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がん患者さんのためのチーム医療と地域連携の推進に向けた取り組み 阪神緩和薬物療法ネットワーク学術講演会 2022
がん患者さんのためのチーム医療と地域連携の推進に向けた取り組み
1)がん医療の現状と研修会が目指すもの

渡邊 清高さん(帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 病院教授)


講演の画面1

研修会の到達目標

岡本先生、ご紹介いただきありがとうございます。
今日の研修会では、3つの目標を設定させていただきました。まず、がん患者さん支援のための多職種チーム医療の意義について説明できることです。その上で、地域連携の推進に向けた取り組みを概説できること、そして、専門性・関心に応じた関連職種の役割を提案できることです。

がんの現状

がんを含む主な死因別の死亡率を年次推移で示しています。最新のデータで、年間37万人の方ががんで亡くなり、およそ100万人の方が新しくがんと診断されています。「日本人の2人に1人ががんにかかる」とよく言われますが、正確には「生涯累積罹患リスク」といいますけれども、一生で何らかのがんにかかる確率が計算できていて、男性ですと65%、女性ですと50%の方が一生のうちに何らかのがんと診断されることが推計されています。一方で、がんの診断と治療の進歩により、主ながん、例えば胃がん、大腸がん、乳がんに関しては、5年生存率が7割を超えているといった現状があります。診断され治療した後の生活、がんを患った方が安心して暮らせる社会、周りの方のサポートを得ながらともに生きる社会を作っていく必要がある、と見て取れるデータです。

がん医療における意思決定の大切さ

これまでのがん医療の考え方としては、「複数の選択肢」といってもそんなに多くなく、AまたはBの2つの治療から選ぶ。その場合でも医療者が一方のものを提案し患者さんはそれに従う、というような流れで、選択肢や情報源も限られていた状況にありました。患者さんは受け身であることが一般的だったといえるかと思います。

一方で、これからの医療の考え方はどうでしょうか。さまざまな治療や検査、その後のケアも含めていろいろな選択肢があります。その中で、医療者がある選択肢を提案したとしても、患者さんは別の組み合わせを希望されるかもしれません。この背景としては、いろいろな選択肢が増えてきたことが挙げられます。さらに、インターネットをはじめとしてさまざまな情報源が利用できるようになってきた、こともあります。「コミュニケーションが鍵」と言えるわけです。患者さん・ご家族のご希望や想い、普段はどのようなことを感じていらっしゃるか、どんなお話をしていらっしゃるか、こうしたことを踏まえた意思決定が非常に重要になってくると言えます。

講演の画面2

がん対策を地域で推進する

こうした中、がん対策基本法という法律が2007年に施行されて、2016年に改正されるという動きがありました。そこでは、「医療機関」が頑張りましょうとか「医療従事者」が頑張っていきましょうということではなく、「国を挙げて取り組んでいこう」ということが法律として書かれたというところが特徴として挙げられます。そこでは、自治体ですね。市区町村や都道府県が、がん対策を地域として進めていきましょう、ということと、がん医療に加えて予防とか検診(早期発見)、そして患者さんの就労などの社会的な課題に対してもアプローチをしていこう、ということが強調されています。
がん対策の方向性を議論する「がん対策推進協議会」では、患者さん・ご家族・ご遺族の視点をがん対策に取り入れていくことがこの法律で明記されています。それをもとにして、アクションプランとして5年ごと、最近ですと6年ごとに、「がん対策推進基本計画」が策定されています。これは閣議決定されているものですので、医療を管轄する厚生労働省にとどまらず、さまざまな省庁が横断的にがん対策を進めていくというところが強調されています。全体目標が3つ示されており、その中に、「患者本位のがん医療を実現していくこと」「尊厳を持って安心して暮らせる社会をつくっていく」ことが含まれています。具体的には、「がん医療の充実」ということで、今日お話しする「チーム医療」とか、「がんとの共生」ということで、「治療だけではなくその後のケアも含めて充実させていこう」というところが強調されています。それを支える基盤ということで、がん研究・人材育成・がん教育などが記載されています。

講演の画面3

がん対策の方向性

最近のがん対策推進基本計画を巡る議論、今後新しい計画が第4期として始まるわけですが、最近の流れを少しご紹介していきたいと思います。先ほどご紹介した「患者本位のがん医療の実現」という側面と「尊厳を持って安心して暮らせる社会」の中に、がんゲノム医療、手術療法・放射線療法・薬物療法・免疫療法、チーム医療、がんのリハビリ、支持療法、希少がん・難治がん、小児・AYA(思春期・若年世代)のがん、高齢者のがん、病理、がん登録ということで、新しい技術や医療とともに、さまざまながん対策のテーマが記載されていることと、診断されたときの緩和ケア、相談支援・情報提供、社会連携に基づくがん対策・患者支援というところが強調されています。

さらに、がん患者さんがどこにお住まいであっても、住み慣れた地域社会で生活をしていく中で必要な支援を受けることができる環境整備を目指すと記載されています。そのためには、病院が頑張りましょうとか医療者が頑張りましょう、ではなく、さまざまなステークホルダー、つまり医療・福祉・介護・産業保健・就労支援分野と連携しながら効率的な医療・福祉サービスの提供や、就労支援などを行う仕組みを構築していく、ということが求められていることになります。

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多職種のご参加による研修会

本日の研修会には、事前に235人の方からのご登録をいただきました。73%の薬剤師の方を含めて多くの方にご参加いただいています。事前にいただいたコメントとしては、「地域連携の取り組みの実際を参考にしたい」「緩和医療における地域連携」「阪神地区の情報をもっと知りたい」、現時点ではがん患者さんの診療はされていないけれども、「これから地域連携が急に進んでいくことが見込まれるので知識を身に付けておきたい」ということでした。あるいは、医師、薬剤師の取り組み、在宅での緩和ケア、家族当事者としてはどう参画できるか、介護に関する問題点ということで、がん医療に関わる皆さま、介護に関わる方、一般の方、患者さんも含めて、幅広くご参加いただきました。ありがとうございます。

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掲載日:2022年9月5日
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