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がん医療フォーラム 2018 がんを知り、がんと共に生きる社会へ
【第2部】パネルディスカッション
ディスカッション(2)
がんになっても安心して暮らせる社会に向けて

モデレーター: 渡邊 清高さん、館林 牧子さん
パネリスト: 長瀬 慈村さん、桜井 なおみさん、池辺 英俊さん、馬上 祐子さん、岡 悦郎さん、濱本 満紀さん、岸田 徹さん
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館林 牧子さん写真
館林 牧子さん

馬上 祐子さん写真
馬上 祐子さん

岡 悦郎さん写真
岡 悦郎さん

がんになっても安心して暮らせる社会に向けて

館林:「がんになっても安心して暮らせる地域づくり・社会づくり」ということで、ご登壇の皆さまがそれぞれのご発表の中でも触れられていましたが、それに向けてこれから何をどのようにすればよいのか。あるいは、何が課題で、私たちがすべきことは何か。ぜひアドバイスをいただければと思います。馬上さんは、海外とも連絡を取って、希少がんで世界的なネットワークもつくり上げていらっしゃいますね。

馬上:海外で希少がんの活動は盛んです。ヨーロッパで希少がんの企業と研究者と患者会が一緒になっているリーグみたいなのがあって、そこでいつもいろんなことを話し合われているようです、日本でもつくれたらいいなと、希少がん患者会ネットワーク内で話しているところです。

QOLに関することは患者主導でやっていくことが大事だと思っています。特に希少がんの治療開発について、企業にお願いに行ったりしています。研究者の方に、もっと希少がんに向いてくださいとお伝えしたりとか、意見交換する場は特に必要だと思っています。

館林:ありがとうございます。世界的にどんどん活動が広がって、その部分が日本でも行われ始めていると思います。

岡さん、先ほどは、ピアサポートの素晴らしさについてお話しいただきました。情報が流通するだけではなく、自分の血となり肉となって人を支えていくというところで、すばらしいお話だったと思います。今後の課題がございましたら、お願いします。

自分で考えて、選択することの大切さ

岡:より多くの人と出会えればと、個人的には思います。オストミー協会として先ほどのトイレの問題でもそうですが、知らないとか偏見の問題。例えば、「人工肛門は臭うんじゃないの」とか、逆に、それをまたオストメイトは気にしすぎているとか、そういうこともあります。

あと、人工肛門、人工膀胱になることについてです。メディアの話で「(肛門や膀胱を)温存したほうがいい医療だ」という話がなされることがあります。実際、われわれの患者会の中ではそうではない人もいるのです。僕は人工肛門で温存せず、一次的ではなくて永久人工肛門ですが、永久にして良かったと思っています。温存にすると、便失禁や尿失禁があって、QOL(生活の質)が大変、生活が大変だという方がむしろいらっしゃったりします。

永久だともっと良かったと思うのは、術式に広い範囲を切除するので、再発のリスクは少ないと思うのです。肛門の機能の温存を優先するのか、病気への治療を優先するかという判断でいくと、僕は永久に人工肛門になっても、それは悪い選択ではないと思います。

今日の話でも出てきた「患者力」ですが、いろいろな情報が今はありますので、その中から自分が選ぶべき治療、医師から言われるだけではなく、自分で考えて「これが自分にいいんだ」と思うのが、僕はベストな治療だと思っています。医学的な判断はもちろん医師がされるのですが、いろいろな治療の中で選択できるように、情報を得る場所や、体験者と話せる場ということでも、患者会というのは考える場所でありたいなと思っております。

館林:ありがとうございます。2000年くらいから、低侵襲や温存の手術がいい、ということでずっと情報発信していた面があります。患者さんとして、利用する人の立場に立った情報が、今は求められているということですね。私のほうでも、ちょっと反省するとともに、より精進していきたいと思います。ありがとうございます。
次に濱本さん、お願いします。

情報の整備と活用をきっかけに、多職種が連携する

濱本 満紀さん写真
濱本 満紀さん

濱本:2つお話しさせてください。1つは大阪がんええナビの紹介です。事前に皆さまからお寄せいただいた質問を拝見しました。その中で、「治療の選び方」というところで、「標準治療以外の治療に行ってしまうときの見分け方」とか、「ご本人に対する説得の仕方はないか」という質問が多く見受けられました。

