がんの在宅療養 地域におけるがん患者の緩和ケアと療養支援情報 普及と活用プロジェクトfacebook

地域がん診療連携拠点病院「高齢者がん診療ガイドライン」研修会 2023
【第3部 ディスカッション】ディスカッション(2)

司会: 田村 和夫さん、渡邊 清高さん
パネリスト: 二宮 貴一朗さん、津端 由佳里さん、桜井 なおみさん
指定発言者: 辻 哲也さん、内藤 立暁さん

運動療法に関して各病院のスタッフ数に応じた対応を

田村:お二方の指定発言に対しまして、質問がいくつか来ておりますけれども、多岐にわたるのでなかなか難しいのですが、まず運動療法に関しまして、リソースによって違うと思うのです。各施設、あまりリハビリの専門職員がいない所での対応の仕方と、非常にそろっている所の対応の仕方というのは、いろいろあるかと思うのですけれども、地域差、あるいはリソースの違いというところに関しまして、辻先生、論文のリサーチなどをされている中で、何か気づかれたところがございますでしょうか。

辻:今回のガイドラインの作成にあたって抽出された論文は、高齢者を対象に入院中や外来でのがんリハビリテーションの効果を示した研究ですので、施設の環境や質が整った施設での取り組みになります。しかし、確かに、がんリハビリテーションは全国的に均てん化は十分ではなく、地域性や病院によっても格差があるのも事実です。論文に記載されたがんリハビリテーションは理想ではありますが、現状では、それぞれの病院のスタッフ数に応じた対応を考えていかないといけないと思います。

栄養療法に関して特定のサプリメントを推奨できる段階ではない

田村:ありがとうございます。それから栄養療法に関しましても、こういうサプリメントというか、こういうのがよいとか、これはしないほうがよいのではないかというような、そういうところは、内藤先生、レビューされている中で、何かありましたでしょうか。

内藤:ありがとうございます。特定のサプリメントを推奨できるほどのエビデンスはなかなかないのですけれども、一般高齢者に対しては、がんのエビデンスよりも少し進んでいて、分岐鎖アミノ酸(筋肉中のたんぱく質に含まれ、運動時に重要な役割を果たす必須アミノ酸)を含むサプリメントと運動療法をしっかりやると、フレイル(加齢により心身が老い衰え、積極的な治療の適応にならないと思われる状態)や転倒を防ぐことができるのではないかというエビデンスは、がんの領域よりも多くあります。それを、がんにも応用できるかもしれないです。

田村:お聞きになっている視聴者の方々は、結構いろいろな所からアクセスされていると思いますので、今のような状況でリソースに応じた対応をするしかないというのが現状かと思います。
桜井さん、今、リハビリと栄養療法をお聞きになって、患者さんの立場からはいかがでしょうか。同じように都心部におられる方と地方にいらっしゃる方と話は違うとは思うのですけれども。

桜井:ありがとうございます。リハビリや栄養は日常生活なんですよね。その日常をやっぱりしっかりキープしていくということは、本当に人として生きていくベースラインなのではないかなと思っています。特にリハビリテーションなどは、できることがだんだん限られていく中で、本当に身近な目標になったりするんですよね。ですから、私もリハビリテーションに関しては、もっと病院の中で浸透していくといいなと、特に高齢者に関しても思うところです。
栄養なども、私は、別で栄養のほうのガイドラインに加えさせていただいているのですけれど、やっぱりいろいろなディスカッションをしていると、高齢者と一緒でまったくエビデンスがないです。それからアメリカだと食品医薬品局で、食品も薬品と一緒にいろいろ考えてくださるのですけれど、日本では医薬品は承認とかそういうのがないんですよね。そのため、すごく不確かな中で、試行をするという感じになるしかないのかなというところも、すごく残念だなと思っています。

