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北海道のがん患者さん支援の充実に向けて がん治療とソーシャルワーク専門部会研修会 2023
北海道の取り組み

藤川 真史さん(北海道保健福祉部健康安全局地域保健課 がん対策係)

北海道のがん対策

講演の画面1

北海道における取り組みについてご説明します。道が行っております北海道のがん対策は、基本的には「北海道がん対策推進条例」の理念の下、がん対策推進計画の「基本方針」に基づいて、先ほど渡邊先生からもお話がありましたが、「がん予防」と「がん医療の充実」、「がんとの共生」の3つの柱で各種政策を関係機関の皆さん、がん患者さんを含めて、オール北海道で実施しているというかたちになります。本日は「がん医療の充実」の柱にあります「小児・AYA世代(Adolescent and Young Adult[思春期・若年成人])のがんの対策」と、「がんとの共生」の柱での相談・支援にかかわる部分についてご説明します。

小児・AYA世代のがん対策

講演の画面2

直近の取り組みで、「小児・AYA世代のがん患者等の妊よう性温存療法研究促進事業」についてご説明します。「妊よう性」とは、妊娠するための機能、妊娠する能力になります。がんになっても将来子どもを持つことができる可能性を温存するために、「妊よう性温存療法」の費用の一部を助成しています。抗がん剤や放射線治療に伴いまして、「妊よう性」に影響が及ぶ前に温存療法により将来の子どもを持つ可能性を残す事業になります。
事業の実施背景については、元々令和3(2021)年9月、道のがん対策推進計画の中間評価において、小児・AYA世代の取り組みに遅れが見られるという評価があり、2022年の1月から、「妊よう性温存療法に関する助成事業」を関係医療機関にご協力をいただきながら、ネットワークを構築し、スタートしております。2022年度は、さらに旭川医科大学と北大病院さんも加わっていただいて、札幌以外の所でも生殖医療の医療機関を指定させていただきました。

また、新たな取り組みとして9月からは、いわゆる「妊よう性温存療法」は精子や卵子を凍結する、保存する療法ですが、それを体に戻す際の治療、いわゆる「不妊治療」の際にも助成する事業を開始し、4月にさかのぼって2022年度の事業として実施しております。
この事業を実施する際は、指定医療機関といわれる医療機関で治療する必要がありますが、現在のところ、道内で記載の7つの医療機関を指定しております。温存する、凍結する際も戻す際も今のところは同じ医療機関が対象になっています。
凍結する際の事業の対象者の要件ですが、まず「指定医療機関で治療を受けていただくこと」、「治療の凍結時に43歳未満であること」、また何よりも一番重要なこととして、「がん治療をしている主治医の同意と生殖医療を専門とする医師の同意が必要」になります。またこの事業は研究事業、難病の助成事業と一緒ですので、基本的にはこの事業に同意をいただける方が対象になっています。
対象となる費用は、基本的には医療保険適用外の費用が対象になります。この際「妊よう性温存療法」は、がんや難病の治療が始まる前に行われることが重要です。ただ、全ての方が妊よう性温存ができるわけではなくて、中にはがんや難病の治療が最優先となる方もいらっしゃいます。

講演の画面3

いずれにせよ、「妊よう性温存療法」を利用する際には、患者さんはがんや難病の診断を受けたらすぐに妊よう性温存の可能性について、主治医の方に相談することが必要になります。
平成30(2018)年に国立がん研究センターが行った調査では、「治療開始前に生殖機能への影響に関する説明を受けた割合」で、道の割合が全国の割合より低い状況になっています。このときは道の事業もスタートしていなかったので、今は皆さんのご協力によって事業が広がっているので、今後調査が行われる際は全国の割合より高くなっていればいいなと思っています。
保険適用外ですので結構費用がかかります。上限額程度はかかりますので、道が助成することによって、経済的な理由で妊娠することを諦めないためにも、「こういった制度がある」ということをお伝えいただければと思います(北海道庁のウェブサイト参照)。
「温存後生殖補助医療費用の助成制度」は、凍結した卵子・精子を体に戻す際の制度になり、いわゆる「不妊治療」になります。令和4(2022)年度からは「不妊治療」は医療保険の対象になったのですが、医療保険の対象とならないがん患者の方々、難病の方々を救うために、道としても2022年度から4月5日をもって助成を開始しています。医療機関は先ほどの医療機関と同様です。
助成対象者の要件は、「妊よう性温存療法の助成要件を満たしている方」になりますので、「妊よう性温存療法により指定医療機関で卵子・精子を凍結していること」が必要になります。それ以外は「婚姻関係を確認できた方」などいろいろ要件はありますが、それは凍結の際とだいたい一緒になっています。また助成上限額についても記載のとおりになります(北海道庁のウェブサイト参照)。あくまでも対象となる経費は医療保険の適用外の費用になります。

申請方法については、原則的には医療費の支払いを行った、属する年度内に申請が必要になります。2023年の1月に支払いを行った場合については3月31日までの申請になります。申請は今のところ郵送による申請で、申請先は道のがん対策係になります。また、がんの治療を行っていることによって申請ができなかった場合については、特例で年度を越しても申請できますので、その際は道のほうにご相談いただければ対応させていただきます。

講演の画面4

この事業を実施するにあたって、がん治療を行っている施設の先生方や、生殖医療機関の先生方や、その他関係者の方々に入っていただいて、北海道がん・生殖医療ネットワークを構築しています。ネットワーク会議、医療従事者を対象とした研修会、また道民を対象とした市民公開講座の開催を実施しています。

事業の普及啓発の強化

「課題と今後の取り組みについて」です。今日この場で、私がこの事業をお話しさせていただいたのも、制度が始まったばかりでなかなか世の中に知られていないという状況があるからです。本事業を知っていただくためには、がんの診断を受けたときにかかわる方が「伝える」ということが非常に重要になってきています。まずはこういった普及啓発を一生懸命強化する必要があると思います。
あと、地方に指定医療機関を整備することが非常に難しいということがあります。ご承知のとおり産婦人科医の方の人数も限られていますし、さらに全て生殖医療の担当になると、実のところ今がもう限界かなというところです。そのため、道内広い状況がありますので、どこの地方にいても、例えば地域の病院で排卵誘発剤を毎日注射して、生殖医療の処置を行うときだけ札幌や旭川に行っていただく、ということができるようになればと思っています。
実際に今は、例えば札幌医科大学と北見赤十字病院などでドクターtoドクター(勤務医・開業医・医療機関の抱える課題を総合的に支援するシステム)でこの仕組みは行っていて、地方で行った費用も含めて助成の対象にしていますので、こういった取り組みを広げていければと思っています。2023年度以降も、道の協定で結んでいる一般の企業の方々やその他関係機関と協力して、この事業を地域の皆さんに知っていただいて、いわゆる使いたいという方がスムーズに使えるような状況になっていければと思います。
あと、参考までに道内の国指定の拠点病院一覧と、道指定の指定病院一覧を記載させていただきましたので、参考にしていただければと思います。よろしくお願いします。

渡邊:藤川さん、ありがとうございました。道内50の医療機関で新しい妊よう性温存の取り組みができることによって、また連携が広がっていくというところについてお話しいただきました。まさに新しいニーズがあって、そこから患者さんに見える化していくことでさらにつながっていくということが非常に重要だなと伺っておりました。 では、続いて北海道がんセンターの木川さんから、北海道の「がん相談支援センターの取り組み」のご紹介をいただきます。

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掲載日:2023年03月22日
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