患者さんの気持ちを考えたがん薬物療法 阪神緩和薬物療法ネットワーク学術講演会 2022
シンポジウム1:患者さんの気持ちを考えたがん薬物療法
シンポジスト: | 桜井 なおみさん 堀 麻衣さん(医療法人 薫風会 佐野病院) 徳垣 典子さん(フロンティア薬局 武庫川駅前店) |
座長: | 渡邊 清高さん 岡本 禎晃さん |
渡邊:これから、シンポジウム「患者さんの気持ちを考えたがん薬物療法」ということで、今の桜井さんのプレゼンを受けて、あるいは今の話の続きでもいいので、深めていければいいなと思っています。では初めに、医療法人薫風会佐野病院の堀麻衣さんからご紹介いただいて、続いてフロンティア薬局の徳垣典子さんです。では、堀さんからお願いします。
堀:初めまして。医療法人薫風会佐野病院の薬剤師の堀と申します。私の病院ですが、神戸市の垂水区にあります。131床の小さな病院ですが、薬剤師が7名で、あと助手さんが3名で、外来化学療法も薬剤師外来をしていますし、一般病棟ではありますが、緩和ケアの患者さんも診る病棟があります。整形外科の患者さんと同じ病棟で難しい面もありますが、いろいろ工夫しながらできることをやっていけたらとみんなで取り組んでいます。本日は桜井先生はじめ、渡邊さんや岡本さん、徳垣さんとためになるお話ができたらいいなと思っております。よろしくお願いいたします。
渡邊:ありがとうございます。では、フロンティア薬局武庫川駅前店の徳垣典子さんからプレゼンテーションをお願いします。
徳垣:フロンティア薬局武庫川駅前店で薬剤師をしております徳垣と申します。私は兵庫県の西宮市にある調剤薬局で、大学病院さん前の薬局で薬剤師をしております。
薬局の紹介としては、2022年の6月に薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)で定められている専門医療機関連携薬局(専門的な薬学管理が必要とされる患者さんに対して、専門医療機関等の関係機関と連携し、より高度な薬物管理・調剤の対応ができる薬局)の認定を受けまして、がん患者さんへの治療をまた別途していけたらという点に力を入れて、これからやっていきたいなと思っております。
患者さんとの信頼関係を築くことの大切さ
徳垣:調剤薬局で、私が今までがん患者さんと接してきた中で思ったこと、考えてきたことですので、賛否両論あるかもしれないのですが、ご参考になる点、共感していただける点があれば幸いです。調剤薬局では、患者さんに関する情報が限られている部分もあり、治療に介入していくためには、患者さんからいかに情報を聞き出せるかにかかっているところがあります。いろいろと聞きたいことはあっても、いきなりぶしつけな質問をしてしまうと、どうしてそんなことを薬局で聞かれなければいけないのかと思われたり、患者さんにストレスを与えてしまうことにもなります。
そのようなことがないように、まずは相談してもいいなと思ってもらえる患者さんとの信頼関係を築くことを大切にしています。同じ副作用の説明をするにしても、いきなりそのような話をしては患者さんに不安を与えたり、治療に消極的になってしまうことも考えられますが、信頼関係がある中での説明であれば、「何かあったら薬局に相談しよう」というように、副作用リスクも受け入れていただきやすくなると思います。がんの患者さんは病院で長時間の点滴治療を受けて、しんどい、早く帰りたいと思って外出することも多いですが、そうではなくて、点滴も終わったし、気晴らしに薬局で話して帰ろうと、薬局に来られるのを楽しみにしてもらえるような関係を築くことを心掛けています。
服薬指導における環境づくり
徳垣:まず、患者さんが話しやすい環境づくりに気を付けています。待合のソファーでの投薬、個室空間での投薬、カウンターでの立った状態での投薬の3つのパターンがありますが、がん患者さんはしんどいことが多いのと、一番話がしやすいこともあって、できるだけ待合ソファーまで薬を持っていって説明するようにしています。ただ、ほかに患者さんがいらっしゃると話が聞こえてしまったり、個人情報の観点からは望ましくないこともあるため、患者さんがどのように思われているか、表情やご様子、口調などから確認をするようにしています。
比較的若い女性の方などは気にされるケースが多いため、そのような場合は個室スペースでの対応をするようにしています。個室スペースの利点はもちろんありますが、特別感が出てしまい、逆に気にされることもあるため、やはり患者さんがどう捉えているかをくみ取る必要があります。患者さんによって捉え方はいろいろなので、それぞれの患者さんに合った環境での服薬指導が必要だと思います。
新規来局の際は、がん種や治療内容、治療方針など、確認したいことはたくさんありますが、まずは患者さんが、ご自身ががんであることをどのように捉えているかを把握するようにしています。こちらからはがんという言葉を発しないようにし、お薬の使い方もいろいろとあるので「適切にご説明するために治療内容を伺ってもよろしいですか」といったクッション言葉を使ったり、処方箋で受診科目や処方内容を確認すれば、がん種はある程度把握できるため、肺がんと推測できれば「肺の方での治療ですか」と伺ったり、外科か内科で手術適応があるかどうかを推測できるため、外科からの処方箋であれば「手術を受けられたのですか」というように切り出すようにしています。お話しする中で、患者さん側から「抗がん剤がね」など、がんという言葉をご自身で自然におっしゃった場合には、この方は話すことにそこまで抵抗のない方だと判断し、こちらも壁をつくらず、治療のことや副作用のことなどいろいろお話しさせていただくようにしています。
