がんの在宅療養 地域におけるがん患者の緩和ケアと療養支援情報 普及と活用プロジェクトfacebook

がん患者さんのためのチーム医療と地域連携の推進に向けた取り組み 阪神緩和薬物療法ネットワーク学術講演会 2022
がん患者さんのためのチーム医療と地域連携の推進に向けた取り組み
3)がん患者さんを支える地域連携

渡邊 清高さん(帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 病院教授)

患者さんを支える地域連携とはどういったものなのか、考えてみたいと思います。

それぞれの職種が専門性を生かしながら関わっていく

講演の画面9

これまでの考え方ですと、時間の流れがあって、診断から治療、フォローアップ、ある時 点で再発と診断されて、進行したがんといわれやがて看取りに至る、というイメージでした。そんななかで、緩和ケアはいろいろな関わり方をするということではありますが、がん治療をする医療機関から診療所、病院から地域のクリニックのような形で、どこかで分断する、とか区切りがある、という形で見られることが多くありました。がんの診断、治療、フォローアップ、そして社会的なサポート(療養、就労、社会復帰)がなされる、ということになります。最近は、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)つまりACPですね。「人生会議」という言葉で厚生労働省も啓発をしているところですが、例えば診療所や病院、そして薬局など、さまざまな施設の専門職種が患者さんと並走しながら、一緒に手を携えながら患者さんを支えていくという形が今後は求められてくる、と考えています。病状や生活の状況によって、それぞれの職種の役割の重み付けは異なってくるかもしれませんが、お互いの専門性を生かしながら関わっていく、というところが大切かと思います。

患者さん向けに作られた情報の例をご紹介します。先ほどご紹介したがん対策推進基本計画の中で患者さん向けに役立つ情報を届けていく取り組みとして、『患者必携 がんになったら手にとるガイド』 ―これは私が以前在籍しました国立がん研究センターの冊子の一つで、PDFファイルを「がん情報サービス」のウェブサイトからダウンロードしていただくことができます。そこで、患者さんにぜひ知っていただきたい情報ということで、病院内のチーム、地域医療のチーム、そして地域包括ケアのチームということで、「チーム医療」が患者さんにとって大きな力になることを書かせていただいたことがありました。

病院で、地域で支える「医療チーム」

講演の画面10

チーム医療となる と、役割分担といっても責任の所在が曖昧になるのではないかとか、たらい回しになるのではないか、と心配される方もいらっしゃると思います。そういった一方で、医療従事者の中でも、責任の所在や役割分担はどうするんだろうかという課題も多くあるかと思います。当時になりますけれども2010年ぐらいですかね、議論をしまして、病院内のチームと地域医療のチーム、そして地域包括ケアのチームということで、生活・社会的なサポートの面も含めて患者さんに分かりやすい形でまとめさせていただく機会がありました。例えば、手術療法・放射線療法・薬物療法(抗がん剤治療)ですね。三大治療についてのサポートをするような職種がチームになっている「病院内チーム」。地域の医療従事者や介護職種を含めた「地域医療チーム」ですね。さらには、生活者という目線で行政サービスだとか近隣の方のサポートも含めた「地域包括ケアチーム」というところをまとめています。

身近な地域の療養資源の情報をまとめた「がんの療養情報」

講演の画面11

これは、都道府県ごとに がん患者さんを支える療養資源についての情報をまとめた「地域の療養情報」という取り組みです。以前からいろいろな県の方とご一緒させていただきながら、まず知っていただきたい情報や、お役立ち情報、相談できる窓口、地元の患者会や患者支援団体の連絡先などをまとめる取り組みを進めておりました。関西ですと、京都府や大阪府で、情報をまとめる取り組みを始める立ち上げのときに府内のがんの相談支援センターの方と一度議論をさせていただく機会があって、地元の患者さんにとって必要な情報はどのようなものがあるだろうか、とか、患者さんからよく聞かれていることで、ぜひこれからの患者さんに知っていただきたい情報を集めましょう、というところからはじまり、冊子という形で情報を「見える化」する取り組みが続いています。兵庫県でも一番最近ですと平成29(2017)年に、県内の療養情報をまとめる冊子「兵庫県がんサポートブック」が発行されており、患者さんにぜひ知っていただきたい情報ということで、PDFファイルで公開されていますし、一部はがん相談支援センターなどで活用されていると伺っています。こういった情報が、患者さんへの相談支援や情報提供に関わる方同士で共有されて、より多くのこれからの患者さんに確実に伝えられて活用されていくことが大切だと思っています。

