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患者さんの気持ちを考えたがん薬物療法 阪神緩和薬物療法ネットワーク学術講演会 2022
薬物療法の”進化”と患者の悩みの”変化”~薬剤師に期待する服薬コミュニケーション~
2)患者体験調査から見えること

桜井 なおみさん(一般社団法人CSRプロジェクト)

がんの治療においては患者満足度調査とか、患者体験調査というのが行われていて、5年から6年に1度開催されているのですが、これを元にして、いろいろながんの医療政策というのが決まることになっています。がん対策推進協議会から、資料が出てきますので、お薬に関することとか、どんな議論がされてるのか少し見ていただくとよいかと思います。

桜井さん講演画面4

私は割と素直に薬剤師さんに困りごとを聞けました。「血管炎って何で起こるんですか」とか、割とポロッと聞けました。実は私が入院中の出来事なのですが、私が薬剤師さんにあれこれ質問している話を、同室の患者さんたちとか、隣のお部屋の患者さんたちとかがぞろぞろ集まってきて、耳をダンボにして立って一緒に聞いていたことがありました。そのとき、みんな薬剤師さんに相談したいけれども、何を相談していいのかわからないというのが実態なんだなと思いました。
この患者体験調査の中では、「療養に関する相談が可能であったか」の問いに、「相談できた」と答えた方が76.4%という結果でした。25%の方が「いや、できなかった」ということにはなっちゃうわけですよね。

桜井さん講演画面5

それから「医療スタッフからの情報の取得」ということで、これは医師・看護師全てを含むのですが、情報の取得ができたかというと、やはり「とてもそう思う、ある程度そう思う」が75%、「治療スケジュールの見通しに関する情報の取得」に関して「情報を十分得ることができたか」というと、「とてもそう思う、ある程度そう思う」が75%。治療スケジュールは、仕事をする上ではとても重要なものになってくるのです。会社に伝えるにしても。ところがまだまだ100になってないという現状。これ、もうちょっと何かできないかなって思っています。

桜井さん講演画面6

それから「治療による副作用の見通し」。これもとても重要ですよね。先ほどの涙の話もそうなんですが、「見通しを持てたか」の問いに、「とてもそう思う、ある程度そう思う」が62%になります。これなどもやはり働く上でもとても重要です。最近の副作用は、思いもよらない、今までなかったような副作用が出るものもありますので、患者さんの側も一緒に治療に参加をして、重症化の予防だったり、あるいはおかしいなと思った時に、おかしいと言える力を一緒に育てていかなくちゃいけないんじゃないかなと思っております。でも、まだまだそこに至っていないのが現状なのかなと感じました。

生活の言葉でわかりやすく伝えることの大切さ

医療というのは診断名でいろいろ説明をされることが多いのですが、患者の立場としては生活の言葉に翻訳をしていただきたいなと思っています。医学の言葉ってやはり初めて聞くような言葉がとても多いですし、難しいです。ですので、こういう「生活上の留意点について」ということ、「あなたの生活」で置き換えて、事例性で話をしてくれるととてもうれしいのです。「相談しやすい医療スタッフはいましたか」と聞くと、「いた」と回答したのが半分ぐらいの方しかいなかったということはちょっと寂しいですね。

これだけ薬、薬物療法というのが、がんの治療の中で欠かせないものになってきているのですから、ここも「チーム医療の力」ですね。医療者だけががんばるのではなくて、みんなで組み合わせて総和で100を目指していくような取り組みというのがこれからもずっと必要なんじゃないかと思っておりますし、期待をしています。
それから、私もずっと気になっていたのが、いわゆる病院の敷地外にある薬局を「どういう視点で選んでいるか」ということです。「病院の近くだから」といった消極的な理由で薬局を選んでしまっている方がまだまだ多くて。これをもう少し変えていけないかと思っています。

先ほどのかかりつけ薬剤師さんがそうなのですが、ステージ4の患者さんたちと話していると、皆さん真剣に探しています。急性期の病院に電車に乗って通っているけれども、だんだんそれが難しくなってきた時に、「病院のそばで、気軽に薬の話が相談できる、そういう薬剤師さん、薬局ないかな」ということで、「では、それを探していこう」という話って、必ず毎回サロンの中で出てくるんです。でも、「探したけど見つかりません!」というのが現状。「あなたの街だったらこういう人いるよ」のようなことでもいいので、病棟の薬剤師さんなどから紹介してもらえたりすると、うまくつながっていけるかなと思っております。

薬が生活の妨げになっていませんか?

