北海道のがん患者さん支援の充実に向けて がん治療とソーシャルワーク専門部会研修会 2023
QAセッションとディスカッション
パネリスト: | 藤川 真史さん、木川 幸一さん、駒形 成美さん、田巻 憲史さん |
モデレーター: | 渡邊 清高さん |
渡邊:では、ご参加の皆さんには、ご質問がありましたらオンラインにて入力いただきたいと思います。ご質問がくるまで、いくつかご意見をいただきたいと思います。
小児・AYA世代(Adolescent and Young Adult[思春期・若年成人])のがん対策、「妊よう性」の話や在宅療養、相談支援センターで、北海道の患者さんが抱えている多くのテーマについて、患者さん・家族が、「その病院にかかっていなくてもどなたでも相談できる」と木川さんから説明がありました。国指定のがん診療連携拠点病院と道指定の病院を合わせると50施設が指定されていますので、道民の方が知っていらっしゃればうまく相談やサポートにつながることができる仕組みになっていると思いました。
成人がんの拠点病院は道内に50カ所指定されていて、集約化と均てん化(全国・道内どこでもがんの標準的な専門医療を受けられるよう、医療技術等の格差の是正を図ること)がなされつつあります。
小児がん拠点病院と連携病院の連携が重要
渡邊:一方、小児がん拠点病院は全国に15施設であり、集約化が進むと逆に身近な所で必要な医療やケアにたどり着けなくなるので、やっぱり連携が重要で、拠点病院の15カ所に連携していくような体制が望ましいと思います。そうすると、病状や患者さんが必要とする状況に応じた体制づくりが必要になってくると思いました。何か補足やご意見がありましたらいかがでしょうか。駒形さんからいきますか。
駒形:小児がんの拠点病院は全国15カ所になっていて、各ブロックに連携病院が置かれるようになっているので、北海道の中でも拠点病院は北大で、そのほか小児がんの治療ができる病院、札幌医大附属病院や、コドモックル(子ども総合医療・療育センター)、旭川医大病院、がんセンターも含めて連携病院になっています。連携を取りながら医療と支援ができる体制づくりが整備されております。ブロックごとにそういう支援ができる体制を整えるように、中央機関のほうからもいわれているので、それを中央部会に持ち帰って各ブロックの情報共有を毎年行うような体制が取られています。
渡邊:ありがとうございます。ちなみにその拠点病院と連携病院という、おっしゃっていたブロックごとは支庁単位ですか、それとももう少し大きいのか、もう少し細かいのか、あるいは地域によるのか、その辺りはどうでしょうか。
駒形:成人だとおそらく都道府県ごとに置かれていると思うのですが、小児だと都道府県よりもっと大きい単位になっていて、北海道は北海道だけで、あとは東北ブロック、それから関東甲信越ブロック、東海・北陸ブロック、中国・四国ブロック、近畿ブロック、九州・沖縄ブロックというかたちで、7個のブロックに分けられております。
渡邊:そういう中で北海道と東北はそれぞれ北大病院と東北大病院、1カ所の指定ということなので、そういった意味ではブロックの中での連携体制として重要な部分もあるかなと思いました。ありがとうございます。
AYA世代のがん患者さんの「妊よう性温存療法」―指定病院と地元の医療機関との連携
渡邊:道庁の藤川さんに伺いたいのですが、「妊よう性」の根本の問題は1つ制度ができても、大学病院で全てを対応することがどうしても多くなると思っていて、逆に道東や、道北の方は比較的アクセスが難しいので、そういった所は、連携のためにブロックや小単位の連携体ができて、そこで例えば日常のケアについては地元でやって連携する、というような、そういう話し合いがなされるという仕組みでしょうか。
藤川:先ほども若干触れさせていただきましたが、今、札幌医科大学のほうと北見赤十字病院でドクターtoドクター(勤務医・開業医・医療機関の抱える課題を総合的に支援するシステム)に取り組んでいます。札幌医科大学の先生から「北見のほうで数週間排卵誘発剤を患者さんに注射していただいて、卵子を凍結できる状況になったときだけ札幌のほうに来ていただけないか」と、ご相談いただきまして、北海道はほかの都道府県と違う点で、広大でその日のうちに通院できないという事情もあるので、国とも調整させていただいて、「地方で行った排卵誘発治療と生殖医療機関で行った治療を助成の対象としてもよい」ということを確認させていただいております。
本当に凍結の処置をするときだけ指定病院に来ていただければよい体制が今できておりますので、それをいろいろな所でやっていけるようになれば、より、どこへ住んでいても自分の治療している所で受けたい治療ができる、何よりも患者さんのご負担が減ると思いますので、ぜひ今後も進めていきたいと考えています。