患者さん・サバイバー(経験者)を地域で支える視点

講演の画面12

一方で、これは兵庫県に限らない課題ですが、高齢化が進んでいることが挙げられます。将来推計も含めてですが、今後30年先、40年先の人口構成の推計がなされていて、高齢者の占める人口割合が、比率でいうと現在から1.5倍増える、若年人口は減ってくる、と見込まれています。地域ごと、医療圏ごとで見ても、都市部と地域では随分違いがあって、特に、人口減少が進んでいる地域では、もうすでに高齢化のピークが比較的早い時期に訪れていて、むしろ今後は、都市部でかなり独居だとか老老世帯が増えていくことが見込まれています。

講演の画面13

こちらは兵庫県のがん対策推進計画で 、先ほどご紹介した国のがん対策推進基本計画の策定を踏まえて、そこでは地域の状況に応じた県のがん対策の取り組みがなされることになっています。その中には、県内のがんの現状だとか、がん予防やがん検診を充実させていきましょうとか、ライフステージに応じた対策とか、適切な医療を受けられる環境の整備、療養生活の質の維持向上、患者さんの就労支援、がん教育、全国がん登録の活用ということで、こういったテーマが改定の視点ということで示されています。特に最近の計画の中では、がんが治る/治らないということに関わらず、患者さん・がんを経験された方(サバイバー)を社会で、地域で支えるという視点が強調されています。

治療と療養の支援の仕組みに参加していく

講演の画面14

身近な事例をご紹介しま しょう。例えば65歳男性で、高血圧と高脂血症で治療していらっしゃいます。健康診断では血圧が高く、塩分は控えて、たばこをやめなさいといつもいわれていました。ただ、お好み焼きはおいしいし、漬物が大好きだということですので、なかなかそうはいきません。最近、食欲がなくて、何となくおなかが重い感じがあるというのです。検査したところ異常があって、地元の市立芦屋病院を受診しました。そこで胃がんと診断されて、これから手術と抗がん剤による治療を受けます、ということです。

この方の経験としては、「大変だったけれども、これでようやく家に帰れる、やれやれ」「一服もしたいし、しょっぱいものもそろそろ食べてみようか」ということになりました。お好み焼きは、私も好きです。心が引かれるところですけれども、手術で治療がおしまい、ということではありません。痛みのコントロールとリハビリとか、今後に向けて大切なことがいろいろあります。手術が終わったら早々に体力を付けるためのリハビリを始める必要がありますし、お薬の管理とか再発予防のための治療、後遺症の予防とケア、減塩食や卒煙、禁煙が大切です。そのための治療とか、生活スタイルを改めていくことによるストレスのコントロールも大切な要素です。退院後も継続してリハビリができるように移行を進めていく、そういったところも重要になってくると思います。このように、現在のがん医療では、治療がすんだらそれでおしまいで、後は普段どおりの生活に戻るということではなくて、患者さんは医療職といろいろな関わりを持ちながら、それぞれのケアのプロセスだとかリハビリの輪の中に参加していく、ということになると思います。

薬剤師から患者さんへの関わりのポイント

講演の画面15

今回は多くの薬剤師の方がお聞きになっていらっしゃいますが、今の医療の状況を踏まえると、医師による治療が始まり処方がなされてから、初めて薬剤師さんの関わりや介入が始まる、ということではありません。治療前からすでに患者さんの病状の把握をしていたりだとか、治療内容の確認として、これからどのようなレジメン(薬物療法[抗がん剤治療]を行う上で、薬剤の用量や用法、治療期間などを記載した治療計画)を選択していくのかのお話をしたりとか、治療前に事前のリスク評価をしていくことも重要ですし、治療が始まるに当たって副作用をなるべく軽くしていく、可能であれば予防していくというような形で、適切な支持医療を提案することについても多くの研究がなされていますし、信頼できる情報としてまとめられ、実践がなされています。

実際に治療が始まった後には服薬管理ということで、内服薬や注射薬の管理も大切になっ てきますし、治療中の注意事項に留意しながら。副作用の発現やモニタリングということで、ご自分で分かる副作用、あるいは検査をしないと分からない副作用についても、その都度、モニタをしていくことになろうかと思います。医師、看護師さんと連携しながら患者さんを支援していくというところが重要になってきます。


患者さんを支える「地域の情報の見える化」

そして「フォローアップ」では、治療が一段落してからも関係が途絶えるということはなく、後遺症の予防とケアだとか、在宅での服薬管理、生活支援などが挙げられます。私自身も診療をしていて、薬剤師さんからよく電話などで連絡をいただいてハッと気付かされることが多いのですが、なかなか医師に伝えにくい生活上の悩みやお金のことだとか、場合によっては、医療者とコミュニケーションが取りづらいということについて、薬剤師さんのところで打ち明けられることが少なくないと思います。生活面での相談や心理・精神面での支援というニーズに対しても、薬局薬剤師さんや病院薬剤師さんの前で初めて吐露するということも多いのではないかと思います。

次へ
掲載日:2022年12月03日
アンケートにご協力ください
「がんの在宅療養」ウェブサイトについて、あなたのご意見・ご感想をお寄せください。
アンケートページへアンケートページへ