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北海道のがん患者さん支援の充実に向けて がん治療とソーシャルワーク専門部会研修会 2023
地域でがん患者さんとご家族を支えるために

渡邊 清高さん(帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科)

研修会の目標

導入としてこの研修会の背景やそのねらいについて「地域でがん患者さんとご家族を支えるために」ということで、簡単にお話をさせていただきます。

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この研修会の目標といたしましては、「北海道のがん患者さんとご家族向けの支援の現状と課題を概説できる」、そして「患者さんのQOL(クオリティー・オブ・ライフ:生活の質)の向上と支援の充実に向けたかかわりの事例を説明できる」ということ、「患者さん支援に向けた多職種チームアプローチの意義を説明できる」というところをねらいとしています。

ご存じのとおり昭和56年、1981年に日本人の死因第1位が、がん(悪性新生物)になりました。高齢化の進行と相まって亡くなる方というのは年々増えてきておりまして、年間38万人の方が、がんで亡くなっていて、年間100万人の方が、がんと新しく診断されているといった状況です。よく聞く、「2人に1人ががんになる」というのは、そういった背景からきているということで、もはやがんというのは特別な病気ではないといえると思います。 一方で、診断や治療の進歩とともに、がんですぐに死期が訪れるということではなくて、病気を患いながら、あるいは再発の不安と向き合いながら治療を続ける、あるいは後遺症をうまくケアをしながら、社会生活や普段の生活を続けていくことが可能になってきています。

「話し合う」医療とケア

医療の進歩とともに、社会も変わる必要があると、この結果からは見て取れます。こうした中で、治療の選択肢が限られた中では、ある2つの限られた選択肢の中から患者さんは「そのとおりに受け止める」というかたちで、受け身で済んでいたわけですが、現在は、治療・検査・ケア、あるいはその後の後遺症への対応も含めて多くの選択肢があります。医療者がある選択肢を提案しても、患者さんは別の組み合わせを希望されるかもしれません。多くの選択肢がありますし価値観も多様であって、何が正解であるかというのは、患者さん・ご家族、お一人お一人の価値観ということが非常に重要になっています。そうした中で、「コミュニケーションが鍵」といえます。これからは「話し合う」医療とケアが重視されていると思います。

「がんとの共生」に向けて社会全体として支える仕組みが必要

一方で「がん対策基本法」という法律が2007年に施行されました。最近ですと2016年に改正されまして、がん医療の充実に向けた施策、それに加えて予防や早期発見(検診)、さらには患者さんの雇用の継続や、がん教育など、そして民間団体のサポートなどの社会的な側面が、特に最近は注目されています。
現在第4期の基本計画に向けた議論がなされておりますが、がん対策を具体的なものとしていくためのアクションプランということで、「がん対策推進基本計画」があげられています。「がんとの共生」という項目があり、その中に「相談支援、情報提供」、あるいは「社会連携に基づくがん対策・がん患者支援」、さらには「ライフステージに応じたがん対策」の施策が含まれており、今日の研修がまさに「小児、あるいは若年世代の患者さんの支援」、そして「青年期あるいは高齢化社会を踏まえて在宅でどう患者さんを支えていくか」、こういった話題も盛り込まれているということで楽しみにしております。

この基本計画の中では「がんとの共生」に向けて、住み慣れた地域社会で生活をしていく中で、医療・福祉・介護・産業保健・就労支援などと、幅広い分野の方と連携して、医療だけではなく、多職種など、社会として全体で患者さん・ご家族を支えていく。社会の中で過ごすということでは、もはや「患者さん」ではないです。その中で社会の中での支援として病がある/なしにかかわらず、その方をどう支えていくか、どう看取っていくかというところを、一緒に考えていくことが必要とされています。

医療ソーシャルワーカーをはじめ、さまざまな参加者による研修会

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今回この研修会のご案内をさせていただいたのが11月末ぐらいだったと思いますが、こちらにお示ししておりますが、医療ソーシャルワーカー、がんの相談員の方、看護師、医師、がん医療ネットワークナビゲーターの方、患者さん・一般の方、薬剤師さん、ケアマネジャーさん、行政の方、本当に多くの属性の方にご参加いただいております。そして地域も、北は北海道から九州・沖縄まで多くの方にご参加ご登録いただきましてありがとうございます。

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その中でいただいたコメントとしては、「在宅療養に関すること」や、「小児がん、就労支援、在宅の栄養管理、グリーフケア」、「がんの相談支援センターをより普及させていくための課題」や、今回北海道での研修会ということもあって、「長距離移動を伴う受診をされている方が持つ通院に関する課題とその対応」、「多様な生き方・在り方について支えるために学びたい」ということで、ご参加いただきました。ぜひ、多くの皆さま方の参考になるような、背中を押すような情報提供やディスカッション、さらにタイトルにあります「患者さん支援の充実に向けた」示唆を得るような研修会にできればと考えております。

