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北海道のがん患者さん支援の充実に向けて がん治療とソーシャルワーク専門部会研修会 2023
在宅療養の現場から

田巻 憲史さん(帯広協会病院)
講演の画面1

帯広協会病院の医療ソーシャルワーカーをしている田巻といいます。実践報告として、「在宅療養の現場から」ということで、お話をさせていただければなと思っています。
簡単に当院の概略をお話ししますが、複数の診療科のある総合病院になっています。2016年の4月から、「北海道がん診療連携指定病院」の指定を受けている、国の指定するがん診療連携拠点病院ではない区分の医療機関になっています。また、基本的に急性期を担う医療機関で、地域包括ケア病床を持っていて、あと「在宅療養後方支援病院」の指定を受けていますが、元々が在宅医療の提供が積極的にできていない医療機関となっています。

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北海道以外の方も参加されているので、簡単に私の病院のある地域のことをお伝えします。北海道の南東部にある、帯広市を中心とした全部で19市町村の十勝という地域で「2次医療圏(救急医療を含む一般的な入院治療が完結するように設定した区域)」と「3次医療圏(先進的な技術を必要とする特殊な医療に対応する区域)」が同じ地域になります。東西南北100kmぐらいの距離の中の、ほぼ中心にあるような医療機関となっています。香川県や大阪府の6倍ぐらいの所が、当院のある地域の医療圏になっております。

困りごとをキャッチしチーム内で情報共有

当院の取り組みの中の少し変わっているもので、いくつかご紹介できればと思っていまして、まず「がんサポートチーム」というのを設けています。令和2(2020)年4月に腫瘍内科が開設されたことに伴い、元々「緩和ケアチーム」としてあったものを「がんサポートチーム」と名称を変えまして活動しています。その中には腫瘍内科の医師、精神科の医師、緩和ケアの認定看護師、薬剤師、理学療法士、栄養士に事務職員も交えて、私たち医療ソーシャルワーカーも入りながら、多職種チームを組んでいて、週に2回ほど、「がんサポートチーム」の中のミーティングをしています。
基本的に、がんの診断を受けている人で「気がかりな人」の情報共有をすることになっていて、ここには入院支援部門の入院の事前案内などをしているスタッフや、糖尿病看護の認定看護師も合流するようなかたちで、「私たちの所だと医療費のことで相談に来ている人だけれども、少し困っていそうだ」というようなことなど、本人・家族が自ら相談することはやっぱり少ないと私たちも思っているので、「困りごとが深刻化する前に、それぞれの所でキャッチをしてアプローチできるための体制をつくりたい」とこのチームで動いています。現在精神科の先生が体調を崩されているので、診療報酬としての算定は、このチームとしてはエントリーしていないのですが、活動としては続けています。

在宅医療の希望者が増えている

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在宅医療の提供という点で少しお話をしますと、先ほど申し上げたように在宅療養の支援病院ではないので、がんの終末期の患者さんを対象にこのようなかたちの訪問診療を行っています。がん終末期で疼痛(とうつう)コントロールが必要な場合や、本人・家族の精神的なケアも含めた対応が必要な場合に、院内からも腫瘍内科のほうに依頼があって対応するかたちが多く取られています。2021年度に関しては、延べ324件の訪問回数で、月にして27件ぐらいの訪問だったのが、2022度は2022年の4月から12月までの9カ月間で大幅に数が増えておりまして、月平均53件、多い月は70件ぐらいの延べ数の訪問を行っています。主に、腫瘍内科の医師が訪問診療を行うことが多くて、外科の医師も、数はすごく多いわけではないのですが訪問診療をしながら在宅での生活を支えるかたちを取っています。
私の訪問診療の件数がどうして増えたのかを、全部をまだ分析はできていないのですが、皆さんの所と同じように、コロナ禍で病棟での面会が禁止となって家族と会えないということで、在宅での療養に切り替えるということもあるかなとは思うのですが、それ以外に医師や看護師のほか、退院支援部門と地域連携部門がご本人・家族から「家で過ごしたい」と言われたときに、うちの病院を使うかどうかは別にしても「できるよ」と答えられるようになったことが大きな要因ではないかなと思います。この人にどのようなことが提供できて、どのように生活を支えられるか、かかわるスタッフもイメージを持って関係機関と連絡調整ができたり、本人や家族にも「こんなふうになるよ」という説明ができたりすることがとても大きいかなと思います。

また、「お試し」という表現が正しいかわからないのですが、コロナ禍で外出や外泊が簡単にできない環境だったので、「退院をして1日、2日、家で生活をしてみて、難しければもちろん入院してもよいし、施設やほかの病院の療養型なり緩和ケア病棟に転院することも考えられるので、やってみませんか」と提案ができるということもありました。実際にやってみると、「これなら大丈夫そう」ということで、予定していた入院をキャンセルして、自宅で少し長く過ごすというようなことができたので、そういったこともこの訪問診療や在宅医療を支える件数が増えた要因の1つかなと思っています。
訪問の範囲は十勝全域となっていますが、地域の訪問診療をしている先生にもご相談をするのと、帯広市内は比較的対応できる医師がいるのですが、少し離れた所になると、疼痛コントロールや医療用麻薬のコントロールの対応ができるクリニック等もない地域があるので、その場合は当院から、本別や鹿追など、距離は関係なく遠い地方にも出向いて、その人の在宅生活を支えさせていただいています。