渡邊:ありがとうございます。地域によって活用されている所はすごく活用されていらっしゃるので、そういった意味では現場の方や生殖医療機関、特にAYA世代の妊娠・出産が可能な年代を治療してらっしゃる医療者の方にも認知が少しずつ広がっています。こうしたことが相談する方に広がっていったり、直接「妊よう性」の話をされないけれども、その辺りの年代の相談にかかわる方にも認知が広がっていくと、「妊よう性温存」という選択肢がお示しできたり、場合によってはやっぱり早い段階でそういった話がされると、より治療に対して前向きになったり、意識も変わってくると思いますので、そういう観点からも多くの方に知っていただきたいと思います。
藤川:患者さんが治療が終わったあとに「私、これできたんだな」というふうに後悔する、そういう方が1人でも少なくなるようなかたちを進めていきたいなと考えています。
訪問看護師、訪問薬剤師、医師との連携で広い圏域をカバー
渡邊:オンラインでご質問をいただきました。ありがとうございます。 「患者さん・家族が在宅療養を望んだときに道内の住んでいる土地によって、訪問診療先がなく断念せざるを得ないことがあります。この状況は患者さんの自己実現が制限されてしまっていることになります。帯広協会病院のように広範囲をカバーすることは非常に意義があることと感じます。それが実践できている理由や工夫を田巻さんに伺うとともに、道としてのその現状についての認識と今後の手だてについて、お考えをお聞かせください」ということで、ご質問いただきました。
先ほどお話しいただいたように、非常に広い圏域をカバーされていらっしゃるということで、特に医療用麻薬を使ったり、無菌調剤、例えば抗がん剤を点滴で使う場合には全ての薬局が対応できるわけではなくて、そこで施設が限られてしまうので、病院で調剤した上で持っていったり、在宅医の先生についても、対応できる在宅のドクターがいらっしゃればお願いできますが、それが難しい場合、病院にいらっしゃるということでしたが。その辺りの苦労話や工夫など、ぜひお話しいただければと思います。田巻さん、いかがでしょうか。
田巻:ご質問ありがとうございます。広範囲をカバーできている理由は、医師の思いがかなり強いからなのかなと思っています。当院にいる腫瘍内科の医師は1人体制ですが、その先生が、「必要な人には何とかして医療を届けてあげたい」という思いがとても強く、「「地域性があるからできない」ということがないようにしてあげたい」という思いから広範囲をカバーできているのだと思います。
その地域にお願いできる先生がいれば、そこにお願いをして在宅は診ていただき、医師同士でやり取りしながらその先生のほうで医療用麻薬の管理等をしていただいて、お互いにアドバイスしながら、何か必要なことがあれば対応できるのですが、できない地域がたくさんあるので、そこについては先生が行って対応しています。
ただおそらくこれをずっと続けることや、人数が増えたときに全てをカバーすることはできないと思っているので、いずれ何らかの対応が必要だと思っているのと、先ほどお話しいただいたように、無菌調剤の施設環境は帯広市内にしか今はないので、地域の薬局に「対応しますよ」と言っていただいたとしても、もし何か点滴に混注しなくてはならないときには、地域の薬局が、帯広の共同で利用できる無菌調剤室を使いに来て、そこで詰めて帰るか、もしくは帯広の薬局に「距離は遠いけれども、お願いできませんか」と相談をして届けてもらうかなので、訪問看護師と訪問薬剤師と医師との連携の中で何とか工夫をしてやっていると思います。
おそらく当院以外の所でも、片道1時間ほどかけて遠くまで看取りに行ってくださっている先生がいると聞いているので、特殊な内容だから当院も行けるというような環境はあるのですが。お答えになっているかどうか、これが実情かと思っています。
渡邊:田巻さん、ありがとうございます。医師の意識がとても前向きでいらっしゃって、患者さんが在宅で過ごされるのをサポートするという強い意志を持っていらっしゃるということですね。さらには地域の薬剤師さんや、訪問看護師さん、そういった方との連携があることで、広範囲のカバーを可能にしている、というところでしょうか。
私自身も、道内ではなくていろいろな地域の在宅で治療してらっしゃる方を拝見するのですが、やっぱりリーダーシップがすごく重要だと感じていて、住民の方などを巻き込んで、患者さん・ご家族の揺れる思いなどに丁寧に対応してらっしゃるということがよいですね。それと多くの職種の方が問題意識を共有している、問題意識に共通している部分があるのかなと思いました。
訪問看護師不足が課題
渡邊:木川さん、藤川さんも、よろしかったら在宅についてや、患者さんが家で過ごしたいといったとき、どう接しているかについては、いかがですか。