大阪がんええナビでは、「統合医療の情報検索発信サイト」にリンクを貼り、統合医療について、分析や検証された情報や小冊子をダウンロードしていただけるようになっています。サプリを調べていただくと、例えば「がんへの効果は認められていない」といったかたちで出てきます。しっかりと説得材料として持っていただけるように、直近の更新での対応を考えています。

もう一つは、またこれもお話ししたことになりますが、「病床機能データ検索システム」を始めたことで、がんとがん以外の病気の方、慢性疾患の方、そしてその予備軍である方、難病をお持ちの方、こういった方々との患者団体、患者さんとのネットワークに足掛かりをつけられそうなのです。その方々が、口をそろえておっしゃるのは、「がんは政策を動かしたね」と。先に行っていていいじゃないかとおっしゃるけれども、さっき桜井なおみさんのお話にもあったように、難病の患者会の方々は、何十年も患者会活動を続けていらして、その一日の長というか、何日の長となるのですかね、そういうご活動のされ方には、私たちもとても学ぶところがあります。

患者会活動としてこうした状況ですので、ましてその患者さんひとりひとりに関わる取り組みで、より連携を広げられることということになりますと、在宅に関する情報も、がんだったらがんの拠点病院に限らず、在宅に関わるいろいろな情報源があれば、多面的・多角的な情報提供ができます。今ではがんええナビが、大阪の拠点病院20か所以上にお気に入りのサイトに入れていただいて、患者さんの相談対応と同時に、病院のPDCAサイクルにも導入していただいています。他院と比べて、うちの状況はどうかといったかたちで活用されています。この病床機能データ報告として、疾病を超えた情報提供により取り上げていただければ、何か社会の動きにもささやかな一石が投じられるのではないかと思っています。ありがとうございます。

館林:ありがとうございます。ぜひ続けていってください。よろしくお願いします。
それでは岸田さん、よろしくお願いします。

「寛容な社会」に向けて、私たちができること

岸田 徹さん写真
岸田 徹さん

岸田:僕も、2点あると思っています。1つ目は、「地域との情報格差」が非常に問題になっていると思っています。例えば、都心部だとオープンにしやすい一方で、地方に行くとオープンにしにくいというのもあると思います。こうしたところがなぜなのかとか、いろんなところを踏まえて明らかにしていきたいと思います。

間違ったいろんな情報、健康食品やサプリメントに関するものなど、間違ったり偏ったりした情報もあるということも、患者自身が知っていくことが大事だと思っています。こういった情報格差がなくなっていくことも必要だと思っています。

2つ目は、「寛容な社会」になっていければよいと思っています。というのも、例えば情報を発信するときに、「これをSNSへ書いたら批判されるかな」とか考えたりします。今はSNSの「不謹慎狩り」と言われているように、ちょっとビクビクしてしまうこともあるので、そういったところを踏まえて発信しようとしています。もちろん違法な情報とかは駄目ですが、内容によっては寛容にとらえて「いいね」とか、盛り上げていけるような社会にしていかないといけないと思います。

例えば、本当にNHKの『バリバラ』さんとか、障がいを持っても明るくしているとか、こうしたことは見習う部分もあるのではないかと思います。がんなどでは一概には言えないとは思いますけれども、桜井なおみさんがおっしゃったように、他の疾患、他の部位のところでも、いろんなところで学べることがあるので、がんに限らずに、視野を広くしていくことが大事だと思いました。

館林:ありがとうございます。いろんな障がいがある人とか、地域によっても、置かれた立場も違います。ぜひ「寛容な社会」に向けて、みんなで、私どもも含めてやっていければと思います。 桜井さん、いかがでしょうか。

幅広い領域に学ぶ視野を持つ

桜井 なおみさん写真
桜井 なおみさん

桜井:今回のフォーラムのテーマは、「がん」ということですが、がんだけで考えていても解けないことがたくさんあって、領域を超えてやっていったほうがいいと思っています。例えば、厚生労働省だと、介護の話は介護、そして難病、がん、障害者、HIV、子育てと、全部縦割り。患者会とか地域に住んでいる人は、横串を何本も見られて、「どうしてそれぞれ違うの、体は一つなのに」ということがたくさんあると思うのです。おかしいことを「おかしい」と言って、パブコメでも何でもよいので、発信していくことも大切だと私は思っています。地域包括ケアも、なぜ広がらないのかのということを考えていったほうがいいと思います。

横串を考えていきながら、将来的に未来を考えると、「住んでいるだけで健康になれる街」をつくりたいです。がんの患者さんも、より健康になれるし、がんになる前よりも健康になれて、みんなが輝けるような、そういう街や地域ができてきたら良いと思います。