あまり話されないタイプの方であれば、その原因を考えるようにしています。調剤薬局の薬剤師に相談してどうなるのだろうと思われていることもあるため、そういう雰囲気であれば、治療内容から推測して「遺伝子検査を受けられました?」「白血球下がっていませんか」など、あえて少し踏み込んだ質問をしてみます。そうすると、患者さんの表情や口調が少し変化して、「自分の治療についてわかっているのかな。ちょっと話してみよう」というように話し始めてくださることもあります。初回対応時には「急いでいるから早くして」という感じの方も、2回目、3回目と対応して顔を覚えていただくことで、患者さんも少し安心感が出てきて、徐々にお話ししてくださるケースも多いです。
患者さんのがんに対するスタンスに合った対応を
徳垣:がん患者さんがどのようなスタンスで治療を受けておられるかによっても対応が変わってきます。ご自身の病気や治療について、インターネットや書籍で調べて、薬局薬剤師よりも熟知されている方も多く、お話を伺うことで、こちらが学ばせていただくこともあります。先生の考えや治療方針などを患者さんから伺うことで勉強になることも多いため、積極的にお話を伺うようにし、質問を受けてわからないことがあれば時間をいただいてお調べし、一緒に治療に取り組む姿勢を持つようにしています。
逆に、「治療に関しては先生にお任せしているから、いろいろ情報を知ってしまうと不安にもなるしね」という方もいらっしゃいます。そういうタイプの方には深くお話を伺うことは避け、副作用の発現状況の確認とその対策について注力するようにしています。
患者さんによっては、「自分ががんであることはごくごく身内にしか話していない、「大丈夫?」と声を掛けられても、「健康な人に何がわかるの」と思うし、気疲れもしてしまうから」とおっしゃるケースもあります。このような方は、医療従事者に対して話すことについて「健常者に相談しても」と思われていたりします。個人的な話にはなりますが、私も、身内にがんの闘病歴がある者がおりますので、このような患者さんには、そのときの経験談をお話しすることで患者さんとの壁を取り除くようにしています。
初回来局時は、がんと診断されたあとの動揺の大きい時期を過ぎ、入院で初回点滴を受けて、2コース目で外来化学療法を受けて処方箋を持参されるというケースが多く、患者さんも、病気を受け入れ精神的にも比較的安定して来局されることが多いですが、治療を受ける中で、抗がん剤の効果がなくて治療変更をすることになった、再発したというケースでは、診察を終えて落ち込み、混乱した心境で来局されることもあります。薬局で涙を流される、憤りを感じ怒りをぶつけられるケースもあります。そのようなときには丁重を心掛け、ご様子をみて「副作用に耐えて治療を一生懸命受けておられたから余計にショックが大きいですよね」と、すごくがんばって治療を受けておられたことをちゃんとわかっていますよということをお伝えしたり、「今は診察を受けた直後で一番動揺が大きいときだから」というようにお伝えしたりしています。ただ、そのような場合は、患者さんの性格やどのような病期にいらっしゃるかなどを考慮し、言葉を掛けるときには細心の注意を払うようにしています。
いろいろな注意を払って患者さん対応をしていても、時には「どうして薬局でいろいろ聞かれないといけないの。診察のときに先生と話しているからいいでしょ」とおっしゃるケースもあります。そのときには、「差し出がましいことを言って申し訳ございませんでした」と謝罪した上で、「もし、何か気になることがあればいつでもおっしゃってください」と添えるようにし、心境に変化があったり、何か困ったことがあったときには相談してもらいやすいようにしています。
患者さんを支えるご家族の精神的なフォローの必要性
徳垣:また、患者さんご本人だけではなく、ご家族のフォローも大切になってきます。いつもご家族である奥さまが付き添ってご夫婦で来局される方がいらっしゃるのですが、あるとき、奥さまだけで来局され、「いつもは本人がいるから言えないけど、家では私たち家族に当たったりして私も困っているの。病気になる前は社交的で明るい人だったのにね。でも、薬局で教えてもらうことは妻の務めよ。副作用対策の保湿剤もちゃんと塗っているわ。今日は私だけで来たから、いつもは言えないことを聞いてもらえた」とお話ししてくださった方がいらっしゃいました。
また、別の患者さんでは、ご家族である奥さまが「今まで相談できる人がいなくて、本人の前では私も弱音を吐けないし。でも前回、ここで副作用対策のこととかいろいろ教えてもらって、すごく心が楽になった」と涙しながら話してくださった方もいらっしゃいました。がん患者さんは一緒に治療を支えておられるご家族の精神的なフォローもやはり必要であり、その点にも配慮して対応する必要があります。状況を見て「ご家族として何か困っていることなどありませんか」といった声掛けも大切だと思います。