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地域がん診療連携拠点病院「高齢者がん診療ガイドライン」研修会 2023
【第3部 ディスカッション】 ディスカッション(1)

司会: 田村 和夫さん(高齢者がん医療協議会)、渡邊 清高さん
パネリスト: 二宮 貴一朗さん、津端 由佳里さん、桜井 なおみさん

渡邊:3人の登壇者の皆さま、ありがとうございました。
それでは、これからパネルディスカッションということで、いただいたご質問はすでにオンラインでご回答いただいているものもありますが、登壇の皆さまには、これからディスカッションに加わっていただければと思います。これからは共同司会ということで、「高齢者のがんを考える会」の代表世話人の田村和夫先生にもご参加いただきまして、二宮先生、津端先生、そして桜井さんの5人で進めてまいりたいと思います。

講演の画面1

事前にいただいたプレアンケート、開始時に皆さま方からいただいたアンケートで、「『高齢者機能評価(GA)』について、どのくらいご存じですか」ということで、「よく知っている」という方が、だいたい5%ですか、「おおまかに知っている」方は38%、「あまり知らない」「まったく知らない・わからない」という方が合わせて56%という結果でした。
また、「どのくらい活用していますか」ということについて、「日常的に活用している」方が、やはりおよそ5%でしょうか、「時々活用している」も合わせると2割弱、「ほとんど活用していない」が3割、「まったく活用していない」という方が4割弱、「わからない・該当しない」という方も合わせると5割という結果でした。この辺りが今回のディスカッションのスタートラインかと思いますが、では田村先生からお話しいただきまして、進めてまいりたいと思います。よろしくお願いいたします。

田村:皆さま、こんにちは。福岡の田村です。「高齢者がん医療協議会」は、佐伯班、この研究班と共同でガイドライン作成、あるいはテキストブックの作成などをやってきました。その議長として、今日、司会をさせていただきたいと思います。今日、お三方から大変貴重なお話をいただいて、「GA(Geriatric Assessment):高齢者機能評価」「GA」とこれからは省略して言わせていただきますけれども、「GA」は、すべきだろうというのが、だいたいの方向性だろうと理解しましたが、では、それを実際にどう利活用するのか。
それから、もう一つその手前に、津端先生からも示していただきましたけれども、「病院内での共有が十分されていない」というのも、大変重要なポイントになると思うのです。いくつか質問をいただいていますので、そういったところをパネルの先生方と議論していきたいと思います。

「Geriatric 8」は手術または放射線治療をする高齢者に使えるか

田村:では、質問をいくつかいただいておりますが、まず、「『G8(Geriatric 8)』は抗がん剤を使う予定の高齢者に対してツールと理解していますが、手術や放射線治療をする予定の高齢者に対しても使えるのか」というご質問です。一部は二宮先生からもお話しいただいたのですけれど、この辺りは二宮先生、いかがでしょうか。薬物療法はいくつかデータがありますので、たぶん「皆さんやりましょう」ということになると思うのですけれども、手術療法あるいは放射線療法もあるかと思いますがいかがでしょうか。

二宮:ありがとうございます。手術療法や放射線療法に対する「高齢者機能評価」のエビデンスで言いますと、介入に与えるアウトカムの結果は、まだまだこれから示されてくるところで、エビデンスは実は少ない領域であります。「G8(Geriatric 8)」は栄養を中心とした評価ツールでありますので、手術の前の評価としては有用である可能性がありますが、それ以外に手術の前の評価と言いますと、身体的な評価、またIADL(Instrumental Activities of Daily Living:手段的日常生活動作)などの評価が必要でありますので、それらも可能であればしていくべきだと思います。
例えば肺がんの手術の前にリハビリテーションをすることで、術後のアウトカムが改善することは、高齢者に限らず示されているわけですので、そういったものも使いながら、身体評価をしていくことというのは、重要だと思います。ただ、なかなかこれがよいというツールが、まだまだ開発が進んでいる状況で、エビデンスが示されていないところでありますので、これから十分評価していく必要があると思います。