田村:ありがとうございます。渡邊先生、質問が非常に多岐にわたるので、これはぜひディスカッションしておいたほうがよいというところがあれば、選択いただけますか。

高齢者がん医療の普及に向けての課題

渡邊:先ほどのディスカッションの中でも、エビデンスをつくるところから、それをどう実践していって、どう普及していくかというところで、今、辻先生、内藤先生から、それぞれリハビリテーションと栄養について、具体的な課題や工夫をお話しいただきました。先ほどのディスカッションの中でも、どう評価するか、あとはそれをどう伝えていくかというところですよね。がんの治療病院から、例えばリハビリの処方を地域で継続できるようにしていく、あとは栄養に関する介入を、病院が変わっても、施設が変わっても、継続できるように関連職種でちゃんと引き継いでいく、というところで制度上のバリアもあるし、あとはそれにかかわるスタッフ側のバリアもあると思います。
どう普及していくかというところの課題が伺えればと思うのですが、この辺り、辻先生、内藤先生、そして津端先生にもお話しいただければと思うのですけれど、いかがでしょうか。

辻:リハビリテーションの立場からは、「G8(Geriatric 8)」等でスクリーニングをして、必要な方にはリハビリテーションサービスを提供する体制を構築することが必要と考えます。治療の前からその高齢者の方のフレイリティ(筋力や活力が衰えた段階)を評価して、それをリハビリにつなげていただくフローができるというのが、非常に大事だと思います。ただ、どのような状態の方でも、特に高齢者であれば、がん治療の前にはしっかりからだのコンディションを整えることは大事なので、そこはリハビリの専門職ではなくても、その担当診療科のスタッフ、看護師さんを中心に運動や栄養管理も含めた生活指導を実施していただいたり、パンフレットを、院内のリハビリテーション科など関連科や部門と協働でつくっていただいたりすることは、非常に大事だと思います。

また、治療終了後に地域とつなげるところもとても大事で、リハビリや運動の継続性は、先ほども桜井さんがおっしゃったように、生活のベースになるので、サバイバー(がん経験者)の方も終末期の方も含めて、しっかり運動習慣を在宅療養の中でもつくっていくような、その連携は大事だと思います。
それから、高齢者は介護保険が使えますので、その中でケアプランを立てるときに、病院のスタッフと介護保険の地域のスタッフがしっかり連携を取って、今、退院時にはカンファレンスなども行って加算もできますし、それでうまく情報共有していくというのが大事です。特にがんの患者さんの場合には、治療の経過など、その辺りが十分に在宅のスタッフと共有されていないと、例えば骨転移がある方や、悪液質(著しい筋組織の減少を特徴とする代謝障がい)でかなり脆弱(ぜいじゃく)な方などが、リハビリや運動をやる上でもリスクもあるので、そういう双方向の連携をしっかり取っていくようなことも、非常に大事だと思います。

内藤:栄養に関しましては、スタッフ、栄養士さんが、いろいろな加算、糖尿病や心臓病などの特別食加算が取れれば、多くの栄養士さんを雇用できるのだと思うのですけれど、例えばがんセンターのような例ですと、リハビリも外来の加算が取れないですし、栄養士さんもいろいろな加算が取れないので、とても少ない人数で回しています。そして、そのほとんどは周術期(術前~術後の一連の期間)の栄養と運動の介入に取られてしまうので、進行がんの方や高齢者の栄養の入院には、なかなか手が回らないというような現状はあります。彼らが働きやすいような、そこに病院がお金をかけられるようなシステムは、やっぱり必要かなと思います。

あと、スクリーニングについては、抗がん剤治療などをやっている間は、一生懸命「食欲はどうですか」などと食についての問診をしたり、体重の記録をしたりするのですけれど、それが終わってしまったり、治療が一段落したりすると、途端にまったくカルテの中に、そういうことが記載されなくなってしまう医療者の認識というか、「がんと共に生きるときに、栄養をいつも気にしてなくてはいけない」ということを、知っている人が非常に少ないものですから、そういう認識も変えていかないといけないかなと思います。

津端:私も、リハビリが非常に重要なのはよくわかっているのですけれど、がん患者さん以外の方たちも診なければいけない、リハビリテーションの領域が非常に広いので、高齢のがん患者さんだけに力はかけられないのです。術前の方のリハビリの流れなどは、決まったものがある程度あると思いますので、食道がんであったり、肺がんであったり、そういったものは術前の方であれば割と依頼しやすいと思うのですけれども、私などはステージ4の肺がんの患者さんということになりますと、なかなかリハビリテーションに依頼することが難しいです。