北海道におけるがんの現状

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こちらは全国と北海道を比較したがん年齢調整死亡率(75歳未満)の推移です。全国的にも同じ傾向にありますが、年齢調整、つまり高齢化の影響を除くとがんによる死亡率というのは年々減ってきています。ただ女性では、若干横ばいか増加の年があるというのが、特に北海道の状況だと思います。

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部位別の年齢調整死亡率を見てみても、いわゆる喫煙関連がんとされる肺・胃・大腸・肝臓・膵(すい)臓などは、全国平均と比べても若干高いといえます。多くが肺や気道のがんで、それ以外の胃や子宮頸(けい)がん、膀胱(ぼうこう)のがんも喫煙の影響が「確実」とされているものですが、これらをどのように減らしていくかが非常に重要だといえると思います。

「質の高い」がん相談を考える

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がん相談ということに関して、「質の高いがん相談」と一言でいってもなかなかこれを端的に、こういうものが「質の高いがん相談」というのを表現するのはなかなか難しいところがあるかもしれません。治してくれる病院への紹介をすればよい相談といえるでしょうか。あるいはがんを治療してくれる病院がある地域を教えてくれる相談支援センターや相談窓口であればよいのかということでもないでしょうし、通いやすいクリニックや在宅ケアクリニックへ紹介してくれることを期待されるかもしれません。相談に何でも答えてくれることを望んでいるかもしれませんし、最先端の治療を紹介してくれる、あるいは待ち時間がなくすぐに対応してくれる、そういった価値を期待されるかもしれません。

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そういった中で、いわゆる「ドナベディアン・モデル」といわれる、「ストラクチャー(構造)」・「プロセス(過程)」・「アウトカム(結果)」という3つの指標で、特にプロセス・アウトカムの部分が注目されやすいですが、プロセスというのは、例えばがんの相談の対応件数でいえば、きちんと数が集計されて年々数が増えていくというのが1つの指標といえるかもしれません。ただ、数が多ければそれがアウトカムに、患者さんの満足やQOL(クオリティー・オブ・ライフ:生活の質)の向上につながるのかというと、なかなかそこが見えてこないという部分があります。
もちろん患者さんとしては、アウトカムを大切にしたいということでありますが、一方でそのアウトカムは、必ずしも1件の相談や一連の相談の中で達成するわけではなくて、総合的な医療や、相談がなされた上で、得られたサービスや、医療の全体の帰結としてのアウトカムといえるかもしれません。こういった部分を組み合わせながら、「相談の質」というものを考えていく必要があるといえると思います。

「がん医療・ケア、がん相談の質」を見える化し継続的な改善を

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そういった中で「がん医療・ケア、がん相談の質」を見える化する、ということでPDCAをうまく回していくもので、地域の現場の患者さん・家族、支援者のニーズはどうか、一方で医療者が支えたい、力になりたいというニーズに対して、「知識をアップデートしていく」、「相談のためのスキルを向上させていく」、「コミュニケーションをよりよくする」、こうしたことを継続的に改善していくことが、非常に重要だといえると思います。
さまざまな体験調査というのも、最近はなされるようになってきています。患者体験調査、あるいは小児がんの患者さんご家族、親御さんを対象とした調査では、一般的には自分らしい生活を送れているという患者さん、相談できているという患者さんは多くなってきています。相談支援センター、地域統括相談支援センター、民間による相談窓口、患者会、そしてがん情報サービスなどの活用というのが年々広がっているということがあります。

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一方で、病気や療養生活について相談できたと感じる患者さんの割合というのも、年々増えてきています。「家族の悩みについても、対応いただける」や、「がん相談支援センターについて知っている」ということも増えているのですが、ここには48%や66%といった数字が並んでいますけれども、もっと増えてほしいといえるかもしれませんし、必要なときにすぐに使いやすい、相談しやすいというところにニーズを感じられるかもしれません。

患者さんを支える地域連携

そういった中で、「ピア・サポーター(自分も障がいや病気の経験があり、その経験を生かして同じ境遇にある仲間をサポートする人)」として当事者の視点で支えるというところも、研修が充実して地域で相談できる窓口が増えてきています。緩和ケアについても、療養生活の最終段階において、身体的あるいは精神的な苦痛を抱えてらっしゃる方は4割程度いらっしゃるということで、まだ困っている方は多いという課題があります。そうした中で、病院医師や、あるいは相談に携わる方がうまくケアや疼痛(とうつう)コントロールにつなげていけるか、というところも重要視されていると思います。
地域連携ということで、病院での医療と、診療所やクリニックでの医療が別々に行われているイメージから、一体化して・並行して社会で患者さんを支えることが一般的になりつつあります。こうした中で、病院の中のチーム、地域医療で在宅で過ごされる方を支えるチーム、あるいは介護福祉の方も含めた地域包括ケアのチームのような、いろいろなチームの考え方ができてきているといえると思います。