在宅での看取り状況

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在宅での看取りの状況について、これは当院での看取りの数です。北海道医療計画「十勝地域推進方針」の中では、平成29(2017)年十勝圏域における在宅等での死亡の割合は、およそ14.2%と聞いています。平成22(2010)年は8.3%、平成28(2016)年は12.8%ということで少しずつ増えてはいるのですが、全国のデータを見ると平成28年で19.9%、平成29年で21.7%ということで、十勝は在宅等で亡くなる方は多くないです。
さらに自宅だけに絞ると10%ぐらいまで下がるというようなかたちで、以前から十勝は病院志向・施設志向が強いといわれることがありました。訪問診療と同じですが、最近、できるだけ自宅で過ごしたいと希望する方がいるので、それをキャッチできるようになったり、こちらがそういうことを意識できるようになったこと、あと、希望を言われたときにこちらが「無理ですね」ということではなくて、「どうしたら可能になるか」を考えられるようになったことも、在宅での看取り件数が増えてきている要因かなと思っています。
私も含めて、自分の引き出しを増やすというより、何かあった場合に「どういう対応ができるか」を想定しておくことが、希望を言われたときにスムーズに進められることの要因の1つで、この数が増えてきているのかなと思っています。2022年度はすでに12月の時点で35件となっておりますので、もう少し増えて、おそらくその前の年度の倍以上になるだろうと思っています。

がんと診断されても自分らしく生きる

次に、当院の特徴の部分で、同じように腫瘍内科の外来の中で「がんサポート外来」を設けています。 がんと診断されても自分らしく生きられるようにサポートしていて、うちの病院で治療を受けていてもいなくても、転院することなく受診ができて、ご家族だけの受診も可能で、何らかの副作用の困りごとや心のケアの困りごと、仕事との両立のことや、外見変化のこと、そのほかどのようなことでもよいので「何か困りごとがあれば、そこについてだけの相談ができますよ」ということで、医師と合わせて対応できるような体制をつくっています。「特に転院やセカンドオピニオンということではなく、相談できますよ」と案内をしています。

講演の画面5

そのせいもあるのか、ほかの機関からのご相談も増えてきているかなと思います。
2022年は、地域のケアマネジャーさんからのご相談や、訪問看護ステーションから、「家にがんの診断を受けている人がいて、通うのが大変になってきていて困っている」、病院はどちらかというと、「来れるのであれば来てください」と言うのですが、「行けない」「救急車でしか通えない」などの相談がありました。あと、薬局の薬剤師さんからは、「治療を中断している人がいて、どうも困っているようなことを家族から聞いたから、相談に乗ってくれないか」とご依頼いただいたこともありました。ご本人も「在宅医療を受けたいのだけれど、どうしたらいいんだ」と電話で相談された方もいて「何か困りごとがあれば相談を受けますよ」と対応しています。
あと、ほかの地域、札幌圏域や胆振(いぶり)圏域の病院から、「転院」と「地元に戻りたい」というようなご相談を受けることがあります。転院してきて入院で受けてから在宅がよいのか、帰ってきてそのまま在宅がよいのか、どのようなことでも対応できる体制を当院としては持っているのですが、終末期の人は、残念ながらタイミングが遅れて、戻ってくることがかなわず、もう少し早めにお互いにやり取りできるとよいのにと思うことがありました。

講演の画面6

最後に課題として、もう少しこういうことができるようになるとよい地域になると思っていることを、いくつか共有させていただければと思います。当院もICT(情報通信技術)を活用して情報共有をしているのですが、地域の中でICTの活用が1つに統一されていないので、これが統一されてくると在宅を支えやすくなるのかなと思います。
訪問看護や訪問している薬剤師さんが、「家族とこういう話をした」「本人がこういうことを言っている」ということをみんなで共有できると、それを受けてそれぞれのスタッフが自分のできることを見つけてかかわれるので、ささいなことも含めて情報共有できるシステムを活用しているところです。
また、特に少し離れた地域にはなりますが、訪問看護ステーションが足りなかったり、訪問できる薬剤師さんが少なかったり、特に無菌調剤、医療用麻薬の管理ができる薬局が多くないというようなことがあって、この辺がもう少し何とかなるとよいと思います。医療ソーシャルワーカーの所だと、経済的に困窮して、医療費や生活費の相談が多いです。生活に困窮して、お金がないからどうこうということは特別ないのですが、ご本人たちがなかなか相談をしにくかったり、薬代が高くて「治療をやめたい」「中断したい」と言ったりするようなことが多いので、そういったことへの対応ももう少しできるとよいなと思っています。
あと、先ほどお伝えしたように、地域の専門職からの相談を受けるための窓口の充実、それぞれの専門職に「緩和ケア」という言葉の浸透や「どういうふうにしたらよいか」をお伝えすることによる内容の充実、今後は施設入所の中でも「どういうふうに緩和ケアを適切に提供できるか」「終末期医療をどのように整備したらよいか」を、施設が遠くても相談しながら進めていきたいというようなことを、課題や今後の展望として思っています。以上になります。どうもありがとうございました。

渡邊:ありがとうございました。田巻さんからは、「在宅療養の現場から」ということで、帯広からオンラインで接続してくださいまして、オンラインだからこその現地からの報告で、かなり広い圏域をカバーしてらっしゃるご様子の中での在宅療養について、現状と課題をお話しいただきました。

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掲載日:2023年04月10日
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