藤川:がんの仕事の前に看護師養成の関係の仕事をさせていただいて、その中で、やはり在宅とはいうけれども、なかなか難しいという現状をいろいろ皆さんから伺っています。
まず訪問看護師の話でいいますと、やはり訪問看護師を選ぶ方がなかなかいない、看護学校を出て訪問看護師になりたいという方はほぼいない状況です。道で看護職員の需給推計をつくったときにも、やはりこれからのニーズを踏まえると、訪問看護師は今の2倍、北海道でいうと令和7(2025)年までに2倍以上、病院から地域に移行しなくてはならないという現状があります。ただ現実的に、看護師さんのお話を伺っても、病院のケアと在宅のケアでは全然違うという部分もありますので、田巻さんからの報告にもありましたが、やはりそれを支える人材の不足が、まずは大きな課題かなと思います。その課題に向けてひたすら取り組むかたちに、まずはなるのかなと思います。
あとは、これから人口減少で、農業界や産業界のいろいろな職種の方が人材不足になるというのは目に見えていますので、やはりそれについては地域のネットワーク、帯広で行っているようなネットワークのようなものを強化していって、それを全道展開にしていくのも近道なのかな、というのが個人的な見解ではあります。
渡邊:ありがとうございます。いろいろな人材の方が、ニーズに対して何かしらの対応はしたいけれども、ただやっぱりいろいろな職種の全てがそろっているわけではないので、それぞれの職種の役割を見つけながらかかわっています。その中で役割分担や連携ができてくるので、ある地域でそれが有効であっても、その同じ立場の方がその地域にいらっしゃるかというと、いない場合もあるので、そこはマルチプレーヤーというか、いろいろなことをよく存じてらっしゃる方はある程度リーダーシップを発揮しつつ、その地域なりのモデルをつくってらっしゃるのではないかなというふうに伺いましたが、木川さんいかがですか。
外来受診ができるように病院側の改善や工夫が求められる
木川:がんセンターが札幌の白石区にあるのですが、白石区のケアマネジャーを対象に「今、介護の面で支援している患者さんで今後3年以内に外来受診ができなくなる方がどれぐらいいますか」という予測調査を2022年にしてみました。その細かい資料は今日持ってきていないのですが、間違いなく3年以内に外来受診できなくなる患者さんは、相当な数が予測されています。
その方々を全員訪問診療につなげれば済むと考えるのも1つかもしれませんが、逆になぜ外来受診ができなくなっているのかという、例えば何らかの障がいをお持ちでできなくなる、身体機能が低下してできなくなる、それ以外にも、通えるけれども病院の外来での待ち時間がすごく長くてそれに耐えられない、院内の移動が大変だから受診ができなくなるというように、逆に病院側の改善や工夫によって、訪問診療を受けなくても、自身が住んでいる地域で継続してがん治療が受けられる方もいるのではないかというのを、今まとめているところですが、そういったニーズも少なからずあると思います。
そうすると、これは札幌に限ったことですが社会資源はたくさんあります。いろいろなものが受けたいと思ったら受けられるのですが、逆に本人は外来受診ができないけれども、その理由を明確にしてほかの職種との情報交換などをいろいろした上で、院内の体制づくりや、地域の体制づくりに生かすことができないかと最近少し考えているので、これをこういった場を使って、また皆さんといろいろ情報交換をしながら患者さんを支援できればと考えていました。
渡邊:ありがとうございます。そうですよね。がん治療も、例えば抗がん剤を使う、医療用麻薬を使う、栄養、胃ろう(手術で腹部に小さな穴を開けチューブを通し、直接胃に栄養を注入する医療措置)の管理をすることなどについても、病院でどこまで担っていくのか、病院でも在宅でもできるようになる、あるいは施設でもそういったことに対応できる所が増えてくると選択肢が増えるわけです。患者さんが、「家でも過ごしたい」、「在宅でも施設で実現したい」というところで、連携や協働が必要になってきます。そういったところが道内のいろいろな所で議論が進んで、モデルがどんどんできていくとすごくいいなと思っています。座学や知識だけではなくて、「それをこれからやるの?」、「やるけれど少しまだ不安があるな」などに対して、何か参考になるようなよい事例が共有できるといいなと思っていました。
オンラインでご質問をいただきました。ありがとうございます。「ご講義ありがとうございました。がんとの共生の中、小児から高齢者まで幅広い層の患者さん、道内の地域性におけるご苦労、ご配慮などがございましたらお教えください」ということで、それも併せて木川さんからお話しいただいて、まとめと閉会のごあいさつをいただきたいと思います。木川さん、よろしくお願いします。