薬が、最近では本当に生活の妨げ、生活のしづらさにつながっていることなども結構増えてきているかなと思っています。これは乳がんのいわゆる治療の歴史です。1950年代からスタートして、手術の治療方法から、この後でいわゆるホルモン療法が出てきて。このホルモン療法なども、続ける期間を最初は5年、それからは7年、8年、最近では10年ぐらい続けた方がいいのではないかとか、とても長くなってきています。初期の治療段階でも、遺伝子検査などを行うことで、術後の化学療法をどうやって、負担を小さくしていくかという、こうした議論なども今は行われてきています。

このように本当に薬が、がん治療の中で欠かせない存在になってきている。しかも飲まなくちゃいけない期間がとても長くなってきている。その恩恵としては、こうやって生存率がどんどん伸びてきていることです。よく市民公開講座なんかでお話しさせていただく時には、「実感として、オリンピックでいうところの100メーター走で、1秒も上回るようなスピードで改善されたような感じなんですよ」、とお話をさせていただくことはあります。それから、「がんは慢性疾患になってきた」という言葉が使われる時があります。確かにこの治療成績の改善を数字だけ見ていけばそうなんですが、患者の立場としては、この中でお薬を何回も何回も変えていったりしますので、そのたびにやはり副作用や生活のリズムは変わる。慢性疾患と言われると少し違うかなというような気もしています。こういういろいろな治療ができるようになってきたということは、私たちにとっては希望でもあるなと思います。

桜井さん講演画面7

日本人は割と真面目なほうだと思うのですが、ホルモン療法で、やはりアドヒアランス不良(患者さんが何らかの理由があって処方どおりに薬を飲めない状態)な患者が多いということもわかってきています。例えばタモキシフェン(抗悪性腫瘍剤のうちホルモン治療薬の一種)や、アロマターゼ阻害薬(エストロゲン産生を抑制する薬剤)などは、15%から30%ぐらいの割合で「飲み切れない」といって脱落しているわけです。何で飲み切れないのか、この点は、医療者の方たちの認識とすごく乖離(かいり)があるなと思っているところです。

抗がん剤のほうは初発の治療だったら「よし、あと何回」というように何となく目標が定まっているのですが、ホルモン療法は、薬を飲んで体が良くなってくるのがずっと先になるので、治療の目標を立てにくかったりします。一方でやはり副作用はいろいろ出てくる。でもそれを主治医に言うと「人それぞれ違うから」と、なかなかその気持ちを受け止めてもらえないところはあります。

治療の目的への理解醸成と副作用軽減の工夫

若い世代では、服薬を途中で諦めてしまう人の割合が、他の世代と比べたら非常に高いというようなところもわかってきています。処方どおりに薬を飲めない状態などには、やはり「薬がどうして必要なのか」と治療の目的をしっかり理解をして、かつ、生活の中で邪魔になるような副作用があれば、それを軽減させるような工夫や、方法というのをしっかり情報を入れていかないと続かないというようなところが出てくるかなと思います。

これは若い人たちの問題ですが、高齢者でも、服薬を途中で諦めてしまう人の割合が、また上がってきています。75歳以上になると、ホルモン剤以外にもいろいろな薬を飲んでいるかと思います。こうしたときこそ、薬の専門家は一人にまとめていったほうがいいかなと思いますし、それこそ先ほどの一包化にしたほうが飲み切れるんじゃないかと思っております。