田村:ありがとうございました。津端先生、追加するところがございますか。

津端:ありがとうございます。二宮先生が今おっしゃったのは、たぶん質の高いエビデンスというところ、いわゆる「RCT(randomized controlled trial:ランダム化比較試験[研究の対象者を2つ以上のグループに無作為に分け、治療法などの効果を検証すること])」があるか、ないかという意味で言うと、たぶんないと思うのですけれども、「Geriatric 8」はやっぱり栄養状態を見るということなので、後ろ向き(過去と現在のデータを扱う研究)であったり、あるいは最初に「Geriatric 8」を測っておいて、「良かった人」「悪かった人」で、その手術の合併症はどうだったといったような単施設の研究といったものは、たぶん山ほど存在しますので、放射線療法に関しても確かあったと思うのですけれども、そういったものはおそらくあるかなと思います。

田村:ありがとうございます。そのほかどうでしょうか。

桜井:私からもいいですか。逆に先生方にお聞きしたいのですけれど、そういう単施設の研究はいっぱいデータがありますよね。それはどこかに突合されたり、ためたりしてないのですか。何かデータベースがあると、すごくいいなと思っているのですけれども、もったいないですよね、せっかく患者さんたちは治療を受けたので、それを次の世代の人たちにも役立てていけたらなと思うのですけれども、どうなんでしょうか。

渡邊:実診療ベースだと結構そういうデータをスクリーニングとして取っていることはあると思うのですけれども、それが、ではどう共有されて、また、それをもとにどのような意思決定がなされているかといったところ、例えば手術の前や抗がん剤治療の前などという、目的に応じて実施はされていても、では、その後のリハビリテーションにつなげたり、栄養管理までつなげたりという継続性というところは、結果としてないかなとは思います。私も質問に乗っかってしまいましたけれど、二宮先生、津端先生、いかがでしょうか。

二宮:ありがとうございます。非常に難しいところで、もちろん治療前の評価も含めて、そういった結果を多く広く、論文などでも発表していくことが重要だと思います。その発表されたものの評価をするのが、われわれガイドライン作成メンバーの仕事でありますし、それをまとめて、できれば示していきたいと思っておりますけれども、今後の課題とさせていただければと思います。

津端:ありがとうございます。おっしゃるとおりで、論文で発表されると、同じような研究をやっているから、データをガチャッと一緒にして検討してみようということは進むと思うのですけれども、年代が違ったり、あるいは登録されている患者さんの背景が違ったりすると、どこまでの研究を含めてデータを統合するかというところが非常に難しくて、何でもかんでも入れてしまうと、エビデンスの質としては少し下がってしまいますし、そもそもRCTではないので、出てきたデータの質の担保というところが少し難しくなるという問題点はあろうかと思います。

桜井:ありがとうございます。国がそういうところのデータベースをきちんと持っていないのも、すごく不思議だなと思いました。一人一人の高齢者のPatient journeyみたいなものがデータになっていると、すごく参考になるのになんていうことを、今ぼんやりと思っています。

地域における課題

田村:よろしいでしょうか。それでは次の課題、地域格差の問題が質問に出ています。これはなかなか難しい問題ですが、「今、所属している地域での課題をそれぞれ教えてください」と書いてあります。その地域、地域で何か違いがあると思うので、それをご存じでしたら、少しご披露いただくと参考になるかなと思いますが、いかがでしょうか。島根の場合ということでもよろしいかと思うのですけれど。