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そうした中で北海道では、「がんのサポートハンドブック」という冊子がつくられていて、こちらは2022年のもので、今2023年のものがつくられていると伺っています。私も毎年どこがアップデートされたのかなと楽しみにしていますが、患者さんが必要な情報、あるいは相談にかかわる方がぜひ使いたい情報を冊子にまとめたということで、ホームページでも公開されていて、気軽にアクセスできるようになっています。

北海道でも例に漏れず、高齢化が今後進んでいくということが見込まれています。そうした中でどう地域として、あるいは医療機関として、医療従事者として患者さんを支えていくかというのが非常に重要だと思っています。

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これは胃がんにかかられた患者さんの例ですが、一般的な生活習慣についても心配のある方で、最近食欲がない、おなかが重い感じがあるということで、検査で胃がんと診断されて手術、抗がん剤治療を受け、一段落したところですが、それで治療が終わりということではありません。手術でおしまいではなくて術前の注意も必要ですし、禁煙や、普段どおりの生活を今までどおりできるようにリハビリもしっかりやって、さらには体力を付けて後遺症の予防や、小さくなった胃でも上手に食事をとれるようなリハビリも重要になってまいります。

退院後も継続的・包括的なサポートが重要

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相談も入院中だけではなく、入院前や退院後も生活面あるいは経済的な側面も含めたサポート、包括的な相談支援体制が重要になってきます。そうした中で医療機関の中だけではなくて、地域で患者さんの困りごとに対して耳を傾けてサポートをしていく。それは1人がずっと連続的ではなくて、地域で、「点」ではなくて「面」で支えることが非常に重要だといえると思います。

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こちらは「地域で支える、新しい医療のかたち」ということで、先ほどご紹介させていただいたサポートハンドブックで情報をつくるというところから、実際にそれを活用してみんなで支えるという、目に見える支援につながることで真に地域に根付く役立つ情報になって、それが活用されることでみんなで支えることへつながっていくと思います。
この辺りは皆さんよくご存じかと思いますが、がんというのは一般的には終末期に近い時期まで比較的しっかりしていらっしゃる状況の中で、最後の約2カ月で急速に機能が低下する経過がモデルとして示されています。実際にはさまざまな併存疾患を持つ方もいらっしゃるので、こうしたものが複合的にかかわってくるものであります。
「アドバンス・ケア・プランニング(今後の治療・療養について患者さん・家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセス)」、人生会議とよく呼ばれるもので、認知は広がっていますが、実際には「話し合っている」、「それに対してアクションを起こす」ということはまだまだ少ないことがわかっています。医療のことや、サポート体制のこと、いろいろな情報ニーズがある一方で、やっぱり「ご家族の負担にならないこと」や、「体や心の苦痛がなく過ごせること」、「経済的な負担が少ないこと」など、さまざまなニーズを持って過ごしてらっしゃるということがあります。

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情報というのは非常に重要だということで、今回はこのサイトを経由して研修会に参加いただいた方もいらっしゃると思いますけれども、在宅療養で必要な情報をまとめて発信するというプロジェクトをしております。ただ情報を出すだけではなく、こういったかたちで、現場で、地域で話し合っていただく、連携していただくきっかけを、ぜひご提案できればと考えています。

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今回北海道でこういった研修の機会をいただけて、オンラインならではのバーチャルに顔を合わせての議論ができるということで、非常に楽しみにしております。地域の相談支援人材ということで日本癌治療学会では、がん医療ネットワークナビゲーターを育成しているということで、地域で患者さんを支える人材を育てる取り組みも広まっております。およそ1,000人の方が全国で研修をされて、患者さんを支える人材として養成されているということであります。

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このプロジェクトでもこの研修会を企画させていただき、教育研修プログラムということで、北海道をモデルにほかの地域でも参考にしていただけるような研修のプログラムをご一緒につくっていきたいと考えております。情報をつくったり、研修をしたり、それを評価することで地域に広がり、現場に役立つ情報づくりや、連携づくりを成し遂げたいと考えています。
情報づくりや連携づくりの議論の中ではいろいろなテーマが、「地域での患者さんの支援」という話題の中で出てくると思います。講演会がいいのか、グループワークがいいのか、症例検討会などを、もう少し少ない人数でやるのがいいのか、どこでやるのがいいのか、道内全域がいいのか、市や町、もう少し小さいコミュニティー単位なのかということや、次はこんなことを議論したいなど、ぜひ構想を膨らませながら、ご参加の方もお聞きいただければと考えております。私からのお話は以上とさせていただきます。

続きまして「北海道の取り組み」ということで北海道保健福祉部健康安全局地域保健課がん対策係の藤川さんからお話を頂戴したいと思います。

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掲載日:2023年03月22日
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