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住み慣れた地域でがん患者さんを支えるチームづくり 帝京がんセミナー/地域包括ケア懇話会 2019
【第2部】
グループワーク

モデレーター:渡邊清高さん 村上文さん(帝京大学法学部法律学科)


グループワークのの様子画像
グループワークの様子

四つの視点を中心にグループワークを

渡邊:今回は肺がん患者さんの事例の検討ということで、2回の在宅導入までの経過をご紹介しました。グループワークの進め方について、お話をさせていただきます。

お手元に症例検討シートがあると思います。これはJonsenの臨床倫理のアプローチという表で、事例に関して考えるための4つの視点(医学的適応、患者の意向、患者をめぐる状況、QOL)を提供するものです。板橋サバイバーシップ研究会でも使用しています。こちらの4つの視点に基づいて、患者さんの QOL、医療的な側面あるいは患者さんをめぐる状況について、「当院はこうだな」とか「こんなアプローチをしているな」とか、頭の整理に使っていただきたいと思います。このシートのどこの枠から使っていただいても構いませんし、直接意見をしていただいて、前にある大きな紙に書記の方に記入いただく形でも良いと思います。

今回の事例は、肺がんの治療やその後の生活のなかで、大きな変化に遭遇した患者さんの状況、そしてご家族の悩みというのにどう向き合うか、ぜひいろいろなご意見・ご提案を伺うことができればと思います。

介護認定とマンパワーの検討が必要

グループA:私たちの班では、「症状緩和」という目的が十分に果たされていないのではということが課題として挙がりました。治療についても副作用の出現によって中断されているということで、全体的に症状緩和がうまくいってない様子なので、その点を評価してはと思います。また、患者さんはまだ介護認定を受けていないように思われますので、今後の在宅生活のためには、介護認定について話し合う事が必要ではないかと考えます。

それから、在宅に移る場合にはマンパワーというものを考えていかなければならないと思います。このご家庭ではご主人がキーパーソンだとは思いますが、ご主人にどのくらい介護能力があるのか、他に介護の担い手がいるのかということを、意思決定支援も含めたうえで考えていく必要があると思います。また患者さんは、食事が取りづらいということもあるようなので、今後の栄養の取り方も考えていく、例えば中心静脈栄養に移行していくということも検討すべきなのではと思いました。

以上のようなことを含めて、家族の状況に応じたサポートをしていくためには、まずは訪問看護の介入が大事になるのではと思います。

渡邊:ありがとうございました。かなり経過の早い例でしたので困難ではありましたが、緩和ケア、栄養の面からもっと良い関わり方ができたのではというご指摘でした。また、在宅に移って家族による介護が始まる段階で、何が必要かということについて、普段の病院での仕事のなかでは聞かないようなことをお話しいただきました。

グループワークの様子の画像
グループワークの様子

退院カンファレンスでの情報共有

Bグループ:私たちで話し合ったことは3点あります。
まず1点目は、治療、看護、在宅支援導入の点からどのような関わりができるか、ということです。このような重症の患者さんの場合、可能なら退院前に退院時カンファレンスを行い、病棟側の医師と看護師、受け入れ側となる在宅医療の主治医と看護師、そしてケアマネジャーなどが、一堂に介する機会をもつことが必要ではないかと思いました。この患者さんが何を不安に思っておられるか、どうしたいのか、家族はどのくらい支える気持ちや準備ができているのかというような点について申し送りをしていただいて、在宅に迎え入れる。そのような形になれば良いのではと思いました。

2点目は、進行肺がん、栄養不良、疼痛を抱えたこの患者さんに、具体的にどのようなサポートを考えたらよいか、ということです。先程、中心静脈栄養のお話もありましたが、私が在宅医としてがん末期の患者さんの診療に当たってきた経験からの考えでは、「ナチュラル」、つまり点滴も中心静脈栄養もしないで自然に見守ってあげるほうが、生命予後は短くとも患者さんは楽に過ごせるのかな、という印象です。しかし、例えば中心静脈栄養の影響でかえって悪液質がひどくなっていたり、むくみや胸水などの貯留が起こったりしていたとしても、患者さんにとって病院の先生のお言葉というのはやっぱり重いものなので、在宅医から「やめませんか」とお話ししても頷いてくださらないことが少なくありません。したがって、こういった方針のすり合わせも、やはり退院の時点で共有できているとやりやすいなと思います。疼痛の緩和については、点滴ができなくても持続皮下注射も可能ですし、貼り薬にも良いものが多数ありますので、在宅でもある程度サポートできると思います。