それで、「Geriatric 8」もステージ4の肺がんにつけると、8割以上が「陽性・脆弱性あり」と出ますので、それを全てリハビリテーションに紹介することはできないということがありますので、もし「Geriatric 8」が陽性になった場合には、栄養状態などに気をつけないといけない、運動をしっかりしないといけないということを、まずは主治医から口頭でしっかりお話をした上で、自宅でできるような簡単な運動、リハビリのパンフレットを渡す、というようなところから始めているというのが現状です。

渡邊:ありがとうございます。たくさんご質問をいただいていて、大ぐくりにするのは、少し乱暴かなというところはありますが、「どう現場で使っていくか」ということ、「どうつないでいくか」というところが、非常に重要だと思いますので、まずは周術期からスタートして、今後、場合によっては、このGAの活用と支援を広げていくなど、いろいろな戦略的なアプローチが必要かと思って伺っておりました。

田村先生、ご登壇された方から一言ずついただいて、いきましょうか。

田村:そうですね。だいたいわれわれがメッセージとして伝えたいところは、押さえたつもりなのですけれども、まだ細かいところがたくさんあります。それらについて質問がございましたらいただいて、あとでまた答えられるものは答えるというかたちでいきます。

渡邊:そうですね。では、二宮先生から、お願いいたします。

一つのツールとしてガイドラインの活用を

二宮:私のほうからは、高齢者のがん医療における「高齢者機能評価」の重要性について、ガイドラインをまとめさせていただいて、今回、発表させていただきました。今回、ご質問でも多くの課題をご指摘いただいております。評価をすることだけで、今回初めてエビデンスが示されつつある中で、日本人にどう外挿(ある既知の数値データをもとにして、そのデータの範囲の外側で予想される数値を求めること)していくかということや、その介入をどう行っていくかというのは、まだまだこれから皆さまと協議していかないといけない課題だと思います。
また、多くご質問でいただきましたけれども、がん種によってそれぞれの課題が異なっています。先生方と周りの看護師さんやチーム医療のスタッフと、あとは患者さんと家族で、情報共有を行い、一つのゴールに向かっていくことがやはり重要だと思います。よくよく皆さまと相談する中でのGAが一つのツールになって、ガイドラインが一つのツールとして活用いただければと思います。今回の発表以外にも、多くの課題が示されているところもありますので、またガイドラインをご活用、ご覧いただければと思います。ありがとうございました。

その地域、病院に合った高齢者のがん治療の実装を

津端:まず本日こういった発言の機会をいただいたことに、関係者の皆さま方に深く御礼を申し上げたいと思います。今日、がん診療連携拠点病院の方々がメインで参加しているということでしたので、拠点病院のところから、私はお話しさせていただいたのですけれども、突然、「意思決定支援を含む機能評価」という言葉が出てきて、たぶん慌てられた先生方が多かったのではなかろうかと思います。けれども、今日少しお話しさせていただいた中で、どうしてそうなったかということが、少しお伝えできたのではなかろうかと思います。

ただ、そのような文言が書かれて、どのようにしておけば合格といいますか、そういうところはたぶんなくて、ぜひ各ご施設、地域でも違いがあろうかと思いますので、その地域、その病院で、どのようにして高齢者のがん治療、機能評価を含めて行っていくかということを、関係者の皆さまとご相談いただいて、その地域、病院に合ったものを実装していっていただけたらと思います。まず何もやっていないという場合には、今日いくつかご紹介させていただきました、最初のステップというものを試していただけたらよいのではないのかなと思っております。今日は本当にありがとうございました。