津端:ありがとうございます。「GA」で評価するというところには、たぶん地域格差はないというか、その病院が取り組むかどうかの差なので、ないかなと思っておりますけれども、それをどのように生かして、地域の各病院さん、終末期を診ていただけるような病院の方々、メディカルスタッフの方々と、どう連携していくかというところは、おそらく地域差はあるのかなとは、私も感じます。島根は非常に高齢化が進んでいる県なので、私がこういったところに興味を持ってやっていることもありまして、うちの診療科は、患者さんで高齢の方は100%「GA」も行って、それを生かして治療方針も決めたりはしているのですけれども、地域もそういったところでバックアップと言いますか、非常にサポート体制が充実しているので、割と高齢者の診療に関しては、どのがん種もサポートいただいているのではないかなというイメージがあります。ですので、逆にどうでしょう、都会で患者さんがたくさんいるほうが、もしかしたら問題が多いのかなと、個人的には感じているのですけれど、岡山はどうですか、患者さんがたくさんいらっしゃると思うのですけれど。

二宮:ありがとうございます。私は岡山大学のほうで仕事をしておりますので、患者さんは、そこまで超高齢という方があまり来られない環境にはあるのですけれども、ただ、岡山県は非常に広いですので、県北から、非常に遠くから高齢の方が来られて、治療に難渋することもございます。遠方で、高齢化が進んでいる地域であればあるほど、がん専門医が少ないという現状にあって、われわれ専門病院と地域の病院と、がん診療に主に取り組んでいない病院と、こういった知識を共有しながら、病診連携をつくっていくことも、やはり地域によっては重要だというふうに、岡山県としては考えております。

田村:ありがとうございます。そのほか、コメントがありましたら、お願いします。

渡邊:今回参加された方の中にも、がんの診療をされていらっしゃらない、必ずしもがん診療を専門としてはいない、がん治療ではなくて、どちらかというと患者さんのケアや緩和・在宅という場で支援されている方のご参加もありますので、そういった方の共通言語になって、何らかの連携をするときの課題を共有したり、リスクをスクリーニングして、早めに予防的な介入をしたり、そういったところに研究ベースのところから実診療や、あとは患者さんとのやりとりで活用していけたらよいですよね。そこで患者さんが行き来しても、質の高いケアが地元で受けられたり、データが結合できたりするというところにつながってくると、さらによいと思います。結構ニーズとしてはあるのですが、そこをでは、いつ、誰が、どこでやるかというところが、工夫が必要かと思います。

高齢者機能評価は「Geriatric 8」あるいは「CGA7」から導入の検討を

田村:では、いつ、どこで、何をやるかというところが難しいという話がずっと出ていますので、その辺りで地域格差の問題ももちろんあるし、各施設の違いもあるしというところで、共通と言いますか、「このぐらいのベースはやりましょうよ」というところ、「これぐらいは体制を整えましょう」というところの最低のラインというような、その辺りがある程度見えてくると、皆さんやりやすいのではないかなと思います。そこの中にも結局、「時間がかかると困りますよ」ということもあると思うので、「GA」の中のどういうツールが一番「適切」という言葉はあり得ないのだろうと思いますけれど、「実際的でそれなりの情報が得られて、それが診療の中で使える」というようなものを、たぶん1つ2つ、先生によっても違うかもしれませんけれども、ちょっとご披露していただくと、視聴者の方には参考になるかと思います。二宮先生、いくつかスクリーニングツールを出されましたけれども、先生でしたら、どのようなツールをお使いなさいますか。

二宮:ありがとうございます。エビデンスという言葉を、今までいろいろ多く語ってまいりましたけれども、ただ、やはりがん診療においては、皆さまの診療の中で実現可能性を考えないといけないと思いますので、先ほどありました最も簡便なものから、導入するのがよろしいかと思っていまして、「G8(Geriatric 8)」を用いるのが導入としては簡単ではないかと考えています。

田村:ありがとうございます。あと「CGA7」ですね。老年医学会から出していますけれども、津端先生、紹介されていましたけれども、その辺りをもう一度、たぶんご存じない方も結構いるのではないかなと思いますので、お話しいただきたいと思います。