ヒントが、私は途上国にあると思っています。限られたリソースの中で最大限のことをやろうとしています。いろんな規制を全部取っ払っていっているといいます。これからの日本の中山間地域とか、離島とか、都会でも、いろいろ応用できる種がたくさん詰まっていると思うのです。皆さんもぜひ、横串の目線でいろんなニュースを見ていっていただけたら、面白くなるのではないかと思っています。

館林:ありがとうございます。横串といいますか、地域で住民の皆さんの健康や治療について実践されていらっしゃる、長瀬さんからお願いします。

「顔の見える関係」をさらに広げる

長瀬 慈村さん写真
長瀬 慈村さん

長瀬:今日、皆さんのお話を聞かせていただいて、すごく勉強になったというのが本当のところです。医師会の仲間たちというのは、患者さんのサイドでものを考える人間が多いのですが、それでも聞き切れないところがたくさんあります。僕にとっては「これから、あれをやらなければ、これもやらなければ」ということを、いっぱい気付かされたところです、本当にありがとうございます。

では、僕たちは何ができるのかということなのですが、一つの市でやれることなんか大したことない、と皆さん思われると思うのですが。厚労省や国を変えなければいけないのではないかと思うのです。桜井さんみたいに頑張って、国の委員会にもどんどん出てやっていることはとても大事なのですが、実際には、上から全部パタパタと変わることはほとんどないのです。地域からどうやって変えられるか。

ちなみに、乳がん検診のマンモグラフィのあり方について、「こうやったほうがいい」というのを作っていったときに、近隣医師の人たちみんながまねをし始めたのです。「どうやってやるの?」と聞きに来はじめたのです。こうしてだんだん変わっていきました。

例えば、柏市は今、在宅医療を進めています。先ほどお話ししましたように、2009(平成21年)や2010年(22年)の頃は、まだまだ僕らのところは後進市だったのですが、今では先進市になってきています。公的な視察として、市のシステムを視察にいらっしゃいます。視察の件数が2018年11月までで、1,260を超えました。2017年にはWHO(世界保健機関)からも視察が来ました。一つの市でも、こうしたことができてくるのです。ですから、ちょっとずつ変えていくことが大事だと、自分の足場からつくっていきたいと思っています。

ちなみに、私たちがやってきたことの中でとても大事だと思っているのは、医療者の中でのフラットな関係づくりです。先ほど、「お医者さんが怖い」とおっしゃっていたというお話がありました。「お医者さま」という言葉自体が間違っていて。逆に言うと「患者さま」というのも間違っているのですけれども。相手を「さま、さま」で、手もみしながら「はい、患者さま」と言っているような、そんなやり方というのはおかしいと思うし、逆もそうなのです。「お医者さま」なんて言うことなくて、今ここで「長瀬さん」と言われたのは、僕はそれがすごく心地いい、それがいいと思っています。市の中の医療、福祉に関係するいろいろな人たち、あるいはそこに市民が関わってやっていく中で、対等な話ができるように「〇〇さん」と言える。今、そういう関係づくりを柏市でどんどんやっています。

先ほどの「顔の見える関係会議」でも、最後にグループごとの発表をやりますが、そのときに手を挙げて発表するのは医師ではなく、ほとんどはそれ以外の職種の人がやっています。誰が何の職の人か分からないくらいにやっているのです。そういうフラットな関係づくりができれば、「お医者さまにはちょっと聞けない」というのではなく、話も普通に聞けるようになるでしょうし、笑って話ができるようになるのではないかと思うのです。ざっくばらんなところを聞いていくことができたら、変わるのではないかと僕は思うのです。

医師会では、中学生を対象にがん教育をやっています。「がん」について、分かりやすく話をしていきます。一般の方にも、当然そういう知る場も必要ですが、一番手っ取り早いのは子どもたちに知ってもらうことなのですね。ですから、中学生や小学生の頃から教育をどんどんしていって、「がんは別に、珍しいものじゃない。こういうものだよ」というのを知ってもらうということが大事だと思います。

もう一つは、医療者の感覚を少し変えなきゃいけないのではないかな、というところもあります。自分の地域から、患者会の方々に来ていただいて、今の患者さんのニーズや考え方を医療者に知ってもらう場所をつくらないといけないと思いました。

館林:ありがとうございます。話題になっている地域包括ケアでも、ある地域の実践が広がって、全国での実践になっていきます。いまや地域というのは、一番先端にあるところだと思います。柏のような取り組みが全国に広がって、教育も含めてもっと広がっていくとすばらしいと思います。