ホルモン療法の治療効果は本当に高いことがわかっています。ベースライン(対照群)リスクを除く上ではとても治療効果は高いと思っていますが、何で続かないのか。その原因としてもいわれているのは、「コミュニケーションがない」ことです。リスクというものをきちんと伝えて理解してもらい、治療に参加してもらう。治療の目的というものがなかなか一致していない。参照点が違っているというようなケースがあると思います。これが治療への信頼や理解不足というところにつながります。

患者さんと同じ目線で薬のことを考える

それから、患者にとっては再発するかしないかというのは、ゼロか100%しかない。未来の自分というよりは、今のこのつらさを取り除きたいと思ってしまいますので、今のつらさをどういうふうにサポートしていくのかというところも薬剤師さんの役割です。経口の抗がん剤は、いっぱい出てきておりますので、ここをサポートしていくのは、病院の外でと思います。
ポリファーマシー(多くの薬を服用することにより副作用などの有害事象を起こしやすくなること)の問題なども今現在出てきています。オンラインなどで、処方データを突合していこうという話もあり、よりいっそう適切な服薬指導が求められます。指導というと何か少し上から目線になりますので、「一緒に薬のことを考えていこう」というパートナーがいらっしゃると心強いなと思います。

これが私たちの団体で調査をしたものですが、患者さんたちの相談内容を聞いていて、最近やはり副作用に関する相談がとても増えていて、対応に困ったというケースが多いです。聞くと、がんそのものによる症状なのか、それとも年を取ってきたことによる症状なのか、それともこれは副作用なのかという、その境目の見極めが本当に難しくなってきているなと思います。

桜井さん講演画面8

これは、お薬の治療を経験したという患者さんに対して、300人の方に聞いたものですが、「どういうことが働くということに対して影響がありましたか」と聞くと、第1位に「体力低下」と出てきますが、第2位に「薬物療法に伴う副作用」がどんと出てきたのです。
副作用は、通院の頻度もお薬の服用が始まると増えますし、それから脱毛、湿疹、関節痛、倦怠(けんたい)感など、いろいろ出てきてしまいます。これがやはり価値観の変化や、働くことのストレス、居づらさ、迷惑を掛けるなど、メンタル低下のほうにもつながってきます。これを実際、企業のほうにはきちんと言ってもらえれば何らかの対応はできるのですが、それをどう言ったらいいのかというその言い方なども相談する相手がいないということが課題にはなってくると思っています。

副作用のつらさが仕事継続にも影響

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副作用のつらさを調べてみました。国立がん研究センターにいらした野澤桂子先生が、「アピアランス」といって見た目の外見の変化に対して70個ぐらいの調査項目を設けていたので、これを少しまとめた項目で調査をしたものがこの図になります。
乳がんの患者さんが多かったのですが、この時に見えてきたことは、やはり仕事を「変えずに継続できた人」と、「変えざるを得なかった人」で見ると、どの項目に関しても、「変えざるを得なかった人」のほうが副作用がしんどかったことが見えてきます。ですから、やはり副作用管理をしっかりしていく、この情報をサポートしていくということは、非常にこの生活を続ける上でも重要な項目になってきていると思っています。
特に働き方を変更した人たちの間で差が大きかったのが「倦怠感」や、「慢性疼痛」、「不眠」も出てきます。「太った」、「痩せた」なども、アピアランス含めて問題になってくると思います。併せて、「集中力や記憶力が低下した」や、「気持ちの落ち込みがあった」というようなところがあります。薬の影響は、添付文書にあるものだけではなく、心などにも及んでいます。

患者さんは落ち込みなどを「自分の責任だ」と考えがち。「それは副作用。薬が影響してるのかもしれない」というようなひと言と、そして「それをどうしたらいいのか」というアドバイスをいただけると、少し治療に対する意識も変わってくるのかなと思ってます。今後は、先ほどの患者体験調査でみる医療者の関わりをぜひ100%にしていってほしいと思ってます。

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掲載日:2023年02月20日
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