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住み慣れた地域でがん患者さんを支えるチームづくり 帝京がんセミナー/地域包括ケア懇話会 2019
【第1部】導入と事例提示
地域でがん患者さんを支えるには 住み慣れた地域で暮らすためのチームづくり

渡邊 清高さん(帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科)


渡邊 清高さんの画像
渡邊 清高さん

「住み慣れた地域で暮らす」をどう支えるか

はじめに私から、この懇話会の趣旨のご紹介も含めて、地域の現況などをお話しさせていただきたいと思います。最近は日本全国、どの地域でも高齢化が進んできており、この板橋区を含めた都市部も例外ではありません。人口動態や地域別将来推計⼈⼝から予測される将来の人口構成比率を見ると、2035年の板橋区の年少人口は1985年と比較して半分に、一方で老齢人口は4倍弱にまでなるとされています。隣接する東京都北区では老齢人口は5倍と推測されていますし、それぞれの区をより細かくみると、団地などで局地的に高齢化が進んだ地域があることが知られています。

高齢化が進めばがんに罹患する方も増加するわけで、すでに日本人の2人に1人は一生のうちに、なんらかのがんにかかるといわれています。しかしその一方、診断や治療の進歩によって、がんになっても治癒したり、あるいは治療を続けながら長期にわたって日常生活を送ることができる方も多くなってきました。最新のデータ(全国がんセンター協議会加盟施設における5年生存率[2008~2010年診断例])によれば、比較的予後が良いがんの代表である乳がんや胃がん、大腸がんの5年生存率は7割以上となっており、予後が厳しいとされる肺がんや膵臓がんでも、治療成績が向上しています。

医療が進歩し、予後が延長されるのは確かに良いことです。しかし、そのなかで新しい課題が浮かび上がってきました。後遺症や副作用と向き合いながら過ごす患者さん、それを支えるご家族をどうサポートしていくのかという課題です。がん患者さんが地域で暮らしていくためにどういった社会を作っていくことができるのか、これは私たち医療・介護・福祉に関わる者の前に現れた大きな問題であり、今、私たちが議論すべき新しいテーマとなってきています。

がん患者さんの治療後の道筋を支えるために

がん患者さんを病院から住み慣れた地域へとつなぐルートは、今までは、病院から診療所への一方通行であることが多かったように思われます。しかし、今後は長い経過の中でいろいろな道筋をたどる患者さんがより増えてくると考えられます。

がんの領域において「サバイバーシップ」という言葉があります。「サバイバーシップ(survivorship)」とは日本語の「生きる」と同じ意味ではなく、主としてがん体験の「治療と治療の間の時期」に焦点をあて、社会⽣活を送る本⼈と、とりまく方々が直⾯する困難を明らかにし、状況をよりよくすることを⽬指すことです。病気が治る・治らないにかかわらず、医療の進歩によって、より長期になった診断後の道筋とそこにある課題について、「社会的な側面を含めて支えていく」ということが、今、求められ始めていると思います。したがって、退院後のフォローアップ、療養、就労と社会復帰、そしてACP(Advance Care Planning:アドバンス・ケア・プランニング)と、いろいろな段階のさまざまなテーマに沿って、どこでどういったサポートをしていくかということは、医療・介護・福祉という属性や施設によらず、関係する方がみんなで考えていく必要があるといえるでしょう。

がん患者さんの場合、身体やこころの痛みだけではなく自分が生きている意味や存在意義などを問うスピリチュアル(霊的)な痛み、経済的な不安や仕事のことを含めた社会的な痛みといったさまざまな「痛み」があるとされています。その悩みや不安に対してどのように向き合っていくのかということは、こうした場で、ご一緒に考えていく必要があると考えています。

講演の様子の画像
講演の様子

現場や地域でともに話をする機会をつくる

これまでに、がん患者さんのご家族向けに、地域でどのように療養していくかということについて、患者さんやご家族向けの冊子を作成してまいりました。その中では、患者さんやご家族も輪のひとつに加わったうえで、これからの治療やその後のケアについてさまざまな専門職と一緒に考えていくということが大切であることをお伝えし、具体的な方法などをガイドしています。今日の資料にもさせていただいている「ご家族のためのがん患者さんとご家族をつなぐ在宅療養ガイド」はウェブサイトでもご覧いただけます。

一方で、患者さんとご家族が地域で安心して暮らせるための連携づくりを考えるときには、こうした情報の作成に加えて、このように研修会やフォーラムという形で、関係する専門職の方とともに勉強していく、一般の方や患者さんのお声を伺っていくといったように、現場や地域でお話をするという機会をもつことは大切だと考えています。今回は、2016年からがん、あるいはがん以外のさまざまな疾患について慢性期管理からACPまでいろいろな視点で議論を重ねている「板橋サバイバーシップ研究会」の“帝京大学バージョン”として、日頃連携している医療機関の方、あるいは介護福祉の方にぜひ活発なご意見をいただきたいですし、また普段困っていること、工夫していること、言いたくても紹介状や指示書のやりとりだけでは伝わらなかったこと・伝えづらかったことなども含めて、議論ができればと思っています。患者さん、あるいは地域のために私たちが一緒にできることはないか、ご一緒に考えていきましょう。

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掲載日:2020年1月14日
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