)が立てられています。すなわち、術前のリハビリテーション治療、プレハビリテーションと今、いいますけれども、それから、がん薬物療法中の高齢がん患者さんに対するリハビリ、そして、がん治療後の高齢がん生存者、サバイバーに対するリハビリテーション治療です。支持・リハビリテーション分野は、私を含めこの5人で担当させていただきました。

講演の画面3

診療ガイドライン作成手順にのっとって文献検索を実施しました。最終的に15編が抽出され、3つのCQ前にシステマティックレビュー(ランダム化比較試験などの質の高い複数の臨床研究を、複数の専門家や研究者が作成者となって、一定の基準と一定の方法に基づいてとりまとめた総説)を作成して、推奨文案を完成させました。エキスパートパネルは、ここに記載させていただいた患者団体を含む、他分野多職種のメンバーから構成され、各CQの推奨文案についてvoting(投票)を実施して推奨を確定いたしました。

高齢がん患者さんに術前のリハビリを行うことは推奨されるか

講演の画面4

CQ2は、術前のリハビリテーション、プレハビリテーションの効果に関してです。術後に合併症が起きてから、リハビリテーションを開始するのではなくて、術前からのアプローチで術後の合併症を予防して、後遺症を最小限にして、スムーズな術後の回復を図ることができます。今回のガイドラインでは推奨の強さが「なし(Future Research Question)」となりました。エビデンスが「C」と弱く、また、過去の論文では、肺がんにおける呼吸リハビリの有用性のみ示されていて、外挿(ある既知の数値データをもとにして、そのデータの範囲の外側で予想される数値を求めること)が困難で適応可能性が低いことが理由となりました。
ただ、肺がんにおける呼吸リハビリに関しては、先ほどご紹介した「がんのリハビリテーション診療ガイドライン」でも提案されていることから、「肺がんの手術予定の患者に対しては、高齢者であっても術前に呼吸リハビリテーションを行うことが勧められる」と記載されております。

高齢がん患者さんに薬物療法中のリハビリを行うことは推奨されるか

講演の画面5

CQ3は、がん薬物療法中の高齢がん患者さんに対するリハビリの効果についてです。この時期には、がんそのものや治療の副作用で、痛みや吐き気や全身倦怠(けんたい)感があらわれたり、食欲の低下で栄養状態が低下したり、睡眠障がい、骨髄抑制による隔離などがクリーンルームに入ったりするとございますし、精神的なストレス、うつ状態、意欲の低下も生じて、終日ベッドで臥床(がしょう)しがち、不活動になりやすくなります。不活動の悪循環、これが生じてしまいます。

今回の診療ガイドラインでは、エビデンスの強さは「B」、リハビリテーション治療を「提案する」「弱く推奨する」となりました。弱く推奨する理由としては、「対象のがん種や介入方法がまだ統一されていなくて、ばらつきがあり、強く推奨するまでには至らないのではないか」というような意見がございました。また、もう一つ、「外来のリハビリ治療というのは、保険診療上の算定が今も十分できないというところがあるので、臨床的な適応性に問題がある」と、そういう意見もございました。

がん治療後の高齢がん生存者にリハビリを行うことは推奨されるか

講演の画面6

CQ4については、がん治療後の高齢がん生存者、サバイバーに対するリハビリの効果です。米国がん協会では、がんサバイバーの日常生活上の目標を「健全な体重の維持」「活動的な生活習慣」そして「健康的な食生活」としており、生涯にわたり運動習慣というのは、がんサバイバーの方にはとても重要ということです(1

今回のガイドラインでは、エビデンスの強さは「B」です。また、リハビリテーション治療を「提案する」「弱く推奨する」になりました。弱く推奨する理由としては、エビデンスの多くは乳がん、前立腺がんであり、「がん種が少し限られているため、直線性に問題がある」ことがあげられました。
それから一方、一般の高齢者に関しては、運動療法はもちろんやったほうがよいと推奨されておりますので、がんのサバイバーの高齢者においても、運動を推進するという方向性を示すことは重要ではないかというポジティブなご指摘もございました。

まとめ:がんリハビリテーションの体制構築に向けて

講演の画面7

まとめです。がんリハビリテーション診療は、QOL(クオリティー・オブ・ライフ:生活の質)の向上を目的に、予防や機能回復から担がん患者さんの機能の維持、緩和ケア主体の時期まで重要な役割を担います(2。高齢がん患者さんでは、潜在的にフレイル(加齢により心身が老い衰え、積極的な治療の適応にならないと思われる状態)やサルコペニア(高齢になるに伴い、筋肉の量が減少していく現象)のリスクがあって、生活機能(身体機能、ADL[Activities of Daily Living:日常生活動作]、IADL[Instrumental Activities of Daily Living:手段的日常生活動作])が低下しやすいので、治療前に「GA」によるスクリーニングを実施して、患者さんごとの問題点のリストアップ、ピックアップをして、がんを治す治療と共に、リハビリを必要な方には、しっかり行っていくことができる体制の構築が必要です。
今回のガイドラインでは、術前のリハビリテーション(プレハビリテーション)、CQ2は「なし(Future Research Question)」となりました。理由としては、がん種が限定されていて、非直線性であることがあげられ、「肺がんのみ勧められる」となりました。
また、薬物治療中(CQ3)、治療後のサバイバー(CQ4)に対しては、「リハビリテーション治療(運動療法を中心とするもの)は提案(弱い推奨)」となりました。理由としては、がん種が限定されていて非直線性であること、介入方法が必ずしも統一されていないということがあげられました。以上です。ありがとうございました。

田村:ありがとうございました。リハビリ、運動に関するCQと、そのまとめでございました。それでは栄養療法、あるいはサルコペニアに関しまして、内藤先生のほうからお願いいたします。

1)CL Rock, et al., CA Cancer J Clin 2012; 62(4), 242-274
https://doi.org/10.3322/caac.21142
2)T Tsuji, Jpn J Clin Oncol 2022; 52(10), 1097–1104
https://doi.org/10.1093/jjco/hyac139

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掲載日:2023年05月22日
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