3点目として、意思決定を支えるということについてです。先ほどACPのお話の中でも出ましたが、「繰り返し話し合うこと」が必要だと思います。気持ちは二転三転するものですから、入院中も在宅療養開始後も本人、家族、主治医、看護師などで何度も何度も話し合うべきでしょう。なお、帝京大学病院は「診療応需」といって、大学病院から紹介したあとであっても、あらかじめ取り決めてあれば、状態が変化した場合には、たとえその方が在宅に移行した場合でも、病院で必ず受け入れると患者さんと在宅医にお約束して退院させてくださると伺っています。それは、受け入れ側である私たちにはもちろん、患者さんとしても「不安だったら病院へお願いできる」ということは、とても心強いことだと思います。

渡邊:ありがとうございます。意思決定支援、つまりご本人が何を重視されるのかということや、それをどうやったらサポートできるのかということは、非常に大切だと思います。医療者同士はもちろん、介護に関わられている方も含めて、繰り返しすり合わせをしていくというのはとても大切だなと感じました。

グループワークの様子の画像
グループワークの様子

普通の環境に戻るという覚悟を

グループC:私たちのグループでは、事例をもとにいろいろな意見が出ました。
やはり、退院前のカンファレンスは当然必要ではないか、ということです。退院前から、皆で在宅チームを作り、病院側の医療チームと連携していくというのが理想です。ただ、患者さんは「とにかくどうしても帰りたい」という場合が多く、居宅介護支援の事務所には、「明日退院したいので今日どうにかしてください」といきなり電話があることも少なくありません。そのようなとき、ケアマネジャーは、病院でも家族でもなくご本人のためにいる存在ですから、自分の立場として何をするかといったら、まず依頼があった段階でご本人がどんな状態か確認するために、とりあえず飛んでいきます。「ありがとうございます。あなたの人生に出会いました。ありがとうございます」という気持ちで飛んでいく、それが関わりの一歩であり、そこから支援が始まります。

お迎えする立場である私たちケアマネジャーが、病院から最低限ご家族に伝えていただきたいと思うのは、「病院という守られた環境から、普通の生活の場に帰る」ということです。普通の家に帰るということは、つまり帰ったその日から何が起こるかわからないということであり、ご家族にも、ある程度の覚悟を持っていただく必要があります。ダイレクトに言う必要はないですが、「帰る場所は普通の家ですよ」と軽く念を押していただくことで、ご家族が何か気づくことはあるかと思います。

小さなつぶやきやサインから本音を読み取る

さて、ではそのような緊急の帰宅を、ケアマネジャーが緊急で作った在宅医、看護師と福祉等の受け入れ態勢で迎え入れたとして、「さあ、あなたはこれからどういうふうに人生を暮らしていきたいですか」と正面から聞けるかといったら、絶対に聞けません。ケアマネジャーは、本人のちょっとしたつぶやき、言葉、病院の情報などをヒントに、その方の力に向き合えるようにすることが重要だと思います。
この事例の場合、同居している方が、果たして日中働いているのか、誰が食事のお世話をするのか、誰が水分を準備し提供するのか。それは最低限つかんでおくべきことでしょう。また、食事や水分のお世話をするのはもしかしたら別のご家族かもしれません。ご本人には周りの方にお世話されることに、何かの葛藤があるかもしれません。病気になって今までの人生を送れなくなった喪失感やいろいろなつらさにどう向き合うか、短い時間で緊急であっても、そこまで向き合える在宅のケアマネジャーがいればいいなと思います。

在宅に関わる職種をつなげるケアマネジャーの役割

「食事は少しずつ食べています」ということですけれど、もしかしたら本当は食べることができていないのに「少しずつ食べています」とおっしゃっているかもしれません。言葉になっていない部分に在宅チーム側がどこまで気づけるかが重要です。この方は病状が悪くなって再入院にはなっていますが、最初に在宅に迎え入れたときに何に気づいていたか、何にどう向き合えていたかによって、その再入院の意味がちょっと違ってくると思います。在宅療養に戻られた際は、訪問診療、訪問看護師が中心になってさまざまなケアなどを行っていくと思います。その中で、ケアマネジャーとは、在宅に関わるすべての職種をつなげる蝶番のような存在だと思います。だからこそ、どんな小さなことにも気づいて、ご本人やご家族の価値感に向き合えるようになるべきですし、そこからACPが生まれてくると思っております。