患者の視点を発信していくこと

池辺 英俊さん写真
池辺 英俊さん

池辺:私がお世話になった病院では、白血病で退院した後の患者さんたちが、年に2回、居酒屋を貸し切って飲み会をやっています。そのときは、お医者さんや看護師さんもみんな普段着で来て、われわれももちろん普段着で行って集まります。
普段は厳格な方も、やっぱりお酒が入るとすごく変わります。「のみニケーション」と言うと時代に逆行しているようで怒られるかもしれませんけれども、僕はこの会がものすごく好きで、毎回出席しています。病院はすごく無機質で、人間関係も無機質になりがちですけれども、こういった壁を取り払うような会というのは、今後、どんどん増やしてほしいと思います。

もう一つ思ったのは、最近、娘が皮膚の病気で一緒に行ったときにびっくりしたのですが、お医者さんがパソコンの画面ばかり見て打っていて、こっちに向かないのです。「娘の体に触れてくださいよ」と、思わず言ったくらいなのです。コミュニケーションに課題がある医師が、まだまだ多いのも実情と感じていますので、声を上げていく必要もあるのではないかと思います。

白血病に関して、俳優の渡辺謙さんが白血病から立ち直って、今も大活躍されて、入院中も心の支えにしていました。夏目雅子さんとか本田美奈子さんとか、白血病で亡くなれた方ばかりがクローズアップされがちという面もあります。病気を治して元気になったわれわれは、自分たちが目標になるように発信していくことが必要なのではないかと思います。献血や臍帯血で社会に助けてもらったわれわれとしては、少しでも恩返しをするために、「元気でやっていますよ」と。私はまだ移植を受けて3年半のがんサバイバーで、1日も早く忘れたいという思いでもありますけれども、そういった思いは捨てて、できるだけ目標になれるように発信していきたいと思っています。

館林:ありがとうございます。同じ会社ですが、ますますのご活躍をお祈りしております。
渡邊さん、この会を締めくくって、コメントをお願いいたします。

「共に話し合う関係」から「つくりだす関係」へ

渡邊 清高さん写真
渡邊 清高さん

渡邊:ありがとうございます。皆さん2つずつお話ししていらしたので、私も2点お話をさせていただきます。まず、お互いに困っていることや、悩みごとについて、話し合える関係というのはとても大切だと思います。人に言うと恥ずかしいとか、「こんなことも知らないの」とあきれられてしまうのではないかということで、二の足を踏んでいる方が多くいらっしゃると思います。実は、話すことによって次のステップにつながったり、新しい関係につながったり、そして医療者側も、「こういうことで患者さんは困っているんだ」ということを教えられたりすることがあるのです。

ですので、まずは「話し合える関係」を、患者さんと医療者、患者さんとご家族、あるいは医療者同士でもそういう関係をつくる。「フラットな関係」と、長瀬さんからもお話がありましたけれども、こういうことがとても大切だと思っています。がん医療フォーラムを2012年からやらせていただいているのですが、アンケートで皆さまのお声をまた次につなげるという、大切な役割がありますので、よろしければぜひこの後時間をお取りいただいて、アンケートに今日の感想や、「ご自身の考える、がんと共に生きる社会はどんなことなのか」といったことを、お書きいただきたいと思っています。

パネルディスカッションの様子写真
パネルディスカッションの様子

もう一つは、このフォーラムは「情報」が一つのキーワードではありますが、情報はあくまでも入り口で、そこからどうつながっていくのかという「コミュニケーション」がとても大切なのではないかなと、改めて今日感じました。コミュニケーションというと、対話によるキャッチボールですよね。ですので、自分だけでは成立しなくて、相手の方がどう思っているのか、どう感じているのかということを、受け止めながら話をするというのがとても大切なことです。それが、例えば、教育や人材育成につながっていくと、一歩踏み込んでお互いに双方理解した上で、「一緒にやりましょう」という協業や協働という作業に、「一緒につくり出す」ところにつながっていくと思うのです。今までは「目が届かなかった」とか、「声が届かなかった」方も含めて、こうしたことを届けていくことはとても大切なことです。それを地域で、いろいろな領域で広がっていくと本当にいいなと思いました。今日はありがとうございました。

館林:ありがとうございます。長い時間、皆さん、お付き合いいただきまして、ありがとうございました。

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掲載日:2019年7月16日
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