津端:ありがとうございます。確かに「Geriatric 8」は簡単なのですけれども、患者さんに渡して書いてもらうというのが、基本的なやり方のツールでして、認知機能の問題をご自身で申告するというタイプの質問票なので、正確に認知機能低下や意思決定能力があるか、ないかの評価というのが、ちょっと「Geriatric 8」では難しい場合が多いと感じています。そのため、第一歩としては「Geriatric 8」はとてもよいと思うのですけれども、意思決定支援が必要かどうかということに関しては、できたらそこにプラス、Mini-Cog(3つの単語を思い出したり、時計を描いたりする能力を評価する簡単な認知機能テスト)やMMSE(Mini Mental State Examination:ミニメンタルステート検査[世界中で最も用いられている認知症の検査])もしくは長谷川式(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)といったようなものを、「Geriatric 8」をやる場合は追加するのが、私としてはお勧めと言いましょうか、よいのではないかと思っています。
一方で「CGA7」につきましては、日本でつくられて日本語のものなので、ちゃんとそういったvalidation(検証)もされておりますし、3単語再生が入っていて、基本的には医療従事者が評価するものなので、意思決定能力については、少し「Geriatric 8」よりは評価しやすいと思いますので、「CGA7」であれば「CGA7」だけで、だけでという言い方がよいかどうかわからないのですけれども、「CGA7」のほうが、私は少し判断力が強く、よいのかなと感じております。

田村:ありがとうございます。「G8(Geriatric 8)」あるいは「CGA7」といったところを、検討いただくところから始めたらどうかなというところだと思います。

高齢者機能評価ツールを利活用できるシステムの構築が重要

桜井:先生方にもお聞きしたいのですけれど、そういういくつかの評価ツールに、例えば患者さんも、家族も誰かが書いていくわけですけれど、たぶん評価を入れることだけは簡単かもしれません。それを総合的に解釈することがすごく難しいと思っているのですけれど、そういう人材は、今どのぐらいいらっしゃるのか、あと、いないときには、例えばオンラインでそういうカンファレンスを持てるのでしょうか。また、たぶん実装化していく上では、質問でも入っていますけれど、診療報酬みたいなもので評価していかないと、全国に広がらないと思っているのですけれど、その辺りはいかがでしょうか。

津端:ぜひ回答させていただきたいと思います。本当におっしゃるとおりで、こういったことを進めていくに当たっては、整備要件も一つそうだと思うのですけれど、診療報酬も含めた制度の問題を進めていくということのほかに、やっぱり「GA」を簡便化して、「GA」の結果を理解して、介入にはどのようなものが必要かということを提案することが、専門家がいないと難しいので、そういったシステムをどうつくるかということが、とても重要だと思っています。それで、実は私は、行っておりました臨床試験につきましては、iPadで最後に推奨する介入まで出るようなシステムを導入して、各施設に使っていただきました。
臨床研究後のアンケートを皆さんに取りましたら、一番よいのは結果の解釈まで、「患者さんにどのような介入が推奨されるか、説明をするか」というところまで出るということが、使っていただいた先生に非常に好評だったので、そういったシステムを広げることで、ミニマムな知識で「GA」を利活用できるというような、そのシステムの構築、推進というのが、非常に重要だなと感じております。ありがとうございます。まったく同感です。

田村:よろしいでしょうか。誰が、どこで、どうするのかというのは、各施設のリソースに応じるということになると思いますけれど、これからはITを使ってのいろいろな工夫も考えていかなければならないということと、それから診療報酬の中で、それを認めてもらうということも、われわれの一つの重要な活動ではないかと思います。

では、この「GA」に関しましては、この辺りで一応終えまして、次の指定発言に移りたいと思います。これは、先ほどお話ししました「GA」で抽出されました、いろいろな脆弱(ぜいじゃく)な部分をサポートする一つの運動療法、あるいは栄養療法に関するものでありまして、極めて重要だと思います。指定発言として、辻先生、よろしくお願いいたします。

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掲載日:2023年05月15日
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