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患者さんの気持ちを考えたがん薬物療法 阪神緩和薬物療法ネットワーク学術講演会 2022
薬物療法の”進化”と患者の悩みの”変化”~薬剤師に期待する服薬コミュニケーション~
1)薬剤師さんと私

桜井 なおみさん(一般社団法人CSRプロジェクト)

薬物療法について、患者の立場から今どんなことを薬剤師に期待しているのかというところを、本音で語りたいと思っております。よろしくお願いします。質問も皆さんと一緒に対話ができたらと思っておりますので、ご質問を入力いただければと思っております。

私は、薬との関わりというと母親が薬剤師だったことから始まったかと思います。今は医療のほうに関わっておりますが、以前は全然違う、建築の仕事をやっていました。働く世代の患者さんの支援活動をもう十数年やっております。電話相談をずっと続けていて、最近はAYA世代(Adolescent and Young Adult[思春期・若年成人])といって、若い世代の患者さんなども含めて、コロナのことなど、いろいろ経済的なことでお悩みの方などがかなり増えてきて、患者さんたちの声としてもよく聞こえてきます。あと、最近はステージ4の患者さんだけのサロンなどをやっていて、本当にいろいろな語りが拾えるなと思っています。

では、私のプロフィール紹介と併せて、「薬剤師さんと私」ということで、どのような関わりから薬剤師の役割を理解したのか、話をしていきたいと思っております。

薬剤師さんとの関わり

まず私が入院した時、16、17年前になるので、かなり患者歴としては古い記憶になってしまうのですが、今でもこのことで悩んでいますし、今でもこの時の気持ちは覚えているのです。入院していた時に薬剤師さんの実習の方がお2人、学生さんがいらっしゃっていて、病棟の薬剤師さんが、「桜井さん、今日2人実習で来てるのですが、ずっと一緒に話をしてもらってもいいかな」と言われて、何でもいいから聞いてくださいとのことで質問させていただきました。

桜井さん講演画面1

その時の私の質問がこれでした。
「なぜ血管炎は起こるのですか。」
もう痛くて痛くてしょうがなかったのです。抗がん剤治療を受けていたのがちょうど夏だったので半袖のシャツを着るのですが、腕にいろんな黒ずみ模様や凹凸ができてしまって見せられない。こんな状態が嫌だなということです。
今でも本当に血管がとれなくて。私の電子カルテに「採血が難しい患者さん」と書いてあるらしいのですが、本当にそのとおりで、抗がん剤治療を受けてからさらにひどくなっちゃったなと思っています。一番ひどかった時で、5回試みてもとれず、結局この時は足から点滴を入れました。この時の苦痛は、患者さんは顔で「大丈夫、大丈夫。もう自分の血管が悪いから」みたいなことを言いますが、気持ちとしては、もう鬱々(うつうつ)としちゃっていて、次、抗がん剤治療を受けるなら私なんか絶対最初からポート(点滴を行うために皮膚の下に埋め込んで使用する器具)を入れようと思ったんですけども、そういう情報はまったくなく。今ならば、やはり選択権とかは欲しいなと思いました。

桜井さん講演画面2

ただ血管炎に関しては、私が聞いた時に、正解は得られなかったんです、残念ながら。ただ、それでも何がうれしかったかっていうと、一生懸命考えてくれたことです。自分の大学のほうに戻って調べてくれて、1週間後にまたその資料を持ってきてくれて。たった一人の患者のために、一生懸命考えてくださった。それがとにかくうれしかったんです。 答えがなくても良かったんです。しんどいっていう気持ちを一生懸命受け止めて、一緒に悩んで一緒に考えてくれたっていうことがうれしくって。これが他の看護師さんとかには、なかったんです。私も主治医にもなかなか言えなかったり、言ったとしても回答が得られなかったり。気持ちへの共感がなかなかなかったので、すごくうれしくて。この時から、やっぱり薬のことは薬の専門家に全部聞いていこうと思って、薬局なども、何となく自分の身近な場所に使っていたのを全部1か所でまとめていったりとかっていう感じで行動が変わっていったなって思っております。