渡邊:ありがとうございます。ケアマネジャーは蝶番になる存在、だから患者さんの思いやご家族の希望などをうまく引き出すことが求められるということですね。そして、その気づきをさらにつなげていくということが、それぞれの職種に求められていると改めて感じました。

ディスカッションの様子の画像
ディスカッションの様子

都市部における連携のモデルの必要性

村上:私は現在、法学部の教員ですが、労働省出身です。労働省が厚生労働省になる前の人事交流で、介護保険がスタートした前後には、厚生省の老健局振興課長という介護保険担当の課長の一人でした。

さて、第1部のお話で、宮本さんが公立みつぎ総合病院のお話に少し触れていらっしゃいました。私も当時、御調町で多職種が定期的に集まり、検討を要するケース対応について協議するケアカンファレンスの様子を見せていただいた経験があります。中核となる病院を中心に町行政と医療福祉施設が連携し、総合的、一体的にサービス提供を行うという本当にすばらしい取り組みの例でしたが、小規模な町であるからこそ可能という部分も多々あって、東京で同じことができるかというとかなり困難です。そういうなかで、板橋区、北区の周辺地域と当大学病院がどういう形で連携できるかというのはとても重要なことです。ここでの取り組みで、一つのモデルを作ることができればすばらしいと思います。

第2部のお話では、さまざまな立場からお話が出ましたが、いろいろなところに焦点が合って、それぞれ中心となった話題が少しずつ異なるところに面白さを感じました。これは多職種の方が参加しているからこそで、これによってお互いにいろいろな気づきを得ることがあるのだろうと思います。このような機会を大事にし、それぞれがブラッシュアップしていくことが、今ここに住んでいる私たち全員の医療・介護・福祉の質向上に関わっていき、病院の介護の水準を上げていくことも大変貢献すると思います。今後も、皆さんのお力を頼りにしております。

刻々と変わりうる状況に多職種チームで対応する

渡邊:今回の事例は、当初は比較的予後を長く見込んでいたものの、患者さん自身やご家族が見込んでいた予後よりも比較的早く状態が悪くなったケースでした。予後予測は当たらないことも多いこと、患者さんによってはかなり振れ幅を広く見積もらないといけないということなどを改めて感じさせられました。

今日はがんの事例でしたが、一般的に言われている疾患別の予後予測、例えば心筋梗塞、心不全など心疾患、COPDなどの肺疾患、あるいは認知症などは、場合によってはかなりの長期戦になります。その長期戦をどうやって支えていくかは、家族を交えて考えていかなくてはなりません。急性期医療・ケアとホスピスケアを途中で移行するということではなく、必要なときに治療的なアプローチから緩和的なマネジメント、そしてグリーフワークへと軸足を変えていくという考え方が必要であり、そしてそのなかで、それぞれの職種がどうアプローチをしていくかという問題かと思います。

ディスカッションの様子の画像
ディスカッションの様子

2018年3月に、厚生労働省から「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」の改訂版が発表されました。この中では、地域包括ケアの中でACPの概念が組み込まれていました。ただ少し前に行われた、人生の最終段階における医療における意識調査では、自身の最終段階での望みについて「詳しく話し合っている」という方はごくわずかでした。また、日本の調査では、例えばどこで最期を迎えたいか、どこで暮らしたいかという質問でも、本人は「家族の負担にならない」ことを重視する傾向がはっきり見えてきます。例えば在宅で過ごしたいというような本音があっても、ご家族への遠慮、言い出せない言葉、不安が大きなバリアになるのです。ですから、先ほどお話もあったように、意思決定は1回の話し合いで決めるものではなく、何回でも話し合い、それをきちんと記録に残していくということが必要ですし、また入院の時の患者さんやご家族のちょっとした声の中にどういう意図を読み解いていくかというところも専門職として大切なことでしょう。家族の高齢化、経済的な負担、そういったことに対してどうサポートできるかというのも重要です。

患者さんそれぞれのゴール、病気であれば治すとか、症状がない状態に戻るということ以外のいろいろな望みについては、日常の評価、副作用を含めての評価をした上で、治療的・緩和的な治療やマネジメントの両方について広くアンテナを張って対応していくことが必要と思います。患者さんの引き出しをみつけ、紐解いていくということは、おそらく患者さんに関わるどんな職種の方でも、そしてどのタイミングでもできることです。入院のとき、通院のとき、あるいは在宅の連携の中で、いつでも話せる、話が聞けるという姿勢でいること、そして聞いたものを他の顔の見える職種につなげるということ、それが大切ではないかと感じました。

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掲載日:2020年2月3日
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