ガイドラインが橋をかけていく第一歩に

桜井:私も今回こういう検討の場所に参加させていただいたこと、本当に感謝しております。私では不十分な部分もあったかなとは思いますけれど、それでもこういう学びの機会を得ることで、やっぱりガイドラインに参加して地域と地域や、急性期と在宅、制度の間や人材など、情報もそうですし、患者さんと家族の間もそうですし、いろいろなところに、言い方は悪いですけれど、デスバレー(死の谷)があるなというのはすごく思ったんですね。谷があるなと思っています。
一つ、このガイドラインは、そこにちょっとずつでも橋をかけていく第一歩になったのではないかなと思っていますけれども、つくったことが決してゴールではないと思っています。つくったことでいろいろな課題が見えてきたかなと思っていますので、今後はこれをどうやって実装化していくのか、広めていくのか、当たり前にしていくのか、ということを引き続き考えて、一緒に学んでいければいいなと思っております。ありがとうございます。

さらなるエビデンスの蓄積を

辻:今回ガイドラインをまとめさせていただいて、一応3つのCQ(Clinical Question:臨床疑問)で、そのうち2つからは推奨がいただけたということは、とてもよかったと思います。ただ、がん種や介入方法など、ばらつきがあったり、がん種が限定されていたりということで、まだまだ十分ではないので、次の改訂では、質の高い論文がさらに増えて、エビデンスの確実性が高まればと願っています。一方では、今回のガイドラインにより、世界的に高齢者のがんリハビリテーションに関して具体的にどのようなアプローチがされているか、現在の状況を理解することはできます。ぜひガイドラインを参考にしていただき、今後の実臨床や臨床研究に生かしていっていただければと思います。ありがとうございました。

内藤:この場にお呼びいただきまして、ありがとうございます。診療ガイドラインといえば、「これを読めば実地医療が迷わずできます」というようなものになるのが望ましいのですけれども、私が担当した部分は、むしろ混沌(こんとん)としてしまって、まだエビデンスがないという結論になってしまいました。けれども、これは現状がわかったということで、桜井さんがおっしゃっていたように、これをもとにいつかはクリアカットなお答えができるようなものになっていくのではないかということを期待して、私は一研究者として、何かエビデンスを少しでもつくっていく努力をしていきたいと思います。ありがとうございます。

渡邊:ありがとうございます。では、田村先生、まとめの一言をお願いします。

高齢者機能評価ツールの普及を目指し活動していく

田村:皆さんもおっしゃったのですが、「GA」をこれからぜひやっていただきたいです。元気でいっぱいの人は、もしかしたら要らないかもしれません。その辺りは各施設で各担当の先生が考えられることだと思います。それから、リソースが違いますし、地域によってずいぶんいろいろと違いますけれども、その地域、そのリソースに合った「GA」、そして何よりも情報を院内で共有し、そして、それを利活用していくという、その流れをぜひ考えながら、「GA」をやっていただければありがたいなと思っています。われわれの調査研究でも、8割のがん診療連携拠点病院、地域連携病院の先生方といいますか、チームは、この「GAをやっていない」、あるいは、そのうちの半分は、「GAをあまり知らない」という結果を持っていますので、それをぜひ100%に近いものに早く普及させていきたいと思います。今後も、この活動を続けていきますので、ぜひご参加いただければと思っています。

渡邊:田村先生、ありがとうございます。冒頭にも佐伯研究代表者からお話があったように、やはり全国均一では必ずしもないということが、この課題の難しいところでもあり、可能性の多いところでもあると思います。今回の研修会はウェビナーというかたちではあったのですけれども、ぜひ地域で、施設で、こういったディスカッションが進んで、どう役割分担していく、どう連携していくか、というところが始まることが、まず重要なのではないかなと思って聞かせていただきました。ぜひまた、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 では、パネリストの皆さま方、先生方、ご発言いただきまして、ありがとうございました。以上をもちまして、ディスカッションパートを終了させていただきたいと思います。
それでは、まとめと閉会のごあいさつということで、埼玉医科大学国際医療センター、乳腺腫瘍科の石黒先生から、お話しいただきたいと思います。石黒先生、よろしくお願いいたします。

次へ
掲載日:2023年06月05日
アンケートにご協力ください
「がんの在宅療養」ウェブサイトについて、あなたのご意見・ご感想をお寄せください。
アンケートページへアンケートページへ