桜井さん講演画面3

薬に関わる相談と共感の声掛け

今も患者さんたちといろいろなお話をしていると、昔って結構ネガティブ(否定的)な話が多かったかなと思っています。例えば、抗がん剤の副作用で、涙腺から涙が出ることがあるんですが、先生からの説明の時って、起こりやすい副作用って結構説明されますし、それから患者さんの側もこういうのは調べて、だいたい分かっているんです。だから、脱毛とか、そういうのは分かっているんですけども、涙腺から涙が止まらなくなるのは知らないので、悩んで眼科のほうに行って、既往歴で、今がんの治療中って書いたら、「メンタルが低下してるんですね」のようなことを言われたということがあって。こんな些細な行き違いに「え?」と思うことがあります。目のかすみもそうですし、それから気持ちの落ち込みもそうですよね。

神経性の疼痛(とうつう)があったので、痛み止めと、あと睡眠薬を処方してもらったことがあります。睡眠薬は時差ぼけの解消でもらったのに、薬剤師さんからは「心から痛みを感じることもあるんですよ」のようなことを言われたとか。たぶん医療側の情報が一貫してないというか、共有されてないところから出てくるコミュニケーションのずれというものがあるんじゃないかと思っていました。在庫がない薬剤なども、毎回毎回、郵送で足りない分を送ってもらうなんて申し訳ないから、薬局を変えたことがありました。

最近は、患者さんからのいろんな質問に対して、薬剤師さんが積極的に答えてくださるようになってから、入ってくる患者さんの話が変わってきました。例えば、お薬の治療、再発治療をされていた方ですが、爪先を自分で見るのも嫌だっていう患者さんがいらっしゃいました。今、パソコンの作業はほぼ常になっておりますよね。オンラインになってから少し特徴的だなと思ってるのは、自分の顔が常に見れるんですよね。画面の中にずっと自分の顔が出ている。自分ががんの治療中だっていうことを、いつも見てなきゃいけないのがとってもしんどいというようなことをぽろっとこぼしたら、薬剤師さんが「そうですよね」ってひとこと言ってくれて。それだけでうれしかったというような声が聞こえてきたりしました。なんか、コミュニケーションってそんな一言からはじまるのではないかなって思っています。

それから服薬のタイミングが違うお薬の一包化(服用時期が同じ薬や1回に何種類かの錠剤を服用する場合などに、これらをまとめて1袋にまとめること)を提案してくれた。患者さんはこんなこと知らないんですね。「もうどうしよう、こんなにいっぱい、服薬のタイミング違うの?」って言ったら一包化を薬剤師さんが提案してくれて。「とっても助かった!」というようなことを学んだりしました。

目薬なんかも、選び方で今いろんな目薬出ていますよね。「最大用量入ってます」とか、いろいろなものが店頭に並んでいますが、ではどれがいいのかを一緒に考えてくれる人がいるとさらによい。私が経験したことなのですが、ある成分が入っているのを避けるようにと医師から言われていて「なんでしたっけ?」と薬剤師さんに聞いてみたら、「知らない」と。でも、そこからがこの薬剤師さんは違った。「自分も学びたいから、医師に電話をさせてもらっていいですか」って言われて、病院のほうに紹介をして、聞いてもらい、一緒に学びました。こういう、薬のプロだからこそのお話っていうのはとても重要だなと思っております。なので、今、私たちが探しているのは、「かかりつけ薬剤師をもっておこう!」ということなんです。ただ、なかなか見つけられないのが現状で、私も薬局の前を通るたびに「かかりつけ薬剤師さんいます」っていう表示があったら、よく見るようにしているのですが、まだまだ少ないと思っています。これからどんどんこういう薬剤師さんがそばにいてくださると、治療中だけじゃなくて治療後も含めてすごく楽になると思います。

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掲載日:2023年02月13日
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